スイスに関する本の紹介 その二

 松方三郎の「アルプス記 」(平凡社ライブラリ− ) は多くのスイス・ファンに読んで頂きたい本であります。
 多くのスイス・アルプスに登り、また国際的なジャーナリストとして活躍した氏の様々な折りに記された随筆集であり、その中にはスイス・アルペンへの、またスイスの文化への深い理解が示されています。
 この点で、新田次郎や犬養道子女史、辻村伊助らの本と並び称されるべき本であると言えるでしょう。
 この本を通じてセガンティーニやエンガディン、ソーリオ、マロヤにあこがれ行くことができた私は幸せてあったと思います。
 未読の方にはぜひお薦めしたい一冊であります。
 次にはヘルマン・ヘッセの「わが心の故郷アルプス南麓の村 」(草思社)はいかがでしょうか。フォルカ−・ミヒェルスの編によるルガーノあたりについてヘッセが書いた文章をまとめたものですが、この中にこそティチーノの魅力がいっぱい詰まっていると言っても過言ではないと思われます。

 最近出た本なのですが「あこがれの国スイス年金青年・気ままなひとり旅」(文芸社)という本はいかがでしょうか。
 作者の北村忠三氏は定年後、年金青年となって?スイスを二ヶ月にわたって一人旅をされたのですが、その時の紀行文であります。
 この種の本は他にもありますが、作者の飄々とした語り口の中に、何とも深い味わいを感じる傑作だと思います。色んな人との出会い、「折り紙外交」など楽しくて、また自分の旅行を更に楽しくするヒントがたくさん隠されているようで、同じように何度か一人旅で訪れた経験を持つ者にとって、とても共感しやすい、良い本だと思います。

 さてスイスと言えばハイキングですね。小川清美氏の「スイスアルプス・ハイキング案内」(山と渓谷社)はいかがでしょうか?
 最初のスイス旅行から随分お世話になっている本です。ただ少しデータが古くなってきていて、ホーサースからサース・アルマゲールへのハイキング・ルートでは途中の村ではロープウェイは降りられず、クロイツボーデンから随分下らなければ本に出ている集落にはたどり着けないとか、小さなロープウェイが今はもう無くなっていたりとか、場合によってはレッチェンタールのファフラーアルプからラウヒェルンアルプに向かって歩くコースは逆に歩く方が一般的であったりとかで、データの古さや、少しコース・タイムで「?」だったりしますが、何と言っても丁寧な案内で写真付き(美しいです)で地図もしっかりしていますので、良い本であることには変わりありません。
 近い将来、改訂版が出るのを心待ちにしている方も多いのではないでしょうか?

 この本を元にハイキングされて、色々データをとってこちらの方がいいのでは、などの提案型の本が上滝陸生、上滝タツ子ご夫妻共著による「トレッキングスイス・アルプス 私たちの歩いた山とむら」(文理閣)です。実証的で、ご夫妻での協力し合ってのハイキングの様子がうかがえる、楽しい本です。

 スイスに暮らすことを夢見ている人も多いでしょうし、その暮らしぶりがどんなものか気にもなります。そんな向きには伊藤一氏の「スイス的生活術 アルプスの国の味わい方」(出窓社)はいかがでしょう?
 スイスでの暮らし、そこでの色んな知恵について、実に興味深い本であると思います。

 まだまだスイスに関する良い本があるのですが、今回はこんなところにしておきましょう。