★京玉線のこと。

オータム (SVD85360@pcvan.or.jp)
About Keitama Line
Autumn (SVD85360@pcvan.or.jp)

Summary
Keitama Line is the imagenary line in the film. But its model is Keio Line which is really used by the citizens in Tokyo. Autumn elucidates its characteristics, and then points out how far Keitama Line is from Keio Line. He regrets that at times Mr.Miyazaki's people describe railroads quite carelessly, and hopes that'll be improved.

●京玉線と京王線。

 映画「耳をすませば」に登場する主要交通機関といえば自転車でしょう。特に、ラストで一生懸命坂を上るシーンは、感動的でした。では、2番目に主要な交通機関は、というと。登場数からいえば、自動車だと思いますが、主人公が乗るシーンは多くなく、単なる動く背景に過ぎないと思います。それよりも、むしろ、電車の方が出番も多く、主人公も乗り込み、しかもムーンとの出会いのシーンも電車の中ということで、電車に注目をしたいと思います。

 まず、登場する電車は、京玉線(けいぎょくせん? けいたません?)と呼ばれているようです。もちろん、京王帝都京王線に、非常に良く似ています。
 東京西部の私鉄に詳しくない人のために、簡単に説明しますと、京王帝都京王線は、新宿を始発として、調布、府中などを経由して、八王子に至る私鉄通勤電車路線です。京王とは、東「京」と八「王」子の略です。主要な支線としては、東京都民の手軽なハイキング用の山、高尾山の登山口、多摩動物公園、調布の競馬場、多摩ニュータウンを経て横浜線の橋本へ行く路線があります。最後の路線は、「平成狸合戦ぽんぽこ」に登場した電車路線と考えて良いでしょう。
 京王線の特徴を一言で言えば、「地味」と言えると思います。小田急のロマンスカーのような特別な列車はなく、事実上、全部通勤用の車両です。これは、けなしているわけではなく、通勤ラッシュの時間帯に、ガラガラのロマンスカーを忌々しげに見送った経験のある人なら、むしろ好ましい特徴だと感じられるはずです。

 現在使用されている主要は車両は以下の4系統です。

【5000系】

 運転用の電圧が、600Vから1500Vにアップする時に入線が始まった車両で、アイボリーに赤線という現在の京王線のイメージを固めた重要な存在です。これ以前のグリーン一色で塗装されていた車両は、現在では、使用されていませんので、今京王線を走っている最古の車両ということになります。デザイン上の特徴は、前面の左右の窓のガラスが曲面をなしており、側面にまで回り込んでいることです。1両の長さは標準的な約20メートルよりも短く、約18メートル。ドアは片開きで、1両当たり片側3個です。

【6000系】

 都営地下鉄新宿線(10号線)への乗り入れ用として入線が始まった車両ですが、その後、本線用としても増備されています。デザイン上の特徴は、前面の左右の窓の大きさが違うことです。これは、運転台の機器の都合によるデザインです。1両あたりの長さは20メートル。ドアは両開きで、1両当たり片側4個ですが、5個の車両もあります。

【7000系】

 主に各駅停車に使用することを目的とした車両です。デザイン的には、6000系を踏襲していますが、いくつかの相違があります。まず、車体がステンレス製で、銀色の地の色に赤線という配色です。前面の窓は、6000系と違って、左右の窓が同じサイズです。前面が銀と車両と、白の車両があります。

【8000系】

 特急などに使用する最新型の車両です。曲面を取り入れた新しいデザインを取り入れています。銀色の地の色に赤線という配色ですは、7000系と似ています。1両あたりの長さは20メートル。ドアは両開きで、1両当たり片側4個という基本フォーマットは変化ありません。目立った特徴としては、車椅子スペースがあります。

 これらを簡単に見分けるには、車体の内外にある4桁の番号を探し出して、その下3桁をゼロと見なして読めば良いです。

●映画の中で。

 さて、問題の京玉線です。
 映画「耳をすませば」の中では、私が見た限り、2種類の電車が登場しています。
 一つは、6000系と見えるもの。もう一つは、5000系らしき謎の電車です。この謎の電車を5000系モドキと呼ぶことにします。

 では、5000系モドキは、どこが謎なのでしょうか。
 車内の雰囲気、前面のデザインなどは、5000系のように見えます。しかし、次の二つの点で、5000系とは異なっています。
 まず、第1に、ドアが両開きであること。5000系は、片開きドアであって、両開きドアの車両はまったく存在しません。
 第2に、前面と側面の接する箇所が角張っていること。5000系は、電車にも優雅なデザインが惜しみなくつぎ込まれた古き良き時代に生まれたのです。前面から側面にかけて、曲面で構成されているのです。これは、かなり雰囲気が違います。
 もう一つ、戸袋窓のない電車が描かれているカットがあります。戸袋とは、ドアが開いたときに、ドアが収納されるスペースです。戸袋に相当する箇所は、普通の窓とは別に小さめの窓が付くことが多いです。この窓が描かれていないカットがあります。現在の京王線では、5扉の6000系のみ戸袋窓が存在しない以外、他の車両にはすべて戸袋窓があります。

 さて、リアルに描き込まれているはずのジブリ作品の中で、しかも、現代の社会の描写に力を入れているはずの映画の中で、どうして、妙な電車が出現してしまうのでしょうか。

●アニメの鉄道描写。

 現実に、この映画だけでなく、過去のジブリ作品や、宮崎作品の中で、飛行機や自動車の描写の凄さに比べ、電車(鉄道)の描写は甘いと思います。

 例えば、「さらば愛しきルパンよ」の中で、ニセ銭形が中央線に乗っているシーンがあります。このシーンを見て、リアルだと思ったら間違いです。なぜなら、通常の乗客の目に入る場所はきちんと描かれていますが、屋根上がでたらめだからです。本来、車両中央にあるべき集中型クーラーが、先頭車両の先頭部分に描かれています。

 別の例をあげましょう。アニメでよくあるパターンが、全車両にパンタグラフが載っているという描写です。通常の直流用の電車の場合、電動車2両の1ユニットに対して、付随車が1〜2両の割合で編成が組まれます。電動車の1ユニットの中で、パンタグラフを持つものは、通常は1両ですから、3〜4両ごとにパンタグラフ一個の割合というのが自然です。

 それらに比べれば、映画「耳をすませば」はかなりマシな部類に入ります。しかし、既に述べたように、それでもおかしいと感じられる描写があります。このあたりは、おそらく、適当に収集された資料を見ながら作画をしたのが原因ではないかと思います。たとえば、側面は6000系の写真を、前面は5000系を。あるいは、部分を描くために戸袋窓のない5扉の6000系の写真を見てしまい、食い違いが出るなどのことが起こっているのではないかと推測します。

 アニメで鉄道をちゃんと描いて欲しい。というのはまだ叶えられない1ファンの夢なのです。


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