いままでの言葉: 2010年
書名横にamazon.co.jpとbk1へのリンクがあります。散財に御協力いただければ幸いです。
- 12月の言葉:
「そうあるべきであって,そんな勿体ない飲み方をするものは,早く消えてなくなって,もっと酒を飲む資格があるものに席を譲った方がいいのである。」
by 吉田健一 (1912-1977)
- from 「酒と人生」『舌鼓ところどころ』(中央公論社, 1980.1)
[amazon
| bk1 ]
- 吉田健一もお初。古書店で購入。如何に教養的読書をして来なかったかという証明です(^^;
- 若き日の吉田健一先生、強い菊正宗(というのがあったらしい)を一升飲むことを長いこと念願にしていて,ついに成し遂げたはいいものの,記憶は吹っ飛び生ける屍になって家に帰った,その反省の弁。
それにしても池波正太郎といい,昔の食いしんぼうはそろいも揃ってとんでもない大食漢であること。そうじゃなければ食べたとはいえないのかも。
- で,まぁそろそろ早く消えてなくなって席を譲った方がいい歳なわけですが,席を立つと譲る相手はいくらでもいるのに,席が無くなるという怪奇現象があるわけで。どうしたものか。
- 11月の言葉:
「平安朝から鎌倉あたりの人は迷信が深くて、そして無学で、偽説の製造や訛伝の受売が大好物でありますから,割引して受け取らねばなりませぬ。」
by 幸田露伴(1867-1947)
- from 「神仙道の一先人」東雅夫編『幸田露伴集 : 怪談』(筑摩書房, 2010.8)
[amazon
| bk1 ]
- 初出は90年以上前,「変態心理」1919年2月号。変態って言葉の意味は荒物屋の隠居@「いなか、の、じけん」と同時代なので今とは違います。
- Twitter初めて1年ちょっと。デマが瞬くまに広まったり,ほんとのことが嘘にされたり。何げに言った事が受けたり。おそらく,知識の量は増えているのだけれど,それだけじゃ人間,千年程度では変わらないものなんでしょう。
- 露伴先生は「「支那人は人間として最も常識的であるというのに大抵の人は異存は有るまい。如何にも良く労作し、賢く飲食し、盛んに生殖し、平和を愛し、金銭と名誉と道徳とを尊重し、良く生き良く死せん事を欲する立派な国民である。」とも言っています。国と人は別,これも不変の真理。
- 10月の言葉:
「生まれっぱなしでpureなのはいいが,あのままじゃ戦国を生き抜けねぇ。」
by 奥州筆頭・伊達政宗
- from 『戦国BASARA 弐』 第九話(TV朝日, 2010-09-05)
- 伊達政宗氏,長宗我部元親氏に真田幸村を語る。この後,「おそらく人も死なせる」と続いて,実はもう死人が出ているという。あそこまで天然熱血に育てた“おやがださまーっ”も罪なお人だ。
- 戦国BASARA,ゲームしらないけど面白かった。映画も楽しみ。
- 筆頭もあれでなかなか純粋なんだけど,リアルの我らは汚れちまって,かつ彼等のように唯一無二じゃないわけだ。代わりなんて幾らでもいる。でも,今ここで投げ出したとしたら,受け止めさせられるのはあの人かあの人かあの人で,と顔が浮かんでしまうから,小心者は逃げられないわけ。逃げた方がいい事だってあるんだけどね,政宗くん。
- 9月の言葉:
「オレは殿様じゃない自分は初めてみた。びっくりするほど何もないな」
by 志葉丈瑠
- from 『侍戦隊シンケンジャー』 第45幕「影武者」(TV朝日, 2010-01-10)[amazon
| bk1 ]
- 第1回を見て,これは!と思いながら,昨年のブンデスシーズン開幕とともに溜まりに溜まってしまったシンケンジャーを,開幕ぎりぎりで消化。うん,面白かった。戦隊者じゃないんで,ちゃんと見ている作品がそんなにあるわけじゃないんだけど,これはタイムレンジャーに匹敵する傑作。どちらも小林靖子脚本φ(.. )
- 自分たちが時代錯誤な生き方を強いられている事を受け入れて,絆を深めていくシンケンジャー。丈瑠は“殿”として幼いころから育てられ,それ以外の生き方を知らない。そのため,突然,お役御免になったとき,ただ一つの真実と思い込んだ剣,十臓との戦いにのめり込んでいく……というようなことは半年前に,多くの人が感じてブログやらよーつべやら書評やらに書いている(^^;
- 娯楽作品(B社的にはオモチャのCMだよね)でありながら,人は「育てられ」て人になること,もしかしたら今,教えられている事は大切な事じゃないかもしれないってことが伝わってくる。これを無自覚に見ていた幼稚園児たちたちがどんな大人になってくるか,それすらちょっと楽しみ。<大げさか?
- 8月の言葉:
「グレアム・グリーンはポール・ホガースのこうしたイラストレーションが自分の作品の表紙に使われるのはうれしいが、本がよく売れているのはひとえに自分の名前のおかげだと自負していた。そこでグリーンはアートディレクターのデビッド・ペラムに電話をかけ、標題と著者名だけの表紙にしてはどうかと持ちかけた。」
- from フィル・ベインズ著 ; 山本太郎監修 ; 斎藤慎子訳 『ペンギンブックスのデザイン 1935-2005』(ブルース・インターアクションズ, 2010.3)[amazon
| bk1 ]
- グリーンの提案にアートディレクターはまずいと思ったけど,デザイナーは説得されちゃう。で,結局「それが実際に書店に並ぶ。売り上げはがた落ち」,次の増刷時にイラストが大きくなってもどりましたとさ,という。ま,さすがグリーンで『The end of Affair』は2年後に増刷されているわけですが。一方,J.D.サリンジャーは契約で表紙にイラストや宣伝文句を入れてはいけない,という条項を結んでいて,こっちはこっちで売れ続けていると。
- 先月の森先生は“見識ある個人”を想定していたのだろうけど,みんながみんな(大作家と言えど)そうじゃない,というか,たぶん,そうじゃない人の方が多いという好例みたいな挿話だと思いましたよ。で,電子書籍だ。リアル書店の絶滅,出版社の中抜け,印刷所の危機が危惧されているけれど(商業である以上,取り次ぎは生き残るらしい……そりゃ,著者一人一人から買うなんて面倒すぎるものね),誰が読みやすいように(他の人が読んでわかるものに)ととのえるのか?という問題は最後まで残るような気がする。
PDFなんて紙に印刷する事に縛られすぎ,メールならどんなに長くても読むじゃん!という主張はあるんだけど,メールはいま,読んでもらえるように書く(1行開けろとか短く用件だけとか),過渡期。最初期はそりゃあみんな自分の流儀で書いていてよくいや百花繚乱でしたよ<年寄りのたわごと。
いつか総ての何かを書く必要のある人が,読みやすく組版をするリテラシーを身につける時代がくるのでしょうか?
- 7月の言葉:
「一々出版業者を煩わさなくても、小さな出版物が、手軽に個人的に作られて、一部の人々に配布したりすることの出来る日の来るようにと願われる。」by 森銑三 (1895-1985 )
- from 森銑三・柴田宵曲『書物』(岩波書店, 1997.10)[amazon
| bk1 ]
- 国会図書館に出張に行くので電車の友に読み始めました。そう,柴田宵曲もつい数年ばかり前に"発見"したばかり,これまでこの世界では超有名な先人の書を紐解いたことがなかったのです。恥ずかしい奴。
- まだ読み終わってないんですが,いや,素敵な小言辛兵衛さんですよ,森先生。図書館勤めらしく同名タイトルはお嫌いだし,「『誰でも作れる俳句』というのはよい本だそうであるが、正しくは「作られる俳句」たるべきである」ってら抜き言葉にもダメだし。でね,「日に月に書物が世情に氾濫しているわけであり」とおっしゃっても月々3,000冊なんです(1943年頃)。今の御時世をご覧になられたら……ってバブルの頃までご存命でいらしたんですね。
- さて,世はなべてiPadだ,Kindleだとかまびすしく,出版業者の手を煩わせずとも本は出せる世の中になりましたが,翁が願ったような善美の書物がこれから生まれるのか,さて,これからのお楽しみといたしましょう。
- 6月の言葉:
「そのことで不安を感じたりはしないと決めただけの話で、うけいれたのとは全然違う。」
by フランシーン(1985?- )
- fromグレッグ・イーガン ; 山岸真編・訳『ひとりっ子』(早川書房, 2006.12)[amazon
| bk1 ]
- 正直に言いましょう。グレッグ・イーガンはよくわからないことがよくあります。それでも読むのは何かまったく異質な思考にちらっと触れる,快感というのとは違う,なんともいえない感覚を味わえるからだと思います。
- この言葉は多世界解釈(並行宇宙とか多元世界とかそういうやつ)を数学的に信じている夫婦の妻の方が,別のバージョンの自分が存在することについて夫に問われて答えたもの。彼らは別バージョンの自分に対する倫理観から,アンドロイドの子どもを持つことを決心するわけ。超大雑把な読解ですよ,信じちゃダメだよ。
- でもね,こういう理性と感情の乖離ってヤツが一番,やっかいなわけだ。フリンクスを選ばなかった監督の決断は理解できる、でも納得いかん,みたいなね。結局ここかい(笑)なサッカーにはまって3回目のワールドカップの6月です。
- 5月の言葉:
「知識の蛇の道が図書館をめざし、坂道をうねうねとのぼってくる。」
by ヴァーナー・ヴィンジ(1944- )
- from『レインボーズ・エンド』(東京創元社, 2009.4)[amazon
| bk1 ]
- 本をバラバラにする仕事上,読まない訳にはいかないよね,ということで積んでおいた山から引っ張り出し,SFセミナーへの往復と翌日で一気に読了。面白かった!ヴィンジは『マイクロチップの魔術師』から『遠き神々の炎』をへて『レインボーズ・エンド』まで図書館屋必読のエンターテインメントです。<ここ,大切。
- もちろん紙を束ねた書物という形にノスタルジアはある。けれど,紙に固定されていた情報がネットの海(うぷ)に解き放たれた時に新たな知性が生まれるのではないか,という形で終わらせたヴィンジ教授は,電子書籍電子書籍って騒いでるどこかの人たちとは一線画しているいるよね,と当たり前の感想ですが。
- そういう大きい話の一方で,2030年代という近未来なのでガジェットがでてきそう!って感じで楽しくて。会話しながらググるってやるよね。やっぱ,コンタクト型インターフェース欲しい。首にジャックをさすのは怖いよ。舞台の図書館も,蛇の道も実在するしね。<それは違う。
- 4月の言葉:
「書き手が内容を理解していれば、言い切りの形で簡潔な文章を書くことができるはずです」
by 石黒由紀(1967- )
- from『ドキュメントハックス―書かない技術 : ムダな文書を作り方からカイゼンする』(毎日コミュニケーションズ, 2007.9)[amazon
| bk1 ]
- 青天の霹靂と言いましょうか,異動しました。まあ,年限からすればは動いてしかるべきだけど,状況からみてそれはないだろうと思っていたら。別に予告も予感もあったわけでもなく,こんな本を読んでいた訳ですよ。引き継ぎ文書作成には役に立ちませんでしたが。この本は製品としてのユーザーズマニュアルを作る人向けなので。
- 役に立つ立たないはともかくとして,自分の文章はどう考えても冗長性が高いと思っていたんでぐさっ,と来ました。以来,仕事メールは意識して短く、短く,結論から。一方,このページとかは気にしない<ぉぃ
で,文体診断ロゴーンに先月と、十年前の3月はディック先生のお言葉が半分近くを占めているので4月,それから自分としては作って書いたおはなしをかけてみました。案の定,先月と"おはなし"は「文章が長い」と一刀両断。十年前はそうでもないと。味方も岩波茂雄先生だったり浅田次郎先生だったり,どっちも読んでない……あ,「読書子に寄す」(^^;
まぁ,素人だから一定しないのは仕方ない。常に「文章の表現力」「文章の個性 」がA評価だったので良しとしましょう<開き直り。
- 3月の言葉:
「何かとあることだが、その許可をとりつけるほうが、銀河空間を踏破するよりはるかに面倒なことがある。それは,官僚制度のほうが航宙学よりはるかに進歩の渡合が高いからだ。」
by 泰平ヨン
- スタニスワフ・レム ; 深見弾, 大野典宏訳『泰平ヨンの航星日記 : 改訳版』(早川書房, 2009.9)[amazon
| bk1 ]
- 第21回の旅の,着陸許可待ちの説明から。
- "読んでいるふりをしている読まなくてはいけない"本というのはどの分野・世界にもあると思います。とりわけ,知識量を誇るヲタク界ではその傾向は強いと思われ,二昔前にアメリカで行なわれた調査では『指輪物語』『異星の客』などがベスト10入りしていたとか。当然?その手の図書にはことかかない私、ようよう『泰平ヨン』を読みました。泰平が名字だとは知らなかった。それにしても,難しいよこれ。
- 小役人として,日々の仕事の中で思うことは官僚制度を加速させるのは,結局,自分はその中にいるのではないと信じ込んでいる人々のへりくつ,無理難題,横紙破りだということ。緩やかな停滞の中にいる者は,新しい規則の作成さえ望まない者なんですから。レムが社会主義という究極の官僚制社会を生きていたことを思えば,この言葉,むしろ軽いくらいかもしれません。
- 2月の言葉:
「そうでなくとも毎日いろいろなことで考え苦労しているので、さらに小説など読んで精神的にもいろいろと深く思いを巡らし苦しむことはないだろうという気持ちが強い。」
by 長尾真 (1936- )
- 「新春エッセー 国民読書年を迎えて」(図書館雑誌2010年1月号vol.104, No.1)
- 今や,図書館界のアイドル(笑)長尾先生は現代小説などほとんど読まないんですって。そりゃ,「2,3時間で読めるような本は読まないほうがましである」というお考えで選択すれば,深く思いを巡らしてしまう小説に当たる確率は高まるでしょう。
- そりゃ,30,40分で読める小説は読む気がしませんが,2,3時間の楽しみも悪いものじゃございませんよと申し上げたい。で,今現在のお勧めは1時間で読めるニール・ゲイマン『コララインとボタンの魔女』(角川書店, 2010)。[amazon
| bk1 ]コララインはパパとママにツンデレ(笑)
- 1月の言葉:
「人間の生は,本来の性質からして,なにかに賭けねばならない。」
by オルテガ・イ・ガセー (1883-1955)
- 寺田和夫訳.「大衆の反逆」『世界の名著』56(中央公論社, 1971.4) [amazon
| bk1 ]
- ガセーなのかガセットなのかガセトなのか,しかも複合姓で著者典拠作成者を悩ませるオルテガさん Jose Ortega y Gasset の主著です。勉強しない学生だったので,今の今まで読んでいません。
- というわけで,ちゃんと読んでいない訳ですが<ぉぃ,当時のスペイン及びスペイン人に頭に来ている1930年のオルテガさん曰く「生きるとは、一方では、各自が自分で自分のためになにかをすることである。他方では、私の生、私だけに重要な生は、これをなにかに捧げなければ、緊張も《形》もなくなって,がたがたになってしまうだろう」。なにかに賭けるなんて性に合わないし,嫌なこったなんだけど,がたがた,は本当だなぁと思う新年です。
- ※今年は年賀状を出せなかったので種明かしはありません。
rh7r-oosw@asahi-net.or.jp