クラーク博士を札幌農学校へ招聘した黒田清隆長官は、彼に専門学科の 他に道徳教育も行って欲しいとの心積もりであったが、キリスト教では 困ると考えていたようです。 その辺のいきさつを内村鑑三が、そのときの通弁(通訳)から聞いたこ とと、後に渡米したときにクラーク博士から直接聞いた話しをもとにし て活字に残しています。 クラーク博士は横浜に上陸すると英語の聖書を30冊(内村氏によると 50冊)買い求めてカバンに詰め札幌に持参します。 品川から小樽まで黒田長官と同船するわけですが、カバンの中に聖書が 詰めてあるのを誰も知らないわけです。 以下長官との会話の部分です。 ---------------------------------------------------------------- 長官「先生に特別に頼みたいことは、この学校の生徒の徳育問題であり ます。くれぐれもこれは十分頼みたいが、先生はどういう方針で教育さ れますか」。 クラーク「それは何でもありません。私にはただ一つの道があります。 私に託せられた学生にキリスト教を教えます」。 長官は驚いた「ヤソを教える、それはいかん。ヤソはわが国に長い間禁 ぜられた宗教である。わが国にはわが国の宗教あがる。ヤソは御免こう むりたい」。 クラーク「そうですか。私の道徳はヤソ教であります。それで悪ければ、 私は道徳教育はいたしません。博物も教えます。農学も教えます。何で も忠実に教えます。しかし徳育はいたしません」 しばらくするとまた始まる。「先生、どうですか、考え直してもらえま せんか」「私の道徳はキリスト教であります」それでおしまい。二人と も意志の強い人でありましたから、それなりでついに小樽に船が着きま した。 明日開校式という前夜に長官はクラーク氏を呼んで、またその話しが始 まりました。「先生、あなた変えないか」。「変えません私の道徳はキ リスト教です」。どうしても変えないというので、黒田長官も仕方なく 折れて、「デハよろしい。教えなさい。しかしごく内証で教えてくださ い」。これを聞いて、先生非常に喜ばれました。 ---------------------------------------------------------------- 「内村鑑三信仰著作集17」<クラークの札幌農学校伝道>教文館より抜粋