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梅に先駆け、真冬に咲く花である。冷たい風がそのほのかな薫りを運んで来ると、身体の芯にまで清らかな香気が浸み透るようだ。
梅と名は付くが梅の仲間ではなく、ロウバイ科の落葉低木。裸の枝に直接花が付くさまや、香りの高さはなるほど梅を想わせるが、近づいて見れば花は少しも似ていない。
中国原産。彼の地では古くから梅・水仙・山茶花(日本の椿)と共に「雪中四友」の一として画人文人に愛されたが、日本に入ったのは遅れ、江戸時代になってからという。『原色牧野植物大圖鑑』は後水尾天皇(在位1611〜1629)の時代に朝鮮から渡来したとする。貝原益軒の『花譜』(1694)を見ると「此花近年唐より来りしにや、いにしへには是ある事をきかず。今も世人あまねくしらず」とあり、元禄時代になってもまだ珍しい木であったらしい。
その名のごとく蝋細工を思わせるような独特の光沢と質感を持つ。但し「臘梅」とも書き、「臘」は年の暮、あるいは陰暦十二月の異称。唐梅(からうめ)の別名もあるが、古歌に詠まれた例を知らず、作例は近代以降に限られるようだ。
窪田空穂がこの花を大変好んだようで、『全歌集』にその名が散見される。
『青朽葉』
しらしらと障子をとほす冬の日や
室 に人なく臘梅の花
『清明の節』
臘梅の老いさびし香のほのぼのとわが枕べを清くあらしむ
上の写真が蝋梅、下は素心蝋梅(ソシンロウバイ)。いわゆる蝋梅は中心部が紫っぽい色をしているが、素心蝋梅は花全体が黄色一色で、暖かげな感じが慕わしい。
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『異類界消息』 岡野弘彦
蝋梅は夢のごとくに花咲けり任那(みまな)日本府ここにほろびし
公開日:平成19年1月6日
最終更新日:平成19年1月6日