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「一般ルートをガイドに連れ添われて登ることなら、誰でもできるさ。」などと決して言う無かれ。マッターホルンはそんなに甘い山ではないのです。
著者が挑んだ登攀に心から拍手を送りたくなる、そんな登攀記です。
更に、マッターホルン登攀に関わる記録、歴史、様々なエピソードをまとめた第二章は、これからマッターホルンを目指す方にとっては良きガイドとなるでしょうし、その歴史をよく調べてあるなぁと感心しました。
次はリブロポートから出ている土田陽介氏の「スイス・ホテル案内」はいかがでしょう。雑誌「山と渓谷」に連載されていたもので、スイスのホテルについて紹介した、極めて優れた本です。五つ星のホテルも紹介されていますが、星なしのホテルだって紹介されています。
この本は「ここは良かった」とか、「安かった」とか、「宿の受付が親切だった」とかを紹介するガイド・ブックではなく、そのホテルの由来などにも言及した、スイスのひとつの文化と言っても良いホテル業についての極めて優れた本であると言えます。
例えばクライネ・シャイデックにあるシャイデック・ホテルズについては、アイガー北壁を巡るドラマのいくつかを簡潔に紹介。そしてこのホテルの果たした役割について述べているのです。
よく、ここのホテルのマダム・ハイジ・フォン・アルメンに怒られたなどの言葉を聞きますが、この本の中での彼女のシャイデックに対する思いもよく書かれていて、「ああ、そうだったんだな」と思ってみたり、そうかと思うと、サン・モリッツのパドルッソ・パレス・ホテルという五つ星のホテルが紹介されていたりします。
更に、閉鎖前のグレッチュのホテル、グラシェ・デュ・ローヌについてやグラン・サン・ベルナールのホスピス、シンプロンのベルビューやカンデルシュテークとロイカーバートを結ぶ途中の山岳ホテル、シュバーレンバッハが紹介されているというように、各地の特徴的なホテルが余すことなく手際よく紹介されているのには、著者のスイスに対する深い知識と理解が背景にあってのことと考えます。
もちろんソーリオのホテルやハプスブルク王家の王妃エリザベトの悲劇のジュネーヴのボー・リバージュもワーグナーとルートヴィヒ王ゆかりのブルンネンのホテル・ヴァイセス・レースリ(白馬亭)も紹介されています。
この本はスイスのホテルの紹介する形で、スイスの歴史や文化、そこにある美しい自然の紹介にまで至るというなかなか奥の深い本であるとも言えるでしょう。副題には「アルプス滞在の楽しみ」とありますが、この本に載っているいくつかのホテルに私も泊まったのですが、この本のおかげで寝るだけのホテル滞在とは違った宿泊となったことは言うまでもありません。
最後は今や絶版で、図書館等で探すしかない本ですが、ジャック・オルセンの「地獄への登攀」(三笠書房)はいかがでしょう。アイガー北壁での無謀な登攀による遭難事件と、山男の功名心と必死の救出劇と地元のガイド達の反応などなど、優れた山岳ドキュメンタリーとなっています。
恐らくは、スイスという土地が持っている、恐ろしいほどの保守性などもこの本から伺い知ることができますし、その頑迷さはスイス・ドイツ語圏の特徴であることを強く思います。。
少々スイス・グリンデルワルドの山岳ガイドに対して厳しい見方になっているようですが、ヨーロッパの他の国々から見たスイスは、まさしくこんな国なんでしょうね。
北壁を登るということがどういうことなのかが、よくわかる本であるといえるでしょう。
どうも絶版のようですから、なんとも致し方ないのですが、機会があれば(古本屋などで見かけたなら)ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
スイスに関する本、更に続く。 |