前略、おでんというものは煮込めば煮込むほど美味しいかというと、案外そうでなかったりする。日本酒に合うかというと、汁の具合や塩気がビールに合ったりする。
奥の深い食べ物である。人付き合いに似ているような気もする。
おでんの名前のいわれは、田楽からだそうだが、こんにゃく、さといも、だいこん、焼き豆腐などに串をうち味噌を付けて焼いたものがそもそも田楽という食べ物だから、名前の変化より、料理本体の変化の方が大幅で、どうも怪しいものだと思う。串にさすところが同じだと言われても、現在のおでんの種で串にさすものは僅かなものだ。
また関西ではなぜか関東炊きなどと呼ばれているそうだが、関東は鍋に入るほど狭くは無い。明らかに関西人の関東に対するコンプレックスであろう。
関西人は、何故かしょうゆの濃い色を嫌う性癖があり、関東風のそばの汁を「からい」などと言う。僕は、そばの汁を「塩からい」と思ったことはあるが「からい」と思ったことは無い。逆に「からさ」を求めて七味唐辛子をうずたかく振りかけるほうである。
閑話休題、おでんは、こぶだしにしょうゆ味のつゆで煮込むのが基本とされている。中には1番だしを使う、価値観のわからない料理人もいるようだが、鰹節を使っても2番だしでいいと思う。そのだしでとりあえず野菜類を煮込む。しょうゆはまだ使わない。揚げ物はさっと湯通しをして油抜きをする。などの下ごしらえを終えたものをしょうゆとみりん、酒などで味を整えただし汁に、順次入れて煮込んでゆく。
煮込んで行く順番は「てきとう」である。汁のしみ込みにくい物から入れるのが基本だが、そんなものは煮て見なけりゃわからない。「てきとう」たる所以である。
大体、鍋の八分目ほどに入れたものが、鍋のふちまで溢れそうになる、その頃が食べごろであろう。おでんの種は空気を含んだ練り物が多いから、自然とそうなる。
鍋が冷めると種の中の空気が収縮して、汁を吸い込む。それをまた温めて食べるのがまた美味しい。我が家では二日分のおでんを作るが、それは上記の理由による。温めるとき汁を沸騰させないようにするのがコツと言えるだろうか。沸騰した汁にもみくちゃにされたちくわぶほど情けない食べ物もないだろう。
ところで、この頃は高級なおでんの店が多くなっているが、それはそれで美味しく食べられればいいが、やはり屋台のおでんが一番だと思う。これは私の少年時代から延々と続いているおでん歴が実証している。
少年が家の前で近所のガキ、いやお友達と遊んでいるとやってきた屋台のおでん屋。毎日来るわけではなかったが、それだけに来た時の喜びは大きかった。串にさしてもらったおでんを半分食べたところで落としてしまったときの悲しみ。そうやって辛い痛みを経験してきた少年は強い。(こともない)
そうか、やっぱりおでんは串にさしたときが一番美味しそうだ。田楽説、侮るべからず。とはいえ、しらたきを買ったときは串にさしてもらったけれど、そのまま握ったこぶしのところまで滑り落ちてきて熱かったな。あの時は、つば付きの串が有れば良いのにと思ったっけ。(だれか、突っ込んでくれませんか)
2002年1月5日 アンクル・ハーリー亭主人