スイスに関する本の紹介 その八

 さて、この連載も八回目となりました。最初は二回で終わるかせいぜい三回と思っていたのですが、こんなに続いちゃいました。まだ思い出しそうなので、これで最後というのは止めておこうと思います。
 では最初の一冊。ヘルマン・ガイガー著青木正樹訳で「氷河の救助隊」(二見書房)というのはいかがでしょうか。帯に「山岳文学大賞受賞!アルプスの氷雪をついて空からの救難に生涯を捧げ雲間に散った名パイロットの手記!」とありますが、ヴァレー州シオンの飛行場を基地としてハイパー・スーパー・キャブという小さな単発・単葉・高翼の飛行機にスキーを履かせてこれを飛ばし、氷河に直接降り立ち遭難者の救助を数多く手がけた一代の名パイロットの手記であります。
  これも絶版となって久しい一冊で、いまではどうすれば手に入るのでしょうか。図書館や古本屋で丹念に探すしかないのではないでしょうか。残念なことです。

 次は小野有五氏の「アルプス・花と氷河の散歩道」(東京出版)はいかがでしょう。あとがきで佐貫亦男氏との二十年にわたる交流にも触れておられますが、チロルからグリンデルワルド、シャモニーとメジャーなところを中心にメイジュ、ゼクラン、エタンソンの谷、ラ・ベラルドと新田次郎氏や佐貫亦男氏の本でもよく出てくる名前が登場するのも、そんなところからかなどと思ったりしますが、内容はアルプスの美しい風景を教科書に地学を学ぶという、実に贅沢な教養の本です。
 当然ながら無味乾燥になんかならない、村の祭りが出てきたり、人々との触れあいが描かれていたり、と私のような素人でも氷河地形のいくつかがどのようにして形成されたか、わかった気にさせるほどの一冊てす。
 「グリンデルワルドの休日」と題された一章では、ユングフラウへの登山鉄道の車窓から見える風景から次第にアルプス形成期のことなども詳しく解説していくという離れ業で、一気にその世界に入っていってしまいましたし、川とゼンティスという章では、近自然河川工法について知りました。この本を読んでから、河岸を自然に近い形にすることの意味を知ることができたし、大いに学ぶところが多くあった本でした。
 こういったことを知って、スイスを見て回ると一層面白いだろうなと、思います。あまり氷河だカール、U字谷やモレーンといったことに興味もなかったという人にこそお薦めしたい一冊です。

 次は、実はガストン・レビュファ監修近藤等訳の「アルプス特選100コース」シリーズの四冊をとも思ったのですが(山と渓谷社)すでに絶版の上、でかいし、値段は高いし、手に入りにくいし、更に登山を実際にするわけではないし、と色々言われそうなので、リヒャルト・ゲーデケ著「アルプス4000m峰登山ガイド」(山と渓谷社)をお薦めしておきたいと思います。これなら大きな本屋さんなら今でも簡単に手に入りますし、小さいしということで、あまり非難を受けずに済むと思われますので。
 小さいですから、当然詳しい登攀コースは載っていませんが、私たちのような素人が登るわけではないのですから、大体のことがわかればいいということで、結構助かっています。(何に?)晴れた日に山に登って、レンズを二〇〇ミリにして山稜を行く人影を探すときに良いのですよ。

 さてもう一冊。城とワインの研究家井上宗和氏の「スイスの城とワインの旅物語」(グラフィック社)です。もう十年位前の本なので無くなっていたらごめんなさい。でもなんとも魅力的なタイトルではないでしょうか。スイスが好きで飲んべえの私としては、実に興味深いものでした…ん?
 私のスイス・ワインの基本知識の全てはこの本のおかげといっても過言ではありません。
 各地方別に主要なお城とその由来を説明しながら、ワイン産地である場合はワイナリーの紹介などが豊かな写真(リンホフ4×5やマキナー6×7等による)とともに紹介されています。
 大きな本ですのでスイスに連れていく本ではありませんが、なかなか美しい写真がたくさんある眺めて楽しい一冊としても推薦したいと思います。