器楽奏者たちの指揮について
 さて、バーゼル室内管、チューリッヒ・コレギウム・ムジクム、チューリッヒ室内管、カメラータ・ベルン、ルツェルン祝祭合奏団、グシュタート・リズィ合奏団、ヴォルガ音楽祭管、ヴィンタートゥア管、ローザンヌ室内管といった室内管弦楽団の中で、弦楽のみのベルン、ルツェルン、グシュタート、ヴォルガ、チューリッヒ・コレギウム・ムジクムを除いてもどれもが極めてすぐれた活動をしていることに気付かされます。
 ザッヒャーの創設したバーゼル室内管、チューリッヒ・コレギウム・ムジクムとシュトルツの創設したチューリッヒ室内管はすでに述べました。

 
トーマス・フェーリが率いていたカメラータ・ベルンは当初から極めて優れたアンサンブルで、バロックから現代音楽まで幅広い活動をしていて、メジャー・レーベルに多くの録音をしております。指揮者はおかず、必要な時だけフェーリが立ち、あとは客演でした。
 彼らの演奏では、バッハの管弦楽組曲全曲盤が御薦めですね。デンオン・レーベルから出ているCDには、ソリストとして今世紀を代表するフルーティストのオーレル・ニコレの名演と共に、ピリオド楽器からは決して味わえない、豊かな響きの饗宴を聞くことがてきます。
 最近、おそらくはかつての録音の焼き直しでしょうが、スイスのノヴァリス・レーベルからドヴォルザーク、スーク、エルガー、フックスといった作曲家の弦楽セレナーデ集が出ていて、颯爽とした演奏でとても印象深かったですね。フェーリ自身のソロ・アルバムもあって、聞いてみると中々良い出来であったことも付記しておきます。

 名オーボエ奏者の
ハインツ・ホリガーも自作や師のヴェレシュの作品などを振ったCDを出していますが、その他にもメシアン、ケックラン、ラベルといった作品も振っているものもあり、この作曲までこなす才人は意外なほど熱いロマンをその中に燃やしているのだといことが分かります。

 
ルーカス・グラーフもフルートだけでなく、指揮活動もおこなっていますが、イギリス室内管等を指揮したサンサーンスのチェロ協奏曲等の演奏をおさめたCDが瑞西クラヴェースから出されています。フルート奏者におさまらない、大きさを持つ音楽家グラーフを認識させた1枚でしたが、その後指揮活動はどうなっているのか、よくはわかりません。しかしニコレが引退した今、グラーフはまだ音楽活動を活発に行っている(最近も来日して元気な姿を見せてくれましたっけ)のは、ちょっと象徴的にも思えます。
 ルツェルン音楽院のシュナイダーハンのクラスから生まれたアンサンブルでルツェルン祝祭合奏団ほどスイスの小編成のアンサンブルで有名なものはないでしょう。

 ヴァイオリン奏者のルドルフ・バウムガルトナーが指揮して、メジャー・レーベルに数多くの録音をしていますが、特にステレオ初期にグラモフォンに録音したモーツァルトのザルツブルク・シンフォニーの切れば血のてるような生き生きとした演奏が忘れられません。師のシュナイダーハンとパウムガルトナーが共演したバッハのドッペル協奏曲は忘れ難い印象を残しています。また、グラモフォンにいれたモーツァルトのザルツブルク・シンフォニーの素晴らしさ!! 何故復刻しないのでしょう。不思議…。

 南米から移住して来た?ヴァイオリン奏者の
アルベルト・リズィがグシュタートのメニューイン音楽院のクラスを元に創設したアルベルト・リズィ室内アンサンブルも優れた演奏をスイス・クラヴェースに録音していますが、メンデルスゾーンの弦楽交響曲の録音や、メニューイン自身が指揮をしていれたバッハなどが印象に残ります。

 スイス内での指揮活動はほとんど無かったものの、大ピアニストのエドウィン・フィッシャーが指揮者としてもいくつかの録音を残しています。EMIへの録音の中にはモーツァルトの協奏曲の弾き振りの他に、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と第4番の弾き振りまであり、結構本格的なものも含まれています。
 その演奏は、熱いロマンの香りをたたえ、決して余技ということのできない水準であることは、まぁフィッシャーなら当然のことでしょうね。

 世界的にも知られたバーゼル・スコラカントゥルムの
アウグスト・ヴィンツィンガー教授も忘れることのできない一人です。チェリストにして古楽器ビオラ・ダ・ガンバ奏者として、バロック音楽の普及に努めたパイオニア(先駆者)として、やはり尊敬を受けるべき人物であることは間違いありません。
 1905年11月14日バーゼル生まれ。まず最初はブレーメン市立管でチェロ奏者としてスタートを切り、1933年にサッヒャーらと共にバーゼル・スコラカントゥルムの創設に参加。そこで独学で研究してきた古楽やビオラ・ダ・ガンバを教えたのであります。多くのガンバ奏者を育て、バーゼル・スコラカントゥルム合奏団を設立してその指揮を行い、アルヒーフ等のレーベルに多数の録音をおこなったのであります。
 今聴けば、例えばヘンデルの「水上の音楽」等、古楽器の奏法なとかなり古いぎこちないものに聞こえてしまうことは否めませんが、彼らの努力があって今の古楽器の演奏があるのですから、感謝して聴くべきものと私は考えています。