須勢理比売 すせりひめ

須佐之男命の姫。父と共に根の堅洲国にいたが、八十神の迫害を逃れて来た八千矛神(大国主命)の嫡妻となる。八千矛は父からも迫害されるが、比売は夫を助け、ともに葦原中国に遁れた。
奈良県宇陀郡榛原町の白岩神社、岡山県岡山市の総社宮、同県総社市の総社などに祭られている。
古事記に八千矛神(大国主)に対して詠んだという歌一首を伝える。

ここにその后、大御酒杯(さかづき)を取らして、立ち依り指挙(ささ)げて、歌よみしたまひしく

八千矛(やちほこ)の 神の命や ()大国主(おほくにぬし) ()こそは ()にいませ うちみる 島の崎々 かきみる 磯の崎落ちず 若草の (つま)持たせらめ< ()はもよ ()にしあれば ()()て ()は無し ()()て (つま)は無し 文垣(あやがき)の (ふは)やが下に 蒸被(むしぶすま) (にこ)やが下に 栲被(たくぶすま) さやぐが下に 沫雪(あわゆき)の (わかや)る胸を 栲綱(たくづの)の 白き(ただむき) 素手(そだ)()き 手抱(ただ)きまながり 真玉手(またまで) 玉手さし()き 股長(ももなが)に ()をしなせ 豊御酒(とよみき) (たてまつ)らせ

【通釈】八千矛の神さま、私の大国主さま。あなたの方は、男でいらっしゃいますから、巡ってゆく島の岬ごとに、巡ってゆく磯の崎はどこにも、若草のようなお相手をお持ちでしょう。私の方は、女ですから、あなた以外に、男はありません。あなた以外に、夫はありません。綾織りの帳(とばり)のふわりと垂れる下で、暖かくやわらかい布団の下で、白い布団のさやさや鳴る下で、沫雪のようなやわらかい私の胸を、あなたの真っ白な腕、その手で抱き、抱いていとおしみ、美しい手をさしかわし、足をゆったりと伸ばして、私と寝て下さい。その前に、さあ美味しいお酒をおあがりなさいな。

【補記】古事記上巻。須勢理比売は、夫が高志の沼河比売に婚(よば)いしたことに激しく嫉妬し、困った大国主は出雲から倭(やまと)への旅に立つことにした。旅装束に着替えて馬に乗る準備をした夫が詠んだ歌に答えたのが上の歌であるという。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成21年03月12日