チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団創立百周年記念盤について |
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ジンマンとのベートーヴェン交響曲全集を出して、この所、メジャー入りを果たしたチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団が創立百周年記念盤のCDを出しました。(RCA輸入盤74321306202) | ||||||||
アンセルメ、ザッヒャーと並ぶスイス楽壇の重鎮、フォルクマール・アンドレーエ指揮のモーツァルトで「皇帝ティトの慈悲」とピアノ協奏曲23番の一九四九年の録音(なんとギーゼキングのピアノ)から、二十世紀音楽のスペシャリスト、ハンス・ロスバウトの指揮でスイスの作曲家オトマール・シェックのオケ伴奏の歌曲、ケンペの指揮でのレスピーギの「ローマの泉」(一九七三年の録音)、ジンマンの指揮でアメリカの作曲家チャールス・アスヴスの小品「Decoration Day」(一九九三年の録音)というように歴代の首席指揮者による演奏を集めていることが特徴です。 チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の演奏として知られているリパッティとの共演でのライブ(ショパンのピアノ協奏曲第1番)のみで、一九五〇年二月のその演奏が、あまりにひどいので、このオーケストラは全然ダメと思っていたところ、ケンペの指揮でブルックナーの交響曲第八番が出て、その見事さにびっくりした記憶があるので、戦後すぐの頃のこのオーケストラの実力は、あまり大したことないのではと思っていたのですが、今回のこのCDでのアンドレーエの指揮では、まあそこそこの演奏をしているので、あの曲に乗れなかっただけなのだと思った次第です。 しかし、リパッティの素晴らしいピアノに何の反応もなくやる気の全くない、縦の線すら揃わないオーケストラにイライラすることは事実です。この録音がオクラになっていたところ、リパッティの演奏と信じられていた演奏が別人のもとわかり、いきなり発売されたのは八〇年頃のことではなかったでしょうか? オクラになっていたのも仕方ないような無様なオーケストラに対してリパッティの演奏は熱に浮かされたように熱いものでありますが、ただリパッティが存命であれば、決してOKしないような出来であることは事実です。 さてそのような思い出があるだけに、前に書いたように「どうかなぁ」という不安の中での一九四九年の演奏であったのですが、残響が多く(それも後から付け加えられたような不自然な感じ)、やや「皇帝ティトの慈悲」序曲は興をそがれるのですが、ギーゼキングと共演した23番の協奏曲は実によい感じに仕上がっていて、少々音が割れることがあるのが残念ですが、この録音は同日であるにも関わらず、「皇帝ティトの慈悲」序曲のようなひどい残響は無く(多少気にはなるが)、充分楽しめる演奏と言えます。 ロスバウトの指揮したシェックの歌曲や、ケンペの指揮したレスピーギなどはなかなかの名演ですし、このオケが決して「田舎オケに毛が生えたようなもの」ではなく、しっかりとしたアンサンブルのレベルを維持した、名門であることはよくわかります。 スイスと言えば、山岳地帯ばかりに目が行ってしまいますが、こういった文化がしっかりと根付いていることも注意して見ておきたいところです。 また、チューリッヒはいつも(自戒を込めて)私は通過するか、せいぜいこれからの休暇の為の半額カードを買うために寄る程度だったのですが、いつか、散歩していた時に古いローマの遺跡の上にあるリンデンホーフの公園などを白馬に跨った警官が悠然と(というように私には見えました)パトロールしていた光景に出会い、「ああいいなぁ」と変に感心しながら見送ったことがあります。 川縁を歩くと古い大きな建物に出会い、そして行き着く先には、チューリッヒ湖が広がり、嶮しく迫ってくるものは何もない、柔らかな風景にチューリッヒの町が実にうまく納まっているように思えます。 川を行き来する交易により、豊かな市民社会を築いたチューリッヒには、それに見合う豊かな文化が息づいているのです。そしてそれは、スイス・ロマンド(フランス語圏)の文化のようにサヴォア、ブルゴーニュ、パリといったフランスに向かうものとは違い、川の流れる方向、ドイツの文化と深く関わる中から生まれてきたことに注意したいと思います。 ブラームスなどがその指揮台に立った、トーンハレ管弦楽団の歴史は今、アメリカ人のジンマンが指揮して、新たな国際化の波に乗って変身を遂げようとしているかのようであります。 最後のアイヴスの「戦没将兵記念日」(と訳すといいのでしょうか=Decoration Day)という曲の演奏から、(以前に書いた)現代的なベートーヴェン解釈による新しいベートーヴェンの交響曲全集の見事な演奏に至る系譜は、新しいスイスのオーケストラ音楽の行き方を実に端的に示しているように思われます。 恐らくは、イタリア人指揮者ルイージの指揮するスイス・ロマンド管弦楽団(五月に来日しますね!)もそうですが、地方性というか、ローカルな特色からスイス的国際化が広がっているように思えます。 かつてのその良さを懐かしむ人にとっては寂しいことですが、そういう流れなのでしょうね。 まっ、いろいろ考えさせられる、このようないいCDが、たった千二百円とは!! いい時代ですねぇ。 |
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