前略、報道等によれば、今年は鉄腕アトムが生まれた(生まれる?)年だそうです。手塚治虫氏の設定では西暦2003年4月17日生まれとの事。ドラえもんよりはずいぶん早く生まれたものですね。そう言えば、僕が子供の頃は、21世紀まで自分が生きていると想像もしていませんでした。(計算上は確実に生きているはずだったのですがね)

 今から100年前、ライト兄弟が製作した飛行機が空を飛んだわけで、手塚氏としては、航空機がこれだけ早く技術革新が進んでいるのを考えれば、ロボットも実現する可能性が高いと考えたのでしょうか。航空機については、2回の世界大戦がその技術進歩を促したところが多いと言われていますね。今のところ、ロボットより人間の兵士の方が優秀で価格も安いので、戦争はロボットの進歩に貢献できないようです。

 とはいえ現実に、工業用ロボットは目覚しい進歩を現在も続けているし、ここ数年で人型ロボット(今はアンドロイドと呼ばないのかな)も、多少ぎこちない動きながら実現しました。人型ロボットとしての最大の問題点は、エネルギー供給で、固定されて電源をケーブルで供給される工業用ロボットからのブレイクスルーはかなりの困難が予想されます。

 アトムは核エネルギー運転をしているわけですが、この辺も現在の核施設についての安全管理のお粗末さは、手塚氏の想定の外だったろうと思います。エネルギー問題はバッテリーが進歩していますし、水素電池などの新しいテクノロジーが実現寸前なので、案外早くこのあたりの問題も解決されそうです。

 そうなると、あとは考える機能、たとえば判断力、分析力、知性、教養、といった人間が持つ高度な自己制御力を求められるでしょう。

 一般に、そのような人間的な能力は、脳がつかさどると考えられていますが、現代の科学はその全てを解明したわけではありません。ドーパミン、ノルアドレナリン、β―エンドルフィン、などの物質が関係しているという研究結果が公表されていますが、あくまで関係が認められる、というだけのことで、人口知性といったものの開発に必要なファクターであるかさえ解っていません。

 五木寛之は、その著書「大河の一滴」で、人間が人間としてあるのに重要な器官は、脳ばかりではなく、体の末端部、指、足、などの皮膚感覚も大切だと記しています。ロボットでいうと、それらの働きをするのはいわゆるセンサーと呼ばれる部品になるのですが、反応速度、動作速度などが人間並またはそれ以上のセンサーでさえ、計り知れない能力を、人間の手足は持っているのではないかと言っています。

 理科系人間の僕ですが、転んで足をすりむいた時に、母の手で優しく撫でてもらえれば痛みは和らぐような気がしました。ロボットの手がどんなに柔らかくても、母の手にはかなわないように、ロボット工学のような最先端科学の世界で、人間の気、というものを考えると、それを否定しきれないものを感じてしまうのです。

 と、ここまで書いたとき、アメリカで空とぶ自動車が開発され、オークションにかけられるというニュースが入ってきました。兵器に転用可能という事で、アメリカ国外には持ち出し禁止だそうです。とはいえ、空想上のものがどんどん実現して行く事に驚きを禁じえない今日この頃です。

         2003年4月5日 アンクル・ハーリー亭主人

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2003.4.5掲載