木槿 むくげ 無窮花 木蓮(きはちす) Rose of Sharon

アオイ科の落葉低木。アジア西南部の原産と言われる。

花は芙蓉とよく似ているが、葉や樹形は全く異なるので、たやすく区別できる。木槿の葉はより細く小さく、枝はすっくと立ち、樹高三、四メートル程に成長する。対して芙蓉は横広がりの樹形をなし、見上げるように高く育った木はまず見かけない。

梅雨の頃から咲き始め、秋まで長く咲き続ける。「咲き続ける」と言っても所謂「一日花」だから、次々に散っては咲くことを繰り返しているのであるが。色はやや紫がかった薄紅と白が多く見られる。八重咲きもある。上に掲げた写真は「底紅(そこべに)」と呼ばれる、白い花びらの中心だけが紅いタイプで、我が家の近所にはこの品種が殊に多い。

「ムクゲ」の名は漢名「木槿」の音読である。漢土では「蕣」もムクゲを指し、平安末期の漢和辞書『類聚名義抄』には「蕣、キバチス・アサガホ」とある由。万葉集に詠まれた「朝顔」は、桔梗を指すと見る説が今では有力だが、かつては木槿説が広く支持されていた。

『桂園一枝』  木槿の花を見て  香川景樹

生垣の 小杉が中の 槿の花 これのみを 昔はいひし 朝がほの花

詞書の「木槿」は無論ムクゲのことだが、歌の方の「槿」は「あさがほ」と読ませたいらしい。純粋な「やまとことば」でない「むくげ」という語を嫌った故である。ともあれこの歌(旋頭歌)は、江戸時代の歌人が「昔」すなわち上代の「朝顔の花」を木槿と信じて疑わなかった一例である。

王朝和歌に「木槿」もしくは「むくげ」として詠まれた形跡はない。俳句では秋の季語。

芙蓉のたおやかな美しさに対し、木槿はどこか爽やかさ・清々しさを感じさせる花だ。天を指すように伸びた枝先に咲く故だろうか。斎藤茂吉の第二歌集『あらたま』には、

雨はれて心すがしくなりにけり窓より見ゆる白木槿(しろむくげ)のはな

という作がある。夏の雨後の「すがしさ」を感受するのに白木槿ほど相応しい花は考え及ばない(例えば「白木槿」を「白芙蓉」に入れ替えたら、「すがしく」の語が全く生きないだろう)。茂吉の作としては取り上げる程の出来ではないだろうが、その直観的な把握の鋭さはさすがだ。

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  『さびしき樹木』 若山牧水
際白く奥むらさきの良き花の木槿おもへば秋の日かなし

  『海やまのあひだ』 釈迢空
谷風に 花のみだれのほのぼのし。青野の槿 山の()に散る
藪原に、むくげの花の咲きたるが よそ目さびしき 夕ぐれを行く

  『帰潮』 佐藤佐太郎
咲きつぎし木槿の花はいつとしもなく秋庭に終りてゐたり

  『多くの夜の歌』 宮柊二
むらさきの木槿の花は照るばかり寂しくありて一木(ひとき)立つ見ゆ


公開日:平成17年12月8日
最終更新日:平成17年12月8日

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