前立腺癌の治療方法

 がんは局所の病気であるかぎりしっかりと治療していれば極端におそれるものではありません。しかし、初期治療が効かなくなったり、再発して転移をおこしてくると将来致命的になります。また、診断がついた時すでに転移をおこしている患者さんもいらっしゃいます。

 治療の前に、がんが局所だけにとどまっているのか、転移をおこしているのかを十分検査しなければいけません。前立腺がんでは特にリンパ節や骨へ転移しやすい傾向にあります。転移しているかどうかはCT(断層写真)やMRI、ラジオアイソトープシンチグラフィー等で検査します。これらの画像診断はある程度がんが育って大きくならないと検出できませんので、たとえ検査の結果明らかながんの転移が認められなくても目に見えないがんの微少転移の存在も十分に考慮しなければいけません。がんの微少転移が疑われる場合(全身の病気と考えられる)には局所の治療だけでなく、全身の治療が必要になりますし、場合によっては局所の治療より全身治療が優先されることもあります。逆に完全に局所の病気だけであれば局所の治療が優先されます。

 前立腺がんにおいては局所の治療とは手術や放射線であり、全身治療とは内分泌治療や抗癌剤治療があてはまります。

 医学は進歩してきており、がんの微少転移について検出する方法が現在研究されていますが、完全な方法は未だ確立されていません。ですから、前立腺がんにおいてはCTやMRIなどの画像検査の結果だけではなく、血中PSA(前立腺特異抗原)の値や生検の結果病理学的にがんの悪性度(分化度やGleason スコア)がどうであるか、などを総合的に判断し病期(進行状態)を診断する必要があります。アメリカで開発されたPartinノモグラムを使用すると、術前のPSA値,臨床病期(CTやMRI等画像で診断された病気の進行度)、がんの悪性度(Gleasonスコア)から病理学的病期(手術の結果わかる実際の病気の進行度)が予測できます。

 前立腺がんの治療について大事な点は前立腺がんは他のがんに比し比較的緩徐に進行する(がんの悪性度にもよります)ことと、内分泌治療が他のがんに比較して効果が高いという事実です。75才以上の方は手術の適応外としている施設が多いのですが、それは内分泌治療だけでもある程度はがんを抑えることができるからです。具体的には75才以上の方でも日本人男性の平均寿命である80才近くまでがんを抑制することができる可能性があるためです。単に治療の効果、生死の問題だけでなく、治療の結果今後の生活がどのように変化するのか、それは治療法の選択によりずいぶん幅がありますのでそれを十分理解して、主治医とよく相談して治療法を決めることが重要と思われます。

 具体的な治療法について解説します。

1.手術療法

1)開腹手術(根治的前立腺全摘除術)

 転移や浸潤のない早期がんの患者さんで75才以下の方が主に対象となります。手術は全身麻酔下に行いますので手術中、意識はありません。前立腺への到達方法には下腹部を切開する経腹的アプローチと会陰部(股間)を切開する経会陰的アプローチとがあります。骨盤内リンパ節郭清(リンパ節を一塊として摘除すること)後に前立腺、精のう腺を一塊として摘除します。経絵陰的アプローチではリンパ節郭清を行う時は別に皮膚切開が必要となります。手術時にリンパ節転移が確認された場合は前立腺全摘を行わず他の治療法を選択することもあります。前立腺のすぐ横を神経血管束が走っています。これを残すと勃起能が温存できますが、癌の取りのこしが懸念されるため神経血管束の温存するためには癌が確かに前立腺内にとどまっていることが条件となります。前立腺の遠位側に尿道括約筋(排尿をコントロールし、失禁をおこさないために必要な筋肉)があります。主に出血する部位はサントリーニ静脈叢と呼ばれる尿道腹側部分の静脈で、ここの処理が出血量のコントロールのために重要となります。普通3時間前後の手術時間ですが、前立腺の大きさや骨盤の広さ等で多少前後します。

 手術の合併症では、まず手術中の出血があります。多くの場合、手術2-3週前にエリスロポイエチンや鉄剤などの造血薬を併用しながら800-1200mlの自己血貯血(週に1回、献血と似た方法で400mlの血液を採取します)を行い、手術中の出血時に使えるようにしています。出血量が多い場合には術前に貯血した自己血液だけでは足りずに日赤で用意した血液を使用することがありますが、癌の進行や炎症による癒着がなければ輸血の心配はあまりありません。次に細菌による感染です。肺炎や手術を行った局所の感染の可能性がありえるため、術後に抗生物質を使用します。術後の勃起障害ですが、神経血管束を温存しなければ術後勃起は不可能になります。片側温存または両側温存した場合に術後の勃起能維持できることがありますが100%ではありません。温存したにもかかわらず勃起能が改善しなかった場合、バイアグラやレビトラを使用することで勃起能が改善することもあります。

 術後の合併症として特記すべきことは、手術後、尿失禁が起こることがあることです。5-10%位の人が術後に尿とりパッドなどを使用しています。この中には、ほとんどもれないが念のためにあてているという人たちも含まれます。まれですが尿道狭窄も合併症の一つです。ほかにも全身麻酔や手術に伴う合併症がありえますので主治医とよく相談する必要があります。

 術後はリンパ節への転移、前立腺がんの悪性度(分化度)、浸潤度について病理学的に顕微鏡で調べて結果をお話しします。術前に早期がんであると思われても、実際に顕微鏡レベルでしらべると早期がんではなかったということがあります。この場合は術後に放射線や内分泌治療といった追加補助治療(アジュバント療法)が必要となることがあります。前述したPartinノモグラムから、手術後の病理学的病期(手術して実際にわかった病気の広がり)を予測することも可能です。

 術前に数ヶ月間内分泌治療を行って前立腺と前立腺癌を小さくしてから手術を行うこともあり、ネオアジュバントホルモン治療といいますが、予後に対する効果は確立されてはいません。

 前立腺全摘術のための入院は、2〜4週間程度必要です。

2)ミニマム創手術(内視鏡下小切開手術)

 当院では8 cm前後の小さな傷で手術を行うことで、術後の体への負担を少なくしています。また内視鏡を使うことで、拡大した明るい視野のもとで手術を行うことができる利点があります。現在、厚生労働省より先進医療として認定されている低侵襲手術方法です。

2)腹腔鏡手術

 まだ一般的ではありませんが体腔鏡により、開腹手術と同様に前立腺、精のう腺を全て摘除する方法があります。解放手術に比較して手術時間は長くなりますが、出血は少なくなり、入院期間も短縮できる傾向にあります。一部の施設で行われていますが今後普及し、一般的手術法として確立されるかもしれません。

2.放射線療法

1. 放射線外照射

1)外照射

 早期がんで手術を希望されないか、全身状態から手術ができない患者さん、局所進行がんの患者さんが主に対象となります。放射線外照射治療の前や後、または同時に内分泌治療を併用することがあります。根治的前立腺全摘除術後に追加治療として放射線外照射治療が行われることもあります。放射線外照射治療は高エネルギーX線を体の外から前立腺に照射することでがんを治療する方法です。実際には1日1回、週に5日、30-35回程度行われます。放射線照射の単位は60Gy(グレイ)以上の照射が必要です。入院して行う施設と通院で行う施設とがありますが、治療には7-8週間程度必要となります。副作用ですが放射線を照射している時におきる急性の症状と照射後数年してからおきる遅発性の症状とがあります。急性の症状として放射線の照射回数の少ないときは宿酔(すこし気分が悪くなる)、照射回数が多くなってくると頻尿、血尿、下痢、血便、臀部(おしり)の皮膚の表皮はく離、などが出現することもあります。症状は一過性で照射が終了すると治ります。照射後数年してから出現する遅発性の症状としては頻尿、血尿、尿道狭窄、血便、などがあり、これらは一度出現すると難治性のことがあります。TUR-P(経尿道的前立腺切除術)後すぐに照射を開始すると尿道狭窄をおこしやすいために4-6週間後に放射線照射を開始するようにしています。最近は照射方法が進歩し、これらの副作用は軽減してきています。対症療法として転移した部分の痛みに対して、除痛目的に放射線を照射する場合もあります。

2)強度変調放射線治療(IMRT)

 強度変調放射線治療(IMRT:intensity modulated radiotherapy)はコンピューターにより高エネルギーX線の強さを細かく制御することで腫瘍部分のみに放射線を集中させ,周囲正常組織への照射を軽減させる画期的な方法です。IMRTにより通常の放射線治療より多くの放射線を前立腺のみに照射することができ、周囲組織である直腸や膀胱への照射量を減らすことができるので効果が高まり、副作用が軽減できます。治療回数は通常の放射線治療より数日多くなります。精密な線量計算、治療精度の確保が必須となるために、一部の施設でのみ行うことができる治療法です。

3)粒子線治療

 粒子線治療とは、陽子や重粒子(重イオン。電子よりも重い粒子を高速に加速したもの)などの粒子放射線を前立腺に照射することによって治療する放射線治療法の総称です。陽子や重粒子線はサイクロトロンやシンクロトロンなどの加速器から得られ、前立腺に照射されます。粒子線のうち電荷を持つもの(荷電重粒子線)の特徴は、一定の深さ以上には進まないということと、ある深さにおいて最も強く作用するということです。そのため、陽子線や重粒子線で前立腺周囲の組織への副作用を軽減し、前立腺のみに十分な線量を照射することができます。 装置が巨大で設備に多額の資金が必要なために、まだ全国で数施設でしか粒子線治療は行われていません。また、治療を受けるには限られた適応と治療費の自費負担が必要となることがありますので注意が必要です。しかし、これからさらに治療施設が増えていくことが期待されています。

(陽子線治療は、国立がんセンター東病院、筑波大学陽子線医学利用研究センター、兵庫県立粒子線医療センター、若狭湾エネルギー研究センター、静岡県立静岡がんセンターで行われています。独立行政法人放射線医学総合研究所では炭素線を使った重粒子線治療が行われています。)

2. 放射線内照射(ブラキセラピー)

1)はじめに

 ブラキセラピーとは、4.5×0.8mmのカプセルに入ったヨード125シード線源を40〜80個、前立腺内に永久留置することにより前立腺の内側から放射線をがんに作用させる、早期前立腺がん患者さんのみを対象とする治療法です。ブラキセラピーはアメリカにおいてはすでにその有効性と安全性が実証され一般的な治療法として確立されていますが、2003年から日本にでも治療可能となりました。シード線源から放出される放射線エネルギーは離れたところにはほとんど影響しないため、従来の放射線外照射と比べて前立腺周囲の正常組織への放射線の副作用を軽減しながら、より多くのエネルギーを前立腺がんに照射することができます。ブラキセラピー単独治療に最も適しているのは限局性の早期前立腺がん(病期T1またはT2a)でグリソン.スコアが7未満、PSA10ng/ml未満の患者さんです。これらにあてはまらない場合必ずしも適応外というわけではありませんが、放射線外照射やホルモン治療を併用する場合があります。ブラキとは「短い」という意味で、目標とする前立腺と線源との距離が短いことに由来します。

2) プレプラン(治療計画)

 治療3〜4週間前に経直腸エコーを行い前立腺の形を立体的にコンピューターにとりこみます。この画像を元にヨード125シード線源をどこに留置するかを決定します。

3)治療の実際

 治療は麻酔下に行い、会陰部よりシード線源を刺入留置します。前立腺の大きさによって刺入する線源の数は異なりますが40〜100個のシード線源を留置します。治療時間は麻酔の時間も含めて約1〜2時間かかります。治療終了時に尿道カテーテルを入れ翌日抜去します。入院日数は病院によって異なりますが、数日で退院となります。

4) 退院後の注意点、そして放射線の安全性について

 ヨード125シード線源は永久に留置されますが60日後には放出される放射線量は半分まで減少し、1年後にはほぼゼロとなります。シード線源留置後の患者さんの尿や便、汗、唾液等の分泌物には放射能は一切ありません。また放出される放射線量は人が自然に受けている放射線量より少ないため周囲の人へ影響を与えることはほとんどありません。成人の方との生活については特に注意を払う必要はありません。念のために2ヶ月間は妊婦の方や小さなお子様の隣に長くいることは避けてください。性行為はシード留置4週間後からとし、1年間はコンドームを装着するなどの注意が必要です。精液は黒〜褐色調となることがありますが古い出血のためですので心配はありません。ブラキセラピー後1年間は治療カードを携帯します。万一シード線源留置後1年以内に死亡された場合には前立腺を摘出する必要があります。

5) 効果

 前立腺がんに対するすべての治療法と同様に、ブラキセラピーの効果もまた治療前の血液中PSA値や病期、病理の悪性度(分化度)により異なります。分化度や治療前の血中PSAが良好な場合、局所再発と生化学的再発(PSAの上昇)は各々7%程度ですが良好でない時は約20%と報告されています。従って治療効果は定期的に外来でPSA採血を行い、また、必要に応じてレントゲン検査をすることによって評価していきます。

6) 合併症、副作用

 治療前に勃起能がある患者さんの81〜90%で治療後も勃起能が保持されます。一時的な尿意切迫感や頻尿、尿勢の低下や尿閉(尿が出なくなる)は少なくありませんが多くは1〜4ヶ月後には消失し、これらの尿路症状が持続することは14%未満といわれています。また、シード線源留置後数日間は尿や精液に血や血塊がまじりますが、多くの場合心配はありません。水分を多めにとって、我慢せず早めにトイレに行くようにして様子を見てください。尿中に大きな血塊が排出したり血液が濃くなってくるようであれば担当医師への連絡が必要です。治療前に内視鏡的に前立腺を切除している(TUR−P)場合は尿路症状が極めて強くでるためブラキセラピーの適応外となります。シード線源が血流にのり肺まで到達することで治療後の胸部レントゲン写真でシードが写っていることがありますが、特に問題となる症状は発生しません。

  #ごく早期の合併症

  1.        陰嚢からの軽度の出血

  2.      血尿

  3.      陰部の痛み

 これらの症状はシード線源留置のため20〜30本の針を刺入することや尿道にカテーテルを挿入することが原因で発生します。

  #留置後1〜2週間後の合併症

  1.        頻尿

  2.      排尿痛

  3.      尿意切迫感

  4.      尿勢の低下

 これらの症状は放射線による急性障害のために一時的に前立腺が浮腫をおこしたり尿道が刺激を受けるために発生します。多くの場合にはこれらの症状は改善、消失します。アルコールやカフェインの含まれていない水分を多く摂取し、泌尿器科より処方される薬剤を内服することで症状は軽減できます。

  #晩期合併症

  1.        尿道狭窄

  2.      直腸からの出血、潰瘍、直腸膿瘍

 これらの合併症は頻度は極めて低いものの、放射線による永久的な組織障害のために一度発生すると難治性となります。尿道狭窄に対しては定期的に尿道を広げる処置を、重篤な直腸潰瘍に対しては高圧酸素療法や人工肛門が必要となることもあります。

7)まとめ

 ブラキセラピーはヨード125シード線源を永久留置する比較的侵襲の少ない早期前立腺がん(限局性前立腺がん)に対する治療法です。局所前立腺がんの治療法には前立腺全摘除術、放射線外照射、ホルモン治療、無治療経過観察等がありますが2003年よりブラキセラピーが選択肢の一つに加わりました。

横浜市立大学附属病院での適応(病期: UICC1997)

絶対的適応外

□ 80才以上

□ 容認できない手術リスク

□ 遠隔転移

□ 精嚢腺浸潤

□ 骨盤照射の既往

□ 複数の骨盤手術歴

□ コントロール不良の重症糖尿病

□ IPSS20点以上

□ TUR-Pの既往

□ 前立腺体積が40cc以上(ホルモン治療後)

□ 中葉肥大

基本的に適応外

□ PSA10以上

□ T3a以上

単独治療の適応

□ Gleason7以下

□ 分化度中分化以下

□ 病期T2a以下

□ PSA10以下

3.内分泌(ホルモン)療法

 前立腺癌は男性ホルモン(アンドロゲン)により増殖します。ですから治療の基本は男性ホルモンを低下させるか、男性ホルモンが前立腺へ作用しないようにするかということになります。男性ホルモンは主に睾丸(精巣)と副腎で作られます。

1)LHRHアナログ

 LHRHとは黄体化ホルモン−放出ホルモン: luteinizing hormone releasing hormoneの略です。LHRHアナログは視床下部から分泌され下垂体に働くこのLHRHホルモンを人工的合成した薬剤です。この注射により一時的に下垂体からの黄体形成ホルモン(LH:luteinizing hormone)というホルモンが増加し、さらに精巣のライディヒ細胞由来の男性ホルモンも一時的に増加しますが、その後は去勢した場合と同程度に男性ホルモンが低下します。この注射により精巣からの男性ホルモンの産生が低下します。前立腺癌だけでなく、女性の乳癌や子宮内膜症といった病気にも使われます。月に1回外来で皮下注射し、その効果は1ヶ月持続します。2002年には3ヶ月持続し、3ヶ月に1回皮下注射すればよい薬剤も発売開始となりました。リュープリン、ゾラデックスという商品名です。前立腺癌への効果は除睾術と同程度と言われています。

 副作用としては男性ホルモンが低下することにより、リビドー(性欲)の低下、勃起障害、女性化乳房、ほてり、朝の手のこわばり、などがありえます。長期間使用することで骨粗鬆症なども問題になってくることがあります。

2)抗男性ホルモン

 男性ホルモンであるアンドロゲンと受容体の結合をブロックすることで男性ホルモンの前立腺への作用を阻止する薬剤です。単独で使われることもあります。LHRHアナログと併用して使われることもあり、この場合精巣、副腎、両方からの前立腺へのアンドロゲン作用を完全にブロックするという意味でMaximal androgen blockade therapy (MAB療法)と呼ばれます。TAB療法は理論的にはLHRHアナログ単独または除睾術単独治療に比較してより強い制癌効果が期待されましたが、制癌効果がより高いとする報告と変わらないとする報告とがあり、現在も議論がなされています。

a非ステロイド性:商品名カソデックス、オダインと

bステロイド性:商品名プロスタールとに区別されます。

 副作用の可能性としては女性化乳房、ほてり、リビドー(性欲)の低下、勃起障害、肝臓の機能障害、などがあげられます。

4)女性ホルモン

 女性ホルモンの一種で、心不全や虚血性心疾患、肺梗塞、心筋梗塞等の血栓症の人等に使用する時は症状が悪化することがあり注意が必要です。他に副作用として浮腫、女性化乳房、肝臓機能障害等がありえます。

5)間欠的治療について

 マウスを使った実験では抗男性ホルモンの投与を継続して続けるよりは間欠的に投与したほうがホルモンが効かなくなる(再燃)までの期間が延長したとの報告があります。現在一部の施設では応用して行われています。間欠的治療の有用性は十分には確立はされていませんのでこれから十分検討が必要な治療法です。

6)アンチアンドロゲン除去症候群について

 抗男性ホルモン剤により治療し一度は治療効果が現れているにもかかわらずその後薬が効かなくなり、病状が進行した時(再燃)この抗男性ホルモン剤を中止することで一時的に病状が軽快することがあります。この現象をアンチアンドロゲン除去症候群といいます。はじめは男性ホルモンと男性ホルモン受容体との結合を阻止していた薬剤ががんの性格が変化したために抗男性ホルモン剤が男性ホルモン受容体を刺激し、がんの進行の原因となってしまう場合があるのです。

7)除睾術

 最近はあまり行われませんが、男性ホルモンの大部分を産生している睾丸(精巣)を摘除する治療もあります。これは、体内の男性ホルモンを急速に下げ、前立腺癌のアポトーシス(死滅)を誘導します。手術は腰椎麻酔下に行い、1時間程度で終わります。入院は1週間程度必要となります。術後は性欲(リビドー)の減退、勃起障害、長期的副作用としてはほてり、骨粗鬆症などがあり得ます。除睾術単独治療の他に、副腎からの男性ホルモンを抑えるために抗男性ホルモン薬(前述)を併用する場合があります。

8)ステロイド

 十分に男性ホルモンを下げる治療を行っているにもかかわらず、病状が進行した場合(再燃)、ステロイドを使うと病状が抑えられることがあります。末期の患者さんに使用すると、食欲が出るなどのメリットが出ることもあります。副作用としては満月様顔ぼう、浮腫、体重増加、胃部不快等があり得ます。

4.化学療法(抗がん剤)

 前立腺癌においてはいわゆる抗癌剤と呼ばれるこれら薬剤の効果は十分はわかっていません。進行が早く、将来ホルモン剤がきかなくなりそうながんや再燃してきた患者さんに対して使われることがあります。PSAを一時的に下げることもありますが、予後に対してどれだけ有効かは不明です。商品名はエストラサイト、エトポシド、ユーエフティー、等があります。最近タキソール、タキソテールといったタキサン系の抗癌剤が登場し、再燃前立腺癌に対して使用される場合がありますが、現在のところ保険適応がありません。また、予後に対する効果は不明で今後の検討が必要です。各々作用機序や副作用が異なりますので医師から十分に説明を受ける必要があります。

ドセタキセル(商品名;タキソテール)について:

 アメリカでは再燃前立腺癌に対してQOLと予後を改善する薬剤として認可されている抗癌剤です。日本では乳癌、胃癌、卵巣癌等では認可されていますが前立腺癌に対しては保険適応として使用が認められていませんでしたが、もう少ししたら認可される予定です。タキソテールは完治を目指す治療ではなく、再燃癌において進行を一時的に押さえる治療であり、副作用も認められますので使用にあたっては注意が必要です。日本での保険適応取得のために治験が行われ近く承認の予定です。

5.その他

ゾレドロン酸(商品名 ゾメタ)

 再燃前立腺癌の骨転移による骨の痛みに対して使われることがあります。腎不全や下顎壊死などの副作用が報告されており、使用には注意が必要です。

ストロンチウム89(商品名 メタストロン注)

 骨転移部分の疼痛に対して、骨の病変部に集積するアイソトープを使用する方法もあります。ストロンチウム89が日本で認可されました。ストロンチウム89を注射することで、注射の1〜2週間後から骨転移による骨の痛みが緩和されます。副作用が認められますので、使用には注意が必要です。再燃前立腺癌に使用されることがあります。

 他に、分子標的治療薬剤や遺伝子治療があります。動物実験または再燃がんを対象に欧米や日本において臨床治験中で、その効果は不明です。再燃がんに対しての効果が期待されます。



病期(ステージ)別治療法

前立腺がんの治療においては病期と悪性度(分化度またはGleasonスコア)、そして患者さんの日常生活程度や年令、性生活等を検討した上で治療法を決定します。この中でも重要な病期別の治療法についてここでは記載します。

  病期A

   経過観察のみで積極的治療は行わない

   手術

   内分泌治療

   放射線治療(IMRT、ブラキセラピーを含む)

   手術、放射線+内分泌治療

  病期B

   手術

   放射線(IMRT、ブラキセラピーを含む)

   手術、放射線+内分泌治療

   内分泌治療

  病期C

   内分泌治療

   放射線、手術+内分泌治療

  病期D

   内分泌治療

   内分泌治療+化学療法

  再燃

   内分泌治療

   ステロイド

   化学療法