家持集 群書類従本


 はじめに早春部夏哥秋哥冬哥戀部雜部一本取載哥付録 遺漏歌

はじめに


その一 底本・資料・校訂の方針など

本テキストは、塙保己一編『群書類従 巻二百三十四』(社団法人温古学会刊)所収の「家持集」(奧付に橋本肥後守經亮本を以て書写・校合とある)を底本としています。
上と同一系統の西本願寺本を底本とする『私家集大成』(明治書院)の「家持1(正しくはローマ数字)」、及び宮内庁書陵部蔵本を底本とする『新編国歌大観』(角川書店)所載の家持集と照合し、校異を掲げました。
校訂に際しては、あくまでも底本の本文を尊重する方針をとっています。底本のままでは歌意が通じず、かつ誤写の疑いがきわめて濃い場合を除き、本文を改変することは厳に慎みました。
校異には次の略称を用いています。

  本テキストの底本
  底本の校訂者が歌の傍に添えた校異
   (書陵部本系統の異本を用いたと推測される)
  私家集大成
  新編国歌大観
  左注

(例一)新5はるはきぬとか
新編国歌大観の第五句が「はるはきぬとか」であることを示す。
(例二)底1けふしれに―>私・新けふふれる
底本の第一句「けふしれに」を、私家集大成・新編国歌大観に拠って「けふふれる」に改変したことを示す。
助動詞「む」と「ん」の相違や、単なる表記上の相違(「春」と「はる」など)、及び明らかな誤写と思われる箇所については、校異を省略しています。
底本の校訂者が歌の傍に付した万葉集との校異は、本テキストで万葉異体歌を参照として掲げているため、省略しました。
歌に通し番号をふりました。
『新編国歌大観』『私家集大成』の家持集所載歌のうち、底本に見られない歌は、遺漏歌として付録に収めました。

その二 本文の用字・表記法について

漢字表記は可能な限り底本に従いました。但しJIS第二水準までに含まれない異体字は通用字に改めてあります。
仮名表記はすべて現行標準の平仮名に改めました。「社(こそ)」「哉(かな・や)」などの助辞表記も平仮名に改めました。
仮名遣いは、いわゆる歴史的仮名遣いに統一しました。
濁音には濁点を付しました。清濁は家持集が成立したと推定される時代(平安時代中期)の例に則っています。
適宜送り仮名を補いました。
「の」「が」など格助詞を補った場合があります(例:「梅花」―>「梅の花」、「我宿」―>「我が宿」)。
繰り返し記号(「々」や、「く」の字を引き伸ばした形のものなど)は採らず、同一語句の表記を以て代えました(例:つつ、夜な夜な)。

その三 参照歌について

「A」として、万葉集所載の異体歌を挙げました。原文と訓みの両方を掲げています。
「B」として、本歌(もとうた)の可能性がある万葉集所載の類想歌を挙げました。
「C」として、古今から新続古今にわたる二十一代の勅撰集に採録されている、同一歌・異体歌を挙げました。
「D」として、新編国歌大観に収録された私家集・私撰集などより、主な同一歌・異体歌を挙げました。
万葉歌の原文の引用は『萬葉集 本文編』(塙書房)に拠り、二十一代集歌の引用は『新編国歌大観』に拠っています。
参照歌の頭に付した半角アラビア数字は、万葉歌では旧国歌大観番号を、二十一代集歌では新国歌大観番号を表わしています。また万葉歌のみ、-の前に巻数を表示しました。
参照歌の末尾には題詞・作者名をカッコに入れて記しました。長い題詞は簡略化した場合があります。
引用した万葉歌の原文で、JIS第2水準までに含まれない字については、なるべく字義や形体の近い借字を宛て、{}で囲みました。正しい字の説明は次の通りです。
 {鴬} 冠は「貝」が横に二つ並んだ形。
 {包} 「果」冠に「衣」。
 {孅} 旁は「感」。
 {楫} 右端に「戈」あり。
 {卅} 縦棒は四本。
 {底} 麻垂れなし。
万葉歌の原文の繰り返し記号は「々」に統一しました。

その四 その他
営利的な利用を除き、複製・配布・転載等、自由にして頂いてかまいません。
誤字脱字、その他お気づきの点、ご教示下されば幸いです。




 早春部

001 月よめばいまだ冬なりしかすがに霞たな引くはる立ちぬとか

新5はるはきぬとか
A:20-4492 都奇餘米婆 伊麻太冬奈里 之可須我尓 霞多奈婢久 波流多知奴等可
 つきよめば いまだふゆなり しかすがに かすみたなびく はるたちぬとか(「大原今城真人之宅宴歌一首」家持)


002 きのふこそとしは暮れしか春霞かすがの山にはや立ちぬらん

新5はやたちにけり
A:10-1843 昨日社 年者極之賀 春霞 春日山尓 速立尓来
 きのふこそ としははてしか はるかすみ かすがのやまに はやたちにけり(「詠霞」)
C:拾遺和歌集0003「昨日こそ年はくれしか春霞かすがの山にはやたちにけり」(「かすみをよみ侍りける」山辺赤人)


003 いにしへの人のうゑけむ杉がえに霞たな引く春ぞきぬらし

新3すぎのはに
A:10-1814 古 人之殖兼 杉枝 霞霏霺 春者来良之
 いにしへの ひとのうゑけむ すぎがえに かすみたなびく はるはきぬらし(柿本朝臣人麻呂歌集出)


004 春霞たつかすがののゆきかへり我はあそばないや年のはに

私4われはあそびも 新4われはあそばむ
A:10-1881 春霞 立春日野乎 徃還 吾者相見 弥年之黄土
 はるかすみ たつかすがのを ゆきがへり われはあひみむ いやとしのはに(「野遊」)


005 うちなびき春はきぬらし我が宿の柳のうれに鴬のなく

私・新1うちなびく 私・新5うぐひすなきつ
A:10-1819 打霏 春立奴良志 吾門之 柳乃宇礼尓 {鴬}鳴都
 うちなびく はるたちぬらし わがかどの やなぎのうれに うぐひすなきつ(「詠鳥」)


006 梓弓はる山ちかく家ゐして絶えず聞くらん鴬のこゑ

私4たえずきこえむ
A:10-1829 梓弓 春山近 家居之 續而聞良牟 {鴬}之音
 あづさゆみ はるやまちかく いへをれば つぎてきくらむ うぐひすのこゑ(「詠鳥」)


007 寒さ過ぎ春は来ぬらし年月はあらたまれども人はふり行く

A:10-1884 寒過 暖来者 年月者 雖新有 人者舊去
 ふゆすぎて はるのきたれば としつきは あらたなれども ひとはふりゆく(「歎舊」)


008 梅の花さきたる中にふくめるは戀やこもれる雪を待つかも

私3ふるめるは
A:19-4283 梅花 開有之中尓 布敷賣流波 戀哉許母礼留 雪乎待等可
 うめのはな さけるがなかに ふふめるは こひやこもれる ゆきをまつとか(「於治部少輔石上朝臣宅嗣家宴歌三首」茨田王)


009 淡雪にむらさき立てる梅の花君しきたらばよそへてもみむ

私4きみわたらば 新4きみしわたらば
A:08-1641 沫雪尓 所落開有 梅花 君之許遣者 与曽倍弖牟可聞
 あわゆきに ふらえてさける うめのはな きみがりやらば よそへてむかも(「角朝臣廣辨雪梅歌一首」)


010 梅がえにふりおほふ雪をつつみもて君にみせんととれば消えつつ

新3をしみもて
A:10-1833 梅花 零覆雪乎 {包}持 君令見跡 取者消管
 うめのはな ふりおほふゆきを つつみもち きみにみせむと とればけにつつ
注:272とほぼ同一。


011 わがせこにみせむと思ひし梅の花それともみえず雪のふれれば

A:08-1426 吾勢子尓 令見常念之 梅花 其十方不所見 雪乃零有者
 わがせこに みせむとおもひし うめのはな それともみえず ゆきのふれれば(「山部宿祢赤人歌四首」)
C:後撰和歌集0022「わがせこに見せむと思ひし梅花それともみえず雪のふれれば」(「題知らず」よみ人しらず)


012 残りたる雪にまじれるむめの花はやくな散りそ雪はけぬとも

A:05-0849 能許利多留 由棄仁末自例留 宇梅能半奈 半也久奈知利曽 由吉波氣奴等勿
 のこりたる ゆきにまじれる うめのはな はやくなちりそ ゆきはけぬとも(「後追和梅歌四首」)


013 わがをかにさかりにさける梅の花残れる雪にみだりつるかも

新5みだれつるかも
A:08-1640 吾岳尓 盛開有 梅花 遺有雪乎 乱鶴鴨
 わがをかに さかりにさける うめのはな のこれるゆきを まがへつるかも(「大宰帥大伴卿梅歌一首」旅人)


014 あは雪の日をへてきえずかくふれば梅の初花散りか過ぎなむ

新2ひをへてやがて 私・新3かくふらば 新4うめがはつはな
A:08-1651 沫雪乃 比日續而 如此落者 梅始花 散香過南
 あわゆきの このころつぎて かくふらば うめのはつはな ちりかすぎなむ(「大伴坂上郎女歌一首」)


015 ゆきの色をうばひてさける梅の花今さかりなりみん人もがな

私1ゆきがいろを 私2むばひてさける 新5みるひともがな
A:05-0850 由吉能伊呂遠 有婆比弖佐家流 有米能波奈 伊麻左加利奈利 弥牟必登母我聞
 ゆきのいろを うばひてさける うめのはな いまさかりなり みむひともがも(「後追和梅歌四首」)
C:風雅和歌集0065「雪の色をうばひてさける梅のはないまさかりなりみん人もがな」(「題しらず」中納言家持)


016 春ののに鳴くやうぐひすなつけんと我がやのそのに梅の花さく

私・新4わがいへのそのに
A:05-0837 波流能努尓 奈久夜汙隅比須 奈都氣牟得 和何弊能曽能尓 汙米何波奈佐久
 はるののに なくやうぐひす なつけむと わがへのそのに うめがはなさく(「梅花歌卅二首」志氏大道)


017 春くれば先づさく宿の梅の花独りみつつやはるをくらさん

A:05-0818 波流佐礼婆 麻豆佐久耶登能 烏梅能波奈 比等利美都々夜 波流比久良佐武 
 はるされば まづさくやどの うめのはな ひとりみつつや はるひくらさむ(「梅花歌卅二首」山上憶良)
C:新勅撰和歌集0033「春さればまづさくやどのむめのはなひとり見つつやけふをくらさむ」(「つくしにて梅花を見てよみ侍りける」山上憶良)


018 いもが為いづれの梅を手折るとて下枝の露にぬれにけるかな

私3たをるとは 新4しづえがつゆに 私・新5ぬれにけるかも
A:10-2330 為妹 末枝梅乎 手折登波 下枝之露尓 沾尓家類可聞
 いもがため ほつえのうめを たをるとは しづえのつゆに ぬれにけるかも(「詠露」)


019 わが宿に咲きたる梅を月夜よみ夜な夜なみせん君をこそまて

A:10-2349 吾屋戸尓 開有梅乎 月夜好美 夕々令見 君乎社待也
 わがやどに さきたるうめを つくよよみ よひよひみせむ きみをこそまて(「寄花」)


020 久かたの月夜をきよみ梅の花心ひらきてむかし思ふきみ

A:08-1661 久方乃 月夜乎清美 梅花 心開而 吾念有公
 ひさかたの つくよをきよみ うめのはな こころひらけて あがもへるきみ(「紀少鹿女郎歌一首」)


021 来てみべき人もあらなくに我が宿の梅のはつ花散りぬるもよし

私2人ならなくに 私5ちりぬらんよし
A:10-2328 来可視 人毛不有尓 吾家有 梅之早花 落十方吉
 きてみべき ひともあらなくに わぎへなる うめのはつはな ちりぬともよし(「詠花」)


022 我がかざす柳のいとをふきみだる風にや妹が梅のちるらん

私3ふりみだる
A:10-1856 我刺 柳絲乎 吹乱 風尓加妹之 梅乃散覧
 わがさせる やなぎのいとを ふきみだる かぜにかいもが うめのちるらむ(「詠花」)


023 うちなびき春かと我はけふぞしるわがしろかみに梅の花ちる

私・新1うちなびく 私4わがひろかみに(ママ) 新4わがくろかみに


024 春霞立ちし時より鴬のはつ聲するははるべにやなる

B:10-1910 春霞 立尓之日従 至今日 吾戀不止 本之繁家波[一云 片念尓指天]
 はるかすみ たちにしひより けふまでに あがこひやまず もとのしげけば[かたもひにして](「寄霞」)
B:20-4488 三雪布流 布由波祁布能未 {鴬}乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之
 みゆきふる ふゆはけふのみ うぐひすの なかむはるへは あすにしあるらし(「大監物三形王之宅宴歌三首」三形王)


025 浅みどり染めかけたりとみるまでに春の柳はもえにけるかな

A:10-1847 淺緑 染懸有跡 見左右二 春楊者 目生来鴨
 あさみどり そめかけたりと みるまでに はるのやなぎは もえにけるかも(「詠柳」)


026 あさなあさなわがみる梅に鴬のきゐて鳴くべくしげくはやなれ

A:10-1850 朝旦 吾見柳 {鴬}之 来居而應鳴 森尓早奈礼
 あさなさな わがみるやなぎ うぐひすの きゐてなくべき もりにはやなれ(「詠柳」)


027 百敷の大宮人のいへ路なるしだり柳はみれどあかぬかも

新3かづらする
A:10-1852 百礒城 大宮人之 蘰有 垂柳者 雖見不飽鴨
 ももしきの おほみやひとの かづらける しだりやなぎは みれどあかぬかも(「詠柳」)


028 青柳の糸よりかけて春風のみだれぬさきにみむ人もがな

A:10-1851 青柳之 絲乃細紗 春風尓 不乱伊間尓 令視子裳欲得
 あをやぎの いとのくはしさ はるかぜに みだれぬいまに みせむこもがも(「詠柳」)
C:続後撰和歌集0046「あをやぎの糸よりかけてはる風のみだれぬさきに見む人もがな」(「だいしらず」中納言家持)


029 今日更に君はなゆきそ春雨の心を人のしらざらなくに

A:10-1916 今更 君者伊不徃 春雨之 情乎人之 不知有名國
 いまさらに きみはいゆかじ はるさめの こころをひとの しらざらなくに(「寄雨」)


030 はる雨にあらそひかねてわが宿の桜の花は咲きそめにけり

A:10-1869 春雨尓 相争不勝而 吾屋前之 櫻花者 開始尓家里
 はるさめに あらそひかねて わがやどの さくらのはなは さきそめにけり(「寄雨」)
C:風雅和歌集0150「春雨にあらそひかねて我がやどの桜の花はさきそめにけり」(「桜を」中納言家持)


031 見わたせば春日ののべにかすみ立ちさきみだるるは桜ばなかも

私3かすみたる 私・新4さきみだれたる
A:10-1872 見渡者 春日之野邊尓 霞立 開艶者 櫻花鴨
 みわたせば かすがののへに かすみたち さきにほへるは さくらばなかも(「詠花」)


032 はる雨の行く行くふるにたかまとの山のさくらはいかが有るらん

私2のきのきふるに 新2しきしきふるに 私・新3たかまつの
A:08-1440 春雨乃 敷布零尓 高圓 山能櫻者 何如有良武
 はるさめの しくしくふるに たかまとの やまのさくらは いかにかあるらむ(「河邊朝臣東人歌一首」)


033 足引の山のまてらすさくら花このはる雨に咲きにけらしも

私・新2やまのなてらす
A:10-1864 足日木之 山間照 櫻花 是春雨尓 散去鴨
 あしひきの やまのまてらす さくらばな このはるさめに ちりゆかむかも(「詠花」)


034 春の日の紅にほふ桃のはな花の名だてに出でゐたるいも

私1はるのいゑの(ママ) 新左ある本に はるのそのくれなゐにほふもものはなしたてるみちにいでたてるいも とあり
A:19-4139 春苑 紅尓保布 桃花 下照道尓 出立{孅}嬬
 はるのその くれなゐにほふ もものはな したでるみちに いでたつをとめ(「眺矚春苑桃李花作二首」家持)


035 山もせにさけるつつじのにくからぬ君をいつしか行きてはやみむ

A:08-1428 忍照 難波乎過而 打靡 草香乃山乎 暮晩尓 吾越来者 山毛世尓 咲有馬酔木乃 不悪 君乎何時 徃而早将見
 おしてる なにはをすぎて うちなびく くさかのやまを ゆふぐれに わがこえくれば やまもせに さけるあしびの あしからぬ きみをいつしか ゆきてはやみむ(「草香山歌一首」作者微不顕名字)


036 我がせこにわがこふらくはおく山のつつじも今日は盛り成りけり

新2なほこふらくは
A:10-1903 吾瀬子尓 吾戀良久者 奥山之 馬酔花之 今盛有
 わがせこに あがこふらくは おくやまの あしびのはなの いまさかりなり(「寄花」)


037 はる山は散り過ぐれども三わ山はいまだふふめり君まちがてに

私・新1はるやまに 私3みをやるは(ママ) 新4いまだふくめり
A:09-1684 春山者 散過去鞆 三和山者 未含 君待勝尓
 はるやまは ちりすぎぬとも みわやまは いまだふふめり きみまちかてに(「獻舎人皇子歌二首」柿本朝臣人麻呂之歌集所出)


038 つばなぬく淺ぢが原のつぼすみれ今はさかりにしげる我が戀

新4いまさかりにも 新5しげきわがこひ
A:08-1449 茅花抜 淺茅之原乃 都保須美礼 今盛有 吾戀苦波
 つばなぬく あさぢがはらの つほすみれ いまさかりなり あがこふらくは(「大伴田村家毛大嬢與妹坂上大嬢歌一首」大伴田村大嬢)


039 山吹の花とりもちてつれもなくかれにし妹を思ひ出るかも

私・新5おもひいづるかな
A:19-4184 山吹乃 花執持而 都礼毛奈久 可礼尓之妹乎 之努比都流可毛
 やまぶきの はなとりもちて つれもなく かれにしいもを しのひつるかも(「従京師贈来歌一首」留女之女郎)


040 やまぶきを宿にうゑつつみる時は思ひはやまず戀ぞまされる

私・新3みるときに 新4おもひはやがて 新5こひこそまされ
A:19-4186 山吹乎 屋戸尓殖弖波 見其等尓 念者不止 戀己曽益礼
 やまぶきを やどにうゑては みるごとに おもひはやまず こひこそまされ(「詠山振花歌一首 并短歌」家持)


041 戀しくはかたみにもせんわが宿にうゑし藤波花咲きにけり

新2かたみにせんと
A:08-1471 戀之家婆 形見尓将為跡 吾屋戸尓 殖之藤浪 今開尓家里
 こひしけば かたみにせむと わがやどに うゑしふぢなみ いまさきにけり(「山部宿祢赤人歌一首」)
A:10-2119 戀之久者 形見尓為与登 吾背子我 殖之秋芽子 花咲尓家里
 こひしくは かたみにせよと わがせこが うゑしあきはぎ はなさきにけり(「詠花」)
B:03-0464 秋去者 見乍思跡 妹之殖之 屋前乃石竹 開家流香聞
 あきさらば みつつしのへと いもがうゑし やどのなでしこ さきにけるかも(「又家持、見砌上瞿麦花作歌一首」)


042 藤波の花のさかりにかくこそはかきすぐりつつ年に思ばめ

新4うちめぐりつつ
A:19-4188 藤奈美能 花盛尓 如此許曽 浦己藝廻都追 年尓之努波米
 ふぢなみの はなのさかりに かくしこそ うらこぎみつつ としにしのはめ(「六日遊覧布勢水海作歌一首 并短歌」家持)


043 ふぢなみのはなさくみれば時鳥なくべき折はちかづきにけり

A:18-4042 敷治奈美能 佐伎由久見礼婆 保等登藝須 奈久倍吉登伎尓 知可豆伎尓家里
 ふぢなみの さきゆくみれば ほととぎす なくべきときに ちかづきにけり(「将遊覧布勢水海仍述懐各作歌」田邊史福麻呂)


044 藤なみの花の盛りに成りにけりならの都は思ひいづやきみ

A:03-0330 藤浪之 花者盛尓 成来 平城京乎 御念八君
 ふぢなみの はなはさかりに なりにけり ならのみやこを おもほすやきみ(「防人司佑大伴四綱歌二首」)


045 梅の花はるよりさきに咲きしかど見る日はまれに雪はふりつつ

新2ちるよりさきに 新4みるひはさきに 私・新5ゆきのふれれば
C:拾遺和歌集1007「梅の花春よりさきに咲きしかどみる人まれに雪の降りつつ」(「桃園の齋院の屏風に」よみ人しらず)


046 来て見べき人もあらじを我がやどの梅のはつ花折りつくしてん

A:10-2328 来可視 人毛不有尓 吾家有 梅之早花 落十方吉
 きてみべき ひともあらなくに わぎへなる うめのはつはな ちりぬともよし(「詠花」)


047 梅の花散りにし日より敷妙の枕も我はさだめかねつも

C:続後拾遺和歌集0051「梅花ちりにし日より敷妙の枕も我はさだめかねつつ」(「題しらず」中納言家持)


048 しらかみにさしまどはせる花の色をそれなむ梅と人はわかなむ

新1しろかみに
D:夫木和歌抄「しろ髪に咲きまどはせる花の色をそれなん梅と人はわかなむ」(家集、春歌中 中納言家持卿)


049 春かぜのふくにさきだつ梅の花きみがためにぞこきとどめつる


050 風まぜに雪はふるともみになさず我が家の梅を花にちらすな

私・新1かぜまじり
A:08-1445 風交 雪者雖零 實尓不成 吾宅之梅乎 花尓令落莫
 かぜまじり ゆきはふるとも みにならぬ わぎへのうめを はなにちらすな(大伴坂上郎女)


051 雪さむみさきもひらけぬ梅の花よし此頃はさてもあるがね

新4さまれかこくは(ママ) 新5かくてましなん
A:10-2329 雪寒三 咲者不開 梅花 縦比来者 然而毛有金
 ゆきさむみ さきにはさかず うめのはな よしこのころは かくてもあるがね(「詠花」)


052 わが宿のまへの青柳かぜふけば折る人なしにぬきみだるいと

D:夫木和歌抄「わが宿のまどの青柳風ふけばをる人なしにぬきみだるいと」(家集、春歌中 中納言家持卿)


053 青柳のいとどあやしき散る花をぬきてとどむる物とはなしに

私・新2いとぞあやしき


054 山守はいかがいはなむ高砂の尾上の桜折りてかざさむ

私2いはばいはなん 、この歌なし
C:後撰和歌集0050「山守はいはばいはなむ高砂のおのへの桜おりてかざさん」(「花山にて道俗さけたうべけるをりに」素性法師)


055 手もやまず折りておきてむ桜花散りなむ後にあかぬ戀せじ

新2たをりおきてん イ5あかぬくひせじ(ママ) 新5あかぬくいせじ


056 ゆかん人来ん人しのべ春霞たつたの山のはつさくら花

C:新古今和歌集0085「ゆかむ人来ん人しのべ春がすみ立田の山のはつさくら花」(中納言家持)


057 ふる雨に花は散りつつみよしのの山のさくらはまださかずけり

私・新1ふるさとに
C:新古今和歌集1979「故郷に花はちりつつみよしのの山の桜はまださかずけり」(中納言家持」


058 さくら花こだかき枝の空にのみ見つつやこひん折るすべもなみ

新5をるすゑもなみ


059 春の雨に匂へる色もあかなくに香さへなつかし山吹の花

C:古今和歌集0122「春雨ににほへる色もあかなくにかさへなつかし山ぶきのはな」(「題しらず」よみ人しらず)
D:猿丸集「はるさめににほへるいろもあかなくにかさへなつかしやまぶきのはな」
新撰和歌「はるさめににほへるいろもあかなくに香さへなつかし山吹の花」
古今和歌六帖「はるさめににほへるいろもあかなくに香さへなつかし山吹の花」


060 折りてしももてゆきがほに桜花さける山べをわたるしら雲


061 梅の花さきつる野べの青柳をかづらにしつつあそびくらさな

イ2さきつるそのの 私・新5あそびくらさん
A:05-0817 烏梅能波奈 佐吉多流僧能々 阿遠也疑波 可豆良尓須倍久 奈利尓家良受夜
 うめのはな さきたるそのの あをやぎは かづらにすべく なりにけらずや(「梅花歌卅二首」粟田大夫)


062 春やなぎかづらに折りし梅の花たれかはうゑしさきののうへに

底1花やなぎ―>イ・私・新はるやなぎ イ4たれかはうかべし イ5さかづきのうへに 私5さかきののうへに 新5さかにののうへに 新左たれかはうゑてさかづきのうへにとあり
A:05-0840 波流揚那宜 可豆良尓乎利志 烏梅能波奈 多礼可有可倍志 佐加豆岐能倍尓
 はるやなぎ かづらにをりし うめのはな たれかうかべし さかづきのへに(「梅花歌卅二首」村氏彼方)


063 さほ山にたな引く霞みるごとに妹を戀ひつつなかぬ日もなき

私・新5なかぬひぞなき
A:03-0473 佐保山尓 多奈引霞 毎見 妹乎思出 不泣日者無
 さほやまに たなびくかすみ みるごとに いもをおもひで なかぬひはなし(「悲緒未息更作歌五首」家持)
注:312とほぼ同一。


064 久かたの天のは山に此の夕かすみたな引くはるたちにけり

新2あまのかぐやま
A:10-1812 久方之 天芳山 此夕 霞霏霺 春立下
 ひさかたの あめのかぐやま このゆふべ かすみたなびく はるたつらしも(柿本朝臣人麻呂歌集出か)


065 おくれゐてあればや戀のはるがすみたなびく山を君がこえなば

新5きみがこえぬる
A:09-1771 於久礼居而 吾波也将戀 春霞 多奈妣久山乎 君之越去者
 おくれゐて あれはやこひむ はるかすみ たなびくやまを きみがこえいなば(古集中出)


066 花のちることやくるしき春霞立田の山の鴬のこゑ

新2ことやわびしき 私左みその山べをしかもかくすか とも
C:古今和歌集0108「花のちることやわびしき春霞たつたの山のうぐひすのこゑ」(「仁和の中將のみやすん所の家に歌合せんとてしける時によみける」藤原後蔭)
D:興風集「はなのちることやかなしき春がすみたつたの山のうぐひすのこゑ」
新撰和歌「花のちることやかなしき春がすみ立田の山のうぐひすのこゑ」


067 石ばしる瀧なくもがな桜花手折りもたらんみぬ人のため

新4たをりてもこん
C:古今和歌集0054「いしばしるたきなくもがな桜花たをりてもこむ見ぬ人のため」(「題しらず」よみ人しらず)
D:猿丸集「いしばしるたきなくもがなさくらばなたをりてもこんみぬ人のため」
古今和歌六帖「石ばしる滝なくもがなさくら花たをりもてこんみぬ人のため」


068 色もかも咲きにほふらん橘のこじまがさきの山吹のはな

イ・新1今もかも
C:古今和歌集0121「今もかもさきにほふらむ橘のこじまのさきの山吹の花」(「題しらず」よみ人しらず)
D:猿丸集「いまもかもさきにほふらんたちばなのこじまがさきのやまぶきのはな」



 夏哥


069 春雨ぞふりやみぬなり時鳥たつたの山に今やなくらん

私・新1はるさめは


070 ほととぎすまてどきなかずあやめ草玉にぬく日のまだ遠きかも

私4またきなくひの 新4たまにぬくをの 新5まだとほみかも
A:08-1490 霍公鳥 雖待不来喧 菖蒲草 玉尓貫日乎 未遠美香
 ほととぎす まてどきなかず あやめぐさ たまにぬくひを いまだとほみか(「大伴家持霍公鳥歌一首」)


071 五月雨の空もとどろに郭公何をうしとか夜ただ鳴くらん

新1さみだれは 新4よふかくなきつ 新5いやねかねつる
C:古今和歌集0160「五月雨のそらもとどろに郭公なにをうしとかよただなくらん」(「郭公のなくをききてよめる」紀貫之)
D:古今和歌六帖「さみだれの空もとどろに郭公何をうしとかよはになくらん」


072 さみだれをたびにのみふる時鳥夜ぶかくなきついやねかねつつ

私5いやねかねつる 、この歌なし。この歌の下句、前の歌の下句に誤入か。


073 たれをかはこふの山道のほととぎす草の枕にたびたびぞ鳴く

イ・私・新2こひのやまべの 私・新5たびたびはなく
D:忠見集「たれをかはこふのやまべのほととぎすくさのまくらにたびたびはなく」


074 ほととぎす宮古へゆかば立ちかへり今きぬべしと妹につげよかし

新5いもにつげよく


075 郭公山ぢにたかくなく聲をわが独りねに聞くがかなしき

私5きくがかなしさ 新5きくがかひなさ
C:新千載和歌集「ほととぎす山路にたかくなくこゑを我がひとりねに聞くがかひなさ」(「題知らず」 中納言家持)


076 しののめのほがらに聞けば時鳥我がまつかひはなかりけりやは

新2ほがらになけば


077 かも河のみなそこ見えて照る月を行きてみんとや夏祓へする

B:10-1861 能登河之 水底并尓 光及尓 三笠乃山者 咲来鴨
 のとがはの みなそこさへに てるまでに みかさのやまは さきにけるかも(「詠花」)
C:後撰和歌集0215「かも川の水底すみて照る月を行きてみむとや夏ばらへする」(「みな月ばらへしに河原へまかりいでて、月のあかきを見て」よみ人しらず)


078 うの花の匂ふ五月の月きよみいねず聞くとやなくほととぎす

私・新4いねずきけとや
C:後撰和歌集0148「卯の花のさける垣ねの月きよみいねずきけとやなく時鳥」(「題知らず」よみ人しらず)
D:伊勢集「卯花のにほふさかりは月きよみいねずきけとやなくほととぎす」(伊勢集に混入した古歌分か)


079 卯のはなもいまださかぬを時鳥さほの山べをきなきとよむる

新2まださかなくに
A:08-1477 宇能花毛 未開者 霍公鳥 佐保乃山邊 来鳴令響
 うのはなも いまださかねば ほととぎす さほのやまへに きなきとよもす(「大伴家持霍公鳥歌一首」)


080 わぎもこがきる夏衣白妙にさけるかきねのうの花やとき

B:10-1988 {鴬}之 徃来垣根乃 宇能花之 厭事有哉 君之不来座
 うぐひすの かよふかきねの うのはなの うきことあれや きみがきまさぬ(「寄花」)


081 ほととぎす待つに夜ふけぬ此のくれのしづくをおもみ道やよくらん

新4しづくをおほみ
D:古今和歌六帖「郭公まつときなかずこのくれやしづくをおほみみちやよくらん」(つらゆき)


082 夏山の梢をたかみほととぎすなきてとよむる聲のさやけさ

新5こゑのはるけさ
A:08-1494 夏山之 木末乃繁尓 霍公鳥 鳴響奈流 聲之遥佐
 なつやまの こぬれのしげに ほととぎす なきとよむなる こゑのはるけさ(「大伴家持霍公鳥歌二首」)


083 郭公一こゑ鳴きていぬるよはいかでか独りいをやすくぬる

C:新古今和歌集0195「郭公一声なきていぬる夜はいかでか人のいをやすくぬる」(中納言家持)
D:躬恒集「ほととぎすひとこゑなきていぬるよはいかでか人のいはやすくぬる」


084 夏衣うたしめ山の時鳥今はきとよめ立ちかへりなけ

私4いまはきとよみ 新4いまはきときに(ママ)
D:古今和歌六帖「夏ごろもうたしめやまのほととぎす鳴く声しげく成りまさるなり」(作者不明)


085 うつくしとみるたびごとになでしこの花のなごりはなつかしなきみ

B:18-4114 奈泥之故我 花見流其等尓 乎登女良我 恵末比能尓保比 於母保由流可母
 なでしこが はなみるごとに をとめらが ゑまひのにほひ おもほゆるかも(「反歌二首」)


086 春過ぎて夏きにけらし久かたの衣ほしたり天のかご山

私・新2なつぞきにける 私3しろたへの
A:01-0028 春過而 夏来良之 白妙能 衣乾有 天之香来山
 はるすぎて なつきたるらし しろたへの ころもほしたり あめのかぐやま(「天皇御製歌」)
C:新古今和歌集0175「はるすぎて夏きにけらし白妙の衣ほすてふ天のかぐ山」(「題知らず」持統天皇御歌)


087 時鳥おもはずありき此のくれのかく成るまでになどかきなかぬ

A:08-1487 霍公鳥 不念有寸 木晩乃 如此成左右尓 奈何不来喧
 ほととぎす おもはずありき このくれの かくなるまでに なにかきなかぬ(「大伴家持恨霍公鳥晩喧歌二首」)


088 神なびのいはせのもりのほととぎすならしのをかにいつかきなかむ

A:08-1466 神名火乃 磐瀬乃社之 霍公鳥 毛無乃岳尓 何時来将鳴
 かむなびの いはせのもりの ほととぎす けなしのをかに いつかきなかむ(「志貴皇子御歌一首」)


089 春日野のふぢちり過ぎて何をかも御かりの人の折りてかざさん

新2ふぢちりはてて
A:10-1974 春日野之 藤者散去而 何物鴨 御狩人之 折而将挿頭
 かすがのの ふぢはちりにて なにをかも みかりのひとの をりてかざさむ(「詠花」)


090 うの花のちらまくをしき時鳥野にも山にもなきとよむかも

新2ちらまくをしみ
A:10-1957 宇能花乃 散巻惜 霍公鳥 野出山入 来鳴令動
 うのはなの ちらまくをしみ ほととぎす のにいでやまにいり きなきとよもす(「詠鳥」)


091 ほととぎすきなきとよむる橘の花ちる庭をみる人もがな

イ5みる人やたれ 新5みん人もがな
A:10-1968 霍公鳥 来鳴響 橘之 花散庭乎 将見人八孰
 ほととぎす きなきとよもす たちばなの はなちるにはを みむひとやたれ(「詠花」)
B:18-4092 保登等藝須 伊登祢多家口波 橘乃 播奈治流等吉尓 伎奈吉登余牟流
 ほととぎす いとねたけくは たちばなの はなぢるときに きなきとよむる(「獨居幄裏遥聞霍公鳥喧作歌一首 并短歌」家持)


092 此の暮の夕やみなるを時鳥いづこをいへとなきわたるらん

新1このくれは 新4いづくをいへと
A:10-1948 木晩之 暮闇有尓[一云 有者] 霍公鳥 何處乎家登 鳴渡良武
 このくれの ゆふやみなるに[なれば] ほととぎす いづくをいへと なきわたるらむ(「詠鳥」)


093 独りゐて物思ふときにほととぎすこを鳴きゆくは心あるらし

私4みをなきゆくは 新4ここをなきゆく
A:08-1476 獨居而 物念夕尓 霍公鳥 従此間鳴渡 心四有良思
 ひとりゐて ものもふよひに ほととぎす こゆなきわたる こころしあるらし(「小治田朝臣廣耳歌一首」)
C:後撰和歌集0177「独ゐて物思ふ我をほととぎすここにしもなく心あるらし」(「題知らず」よみ人しらず)


094 しなのなるすがのあらのに時鳥なく聲きけばとき過ぎにけり

私1ことなのる(ママ)
A:14-3352 信濃奈流 須我能安良能尓 保登等藝須 奈久許恵伎氣婆 登伎須疑尓家里
 しなぬなる すがのあらのに ほととぎす なくこゑきけば ときすぎにけり(信濃國歌)


095 君こふとふしゐもせぬに時鳥あを山べより鳴きわたるなり

新2ふしゐもせぬか
D:夫木和歌抄「君こふとふしゐもせぬにほととぎすあを山べよりなきわたるなり」(家集、夏歌中 中納言家持卿)


096 我が宿の花橘にほととぎすよぶかくなけば戀まさりけり

私・新5こひまさるなり
B:08-1481 我屋戸前乃 花橘尓 霍公鳥 今社鳴米 友尓相流時
 わがやどの はなたちばなに ほととぎす いまこそなかめ ともにあへるとき(「大伴書持歌二首」)
C:新後拾遺和歌集0218「我が宿の花橘に郭公夜ぶかくなけば恋まさりけり」(「夏の歌中に」中納言家持)


097 ほととぎす独り山べになくなればわれうちつけに戀せらるはた

私・新5こひまさるなり
C:古今和歌集0162「郭公人まつ山になくなれば我うちつけにこひまさりけり」(「山に郭公のなきけるをききてよめる」紀貫之)
D:貫之集「郭公人まつ山になく時は我うちつけに恋ひまさりけり」



 秋哥

098 神なびのみむろの山のくずかづらうら吹きかへす秋はきにけり

C:新古今和歌集0285「神なびのみむろの山のくずかづらうらふきかへす秋はきにけり」(「題しらず」中納言家持)


099 君ゆゑに我戀ひをればわがやどのすだれうごかし秋風ぞふく

イ5秋の風ふく
A:04-0488 君待登 吾戀居者 我屋戸之 簾動之 秋風吹
 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく(「額田王思近江天皇作歌一首」)
A:08-1606 君待跡 吾戀居者 我屋戸乃 簾令動 秋之風吹
 きみまつと あがこひをれば わがやどの すだれうごかし あきのかぜふく(「額田王思近江天皇作歌一首」)
C:新勅撰和歌集0882「きみまつとわがこひをればわがやどのすだれうごかしあきかぜぞふく」(「題しらず」額田王)


100 わぎもこが衣ならなむ秋風のさむき此のころ下にきましを

私4さむきときには 新4さむきころには 私5うらにしなさむ 新5したにしなさん
A:10-2260 吾妹子者 衣丹有南 秋風之 寒比来 下著益乎
 わぎもこは ころもにあらなむ あきかぜの さむきこのころ したにきましを(「寄風」)
B:08-1626 秋風之 寒比日 下尓将服 妹之形見跡 可都毛思努播武
 あきかぜの さむきこのころ したにきむ いもがかたみと かつもしのはむ(「又報脱著身衣贈家持歌一首」家持)


101 秋かぜのさむき朝のささのをか戀ふらん君に衣きせましを

新2さむきあしたに 新4こふらんきみが 新5きぬきせよかし


102 あき萩の咲き出るのべの夕露にぬれつつきませよは深けぬとも

新2さきつるのべの
A:10-2252 秋芽子之 開散野邊之 暮露尓 沾乍来益 夜者深去鞆
 あきはぎの さきちるのへの ゆふつゆに ぬれつつきませ よはふけぬとも(「寄露」)


103 秋はぎの下葉たわわに置く露のけなばけぬとも色に出でめや

私4けさはけぬとも 新4けさはあけぬと 新5いそぎいでめや
A:08-1595 秋芽子乃 枝毛十尾二 降露乃 消者雖消 色出目八方
 あきはぎの えだもとををに おくつゆの けなばけぬとも いろにいでめやも(「大伴宿祢像見歌一首」)
C:新古今和歌集1025「秋はぎのえだもとををにおく露のけさきえぬとも色にいでめや」(「題しらず」中納言家持)


104 玉はぬけ消えずはきえじ秋はぎのうれもたわわにおけるしら露

新1たまにぬけ 私1たまにけぬ 私・新2きえずばきえず 私4うれもわわらに
A:08-1618 玉尓貫 不令消賜良牟 秋芽子乃 宇礼和々良葉尓 置有白露
 たまにぬき けたずたばらむ あきはぎの うれわわらばに おけるしらつゆ(「湯原王贈娘子歌一首」)
注:177参照。


105 いもが家の門田をみんとうち出こし心もしるくてれる月かも

私・新3うちいでて 新4ころもしろくて
A:08-1596 妹家之 門田乎見跡 打出来之 情毛知久 照月夜鴨
 いもがいへの かどたをみむと うちでこし こころもしるく てるつくよかも(「大伴宿祢家持到娘子門作歌一首」)


106 秋かぜの吹きにし日より天の河せに出で立ちて待つとつげこせ

底4かはせに出で立ちて―>せにいでたちて 私4かはせにたちて
注:158とほぼ同一。
A:10-2083 秋風乃 吹西日従 天漢 瀬尓出立 待登告許曽
 あきかぜの ふきにしひより あまのがは せにいでたちて まつとつげこそ(「七夕」)
C:古今和歌集0173「秋風の吹きにし日より久方のあまのかはらにたたぬ日はなし」(「題しらず」よみ人しらず)
D:人丸集「秋風の吹きにし日より天河瀬にたちいでてまつとつげこせ」
赤人集「秋風のふきにしひよりあまのはらせにいでたちてまつとつげこせ」


107 あまの河波は立つとも我が舟はいざこぎ出なむ夜のふけぬるに

私・新4いざこぎいでなん 私・新5よのふけぬ時
A:10-2059 天河 浪者立友 吾舟者 率滂出 夜之不深間尓
 あまのがは なみはたつとも わがふねは いざこぎださむ よのふけぬとに(「七夕」)


108 秋かぜのきよき夕にあまのがはふねこぎわたせ月人をとこ

A:10-2043 秋風之 清夕 天漢 舟滂度 月人壮子
 あきかぜの きよきゆふへに あまのがは ふねこぎわたる つきひとをとこ(「七夕」)


109 しばしばもあひみぬ君に天の川舟出はやせよ夜のふけぬ時

新1しるしるも
A:10-2042 數裳 相不見君矣 天漢 舟出速為 夜不深間
 しばしばも あひみぬきみを あまのがは ふなではやせよ よのふけぬとに


110 ひこ星の妻むかへ舟こぎくらし天のかはらに霧立ちわたる

新4あまのかはせに
A:08-1527 牽牛之 迎嬬船 己藝出良之 天漢原尓 霧之立波
 ひこほしの つまむかへぶね こぎづらし あまのかはらに きりのたてるは(「山上臣憶良七夕歌十二首」)
B:10-2045 君舟 今滂来良之 天漢 霧立度 此川瀬
 きみがふね いまこぎくらし あまのがは きりたちわたる このかはのせに(「七夕」)


111 此の夕ふりくる雨はあまの川とくこぐ舟のかいのしづくか

A:10-2052 此夕 零来雨者 男星之 早滂船之 賀伊乃散鴨
 このゆふべ ふりくるあめは ひこほしの はやこぐふねの かいのちりかも(「七夕」)
C:新古今和歌集0314「このゆふべふりつる雨はひこぼしのとわたる船のかいのしづくか」(「題しらず」赤人)*Cは赤人集から採録か。


112 天の河白波たかく我がこふる君が舟出はけふぞすらしも

私5けふぞすらしき
A:10-2061 天河 白浪高 吾戀 公之舟出者 今為下
 あまのがは しらなみたかし あがこふる きみがふなでは いましすらしも(「七夕」)


113 あまの河霧立ちのぼる七夕の雲の衣のなびく袖かも

私・新2きりたちのぼり
A:10-2063 天漢 霧立上 棚幡乃 雲衣能 飄袖鴨
 あまのがは きりたちのぼる たなばたの くものころもの かへるそでかも(「七夕」)
C:続後撰和歌集0260「あまの川霧たちわたる七夕の雲の衣のかへる袖かも」(人麿)


114 あまの河わたるせふかき船をうけてこぎくる君が梶のと聞こゆ

私2わたるせふかみ 私5かぢのこゑきこゆ
A:10-2067 天漢 渡瀬深弥 泛船而 掉来君之 {楫}音所聞
 あまのがは わたりぜふかみ ふねうけて こぎくるきみが かぢのおときこゆ(「七夕」)


115 君がふね今こそわたれ天のがは霧たちわたる此の川のせに

新4きりたちわたり
A:10-2045 君舟 今滂来良之 天漢 霧立度 此川瀬
 きみがふね いまこぎくらし あまのがは きりたちわたる このかはのせに(「七夕」)


116 秋かぜに山飛びこゆる鴈金の聲とほざかる雲がくるらし

私3かりがねに
A:10-2136 秋風尓 山飛越 鴈鳴之 聲遠離 雲隠良思
 あきかぜに やまとびこゆる かりがねの こゑとほざかる くもがくるらし(「詠鴈」)
C:新古今和歌集0498「秋風に山飛び越ゆるかりがねのいや遠ざかり雲がくれつつ」(「題しらず」柿本人麿)*Cは柿本集から採録か。


117 此の頃の朝けにきかぬ足引の山をとよましさを鹿ぞ鳴く

新1このごろは イ2朝けにきけば 私2あさけにきかば
A:08-1603 頃者之 朝開尓聞者 足日木箆 山呼令響 狭尾壮鹿鳴哭
 このころの あさけにきけば あしひきの やまよびとよめ さをしかなくも(「大伴宿祢家持鹿鳴歌二首」)


118 手にをれば袖さへ匂ふ女郎花その白露のちらまくをしも

新4そのしらつゆも
A:10-2115 手取者 袖并丹覆 美人部師 此白露尓 散巻惜
 てにとれば そでさへにほふ をみなへし このしらつゆに ちらまくをしも(「詠花」)


119 こと更に君はすらじををみなへしさがのの花に匂ひてをみむ

私2君はすらじ 新2ころもはすらじ
注:第二句、「君」は「衣」の誤写か。「を」は衍字か。
A:10-2107 事更尓 衣者不揩 佳人部為 咲野之芽子尓 丹穂日而将居
 ことさらに ころもはすらじ をみなへし さきののはぎに にほひてをらむ(「詠花」)


120 秋はぎの咲きたる野べのさをしかはちらまくをしと鳴くといふ物を

私・新4ちらまくをしみ
A:10-2155 秋芽子之 開有野邊 左壮鹿者 落巻惜見 鳴去物乎
 あきはぎの さきたるのへに さをしかは ちらまくをしみ なきゆくものを(「詠鹿鳴」)


121 我が宿の萩のはなさけり見にきませ今二三日あらばちらなん

私・新5あらばちりなん
A:08-1621 吾屋前之 芽子花咲有 見来益 今二日許 有者将落
 わがやどの はぎのはなさけり みにきませ いまふつかだみ あらばちりなむ(「巫部麻蘇娘子歌一首」)


122 まくず原なびく秋かぜ吹く里にあだの大のの萩の花ちる

イ・新3吹くからに
A:10-2096 真葛原 名引秋風 毎吹 阿太乃大野之 芽子花散
 まくずはら なびくあきかぜ ふくごとに あだのおほのの はぎのはなちる(「詠花」)


123 秋ののの尾花が末のうちなびき心は妹によりにしものを

私・新3うちなびく
A:10-2242 秋野 尾花末 生靡 心妹 依鴨
 あきののの をばながうれの おひなびき こころはいもに よりにけるかも


124 秋さればおく白露に我が宿のあさぢがうれは色付きにけり

私4あさぢがくれは
A:10-2186 秋去者 置白露尓 吾門乃 淺茅何浦葉 色付尓家里
 あきされば おくしらつゆに わがかどの あさぢがうらば いろづきにけり(「詠黄葉」)
C:新古今和歌集0464「秋さればおく白露に我がやどのあさぢがうはば色づきにけり」(「題しらず」柿本人麿)*人丸集一本から採録か。


125 物思ふとかくれのみゐてきてみれば春日の山はいろづきにけり

A:10-2199 物念 隠座而 今日見者 春日山者 色就尓家里
 ものもふと こもらひをりて けふみれば かすがのやまは いろづきにけり(「詠黄葉」)
B:08-1568 雨隠 情欝悒 出見者 春日山者 色付二家利
 あまごもり こころいぶせみ いでみれば かすがのやまは いろづきにけり(「大伴家持秋歌四首」)


126 かり金の鳴きにし日よりかすがなる三笠の山は色付きにけり

私2なきにし日よりぞ 新2なきにしよりぞ 私・新5いろづきにける
A:10-2212 鴈鳴之 寒喧之従 春日有 三笠山者 色付丹家里
 かりがねの さむくなきしゆ かすがなる みかさのやまは いろづきにけり(「詠黄葉」)


127 かり金の鳴きつるなべにたか圓ののべの草ばも色付きにけり

私・新3たかまつの 私4のべのくさばは 私・新4のべのくさばぞ 新5いろづきにける
A:10-2191 鴈之鳴乎 聞鶴奈倍尓 高松之 野上乃草曽 色付尓家留
 かりがねを ききつるなへに たかまつの ののうへのくさぞ いろづきにける(「詠黄葉」)


128 秋はぎのうつろふをしと鳴くしかの聲聞く山はもみぢしにけり

C:新勅撰和歌集0302「秋はぎのうつろふをしとなくしかの聲きく山はもみぢしにけり」(「題しらず」中納言家持)


129 むば玉の夜の夢にはみゆらんや袖ひるまなく我し戀ふれば

A:12-2849 烏玉 彼夢 見継哉 袖乾日無 吾戀矣
 ぬばたまの そのいめにだに みえつぐや そでふるひなく あれはこふるを


130 鳴く鹿の聲にてふりぬ時は今あきの半ばに成りぬべらなり

イ2聲うらぶれぬ 新2こゑうらぶれば 私・新3ときは今は


131 此の夕秋かぜふきぬ白露にあまねく花はあすも咲かなむ

私・新5あすもさきなん
A:10-2102 此暮 秋風吹奴 白露尓 荒争芽子之 明日将咲見
 このゆふべ あきかぜふきぬ しらつゆに あらそふはぎの あすさかむみむ(「詠花」)


132 春くれば霞にこめてみせざりし萩さきにけり折りてかざさん

A:10-2105 春去者 霞隠 不所見有師 秋芽子咲 折而将挿頭
 はるされば かすみがくりて みえざりし あきはぎさきぬ をりてかざさむ(「詠花」)


133 わが宿にさける秋はぎ常ならば我が待つ人にみせまし物を

A:10-2112 吾屋前尓 開有秋芽子 常有者 我待人尓 令見猿物乎
 わがやどに さけるあきはぎ つねにあらば あがまつひとに みせましものを(「詠花」)


134 うづら鳴くふりにし里の秋はぎを思ふ人どちあひみつるかな

私4おもふ人にも 新4おもふ人にしも
A:08-1558 鶉鳴 古郷之 秋芽子乎 思人共 相見都流可聞
 うづらなく ふりにしさとの あきはぎを おもふひとどち あひみつるかも(「故郷豊浦寺之尼私房宴歌三首」沙弥尼等)


135 いもがひもとくと結ぶと立田山いまこそもみぢはじめなりけれ

新4いまぞもみぢの 新5にしきおりける
A:10-2211 妹之紐 解登結而 立田山 今許曽黄葉 始而有家礼
 いもがひも とくとむすびて たつたやま いまこそもみち そめてありけれ(「詠黄葉」)
C:後撰和歌集0376「いもがひもとくとむすぶと立田山いまぞもみぢの錦おりける」(「題しらず」よみ人しらず)


136 飛鳥河もみぢぞながるかづらきの山の木のはは今かちるらん

私・新2もみぢばながる
A:10-2210 明日香河 黄葉流 葛木 山之木葉者 今之落疑
 あすかがは もみちばながる かづらきの やまのこのはは いましちるらし(「詠黄葉」)


137 秋はぎの花咲きにけり手折りもてみれどもあかぬ君にも有るかな

新3たをりても 私4みれどもあかず 新5きみにしあらねば
B:20-4449 奈弖之故我 波奈等里母知弖 宇都良々々々 美麻久能富之伎 吉美尓母安流加母
 なでしこが はなとりもちて うつらうつら みまくのほしき きみにもあるかも(「左大臣宴於兵部卿橘奈良麻呂朝臣之宅歌三首」船王)


138 秋山に霜ふりおほひ木の葉ちるともにゆけども我忘れめや

私・新4ともにゆくとも
A:10-2243 秋山 霜零覆 木葉落 歳雖行 我忘八
 あきやまに しもふりおほひ このはちり としはゆくとも われわすれめや(柿本朝臣人麻呂之歌集出)


139 もみぢばをちぢに時雨のふるなべに夜さへぞ寒きひとりしぬれば

私・新2ちらすしぐれの
A:10-2237 黄葉乎 令落四具礼能 零苗尓 夜副衣寒 一之宿者
 もみちばを ちらすしぐれの ふるなへに よさへぞさむき ひとりしぬれば(「詠雨」)


140 さをしかの妻どふ山のをかべなるわさ田はからじ霜はおくとも

私2つまよぶやまの 新2つまよぶやどの
A:10-2220 左小壮鹿之 妻喚山之 岳邊在 早田者不苅 霜者雖零
 さをしかの つまよぶやまの をかへなる わさだはからじ しもはふるとも(「詠水田」)
C:新古今和歌集0459「さをしかの妻どふ山のをかべなるわさだはからじ霜はおくとも」(「題しらず」柿本人麿)*Cは柿本集から採録か。


141 秋田かり庵つくりてわがをれば衣手寒し露ぞおきける

新1あきのたの 新2かりいほつくり
A:10-2174 秋田苅 借廬乎作 吾居者 衣手寒 露置尓家留
 あきたかる かりほをつくり わがをれば ころもでさむく つゆぞおきにける(「詠露」)


142 長月の時雨のあめにうつりゆくかすがの山は色づきにけり

私3うつりつつ 新3そほちつつ
A:10-2180 九月乃 鐘礼乃雨丹 沾通 春日之山者 色付丹来
 ながつきの しぐれのあめに ぬれとほり かすがのやまは いろづきにけり(「詠黄葉」)


143 しら露を玉にもぬきて長月の有明の月をみれどあかぬも

新2たまにぬきもて 新4ありあけの月は
A:10-2229 白露乎 玉作有 九月 在明之月夜 雖見不飽可聞
 しらつゆを たまになしたる ながつきの ありあけのつくよ みれどあかぬかも(「詠月」)


144 一とせにふたたびゆかぬあき山を心にもあらずくらしつるかな

新3あきやまは 新4こころはあらず
A:10-2218 一年 二遍不行 秋山乎 情尓不飽 過之鶴鴨
 ひととせに ふたたびゆかぬ あきやまを こころにあかず すぐしつるかも(「詠黄葉」)


145 ときは今は秋ぞと思へば衣手に吹きくる風のしるくもあるかな

底2秋ぞと思へど―>私・新あきぞとおもへば
C:続古今和歌集0284「ときはいまは秋ぞとおもへばころもでにふきくるかぜのしるくもあるかな」(「秋立つ日よみ侍りける」中納言家持)


146 あきはじめいつとしらぬを月影のまどに入りてもおもほゆるかな


147 今よりは秋風さむく成りなむをいかでか独りながきよをねむ

A:03-0462 従今者 秋風寒 将吹焉 如何獨 長夜乎将宿
 いまよりは あきかぜさむく ふきなむを いかにかひとり ながきよをねむ(「大伴宿祢家持悲傷亡妾作歌一首」)
C:新古今和歌集0457「いまよりは秋風さむくなりぬべしいかでかひとりながきよをねん」(「だいしらず」中納言家持)


148 たかまどの野べの秋はぎちらざらば君がかたみと見つつ忍ばん

新3ちらさでは
A:02-0233 高圓之 野邊乃秋芽子 勿散祢 君之形見尓 見管思奴播武
 たかまとの のへのあきはぎ なちりそね きみがかたみに みつつしぬはむ(「志貴親王薨時作歌一首 并短歌」或本歌曰)
B:08-1630 高圓之 野邊乃容花 面影尓 所見乍妹者 忘不勝裳
 たかまとの のへのかほばな おもかげに みえつついもは わすれかねつも(「大伴宿祢家持贈坂上大嬢歌一首 并短歌」)
C:続古今和歌集1264「わがかどののべのあきはぎちらざらばきみがかたみと見つつしのばん」(「恋歌中に」中納言家持)


149 こぞ見てし秋の月夜はてらせどもあひ見し妹はいやとほざかる

A:02-0211 去年見而之 秋乃月夜者 雖照 相見之妹者 弥年放
 こぞみてし あきのつくよは てらせれど あひみしいもは いやとしさかる(「柿本朝臣人麻呂妻死之後泣血哀慟作歌二首 并短歌」)
C:拾遺和歌集1287「こぞみてし秋の月夜はてらせどもあひみしいもはいや遠ざかる」(「妻にまかりをくれて、又のとしの秋、月を見侍りて」人麿)


150 七夕はなのりすらしも天の河きよき月夜にきりたちわたる

新1・2たなばたのふなのりすらし 私5くもたちわたる
A:17-3900 多奈波多之 船乗須良之 麻蘇鏡 吉欲伎月夜尓 雲起和多流
 たなばたし ふなのりすらし まそかがみ きよきつくよに くもたちわたる(「七月七日之夜獨仰天漢聊述懐一首」家持)
C:続千載和歌集0347「七夕の舟のりすらし天の川きよき月よに雲たち渡る」(「題しらず」中納言家持)


151 ひこぼしの別れて後にあまの川をしむなみだに水まさるらし

新2わかれてのちは 私・新5みづまさるらん
C:続後撰和歌集0261「ひこぼしのわかれてのちの天のがはをしむなみだに水まさるらし」(「八日のあしたよませ給うける」醍醐天皇)


152 天の河かへらん空もおもほえずたえぬ別れとおもふものから

C:後撰和歌集0226「天河渡らむそらもおもほえずたえぬ別れと思ふものから」(「題しらず」よみ人も)


153 としかさね我が舟うくる泪がはかぜはふくとも波たつなゆめ

イ1としによそふ イ2我が舟こがん イ・新4天の川
A:10-2058 年丹装 吾舟滂 天河 風者吹友 浪立勿忌
 としによそふ わがふねこがむ あまのがは かぜはふくとも なみたつなゆめ(「七夕」)


154 戀ひわたる年のわたりは七夕のかた時もあはず別れぬるかな

イ・新2としのわたりを 私4かたときもあかず


155 君がくる今夜はまれに天の川年月のみぞわかるべらなる

私4ししつきのみぞ(ママ) 新5わたるべらなる


156 あまの河浅くふみつつわたるせに帰るなみだの渕と成りつる

私5ふちとなりつつ


157 天の川きり立ちくもれ玉くしげ明けなばあかず忘らまくをし

私5かへらまくほし 新5わかれまくをし


158 秋かぜのふきにし日より天の河せぜに立ち出て待つとつげなむ

注:106とほぼ同一。
A:10-2083 秋風乃 吹西日従 天漢 瀬尓出立 待登告許曽
 あきかぜの ふきにしひより あまのがは せにいでたちて まつとつげこそ(「七夕」)
C:古今和歌集0173「秋風の吹きにし日より久方のあまのかはらにたたぬ日はなし」(「題しらず」よみ人しらず)
D:人丸集「秋風の吹きにし日より天河瀬にたちいでてまつとつげこせ」
赤人集「秋風のふきにしひよりあまのはらせにいでたちてまつとつげこせ」


159 ひととせにひとたびわたる天の川いくらばかりのひろさ成るらん

D:夫木和歌抄「ひととせに一たびわたる天の川いくらばかりのひろさなるらん」(家集、雑歌中 中納言家持卿)


160 けふよりは天のかはらはあせななむ渕せともなくただ渡りなむ

私4そよみともなく
C:後撰和歌集0241「けふよりやあまの河原はあせななんそこひともなくただわたりなん」(紀友則)


161 逢ふよしもわたると思へば天の川思ひ立つよりぞ嬉しかりける

底2わたるなと思へば―>イ・新わたるとおもへば イ・新4おりたつよりぞ


162 かささぎのはしつくるより天の川水もひななんかちわたりせん

新5かはわたりせん
D:夫木和歌抄「かささぎのはしつくるより天の川みづもひななむかちわたりせん」(家集、雑歌中 中納言家持卿)


163 河かぜに夜のふけゆけば天の川かはせになみの立ちゐこそまて

イ・新1秋かぜに
C:拾遺和歌集0143「秋風に夜のふけゆけばあまの河かはせに浪のたちゐこそまて」(紀貫之)


164 一とせに七日のよのみあふことの戀もつきねば夜ぞふけにける

A:10-2032 一年邇 七夕耳 相人之 戀毛不過者 夜深徃久毛[一云 不盡者 佐宵曽明尓来]
 ひととせに なぬかのよのみ あふひとの こひもすぎねば よはふけゆくも[こひもつきねば さよぞあけにける](「七夕」)


165 あまの河かはせに波のうちはへて我がたちまちしけふぞ来にける

C:続後拾遺246「天河かは瀬の波のうちはへて我がたちまちしけふは来にけり」(「題しらず」山辺赤人)
D:万代集「あまのがはかはせのなみのうちはへてわがたちまちしけふはきにけり」(「七夕の心を」中納言家持)


166 天の川せぜのしら波さわぐらんわがまつ君が舟出すらしも

私4わがまつきみぞ 私・新5さわぐなり
A:08-1529 天河 浮津之浪音 佐和久奈里 吾待君思 舟出為良之母
 あまのがは うきつのなみおと さわくなり あがまつきみし ふなですらしも(「山上臣憶良七夕歌十二首」)
C:続古今和歌集0311(新309)「あまのがはきりたちわたりけふけふとわがまつきみのふなですらしも」(「七夕歌」北郷贈太政大臣 藤原房前)


167 いもにあはん夜をかたまつと久かたの天の川原に月はへにけり

底2夜をはたまつと―>私・新夜をかたまつと 底5月はえにけり―>私・新月はへにけり
A:10-2093 妹尓相 時片待跡 久方乃 天之漢原尓 月叙経来
 いもにあふ ときかたまつと ひさかたの あまのかはらに つきぞへにける(「七夕」)


168 銀川いはこす波の立ちゐつつ秋は七日のけふをこそおもへ

新3あきのなぬかの 新4けふをしぞおもふ
C:後撰和歌集0240「あまの河いはこす浪のたちゐつつ秋のなぬかのけふをしぞまつ」(「七夕をよめる」よみ人しらず)


169 ささがにのはづなにかけてわたす橋又もこぼれず心あるらし

イ・新1かささぎの 新2つばさにかけて 新4又もこぼれぬ


170 天の川夜ぶかく君はわたるとも人しれぬとはおもはざらなむ

新4人しれずとは
C:新千載和歌集0333「天の川夜ぶかく君はわたるとも人しれずとは思はざらなん」(「題不知」中納言家持)
D:貫之集「天河夜ぶかく君はわたるともひとしれずとは思はざらなむ」


171 七夕のあふ夜のみこそ天の川わたるせありてきりもたつらめ

私4わたるえをわく 新5きみもくるてへ


172 よなよなに天のかはらにならせども夜ながしとしもあらじとぞ思ふ

私2あまのかはらは 私3ななせども 新4よならふとしも


173 ひさかたの天のかはらに舟うけてこよひや君が我がやどにこん

A:08-1519 久方之 漢瀬尓 船泛而 今夜可君之 我許来益武
 ひさかたの あまのかはせに ふねうけて こよひかきみが わがりきまさむ(「山上臣憶良七夕歌十二首」)
C:続後撰和歌集0254(旧245)「久方のあまのかはべに舟よせてこよひかきみがわたりきまさん」(山上憶良)


174 あけぬやととふ物ならば天の河霧立ちいよよはれずといはなん

私4きりたちいまだ


175 秋のよの庭のしら露けさみれば玉やしけるとおどろかれつつ

C:後撰和歌集0309「秋ののにをく白露をけさ見れば玉やしけるとおどろかれつつ」(壬生忠岑)
D:忠岑集「あきのののはぎのしらつゆけさみればたまやしけるとおどろかれつつ」


176 わが宿の尾花が末にしら露のおきし日よりぞあきかぜの吹く

C:新古今和歌集0462「我がやどのをばなが末にしら露のおきし日よりぞ秋風もふく」(中納言家持)


177 玉にぬきかけてまもらん秋はぎのうればわわらにおけるしら露

底4うれは***(判読不能)に―>私4うればわわらに 新4うれつつとはに
A:08-1618 玉尓貫 不令消賜良牟 秋芽子乃 宇礼和々葉尓 置有白露
 たまにぬき けたずたばらむ あきはぎの うれわわらばに おけるしらつゆ(「湯原王贈娘子歌一首」)
注:104参照。


178 しら露と名にはたつれど紅に山の木の葉の色にみえけり

私2名にはおへれど 新2名にはおへども 新4山の木の葉は 私5いろはみえけり


179 秋かぜは日ごとにふきぬ高砂のをのへのはぎのちらまくをしも

新5ちらまくをしみ
A:10-2121 秋風者 日異吹奴 高圓之 野邊之秋芽子 散巻惜裳
 あきかぜは ひにけにふきぬ たかまとの のへのあきはぎ ちらまくをしも(「詠花」)
C:新続古今和歌集0409「秋風は夜ごとにふきぬ高砂の尾上の萩のちらまくをしも」(「題しらず」中納言家持)


180 秋風はことと吹かぬか白妙のわがとき衣ぬふ人もなし

私2こととふきぬる 新2こととふききぬ 新5ぬふ人はなし
B:20-4353 伊倍加是波 比尓々々布氣等 和伎母古賀 伊倍其登母遅弖 久流比等母奈之
 いへかぜは ひにひにふけど わぎもこが いへごともちて くるひともなし(「諸國防人等歌」丸子連大歳)


181 うちはへてかげとぞたのむ峯の松色どる秋のかぜにうつるな

C:後撰和歌集0374「打ちはへて影とぞたのむ峰の松色どる秋の風にうつるな」(よみ人知らず)


182 さほ山のははその紅葉ちりぬべみ夜さへ見よとてらす月かげ

新3ちりぬべく
C:古今和歌集0281「佐保山のははそのもみぢちりぬべみよるさへ見よとてらす月影」(「題しらず」よみ人しらず)
新撰和歌「さほやまのははそのもみぢちりぬべみ夜さへ見よとてらす月かげ」
陽成院一親王姫君達歌合「さほやまのははそのもみぢちりぬべみよるさへみよとてらすつきかげ」


183 我が門のわさ田もいまだかりあげぬにかねてうつろふ神なびのもり

イ・新3かりあへぬに
C:古今和歌集0253「神な月時雨もいまだふらなくにかねてうつろふ神なびのもり」(「題しらず」よみ人しらず)
D:古今和歌六帖「わがかどのわさだもいまだかりあげねばかねてうつろふ神なびの森(いつのおとくろまろ)」


184 足引の山田のいねもひいでにけりうゑしにあはぬわがかりにこん

新3ひでにけり 新4うゑしにあへぬ 新5われかりにこん


185 いとはやみまたぎもかるか石上ふるのわさ田にいまだひでぬを

底2またきももなか―>イ・新またぎもかるか 私2またきももるか 新4ふるのわさだも 新5いまだいでぬを
B:07-1353 石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居
 いそのかみ ふるのわさだを ひでずとも しめだにはへよ もりつつをらむ(「寄稲」)


186 秋の田のかりの庵に雨ふりて衣手ぬれぬほす人もなし

私・新5ほす人なしに
A:10-2235 秋田苅 客乃廬入尓 四具礼零 我袖沾 干人無二
 あきたかる たびのいほりに しぐれふり わがそでぬれぬ ほすひとなしに(「詠雨」)
B:09-1717 三川之 淵瀬物不落 左堤刺尓 衣手潮 干兒波無尓
 みつかはの ふちせもおちず さでさすに ころもでぬれぬ ほすこはなしに(「春日歌一首」)


187 あしひきの山田のいねは出でずともつなをはやはへ守ると知らなん

新3ひでずとも 新4つなをばやらへ
B:07-1353 石上 振之早田乎 雖不秀 繩谷延与 守乍将居
 いそのかみ ふるのわさだを ひでずとも しめだにはへよ もりつつをらむ(「寄稲」)


188 たがためのにしきなればか秋霧のさほの山邊を立ちかくすらん

C:古今和歌集0265「たがための錦なればか秋ぎりのさほの山辺をたちかくすらむ」(「やまとのくににまかりける時、さほ山にきりのたてりけるを見てよめる」紀友則)
友則集「たがための錦なればかあきぎりのさほのやまべを立ちかくすらん」
新撰和歌「たがためににしきなればか秋ぎりのさほの山辺をたちかくすらん」


189 秋までの見べき紅葉を霧くもりさほの山邊のはるる時なし

イ1秋来ては 私・新1秋までに 新5はるる時なき


190 きり分けてかりは来にけりひまもなく時雨は今やのべにそそがん

新4しぐれやいまは
C:新拾遺和歌集0488「霧分きて雁はきにけり隙もなく時雨は今や野べを染むらん」(「題しらず」中納言家持)


191 千鳥なく佐保の川ぎり立ちぬらんみねの梢もいろかはりゆく

私・新3立ちぬらし
C:拾遺和歌集0186「千鳥なくさほの河ぎり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く」(「右大将定国家屏風に」壬生忠岑)


192 秋ぎりのまぎれにいへぢ忘れてや思はぬかたにとまりしにけん

新5よぎりしにけん


193 あじろへとさしてきつれど河霧の立つとまよひに道もゆかれず

新4立つとまぎれに


194 かり金の鳴きつるなべにから衣立田の山はもみぢしぬらむ

私・新5もみぢしぬらし
C:後撰和歌集0359「かりがねの鳴きつるなへに唐衣たつたの山はもみぢしにけり」(「やまとにまかりけるついでに」読人不知)
 玉葉和歌集0792「鴈がねのなくなるなへにから衣たつたの山は紅葉しぬらし」(「紅葉を」赤人)


195 秋霧に妻まどはせる初かりの雲がくれ行く聲のきこゆる

C:続後撰和歌集0311「秋ぎりにつままどはせるかりがねのくもがくれゆくこゑのきこゆる」(「題不知」中納言家持)


196 あま雲のよそにかり金鳴く時ぞ下葉いろづく我がやどの萩

B:10-2132 天雲之 外鴈鳴 従聞之 薄垂霜零 寒此夜者[一云 弥益々尓 戀許曽増焉]
 あまくもの よそにかりがね ききしより はだれしもふり さむしこのよは[いやますますに こひこそまされ](「詠鴈」)
B:19-4224 朝霧之 多奈引田為尓 鳴鴈乎 留得哉 吾屋戸能波義
 あさぎりの たなびくたゐに なくかりを とどめえむかも わがやどのはぎ(藤原皇后御作)


197 雲の上にかりぞ鳴くなる我が宿のあさぢもいまだ紅葉あへぬに

新5もみぢあへなくに
B:20-4296 安麻久母尓 可里曽奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞
 あまくもに かりぞなくなる たかまとの はぎのしたばは もみちあへむかも(「二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首」中臣清麻呂)
B:08-1575 雲上尓 鳴都流鴈乃 寒苗 芽子乃下葉者 黄變可毛
 くものうへに なきつるかりの さむきなへ はぎのしたばは もみちぬるかも(「右大臣橘家宴歌七首」作者不詳)
C:続後拾遺和歌集0307「雲の上に雁ぞなくなる我が宿のあさぢもいまだ紅葉あへなくに」(「題しらず」中納言家持)


198 大空にかりぞなく成るうねび山みかさの原にもみぢしぬるかも

イ・新4みかきの原に 新5もみぢしぬとか
B:20-4296 安麻久母尓 可里曽奈久奈流 多加麻刀能 波疑乃之多婆波 毛美知安倍牟可聞
 あまくもに かりぞなくなる たかまとの はぎのしたばは もみちあへむかも(「二三大夫等各提壷酒 登高圓野聊述所心作歌三首」中臣清麻呂)
C:古今和歌集0252「霧立ちて雁ぞなくなる片岡の朝の原は紅葉しぬらむ」(「題しらず」読人不知)


199 あま雲のよそにかりがね鳴きしより霰霜ふりさむきこよひかも

私3ききしより 新5さむきこよひか
A:10-2132 天雲之 外鴈鳴 従聞之 薄垂霜零 寒此夜者[一云 弥益々尓 戀許曽増焉]
 あまくもの よそにかりがね ききしより はだれしもふり さむしこのよは[いやますますに こひこそまされ](「詠鴈」)
C:新拾遺和歌集0525「天雲のよそにかり金ききしよりはだれ霜ふり寒しこのよは」(「題しらず」人丸)*Cは柿本集より採録か。


200 山の田に田もりのひたのこほろにて恋する鹿のこゑぞとよめる

私・新1山田もる 新3こころにて 底3恋す鹿の―>恋する鹿の 私・新5こゑぞとめつる
D:夫木和歌抄「山田もるたもりのひたのこほろにてこひするしかの声ぞとめつる」(家集、雑歌中 中納言家持卿)


201 秋山にこころのはればみかひする鹿をおくまでとむるなりけり

イ・私・新2こころのいれば イ・私・新3みかりする


202 きりぎりすわが宿近く夜はなけひるはさわがし物がたりせむ

D:夫木和歌抄「きりぎりすわがねやちかくよるはなけひるはさわがし物がたりせん」(家集、雑歌中 中納言家持卿)


203 から衣立田の山にあやしくもつづりさせてふきりぎりすかな

D:夫木和歌抄「から衣たつたの山にあやしくもつづりさせてふきりぎりすかな」(家集、雑歌中 中納言家持卿)


204 きりぎりすつづりさせとは鳴くなれどむらぎぬもたる我は聞きいれず

新2つづりさせてふ 新3なくなれば


205 秋ののに人松虫の聲すなり我かと行きていざとぶらはむ

C:古今和歌集0202「あきののに人松虫のこゑすなり我かとゆきていざとぶらはん」(「題しらず」よみ人しらず)


206 秋の山かげやかたぶく日ぐらしの此の暮ごとになき渡るらん

私・新4このうれごとに


207 はぎの花色づく秋をいたづらにあまたかぞへて年ぞへにける

C:後撰集301「秋はぎの色づく秋を徒にあまたかぞへて老いぞしにける」(つらゆき)・風雅集1284「萩の葉のいろづく秋をいたづらにあまたかぞへてすぐしつるかな」(貫之)
D:貫之集「萩の葉の色づく秋をいたづらにあまたかぞへて過しつるかな」


208 いなびのの秋の尾花はまねけども女郎花にも心とけける

イ・私・新4をみなへしにぞ 私5こころとめつる イ・新5心つきぬる
D:夫木和歌抄「いなみのの秋のをばなはまねけどもをみなへしにぞ心つけつる」(家集、稲日 中納言家持卿)


209 藤ばかまきる人のみや立ちながら時雨のあめにぬらしそめつる

イ2きる人のみぞ
C:後撰和歌集0351「ふぢ袴きる人なみや立ちながらしぐれの雨にぬらしそめつる」(「題しらず」よみ人も)


210 などうたて吹く秋かぜぞ藤ばかまぬぎてかすべき妹もまさぬに

新5いもしまさぬに


211 うゑてみし秋田かるまで越えこねばけさ初かりの音にぞ鳴きぬる

私1うゑてこし 新1うゑておきし イ・新3見えこねば
C:古今和歌集0776「うゑていにし秋田かるまで見えこねばけさはつかりのねにぞなきぬる」(「だいしらず」読人不知)


212 折りてみばおちぞしぬべき秋はぎの枝もたわわにおける白露

新2おちてしぬべき 新4えだもたををに
C:古今和歌集0223「をりて見ばおちぞしぬべき秋はぎの枝もたわわにおけるしらつゆ」(「題しらず」よみ人しらず)


213 はぎの花ちりなむをのの露じもにぬれてをゆかむよはふけぬとも

私・新2ちるらんをのの
B:10-2257 露霜尓 衣袖所沾而 今谷毛 妹許行名 夜者雖深
 つゆしもに ころもでぬれて いまだにも いもがりゆかな よはふけぬとも(「寄露」)
C:古今和歌集0024「萩が花ちるらむをののつゆじもにぬれてをゆかむさ夜はふくとも」(「題しらず」よみ人しらず)
D:猿丸集「はぎのはなちるらんをののつゆじもにぬれてをゆかむさよはふくとも」


214 おく山の岩がき紅葉ちりぬべみてる日の光みるよしもがな

新5みるよしなくて
C:古今和歌集0282「おく山のいはがきもみぢちりぬべしてる日のひかり見る時なくて」(「みやづかへひさしうつかうまつらで山ざとにこもり侍りけるによめる」藤原關雄)


215 天の川あふせしら波たどりつつわたりはてねば明けぞしにける

新2あさせしら波 新3かきたどり
C:古今和歌集0177「天河あさせしら浪たどりつつわたりはてねばあけぞしにける」(「寛平御時なぬかの夜、うへにさぶらふをのこども歌たてまつれとおほせられける時、人にかはりてよめる」紀友則)
D:友則集「あまのがはあさせしらなみたどりつつわたりはてねばあけぞしにける」
古今和歌六帖「天河あさせしら波たどりつつわたりはてねばあけぞしにける」(とものり)


216 きりぎりす我が衣つづれわび人の宿も秋かぜよきずふくなり

新5よきずふきけり


217 わぎも子がはたきりおろしから衣させてし日より秋かぜの吹く

イ・新2はたよりおろし イ・新4きせてしひより 新5あきかぜはふく


218 萩の露玉にぬかむととればけぬみん人は猶枝ながら見よ

C:古今和歌集0222「萩の露玉にぬかむととればけぬよし見む人は枝ながら見よ」(「題しらす」よみ人しらず/ある人のいはく、この歌はならのみかどの御歌なりと)
D:古今和歌六帖「はぎのつゆたまにぬかんととればけぬみん人はなほよそながらみよ」(ならのみかど)


219 我がせこが衣のすそを吹きかへしうらめづらしき秋のはつ風

C:古今和歌集0171「わがせこが衣のすそを吹き返しうらめづらしき秋のはつ風」(「題しらず」よみ人しらず)
D:躬恒集「わぎもこがころものすそをふきかへしうらめづらしきあきのはつかぜ」
新撰和歌「わぎも子がころものすそをふきかへしうらめづらしき秋の初かぜ」
古今和歌六帖「わぎも子が衣のすそを吹きかへしうらめづらしき秋のはつ風」(みつね)


220 あき風の吹くにつけてぞおもほゆる佐保の山邊は今やもえ出る

私・新5いまやもみづる



 冬哥


221 神な月時雨にあへるもみぢばの吹かば散りなんかぜのまにまに

新3もみぢばを
A:08-1590 十月 鐘礼尓相有 黄葉乃 吹者将落 風之随
 かむなづき しぐれにあへる もみちばの ふかばちりなむ かぜのまにまに(「橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首」大伴宿祢池主)
C:新勅撰和歌集0362「神な月しぐれにあへるもみぢ葉のふかば散りなん風のまにまに」(「題しらず」大伴池主)


222 もみぢばは過ぎまくをしみ思へどもあらそふ今夜明けずともあらなん

私5あけずもあらなん
A:08-1591 黄葉乃 過麻久惜美 思共 遊今夜者 不開毛有奴香
 もみちばの すぎまくをしみ おもふどち あそぶこよひは あけずもあらぬか(「橘朝臣奈良麻呂結集宴歌十一首」家持)


223 冬されば衣手寒きみよしののたかき山べにみ雪ふるらし

イ・新1夕されば イ・新2ころもでさむし 新4たかまの山に
B:10-2319 暮去者 衣袖寒之 高松之 山木毎 雪曽零有
 ゆふされば ころもでさむし たかまつの やまのきごとに ゆきぞふりたる(「詠雪」)
C:古今和歌集0317「夕されば衣手さむしみよしのの吉のの山にみ雪ふるらし」(「題しらず」よみ人しらず)
D:古今和歌六帖「ゆふぐれは衣手さむしみよしののたかきみやまにみゆきふるらし」


224 まきもくのひばらのいまだくもらねば小松が原にあは雪ぞふる

底3くもらぬは―>私・新くもらねば 私・新4こまつがさきに 新5あわゆきぞふる
A:10-2314 巻向之 桧原毛未 雲居者 子松之末由 沫雪流
 まきむくの ひばらもいまだ くもゐねば こまつがうれゆ あわゆきながる(柿本朝臣人麻呂歌集出也)
C:新古今和歌集0020「巻向の桧原のいまだくもらねばこ松が原にあは雪ぞふる」(「題しらず」中納言家持)


225 とをくにか衣手寒したか圓の山の木ごとに雪ぞふるらし

イ1夕されば 私1とつくには 新1かつらは(ママ) 新3たかまつの
A:10-2319 暮去者 衣袖寒之 高松之 山木毎 雪曽零有
 ゆふされば ころもでさむし たかまつの やまのきごとに ゆきぞふりたる(「詠雪」)


226 やたののの浅ぢ色づくあらち山みねの淡雪さむくなるらし

私1ゆるののの
A:10-2331 八田乃野之 淺茅色付 有乳山 峯之沫雪 寒零良之
 やたののの あさぢいろづく あらちやま みねのあわゆき さむくふるらし(「詠黄葉」)


227 はたた雲ふらぬ雨ゆゑひさかたのあめよりは空にくもりあひつつ

新1いたくしも 新2ふらぬゆきゆゑ 私・新4あめより空は
A:10-2322 甚多毛 不零雪故 言多毛 天三空者 陰相管
 はなはだも ふらぬゆきゆゑ こちたくも あまつみそらは くもらひにつつ(「詠雪」)


228 あは雪の日毎日毎にふりしけばならの都のおもほゆるかな

私1あわゆきの
A:08-1639 沫雪 保杼呂保杼呂尓 零敷者 平城京師 所念可聞
 あわゆきの ほどろほどろに ふりしけば ならのみやこし おもほゆるかも(「大宰帥大伴卿冬日見雪憶京歌一首」旅人)


229 我がせこを今や今やといでみれば淡雪ふれり庭もおどろに

イ・私・新5にはもほどろに
A:10-2323 吾背子乎 且今々々 出見者 沫雪零有 庭毛保杼呂尓
 わがせこを いまかいまかと いでみれば あわゆきふれり にはもほどろに(「詠雪」)


230 いもが家路われまどはしつ久かたのあまぎる雪のなべてふれれば

新左山のうへもさだかに見えず とも *232参照
C:古今和歌集0334「梅の花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべて降れれば」(「題しらず」よみ人しらず/この歌ある人のいはく、柿本人麻呂が哥也)*Cは「柿本集」に同一歌あり。


231 つくばねのよそにのみして有りかねて雪げの道になづみつるかな

私・新4ゆきげのみづに
A:03-0383 築羽根矣 {卅}耳見乍 有金手 雪消乃道矣 名積来有鴨
 つくはねを よそのみみつつ ありかねて ゆきげのみちを なづみけるかも(「登筑波岳丹比真人國人作歌一首 并短歌」)


232 山の上のさやかにみえず久堅のあまぎる雪のなべてふれれば

注:新左、この歌の上句、230の上句の異文としてあげる。
C:古今和歌集0334「梅の花それとも見えず久方のあまぎる雪のなべて降れれば」(「題しらず」よみ人しらず/この歌ある人のいはく、柿本人麻呂が哥也)*Cは「柿本集」に同一歌あり。


233 あし引の山にしろきは我が宿にきのふ日ぐらしふりし雪かも

イ4きのふ日ぐれに 私4きりのひぐらし 新4昨日のくれに 私5ふりしくもかも
A:10-2324 足引 山尓白者 我屋戸尓 昨日暮 零之雪疑意
 あしひきの やまにしろきは わがやどに きのふのゆふべ ふりしゆきかも(「詠雪」)


234 松かげの浅茅の上のしら露をけたずて玉にぬく物にもが

私1まつかぜの
B:08-1572 吾屋戸乃 草花上野 白露乎 不令消而玉尓 貫物尓毛我
 わがやどの をばながうへの しらつゆを けたずてたまに ぬくものにもが(「大伴家持白露歌一首」)
B:08-1654 松影乃 淺茅之上乃 白雪乎 不令消将置 言者可聞奈吉
 まつかげの あさぢがうへの しらゆきを けたずておかむ ことはかもなき(「大伴坂上郎女雪歌一首」)


235 しら雪のふりおほふ山をこゆるまもきみをこそ世にいきのをにおもへ

新2ふりおく山を 新3こゆるにも 私・新4きみをこそせな
A:19-4281 白雪能 布里之久山乎 越由加牟 君乎曽母等奈 伊吉能乎尓念
 しらゆきの ふりしくやまを こえゆかむ きみをぞもとな いきのをにおもふ(「林王宅餞之但馬按察使橘奈良麻呂朝臣宴歌三首」家持)


236 たかま山岩ねに生ふるすがのねのねもころごろにふりおくしらゆき

私5ふりおくしらつゆ
A:20-4454 高山乃 伊波保尓於布流 須我乃根能 根母許呂其呂尓 布里於久白雪
 たかやまの いはほにおふる すがのねの ねもころごろに ふりおくしらゆき(「左大臣集於兵部卿橘奈良麻呂朝臣宅宴歌一首」橘諸兄)


237 おく山のまきのしのほにふる雪のふりはますともつちにおちめや

イ・新2まきのこのは
A:06-1010 奥山之 真木葉淩 零雪乃 零者雖益 地尓落目八方
 おくやまの まきのはしのぎ ふるゆきの ふりはますとも つちにおちめやも(「橘宿祢奈良麻呂應詔歌一首」)


238 うちはぶき鳥はなけどもかくばかりふるしら雪に君きまさんや

私5きみいませんや 新5きみいませめや
A:19-4233 打羽振 鷄者鳴等母 如此許 零敷雪尓 君伊麻左米也母
 うちはぶき とりはなくとも かくばかり ふりしくゆきに きみいまさめやも(「内蔵伊美吉縄麻呂作歌一首」)


239 おほ宮の内にも外にもめづらしくふれる白雪ふままくをしも

私5ふままくをしみ
A:19-4285 大宮能 内尓毛外尓母 米都良之久 布礼留大雪 莫踏祢乎之
 おほみやの うちにもとにも めづらしく ふれるおほゆき なふみそねをし(「拙懐歌三首」家持)


240 橘のみさへ花そゆその葉さへ枝さへふれどまさるときなき

新2みさへはなさへ 新4ふたさへいれど(ママ)
A:06-1009 橘者 實左倍花左倍 其葉左倍 枝尓霜雖降 益常葉之樹
 たちばなは みさへはなさへ そのはさへ えにしもふれど いやとこはのき(「左大辨葛城王等賜姓橘氏之時御製歌一首」元正天皇)


241 けふふれる雪にいそひてわが宿のふた木の梅ははなさきにけり

底1けふしれに―>私・新けふふれる 新2ゆきにいろひて(ママ) 新4ふる木の梅は
A:08-1649 今日零之 雪尓競而 我屋前之 冬木梅者 花開二家里
 けふふりし ゆきにきほひて わがやどの ふゆきのうめは はなさきにけり(「大伴宿祢家持雪梅歌一首」)


242 わがやどの冬木の上にふる雪を梅のはなかとうちみつるかな

A:08-1645 吾屋前之 冬木乃上尓 零雪乎 梅花香常 打見都流香裳
 わがやどの ふゆきのうへに ふるゆきを うめのはなかと うちみつるかも(「巨勢朝臣宿奈麻呂雪歌一首」)


243 うちなびく冬をちかみかむば玉のこよひの月よかすみたるかな

私5かみたるかも(ママ)
A:20-4489 宇知奈婢久 波流乎知可美加 奴婆玉乃 己与比能都久欲 可須美多流良牟
 うちなびく はるをちかみか ぬばたまの こよひのつくよ かすみたるらむ(「三形王之宅宴歌三首」甘南備伊香)


244 み雪ふる冬はけふゆく鴬のなかん春日はあすにあるらし

私・新2冬はけふまで 新4なかば春日は 新5あえもあるらし
A:20-4488 三雪布流 布由波祁布能未 {鴬}乃 奈加牟春敝波 安須尓之安流良之
 みゆきふる ふゆはけふのみ うぐひすの なかむはるへは あすにしあるらし(「三形王之宅宴歌三首」三形王)


245 あすか川かは音たかしむば玉の夜風ぞ寒き雪ぞふるらし

底2かは霧たかし―>イ・新かは音たかし 新4よかぜぞさむし
B:07-1101 黒玉之 夜去来者 巻向之 川音高之母 荒足鴨疾
 ぬばたまの ゆふさりくれば まきむくの かはおとたかしも あらしかもとき(「詠河」柿本朝臣人麻呂之歌集出)
C:続千載和歌集0660「あすか河かはおとたかしむば玉のよかぜをさむみ雪ぞふるらし」(「冬の歌中に」中納言家持)


246 今更に待つ人こめやあまのはらふりさけみれば夜はふけにけり

新5よもふけにけり
B:13-3280 妾背兒者 雖待来不益 天原 振左氣見者 黒玉之 夜毛深去来 左夜深而 荒風乃吹者 立待留 吾袖尓 零雪者 凍渡奴 今更 公来座哉 左奈葛 後毛相得 名草武類 心乎持而 二袖持 床打拂 卯管庭 君尓波不相 夢谷 相跡所見社 天之足夜乎
 わがせこは まてどきまさず あまのはら ふりさけみれば ぬばたまの よもふけにけり さよふけて あらしのふけば たちまてる わがころもでに ふるゆきは こほりわたりぬ いまさらに きみきまさめや さなかづら のちもあはむと なぐさむる こころをもちて まそでもち とこうちはらひ うつつには きみにはあはず いめにだに あふとみえこそ あめのたりよを
B:15-3662 安麻能波良 布里佐氣見礼婆 欲曽布氣尓家流 与之恵也之 比等里奴流欲波 安氣婆安氣奴等母
 あまのはら ふりさけみれば よぞふけにける よしゑやし ひとりぬるよは あけばあけぬとも(「海邊望月作歌九首」)
C:続後撰和歌集0807「いまさらにまつ人こめやあまのはらふりさけ見れば夜もふけにけり」(「題しらず」中納言家持)


247 あはずある物ならなくにときぎぬのさらなる戀も我はするかも

新1あはである 私・新5われはするかな


248 草かげのあさ井の松のかさしまを見つつや君がみかさこゆらん

底1草けの―>私・新草かげの イ2あらえのさきの 私3かせしまを 新3かけしまを イ5山ぢこゆらん 新5みさかこゆらん
A:12-3192 草陰之 荒藺之埼乃 笠嶋乎 見乍可君之 山道超良無[一云 三坂越良牟]
 くさかげの あらゐのさきの かさしまを みつつかきみが やまぢこゆらむ[みさかこゆらむ]


249 すみの江のみるみちをわき道なしと人にしらるることいたきかな

イ・新2ふたみちをゆく 新4人にしれぬる


250 三か月のふたみみちよりわかるればわがせもあれも独りかもぬる

イ1みかはなる 底2ふたみくらより―>新2ふたみみちより イ・私2ふたみくちより 私3ながるれば 新3あかるれば 底4わがみもあれも―>私・新わがせもあれも
A:03-0276(一本云) 水河乃 二見之自道 別者 吾勢毛吾文 獨可文将去
 みかはの ふたみのみちゆ わかれなば わがせもわれも ひとりかもいかむ(「高市連黒人羈旅歌八首」)


251 てる月を雲なかくしそしまかげに我がふねとめんとまりしらずも

A:09-1719 照月遠 雲莫隠 嶋陰尓 吾船将極 留不知毛
 てるつきを くもなかくしそ しまかげに わがふねはてむ とまりしらずも(「春日蔵歌一首」)


252 みよしののみふねの山にゐる雲の常ならむとも我が思はなくに

私1みかののの 私2みふねのうらに
A:03-0242 瀧上之 三船乃山尓 居雲乃 常将有等 和我不念久尓
 たぎのうへの みふねのやまに ゐるくもの つねにあらむと わがおもはなくに(「弓削皇子遊吉野時御歌一首」)


253 紅葉ばの時雨とふればさす笠の上に紅しみぬべらなり


254 吹く風に散るだにをしきさほ山の紅葉かきたれ時雨さへふる

底3さか山の―>イ・新さほ山の 私3さは山の 新4もみぢこきたれ
C:続古今和歌集0553「ふくかぜにちるだにおしきさほ山のもみぢこきたれしぐれさへふる」(「題不知」中納言家持)


255 から衣立田の山のもみぢばははた物もなきにしきとぞみる

、下句を欠く
C:後撰和歌集0386「から衣たつたの山のもみちばははた物もなき錦なりけり」(「題しらず」紀貫之)


256 わぎもこが神なび山のもみぢばはうつるごとにも物はかなしき

イ2ふたみの山の 新2かがみの山の 新3もみぢ葉の 私4うつるごとにぞ イ・新4うつるときにぞ


257 かささぎのわたせるはしにおく霜の白きをみれば夜ぞ深けにける

新5よはふけにけり
C:新古今和歌集0620「かささぎのわたせる橋におくしものしろきをみれば夜ぞふけにける」(「だいしらず」中納言家持)


258 さほ山に錦おりかく神な月しぐれの雨をたてぬきにして

C:古今和歌集0314「竜田河錦おりかく神な月しぐれの雨をたてぬきにして」(「題しらず」よみ人しらず)
D:新撰和歌「たつた山にしきおりかく神なづきしぐれのあめを立ぬきにして」
古今和歌六帖「立田山錦おりかく神無月時雨の雨をたてぬきにして」


259 春をまつ梅の立枝にふる雪は人だのめなる花にぞ有りける

新2むめのふるえに 底4人のためなる―>私・新人だのめなる 私・新5花にざりける
D:万代集「はるをまつむめのたちえにふるゆきは人だのめなるはなにぞ有りける」(題不知 中納言家持)


260 別れ行く冬のかたみは黒かみのふりおける雪のきえぬなりけり

D:万代集「わかれゆくふゆのかたみはしろかみにふりおけるゆきのきえぬなりけり」(題不知 中納言家持)


261 あら玉の年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ

私3なるときぞ
C:古今和歌集0339「あら玉の年のをはりになるごとに雪もわが身もふりまさりつつ」(「年のはてによめる」在原元方)
D:古今和歌六帖「あら玉のとしのをはりになる時は雪もわが身もふりまさりつつ」


262 此の時雨いたくなふりそわぎもこがつとにみせむと紅葉折りてん

底5紅葉折りけん―>私・新もみぢをりてん
A:19-4222 許能之具礼 伊多久奈布里曽 和藝毛故尓 美勢牟我多米尓 母美知等里{底}牟
 このしぐれ いたくなふりそ わぎもこに みせむがために もみちとりてむ(「九月三日宴歌二首」久米朝臣廣縄)


263 秋のたはみなかりはてつれど初霜のおくてのいねぞ久しかりける

私1秋田はみな 新1あきたみな 新4おくてのいねは 新5ひさしかりけり


264 露霜もおけばそよげど竹のはのいつもうつろふ色ならなくに


265 おとしげく末ばの上に白玉をぬきてみだせるけさのあられは

私1おとしける 新1おちしける イ2もみぢいろ(ママ) 新2もみぢのうへに 底4ぬきてみせたる―>ぬきてみだせる 新4ぬきてぞみだる


266 あられふり玉とみれどもひろひおきて心のごとくぬかばけぬべし


267 夜をさむみあさとを明けて見わたせば庭もおどろに淡雪ぞふる

イ・私4庭もほどろに 新4にはもはだらに
A:10-2318 夜乎寒三 朝戸乎開 出見者 庭毛薄太良尓 三雪落有[一云 庭裳保杼呂尓 雪曽零而有]
 よをさむみ あさとをひらき いでみれば にはもはだらに みゆきふりたり[にはもほどろに ゆきぞふりたる](「詠雪」)


268 山のかひそこともみえずしらがしの枝にもはにも雪のふれれば

A:17-3924 山乃可比 曽許登母見延受 乎登都日毛 昨日毛今日毛 由吉能布礼々婆
 やまのかひ そこともみえず をとつひも きのふもけふも ゆきのふれれば(「紀朝臣男梶應詔歌一首」)
B:10-2315 足引 山道不知 白牫牱 枝母等乎々 雪落者[或云 枝毛多和々々]
 あしひきの やまぢもしらず しらかしの えだもとををに ゆきのふれれば[えだもたわたわ](柿本朝臣人麻呂之歌集出也 但件一首 或本云三方沙弥作)
C:拾遺和歌集0252「あしひきの山ぢもしらずしらがしの枝にもはにも雪のふれれば」(「題しらず」人まろ)


269 月夜には花とぞみゆる竹の上にふるしら雪をたれかはらはん

D:寛平御時后宮歌合「月夜には花とぞ見ゆる竹のうへに降りしく雪を誰かはらはむ」(作者不明)
 古今和歌六帖「月よには花とぞ見つる竹の葉にふりしく雪をたれかはらはん」(作者不明)
 夫木和歌抄「月夜には花とぞ見ゆる竹のうへにふりしく雪をたれかはらはむ」(「寛平御時后宮歌合」源宗于朝臣)


270 雪ふらば立ちもかくれん春日なる三かさの山のすゑのまつばら


271 あら玉の年もわたりてあるがうへにふりつむ雪のきえぬ白山

私・新2としをわたりて
C:後撰和歌集0482「荒玉の年を渡りてあるがうへにふりつむ雪のたえぬしら山」(「題しらず」よみ人しらず)


272 梅がえにふりつむ雪をつつみもて君にみせんととればけぬべし

A:10-1833 梅花 零覆雪乎 {包}持 君令見跡 取者消管
 うめのはな ふりおほふゆきを つつみもち きみにみせむと とればけにつつ
注:010とほぼ同一。


273 しら雪のいろわきがたき梅がえにとも待つ雪ぞきえ残りたる


274 しら山のみねなればこそ白ゆきのかのこまだらにふりてみゆらめ

私5ふりつつみゆらめ


275 冬のよのさむきまにまにわぎもこが衣をかりの聲はききつや

D:夫木和歌抄「冬の夜のさむきまにまにわぎもこがころもをかりのこゑはききつや」(家集、雑歌中 前中納言家持卿)


276 けひが家ぢあれまどはめや足引の山かきくもり雪はふらなん

新1けひがいへに 私・新5ゆきはふるとも
注:309参照。



 戀部

277 わがせこを戀ひては久しむまおひのあべ橘のこけおふるまで

イ3むましたの 私4あを橘の
A:11-2750 吾妹子 不相久 馬下乃 阿倍橘乃 蘿生左右
 わぎもこに あはずひさしも うましもの あへたちばなの こけむすまでに


278 吉野川いはきりとほし行く水のおとにはたてじ戀はしぬとも

B:11-2718 高山之 石本瀧千 逝水之 音尓者不立 戀而雖死 
たかやまの いはもとたぎち ゆくみづの おとにはたてじ こひてしぬとも
C:古今和歌集0492「吉野河いはきりとほし行く水のおとにはたてじこひはしぬとも」(「題しらず」読人しらず)
D:古今和歌六帖「みよしのの岩きりとほしゆく水のおとにはたてじこひはしぬとも」


279 おとにのみ戀ふればくるしなでしこの花にさかなむなぞへつつみむ

私5なぞつねにみむ 新5なぞらへてみん
B:08-1448 吾屋外尓 蒔之瞿麦 何時毛 花尓咲奈武 名蘇経乍見武
 わがやどに まきしなでしこ いつしかも はなにさきなむ なそへつつみむ(「大伴宿祢家持贈坂上家之大嬢歌一首」)
B:10-1992 隠耳 戀者苦 瞿麦之 花尓開出与 朝旦将見
 こもりのみ こふればくるし なでしこが はなにさきでよ あさなさなみむ(「寄花」)


280 玉ぼこの遠道もこそ人はゆけなどか今のま戀しかるらん

C:拾遺和歌集0737「たまぼこのとほ道もこそ人はゆけなど時のまも見ねばこひしき」(「源公忠朝臣、日日にまかりあひ侍りけるを、いかなる日にかありけむ、あひ侍らざりける日、つかはしける」紀貫之)


281 ひこぼしのつまよぶ舟の引きづなのそらに絶えなむと我が思はなくに

私2つまよぶこゑの 私3ひくつなの 私4そこにたえなんと 新4そらにたえんと
A:10-2086 牽牛之 嬬喚舟之 引綱乃 将絶跡君乎 吾之念勿國
 ひこほしの つまよぶふねの ひきづなの たえむときみを わがおもはなくに(「七夕」)


282 あし引の山のかげ草むすびおきて戀やわたらん逢ふよしをなみ

C:新古今和歌集1213「あしびきの山のかげ草むすびおきてこひやわたらんあふよしをなみ」(「題しらず」中納言家持)


283 しらま弓いつはの山のときは成る命かあやな戀ひつつやあらん

イ2いづもの山の 新2いつえの山の 新5こひつつあらん
A:11-2444 白檀 石邊山 常石有 命哉 戀乍居
 しらまゆみ いそへのやまの ときはなる いのちなれやも こひつつをらむ


284 おく山のいはほのこけの年ひさにみれどもあかぬ君にも有るかな

D:古今和歌六帖「おくやまのいはほのこけの年ひさにみれどもあかぬ君にもあるかな」(作者不明)


285 長月の時雨のあめの山かくも我がむねたれをみてばやみなん

私・新2時雨のあめに 新3山かくす イ3山ぎりに イ4 けぶきわがむねを 新5みてはややみなん
A:10-2263 九月 四具礼乃雨之 山霧 烟寸吾胸 誰乎見者将息[一云 十月 四具礼乃雨降]
 ながつきの しぐれのあめの やまぎりの いぶせきあがむね たれをみばやまむ[かむなづき しぐれのあめふり](「寄雨」)


286 いもがぬる床のあたりにいはくぐる水にもがもやいりてくぐらん

私4みづにもかみや イ5いりてねまくも 私5いりてくるらん 新5いりてねにこむ
A:14-3554 伊毛我奴流 等許乃安多理尓 伊波具久留 水都尓母我毛与 伊里弖祢末久母
 いもがぬる とこのあたりに いはぐくる みづにもがもよ いりてねまくも


287 くしげなるかがみの山をこえ行かむ我は戀しきいもが夢みたり

私・新3こえゆけば 新4われらこひしき 私5いもがすがたに 新5いもがすがたか
D:夫木和歌抄「くしげなるかがみの山をこえゆけばわれはこひしきいもがすがたか」(家集、雑歌中  中納言家持卿)


288 こひしくはきませぬ君か長月のもみぢの色のすぎはつるまで

私・新1こひしくも 私2きまさぬきみか


289 かくばかり戀しくあらばます鏡月日ならでもあかましものを

私4みぬ月ひなく 新4みぬ日時なく 私・新5あらましものを
A:19-4221 可久婆可里 古非之久志安良婆 末蘇可我美 弥奴比等吉奈久 安良麻之母能乎
 かくばかり こひしくしあらば まそかがみ みぬひときなく あらましものを(「従京師来贈歌一首 并短歌」坂上郎女)



 雜部

290 もがみ山すがけせしより心有りてまもりかへせるやかたをのたか

D:忠岑集「もがみやますがけせしよりこころありてまもりかへせるやかたをのたか」
 夫木和歌抄:「もがみ山すがけせしより心ありてまもりかへせるやかたをのたか」(もがみ山、最上、出羽 家集 中納言家持卿)


291 橘をもりべの家のかど田わせかりどき過ぎぬうとみやすらん

イ4かるとき過ぎぬ 私・新こじとやすらん
A:10-2251 橘乎 守部乃五十戸之 門田早稲 苅時過去 不来跡為等霜
 たちばなを もりへのさとの かどたわせ かるときすぎぬ こじとすらしも(「寄水田」)


292 我がやどのわさ田かりあげてあへずとも君がつかひはただにはやらじ

イ・新3かへすとも
B:14-3386 尓保杼里能 可豆思加和世乎 尓倍須登毛 曽能可奈之伎乎 刀尓多弖米也母
 にほどりの かづしかわせを にへすとも そのかなしきを とにたてめやも


293 かは風にかはづ鳴くなり夕さればかり金さむしゆふまくらせむ

イ・新1かみつせに 私1かみかぜに イ2かはづつまよぶ 私・新4かはかぜさむし イ4ころもでさむし
A:10-2165 上瀬尓 河津妻呼 暮去者 衣手寒三 妻将枕跡香
 かみつせに かはづつまよぶ ゆふされば ころもでさむみ つままかむとか(「詠蝦」)


294 しら波のこすといふかたにつきぬれば今ぞ嬉しきみつの濱松

新4いそぐ嬉しき


295 家路には石ふむ山もなき物をわが待つ君がむまのつまづく

私2いしふりやまも 私・新5むまのつまづき
A:11-2421 縿路者 石蹈山 無鴨 吾待公 馬爪盡
 くるみちは いはふむやまの なくもがも あがまつきみが うまつまづくに


296 さよ深けてみつつやゆかむまつら成るさよひめのこがひれふりの山

私3まててなる 新3まてしなる 私・新4きよひめのこが 私・新5きよふりの山
B:05-0868 麻都良我多 佐欲比賣能故何 比列布利斯 夜麻能名乃尾夜 伎々都々遠良武
 まつらがた さよひめのこが ひれふりし やまのなのみや ききつつをらむ(山上憶良)


297 いはのへにつりせし人もうちつけの思ひありとはしらずや有りけん


298 あし引の山すがのねをひきうつしわがかね事とゆめ人にいふな

私・新3ひきみつつ 新5ゆめ人にいふかな


299 あしひきの山下かぜはふかねどもいもがなき夜はいねてさむしも

イ4君のこぬよは 新4きみがこぬよは イ・新5たもとさむしも
A:10-2350 足桧木乃 山下風波 雖不吹 君無夕者 豫寒毛
 あしひきの やまのあらしは ふかねども きみなきよひは かねてさむしも(「寄夜」)


300 あひみんとあひさかえむと大宮をつかへまつればたふとくも有るかな

イ・新1あめつちに 私1あめつちの 底2あひさかへみむと―>あひさかへむと 新5たふとくもあるか
A:19-4273 天地与 相左可延牟等 大宮乎 都可倍麻都礼婆 貴久宇礼之伎
 あめつちと あひさかえむと おほみやを つかへまつれば たふとくうれしき(「新甞會肆宴應詔歌六首」大納言巨勢朝臣 注・巨勢奈弖麻呂)


301 世の中の常なきことは知るらむを心をつくすますらをにして

新2つねなきことを 新4こころつくする
A:19-4216 世間之 无常事者 知良牟乎 情盡莫 大夫尓之{底}
 よのなかの つねなきことは しるらむを こころつくすな ますらをにして(「挽歌一首 并短歌」家持)


302 よの中のつねならぬ身とかつしればいもに心を忍びかねつも

イ・新2つねならぬ事と 新3かつみれば 私4いかにこころを 新4いかにこころは
A:03-0472 世間之 常如此耳跡 可都知跡 痛情者 不忍都毛
 よのなかは つねかくのみと かつしれど いたきこころは しのびかねつも(「悲緒未息更作歌五首」家持)


303 みたちせしこまのあり礒を今みればあひざりし草生ひにけらしも

私1みたらせし 新1みたえせし イ2しまのあり礒を 私・新2こまのあらいそを 新3けふみれば 私・新4おひざりしくさ 新5おひにけるかな イ5生ひにけるかも
A:02-0181 御立為之 嶋之荒礒乎 今見者 不生有之草 生尓来鴨
 みたたしの しまのありそを いまみれば おひずありしくさ おひにけるかも(「皇子尊宮舎人等慟傷作歌廿三首」)


304 けふけふとわが待つ君は岩水のかごにまじりぬありといはめや

新3いけみづの 私4からにまじりぬ 新4かげにまじりぬ
A:02-0224 且今日々々々 吾待君者 石水之 貝尓交而[一云 谷尓 有登不言八方]
 けふけふと あがまつきみは いしかはの かひにまじりて[たににまじりて] ありといはずやも(「柿本朝臣人麻呂死時妻依羅娘子作歌二首」依羅娘子)


305 いもが名はせなにながさむひめ小松まつがえかくれこけ生ふるまで

イ・新2ちよにながさむ イ・新3ひめしまの イ4こまつがうれに 私4こまつがくれに
A:02-0228 妹之名者 千代尓将流 姫嶋之 子松之末尓 蘿生萬代尓
 いもがなは ちよにながれむ ひめしまの こまつがうれに こけむすまでに(「和銅四年歳次辛亥河邊宮人姫嶋松原見嬢子屍悲嘆作歌二首」河辺宮人)


306 しぬらんとかねてしりせば此の海のありその濱はみせまし物を

A:17-3959 可加良牟等 可祢弖思理世婆 古之能宇美乃 安里蘇乃奈美母 見世麻之物能乎
 かからむと かねてしりせば こしのうみの ありそのなみも みせましものを(「哀傷長逝之弟歌一首 并短歌」家持)


307 いつしかとまつらむいもに玉ぼこのことだにつげずゆきし君かも

A:03-0445 何時然跡 待牟妹尓 玉梓乃 事太尓不告 徃公鴨
 いつしかと まつらむいもに たまづさの ことだにつげず いにしきみかも(「丈部龍麻呂自経死之時判官大伴宿祢三中作歌一首 并短歌」大伴三中)



 一本取載哥

308 雲隠り鳴くなる鴈の行きてみむ秋の田のほもしげくしおもほゆ

私・新1くもがくれ 、下句欠く
A:08-1567 雲隠 鳴奈流鴈乃 去而将居 秋田之穂立 繁之所念
 くもがくり なくなるかりの ゆきてゐむ あきたのほたち しげくしおもほゆ(「大伴家持秋歌四首」)


309 妹が家路我わすれめやあし引の山かきくもり雪はふるとも

、この歌なし
注:276の異伝か。


310 あたらしき年のはじめにいやとしに雪ふみちらし常ならぬかも

、この歌なし
A:19-4229 新 年之初者 弥年尓 雪踏平之 常如此尓毛我
 あらたしき としのはじめは いやとしに ゆきふみならし つねかくにもが(「天平勝寳三年」家持)


311 こひつつもあらんとおもへどいふば山かくれし君をしのびかねつも

新3ゆふばやま 、この歌なし
A:14-3475 古非都追母 乎良牟等須礼杼 遊布麻夜万 可久礼之伎美乎 於母比可祢都母
 こひつつも をらむとすれど ゆふまやま かくれしきみを おもひかねつも


312 さほ山にたな引く霞みる毎に妹にこひつつなかぬひぞなき

私・新4いもをこひつつ
注:063に既出。ただし語句にわずかな相違あり。
A:03-0473 佐保山尓 多奈引霞 毎見 妹乎思出 不泣日者無
 さほやまに たなびくかすみ みるごとに いもをおもひで なかぬひはなし(「悲緒未息更作歌五首」家持)


313 きのふこそ君はこえしかおもはずに濱まつがえの雲にたな引く

新2きみはこましか(ママ) 新5くものたなびく 、この歌なし
A:03-0444 昨日社 公者在然 不思尓 濱松之於 雲棚引
 きのふこそ きみはありしか おもはぬに はままつがうへに くもにたなびく(「丈部龍麻呂自経死之時判官大伴宿祢三中作歌一首 并短歌」大伴三中)


314 君はいさわすれやすらむ玉かづらかげにみえつつわすれぬ物を

、この歌なし
A:02-0149 人者縦 念息登母 玉蘰 影尓所見乍 不所忘鴨
 ひとはよし おもひやむとも たまかづら かげにみえつつ わすらえぬかも(「天皇崩後之時倭太后御作歌一首」倭姫王)


315 白露はけなばけななむきえずとも玉にぬくべき人もあらじを

私・新3きえずとて
C:新千載和歌集0317「白露はけなばけななむ消えずとて玉にぬくべき人もあらじを」(「題しらず」中納言家持)
D:伊勢物語105段「白露は消なば消ななむ消えずとて玉にぬくべき人もあらじを」


316 我がやどのえの木つきのきつきごとにつかひはやらむ心またぐな

新4つかひはやこん


317 その原の山をいくかもなげくまに君も我が身もさかり過ぎ行く

新2山をいくかと
D:夫木和歌抄「その原の山をいかでと歎くまに君もわが身もさかり過ぎゆく」(家集、雑歌 中納言家持卿)



 付録 遺漏歌

318 あめつちとともにひさしくますらをとおもひてありしいへのにはかも(新184)

A:04-0578 天地与 共久 住波牟等 念而有師 家之庭羽裳
 あめつちと ともにひさしく すまはむと おもひてありし いへのにははも(「大伴宿祢三依悲別歌一首」)


319 あきののになまめきたてるをみなへしあなことごとしはなもひととき(新260)

C:古今和歌集1016「あきののになまめきたてるをみなへしあなかしかまし花もひと時」(「題しらず」僧正遍昭)
D:古今和歌六帖「秋ののになまめきたてるをみなへしあなかしかまし花も一とき」


320 ちどりなくさほのかはぎりたちぬらし山のもみぢはいろかはりゆく(新267・私261)

C:古今和歌集0361「千鳥なくさほの河ぎりたちぬらし山のこのはも色まさりゆく」(「四季のゑかけるうしろの屏風にかきたりけるうた」素性法師)
拾遺和歌集0186「千鳥なくさほの河ぎり立ちぬらし山のこのはも色かはり行く」(「右大将定国家屏風に」ただみね)
D:忠岑集「ちどりなくさほのかはぎりたちぬらし山のこのはのいろかはりゆく」
古今和歌六帖「ちどり鳴くさほのかはぎり立ちぬらしまきのこずゑも色づきにけり」(ただみね)


321 みわやまをしかもかくすかはるがすみ人にしられぬはなやさくらん(新307)

B:01-0018 三輪山乎 然毛隠賀 雲谷裳 情有南畝 可苦佐布倍思哉
 みわやまを しかもかくすか くもだにも こころあらなも かくさふべしや(「額田王下近江國時作歌」)
C:古今和歌集0094「三わ山をしかもかくすか春霞人にしられぬ花やさくらむ」(「はるのうたとてよめる」紀貫之)




Update:平成14-3-8
Last Update:平成22-2-14

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