前略、さわやかな冬晴れの昼下がり、サンルームの床に横になり、午後2時の日差しを浴びながら、日頃ゆっくり読めない長編小説を読みたいものです。出来れば、BGMはアントニオ・カルロス・ジョビンのけだるいリズムが良いですね。50ページほど読んでから、いったん本を閉じて、小説の登場人物のイメージを思い浮かべてみます。目を閉じると主人公の視点の世界が広がるような気がします。

 この頃、1980年代の日本のハードボイルド小説に凝ってしまいました。今まで、小説といえば本格推理を好んでいましたが、この頃のいわゆる「新本格推理小説」にはついて行けないような気がします。また、良質の本格推理小説そのものも少なくなっているようです。

 という訳で、図書館でふと手に取った本が大沢在昌のデビュー作「佐久間公」シリーズの短編集でした。80年代に生きる、二十代の失踪人捜査専門の私立探偵「佐久間公」は僕の年代に重なるものがあり、時代背景の描写、登場人物のキャラクターなど全てにおいて僕をとらえた作品です。

 もちろん、メインとなるストーリー展開も、テンポが良く、若かった自分をつい重ね合わせてしまうのです。ひょっとしたら作者は僕の私生活を監視していたのかも知れません。特に、女性にもてる所などは全く僕とそっくりです。本に、モデルは架空の人物です、と注意書きなどを入れてもらいたいくらいです。

 話を「佐久間公」シリーズに戻しますが、このシリーズは短編集2冊、長編2冊、外伝的長編が1冊、発表されています。しかし、これらの作品の中で長編「標的航路」だけが現在入手困難です。これらは全ていったん文庫化された後、いったん絶版になりましたが、「標的航路」を除く作品は、別の出版社から刊行され、現在は入手可能です。ところが、「標的航路」だけはいまだに再刊行されず、絶版になったままなのです。大きな謎です。

当方としては、仕方なくインターネット古書店の在庫や、インターネットオークションサイトなどを検索しましたが、わずか1冊、なんと三千円の値段がついて、個人が販売元になっていました。(怪しい)という訳で現在、図書館に有った一冊を予約している状況です。世の中には同好の士が多くいて、自分のところに順番がまわってくるのに2年ほどかかりそうなのが悲しいところですが。

 その後「雪蛍」という作品で、中年になった佐久間公が登場しています。前シリーズの結末がさりげなく書かれており、佐久間公の結婚後の人生なども語られます。人生の深みを考えさせられる作品です。その後「心では重すぎる」という作品も出ましたが、ちょっとずっこけてます。「新宿鮫」に似てきたようで……。

なんだか、話が長くなってしまって残り少なくなってきましたが、1980年代のハードボイルド小説には、他にも「百舌」シリーズ(2作品だけだけど)の逢坂剛や国際謀略小説の多島斗志之、など多くの作家がいます。彼らの若い頃の作品群は、今読んでも色あせていないのが素晴らしいと思うのです。

僕などは、若いときから色あせていましたけれども……。関係無いですね。

たまたま、1980年代にはいわゆる本格推理小説の分野でも、素晴らしい作品が多く出版されていたときであり、ハードボイルド系まで手が回らなかったということもあるのですが、今になってそれを読むのは、僕の中で何かが変化してきたことも理由の一つです。いわゆる「男は強くなければ生きられない、優しくなければ生きている資格が無い」と。若い頃は、この言葉が大嫌いだったのですけどね。

         2002年11月23日 アンクル・ハーリー亭主人

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2002.11.23掲載