Toddler Penguin's Place >> ANIME >> ウイルス 紫の花

〜時代に追い付かれるっていうけれど。〜
『ウイルス 紫の花(メリーコーク)』

この文章は、『ぱろっと通信』50号(1997年11月1日発行)のために書いた原稿に一部手直しをいれたものです。

プロローグ

 5ページ目でラッカーとベンフォードとベイリーの生体反応が消える。
(…ここでニヤッとした人、あなたはGGG(*1)からその筋の人と承認されました)
 日曜日の昼下がり。買い物の途中で寄ったスーパーの本屋。ふと手にした新書。ぱらぱら見ていたら目に飛び込んだ人名。改めて著者に目をやり、ふむふむとうなずいた ペンギン座は『ウイルス 紫の花』をレジへ運んだ…。

感染#01 Author

 これがアシモフとクラークとハインラインだったらおもしろくもなんともないわけだし、ギブスン、スターリング、エフィンジャーではベタすぎ。
 このおたく心理を心得た著者の名前は牧野修。SFマガジンに不定期連載されていた 「ネバーランド」シリーズ(*3)で記憶していた名前でした。というか他のは読んでいない。このシリーズは東京湾上の人工島に流れ込んだ麻薬中毒の子どもたちを扱った連作で、トリップの描写と救いのないハッピーエンドが印象に残っていました。

感染#02 Director

 『VIRUS-ウイルス-』はセガサターン用ゲームですが、私が知っているのはCMで流れるテーマがやけに格好いいということだけ(そもそもゲーム機を持っていないし)。じゃ、なんで手にとったかというと、アニメ化された(*4)1話2話を見た限りでは「世界」「雰囲気」がうまくできていたから。
 しかし、監督が大張正巳(*5)。彼が監督する以上、物語は必ず破綻するはず(おいおい)。ならば、日頃の「見てから読む」を曲げても興趣がそがれることもない…。

感染#03 Cyberpunk

 時は22世紀。戦争によって地球環境は破壊され、月や火星の居住地でもぎりぎりの生活が強いられている。人類最後の希望は電脳世界の仮想空間、悪夢のような現実よりリアルな、すべての夢がかなうはずのプロセシング・アライブ。
 物語は電脳空間内で連邦宇宙軍の精鋭部隊がウイルスモンスターによって全滅する場面で幕をあける。ただ一人生き残ったサージ・シャディックスはネット捜査官となり、行方不明の兄と仲間の復讐のためパラサイトウイルスの謎を追う。彼の立ちはだかる火星ネットの支配者ツァイネル社と電脳軍、狂気の科学者、謎の美女。
 ああ、なんてお約束なサイバーパンク世界。とはいえ、謎また謎で引っぱっていくリーダビリティの高さ。何気なく張られた伏線。リーズナブルでもの悲しい結末。傑作とはいいませんが、敬遠していたゲームのノベライズものを見直しました。

感染#04 Character

 ストーリーに主眼を置いたためか、はっきりいって登場人物は書き割です。サージはゲームの視点人物だから希薄な存在で当然なのかもしれませんが。
#この手のゲームをまったくしたことのない人間が想像で書いています。
 また、プロテクトヒーローもの(変身ものですね)であるアニメとはサージの設定以外共通点がないようです。
#完結していないアニメを取り上げる危険性はエヴァンゲリオンで身にしみているんですが…。

感染#05 Quo Vadis?

 読み終わってふと思ったこと。これがゲームの忠実なノベライズなら、誰が読むんだろう?

 
もともとゲームに縁がない人は(例外がここにいるわけですが)、この本を手にとることはないでしょう。
 
ゲームをする前に読む人はあまりいないような気がします。
 
ゲームが終わっていないのなら小説ではなく攻略本を読むでしょうね。
 
ゲームを終えた人は、すでに結末を知っている物語をもう一度他人に語り直してもらうことになります。そうまでして「正しい」道筋を知りたいものなのかな?

エピローグ

「どうやってここへ」
「わからないかなあ。今回はサイバーパンクですよ。電話回線を伝い牧野さんのコンピュータに転送されて来たに決まってるじゃないですか。到着と同時に自動解凍したんですが、圧縮されるのは窮屈でした」(あとがきより)


<データ>


あまり濃くない人(笑)のための注

数字をクリックするともとの位置に戻ります。
(*1)今年一番熱いと言われるアニメ『勇者王ガオガイガー』の所属秘密組織。「すりーじー」と読む。ガオガイガーが合体するときのルーティンが、
「長官、凱からファイナルフュージョンの要請がでています!」
「よし、ファイナルフュージョン承認っ!」
「ファイナルフュージョン、プログラムドラァイブッ!」>カバーを*毎回*拳骨で叩割ってボタンを押す。
(*2)生き残っているのはクラークだけになってしまったSFご三家。ギブスン以下はサイバーパンク。ラッカー(数学者にしてバカSF作家)、ベンフォード(読んでないけどハードSFの筈)、ベイリー(ワイドスクリーン・バロック)は通好みといいますか。もちろんプロローグで死んでしまう連中が主役級であるはずはなく、物語にはまったくからんできません。
(*3)『MOUSE』というタイトルで早川書房から文庫化されています。
(*4)すでにパターンと化したメディアミックス戦略。アニメ、ゲーム、漫画、CD…単独でもおもしろい、あわせて見ればもっと楽しめる、というのが正しいと思うのですが、現実は他のメディアで補完しなければどうしようもないものが多いようです。
(*5)一部の人にとっては大張アクションと呼ばれる動きを鑑賞するためだけにその作品は存在するらしい。最近作は劇場版『餓狼伝説』『超人学園ゴウカイザー』。どちらも格闘ゲームものでどちらもストーリーはあってなきがごとし。
ペンギン座:『ぱろっと通信』におけるペンネーム。

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