前略、イエローストーン湖は深い緑の水をたたえ、我々を静かに迎えてくれました。イエローストーンの名の通り、黄色い岩肌が水に映り空の青とのコントラストが一層美しく映え、今回のキャンプの前途を期待に満ちたものにしています。

 何年か前に手に入れた、コロラド州のアスペンにある別荘から見える赤い岩肌がコロラド(ネイティーブアメリカン語で赤い岩の意)を象徴していたように、我々が向かうイエローストーン公園にはその名の通り、黄色い岩山が緑の中に突き出していました。

 一行7人と1週間分の物資を積んだ2台のランドクルーザーが公園の管理事務所(と言ってもホテルでも営業できそうな巨大なログハウスだが)の前に着いたのが9月1日午後2時を少し過ぎたところでした。簡単なガイダンスとコーションを受けた後、管理事務所から指定されたキャンプサイトに向かいましたが、着くまで1時間もかかりました。

 さっそくテントの設営と夕食の支度を始めたのですが、さっきの管理事務所で管理官に言われた言葉が気になりだしました。「熊が出たら、ニ・ゲ・ロ」だそうです。別に念を押されなくとも逃げます、でもどこに逃げたら良いんだろう。

 ところで、どうして僕がこんな所に来たのか説明していませんでした。以前、仕事でジョージア州のアトランタに滞在していた時、ここまで来たのだからぜひともアメリカのカントリー音楽のメッカ、テネシー州の州都ナッシュビルを見たいと思って週末に訪れた事が有りました。そしてカントリーの殿堂「オウプリハウス」に行きたかったのですが、残念ながら僕が行った時、改修中で見られなかったんです。その時、工事をしている前で途方に暮れている僕に声を掛けてくれて、ブルーグラスを聞くならと、ライブハウスまで案内してくれた人と友人になりました。名前はゴードン・ライトフット、ご存知の方もいるでしょうが、本物の歌手です。普段はカナダのケベックに住んでいるのですが、たまたま、レコーディングでナッシュビルに来ていたそうです。

 今回は、かれが新しいディスクを出すので、そのライナノウツ用の写真を撮りにイエローストーン公園に行くので、一緒にどうだと誘われて図々しくも来たわけです。ゴードンもカメラマンのアルバート・フィラーもそして彼らのスタッフもとてもアウトドアが好きで、仕事に来たのか遊びに来たのかわからないはしゃぎようでした。僕は、彼らが働くのを横目に、ギターを弾いたりして居ただけでした。何かしようかと聞いたら、邪魔だから歌でも歌えと言われたのでゴードン・ライトフットの30年前のヒット曲!「人生の夏の日」を歌ってあげました。

 手慣れたメンバーのおかげで、まだ日が高いうちにテントが完成し、炊事係からコーヒーのサービスが有りました。コーヒーを飲みながら雑談をしたのですがみんなの注目は、僕の横に置いてある蚊取り線香です。それは何だ?と聞かれたので、魔除けのために香を焚いている、などといいかげんな事を答えていましたが、みんなは真剣な顔で聞いていました。

 どんな魔物だ、と聞かれたので、人間の生き血を吸って増えていく(嘘は言っていない)恐ろしいもので、夜中にじっと耳をすますと空中を飛ぶ音が聞こえる、この香(蚊取り線香)は、それが近くに来ないように焚いているのだ、などと説明しましたが、可笑しくて可笑しくて我慢が出来ずに笑い出した自分の声で、……目が覚めました。

  2000年10月14日 アンクル・ハーリー亭主人

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2000.10.14掲載