前略、お嬢さんの御成人おめでとう。貴女に似て美しい笑顔が印象的でした。昔の、成人式会場での貴女を思い出し、眠れないままこの手紙を書いています。
お互いの娘の成人を同じレストランで祝うなんて、昔の僕たちの運命そのものです。
貴女と会わなくなってから既に四半世紀が過ぎようとしているこの時に、再会したのは神様の気まぐれだろうか。思えば小学校を卒業してから貴女との出会いはいつも突然でしたね。高校1年生の時、錦糸町駅の定期券売り場で会ったのが初めての再会でした。錦糸公園のベンチで暗くなるまで話をしました。どんな話をしたのかは忘れましたが、一つだけ、貴女が将来の進路希望を、空を見上げながら話してくれた、あの横顔を今でも思い出します。
二度目の出会いは、高校3年になり、受験のため交際を中断していた頃、地下鉄の浅草橋駅でしたね。あれは冬休みの間だったと思います。ホームへの階段を降りていく僕の視線と、何気なく見上げた貴女の視線が偶然ぶつかったのでした。あの時、貴女が浮かべた笑顔はとっても無邪気で、勉強が進まず悩んでいた僕をいっぺんに楽天主義者に変えてしまいました。おかげで現役合格という、最高の結果を出す事が出来ました。
合格発表が有った晩、貴女に電話をしてお互いの合格がわかったときから、また交際が再開しました。二人で大学の入学式に着て行く服を買いに行ったっけ。あの時買った青磁色のスーツを覚えていますか。貴女の買ったベージュのスーツのスカート丈が短すぎると喧嘩をしましたね。
成人式には二人で出席して、雪の中、タクシーを止めようと大活躍をした僕を覚えていますか。貴女の着物を、汚したくなかったんだ。想い出が汚れるような気がしていたんです。
その後、大学卒業まじかになると互いが忙しくなり、会う機会が無くなっているうちに貴女はアメリカに行ってしまいました。錦糸公園で貴女が話してくれた夢の第一歩が実現したんだったね。
その後、貴女が日本に帰ったのを聞いたのはクラス会でした。君はお目出度で欠席でしたが、僕もその時は結婚していて、今年成人式を迎えた、あの娘が妻のお腹にいるときでした。その時に君の住所、電話番号を教えてもらったけれど、一度も連絡はしませんでした。子供を育てるのに夢中だったからでしょう。
貴女が離婚したということは、風の噂で聞きました。1人でお嬢さんを育てている事も。でも、僕には貴女に会う資格が無かった。当然ですよね、大学の先生が妻子ある男と付き合う訳にはいかない、そう思っていました。そして心のどこかに、もし、また会う運命なら、どこかで偶然、会う事もあるだろう、そう思う気持ちが強かったんです。
そして、本当に貴女とお会いすることが出来て、僕の心の乾いた部分は水を吸い込むように生き生きとなる事が出来ました。結局、僕たちはそういう運命なのでしょうか。それなら、またお会いする日が来る事を期待したいと思います。
お忙しい日常を、この手紙がお邪魔をするような事が無いことを祈りつつ。
2001年1月13日 アンクル・ハーリー亭主人