前略、君との最期の夜、僕は僕1人で自分の夢を追いかけて行くことにした、と宣言しましたね。君は遠くを見つめて、ただ黙っていました。あの時の君は、本当はどう思っていたのでしょうか。馬鹿な男と笑っていたのですか、僕のためにとあきらめたのですか。

 あの頃の僕は若すぎたのでしょう。僕たちの夢を一緒につかもうと、どうして言えなかったのか。あれから時が流れて、僕はやっと気がつきました。君を幸せに出来る自信が無いから別れるなんて、優しさなんかじゃない。君のために別れるなんて言ったのは、僕の一人よがりでした。君と一緒に夢を追うべきでした。

でも、もう二人の行く道は戻すことが出来ません。重い後悔が僕の胸を押しつぶします。こんなことを考えることさえ、君への裏切りだとは承知しています。君がまた1人暮しを始めた、という事も風の便りで聞きました。何度か君に連絡をとろうと思いながら、今日まで出来ませんでした。どんな言い訳も言葉にすれば虚しいだけです。

 たった一度のボタンの掛け違いが、今までお互いを不幸にしてきました。君に何が起きたのかを知りたい、そう思って友人たちをたずねて回りました。知らない方が良い、と言ってくれた友人も少なからずいました。そして、何人かの友人を失った末に知りました。君の幸福を壊したのが僕だったということを。

 君は僕が妻と別れたことを聞き、ほんのちょっとした気持ちで僕に連絡をしようとしたとの事ですね。昔のことを責めるような人じゃないから、きっと僕がどんな生活をしているのか、案じてくれた末の事だと思います。そのことをご主人に、いやWに知られてしまった。W君とは、もう何年も会っていません。学生時代は仲間だったはずなのに。

 学生時代の友人達とは、今度のことでほとんどの人間と絶縁状態になっています。ほんのわずか、僕を許容してくれている友人だけが残った、そのように思います。僕という人間の値打ちの無さが今回、図らずも露呈したという事でしょう。

 考えてみれば、僕は自分勝手で人を思いやる事も知らない、それでいてプライドばかりが高いどうしようもない傲慢な人間でした。何人もの人が僕のために傷ついているだろうか。きっとその人達は、怒りさえ忘れ、あきれ返るほどでしょう。

 W君の誤解が解ければ、まだ君たちはやり直すことが出来るのでしょうか。いまさら僕が何を言っても仕方が無いことかもしれませんが、君の幸福を壊した、しかも2回も、その事実が僕を絶望させます。存在自体が罪、原罪、そんな言葉が頭の中を駆け巡ります。

 許して欲しい、とも、忘れて欲しい、とも言いません。言えません。

 もう一度会って欲しい、そう頼む事さえ許されないでしょうか。僕の気持ちを会って伝えたい、気持ちの整理がついていたらお願いします。

 また連絡させてもらいます。元気でいて下さい。

 というような事ばかり考えていると、僕がストーカーのようですね。そういうエネルギーはもっと建設的な方向に使いたいものです。

         2002年9月7日 アンクル・ハーリー亭主人

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2002.9.7掲載