日野資枝 ひのすけき 元文二〜享和元(1737-1801)

烏丸光栄の子。母は侍従吉茂朝臣女。寛保二年(1742)、日野資時の養子となり日野家を継ぐ。子に資矩がいる。天明五年(1785)、正二位権大納言。最終位階は従一位。享和元年十月十日薨。六十五歳。
冷泉為村薨後の堂上歌壇で重きをなし、多くの歌人を指導した。塙保己一も門弟の一人。画才にも優れた。著書に『和歌秘説』、家集に『日野一位資枝卿金玉集』(東北大学図書館蔵)、『日野資枝百首』(宮内庁書陵部蔵。小学館日本古典文学全集『近世和歌集』に抄訳注がある)。
 
以下には『日野資枝百首』より三首を抄出した。

閑夜擣衣

吹きおくる風のきぬたも更くる夜はものにまぎれぬ音のさびしさ

【通釈】風が吹き送る砧の音も、夜更けには他の物音にまぎれることがなく、ひときわ寂しく聞こえる。

【語釈】◇きぬた 衣板(きぬいた)の転という。布に艷を出すため槌などによって衣を叩く時の台。

【補記】晩秋の夜に聞く砧の音は寂しげで風情あるものとされた。それだけなら常套的な趣向であるが、その音を「ものにまぎれぬ」と聴いたのは研ぎ澄まされた感覚である。

【参考歌】烏丸光広「黄葉集」
寂しさよものにまぎれぬ松の戸の心もしらぬ秋の夕風

友をこそ待つべかりけれ庭の雪見捨てていかが誰をとはまし

【通釈】こんな朝は、友の来訪を待つべきであった。我が家の庭に積もった雪を見捨てて、いったい誰の家を訪ねようというのか。

【補記】「雪の積もった朝は、庭の雪を惜しみながら友の来訪を待つ」という古歌の情趣を踏襲している(下記に参考歌として例を挙げた)。

【参考歌】和泉式部「金葉集」
待つ人の今も来たらばいかがせん踏ままく惜しき庭の雪かな
  藤原俊成「新古今集」
けふはもし君もや問ふとながむれどまだ跡もなき庭の雪かな

懐旧

いにしへの(ことば)ならずは新しき心の花もいかで見ゆべき

【通釈】昔から伝わる言葉でなければ、新しい趣向の美もどうして表わすことができようか。

【補記】藤原定家の『近代秀歌』中の著名な文言「詞は古きをしたひ、心は新しきをもとめ」を踏まえ、伝統主義的な作歌理念を詠んだ歌。


公開日:平成19年12月01日
最終更新日:平成19年12月01日