前略、サリンジャーを読んでいた頃がやはり僕たちの青春時代というものなのだろうか。お互いの彼女を隠し通した事も、今考えると正しい判断だった様に思う。結局二人とも当時の彼女とは別れてしまったわけだから、なまじ面識が有ったりするとどんな所で出会って気まずい思いをしないとは限らないからね。

 その点、他のメンバーは判断を誤っていたようだ。もちろん初めから離婚しようとして結婚したわけは無いので、そう決め付けるのも酷かもしれないけれど、実際のところ家が近くでなくて良かったと思うよ。その点、君とは計らずも車で30分の近場に住んだけれど、お互い奥さん以外の女性と付き合っているのを見ていないから、気楽に昔話が出来るからね。

 あの頃僕はほんとに悪いやつで、ダミーの女の子(Hちゃんのことだ)の話しかしなかったじゃないか。僕がHに会う時はいつも仲間と一緒だった。僕はHから、「あなたとわたしの関係って何なのかしら。」なんて言われた事も有った。実際のところ、僕だってHは良い子だと思っていたけれど、何といっても向こうは金持ちの1人娘、せいぜい悪い虫が付かない様に守るのが僕にふさわしい役柄だったね。やっぱり、サリンジャーなんて読まなければ良かったと思う。サリンジャーの作品で「フィラニーとゾーイー」という話が有って、主人公の兄のフィラニーが結婚式を前に自殺してしまうんだよね。あの本以来、ぼくは結婚についてすごく慎重になってしまった。サリンジャーもおかしな小説を書くよね。

 ところで話しはHちゃんの事に戻るけれど、Hちゃんの方もクラス会の時にはすごい車をかっこいいお兄ちゃんに運転させて来ただろ。帰りは僕たちと一緒に帰るって言い出して、昔のしがらみも有るし(中学時代に教室の掲示板に貼り付けられた例のツーショット写真の事だよ)結局僕がエスコートをした。その時もHちゃんは、私たち恋人に見えるかしらなんて言い出して、僕の腕をつかんで僕の罪悪感を刺激したんだぜ。Hちゃんは無邪気なのか悪女なのかあの頃は全然判断が付かなかった。(未だに良く解からないけれど)

 実は花火の日にHちゃんと偶然会ったんだ。もうほんとに良い奥様って感じで「お久しぶりですわ。」なんて言われちゃったよ。まあ、彼女は結婚しない主義の人で、その訳を昔話してくれたのを覚えていたので、ご主人と一緒に会うとは思わなかった。そのわけっていうのは、結構深刻な話なので話す訳にはいかないけれど、それでも結婚する気になったのだから僕としては祝福したい気持ちだ。

 ご主人も人見知りしないタイプで、Hちゃんには合うのじゃないかな。そういえば、僕が女性をちゃん付けで呼べるのはHちゃんだけで、ほんとに気のおけないタイプの人だよね。でも、彼女をダミーに使っていた僕は本当に悪い奴だったと今更ながら思う。

 今年の成人式で、いろいろ有ったけど、僕としては若い彼らをどうこう言う資格が無いんだ。式場の入り口で記念品をもらって、すぐに会場を抜け出して主に中学の時のいたずら仲間とだべっていて、ついに会場に入らずに終わってしまった。今年の彼らだって、会場に入らずに、外にいればあんなことにはならなかったと思う。会場の大きさや外で話しても式の邪魔にならなければ、多少は大目に見てもらえたんじゃないかな。

 子供の手前、ああいうことをやっていては日本の将来は暗い、とかなんとか言ってしまった。ホント、僕って二重人格だよね。

         2001年10月6日 アンクル・ハーリー亭主人

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2001.10.6掲載