絶妙なリズムと響きの向こうから流れてくる本物の歌!!
ヒナステラ、ピアノ曲全集

津田理子(Pf) 2000222/23日、スイス・シオン、ティボール・ヴォルガ財団スタジオにて録音。 ベルギーCypres CYP1625

 ヒナステラのピアノ曲がこんなに魅力的な音楽だったとは、全く知りませんでした。わずか21才の頃の作品とされるアルゼンチン舞曲集から最晩年のピアノ・ソナタ第三番に至るその全てが弾むようなリズム、生き生きとした響き、そして神秘的なメロディーに彩られ、それらがたった1枚のCDに収まっているのですから、ありがたいことこの上なし!!です。
 演奏しているのはスイス在住の日本人ピアニスト津田理子(つだみちこ)さん。ヒナステラは1971年から没するまで(1983年)を、スイスのジュネーヴで過ごしました。
 二度目となる結婚相手のチェリストの、アウローラ・ナトラがジュネーヴを中心に活動していたからだそうですが、演奏者の津田さんが1980年からスイスに住んでいたということで、何らかの接点があったのかと想像してみていたのですが、それは彼女自身によるとなかったそうです。でもきっと、この見事な演奏に天国の作曲者も深く満足しているのではないでしょうか。
 どの曲も初めて聞いたのに、どこかで知っている作品のように響く、ポピュラリティーを持つのは彼の音楽の特徴なのでしょうか。そういえば、随分昔、「パナンピ」や「エスタンシア」といったバレエ音楽を聞いたことを思いだしました。
 ゆったりとした音楽は神秘的で、リズミックな音楽は弾むような生命力を持ち、響きは二十世紀の音楽としては極めて古典的な調性の範疇でしっかりとした書法で書かれています。南米のバルトークと呼ばれることもあるそうですが、そんなヒナステラの音楽の特徴を津田理子さんは、実によくとらえて演奏されています。弾むようなテンポの速い舞曲風の曲でも、大変キレの良いテクニックに裏付けられた豊かな響きで余韻すら感じさせてくれますし、そのカンタービレの美しいこと!!
 三曲あるソナタをのぞけば、ごく短いミニアチュールがほとんどですが、それらをこんなに見事に描き分けて聞かせるというのは、スゴイことだと思います。また、晩年のスイス時代の作品であるピアノソナタ第二番、第三番などを聞けば、彼が南米のバルトークと称されることも納得できます。しかし、決してバルトークの亜流でもなんでもないことを申し添えておきたいと思います。
 そのいずれもが二十世紀の傑作であると私は信じるようになった三曲のピアノ・ソナタにおける津田理子さんの演奏は一層の冴えを感じさせるものであります。
 濱田滋郎氏の解説によると、ギターの調弦の音をつシンボリックに配置した第一番のソナタの第3楽章のミステリアスな雰囲気は、他のどこでも味わえない、極めて独特のものであります。
 また私は、傑作中の傑作と考えている第二番で、1995年の帰国リサイタルでもとりあげられた津田さんの演奏でこのCDのクライマックスがやって来たように思えました。恐らくは、津田さんのこの優れた演奏はこの曲の決定盤といえる域に達しているといえましょう。
 長く聞き継いでいってほしい、そんな1枚です。買いそびれて後で後悔しないように、ぜひ見つけたら買って聞いてみて下さい。バルトークやプロコフィエフが好きという方は、絶対買い!!です。曲が素晴らしい上に、演奏が実に見事。こんな音楽にはじめて出会えるなんて、滅多にあるもんじゃありませんよ!!