前略、これから社会に出ようとしている我が子へ。社会というものをあまり簡単に考えない方が良い。と、言ってそれほど恐れる事も無いけれどね。ただ、世の中全て善人の味方ばかりではなく、自分の都合で得な方に付く、または自分に火の粉がかからなければどんなひどい事でも加勢してやる、という悪人まで様々な人間がいる、と思っていた方が良い。

 基本的には、公私を混同する事はなるべく避けるべきだと思う。仕事は仕事、どんなに永く一緒にやってきた仕事の仲間でも、所詮は仕事場を離れれば赤の他人で、何一つ信用すべきでない。特に金銭面でのあいまいなやり取りは避けた方が良い。

 よく、1回は貸しても、2回目からは貸すな、と言う人がいるが始めから平気で金を借りようとする人間に、そんな理屈は通用しない。友人の間での金銭の貸借でさえ友情を壊す元になり易いのだから、職場が同じという言わば偶然に過ぎない人間関係に信用を求める方が悪いと言われかねないだろう。自分が思うほどに相手はどう思っているか、結局は当人しか解からない。自分が相手にしてあげる好意の返礼は期待しない事。これが友情を長続きさせる秘訣じゃないかな。そんなのは友情じゃないって思うかもしれないけれど「走れメロス」のような友情は所詮お話の中の事でしょう。もちろん貴方が「メロス」のように相手に誠実である事を否定しているわけではありません。相手も「メロス」だと思わない方が良いと言いたいのです。

 今は死語に近いと思うけれど、「老婆心ながら」という言葉がありますね。はい!知っている人は手を上げてっ。知らねぇかな。回答は次の通り。

(年とった女性が必要以上に気を遣うことから)自分の心遣いを、度を越しているかもしれないが、とへりくだっていう語。(広辞苑より)

 それでね、老婆心ながら申し上げておきますが、人の親切をなーんとも思わないで、当たり前だと思う人種がとっても多いのです、この世の中というものは。でもね、だからと言って貴方たちも同じように人の親切を平気で無視できる人になってもらいたくない訳です。自分ばっかり損じゃん、と思うかもしれないけど捨てる神あれば拾う神あり、と言ってね、ちゃーんと世の中は見ているの。

 君たちがお年寄りに親切にしているところを、ご近所の人たちはいろんなところで見ているの。それで、八百屋さんとか美容院なんかで他の人に話したりするので、やがて父や母のところにその話しが廻ってくるんです。僕たちはちっとも知らなかったけれど、君たちはとっても評判のよい子達なんです。とんびが鷹を産むってこの事かもしれないね。父は髭かなんか生やして怪しい奴と近所では思われていたみたいだけど、君たちのおかげで皆さんにご挨拶をいただくようになってしまいました。とてもあり難い事です。

 でもね、そんな評判が良い君たちを妬む人も近所にはいるんだ。誰とは言わないけど。でもそんな人の事なんかかまうこっちゃ無い、自分のこころに素直になって自分のしたい様にしなさい。つまらん嫌がらせをするようなら父が黙っていない、父はあまり人と争う事は好きではなかったけれど、遠慮していてもつけあがるばかりの人間にはやはり反省をしてもらう事にしました。悪意を放っておくとどんどん事態が悪くなる場合もある、ということを最近の事件報道で見聞きして、犯罪に該当する行為に関しては許容しないで積極的に告発する方向で動く。こう決めた次第です。あっ、君たちは心配しなくていいからね。父も年をとって短気になったと思っているかもしれないけれど、そういう事では決してないから。あくまで、父の人生の方針を変えたと、そう理解して欲しいな。うん、だから心配いらないよ。

         2001年7月14日 アンクル・ハーリー亭主人

戻る

2001.7.14掲載