ジョルダンのシェエラザード

仏ARIA music/592352
 私にとってこのシェエラザードのファースト・チョイスは、ロシアの名指揮者キリル・コンドラシンがアムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(現在はロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団)を指揮した演奏で、コンサート・マスターのヘルマン・クレバースをはじめ名ソリスト達がまだ健在で(今はほとんどが入れ替わってしまった・・・)クラリネットのカデンツァやヴァイオリンの素晴らしいソロなど、本当に心から楽しめる豪華絢爛たる演奏でありました。
 その演奏に心酔している為、ストコフスキーやカラヤン(あのシュヴァルベのソロのある方です)、マゼール、色々聞いてきましたが、どれも心から満足するに至らなかったのも事実です。

 さて、スイス・ロマンド管弦楽団の1995年録音のこのシェエラザードはどうでしょうか。ルイジに交替する少し前のこの録音では、ソロの部分も含めてコンドラシン盤に迫るものです。あと一歩というのはダイナミック・レンジの狭さが惜しいと思いますが、この点は録音の問題でもあるので、少しスイスの面々には気の毒なことではあります。
 第二楽章のクラリネットのカデンツァも中々上手いのですが、やや一本調子なディナーミクの変化で、高音でのピアニシモをうまく使っていたら等と思います。同じフレーズのバスーンのカデンツァは中々聞かせますし、ヴァイオリンのソロのツィマンスキーは線の細さを楚々とした雰囲気に代えていて、大変良い演奏だと思います。ストーキー盤でのグリュエンバーク、シュヴァルベと比しても、遜色は無いと思います。
 残念ながら、一部の木管の演奏にミスがあったりで、何故録り直さなかったのかと思われる部分も、一部に含まれていますが(特に第一第二楽章に多い)、流れは良く、ジョルダンのテンポ感の良さに、さすが歌劇場あがりと感服した次第です。
 全体に弦の出来はとても良く、アンセルメ時代と比較するのはどうかと思いますが(時代も何もかもあまりに条件が違いすぎるので)このオケの適性を示しているのではないでしょうか。特に第三楽章の叙情的な表現にそれが発揮されています。テンポの進め方も理想的で、管楽器の合いの手で引き伸ばされたテンポをアンサンブルで取り戻していく様子などは、ルバートというものがどういうものかということのお手本のような部分であり、ジョルダンの力量の程を示していると言えましょう。
 表情をあまり大きくとっていないので、ストーキーなどの演奏に親しんだ人にとっては、ちょっと物足りない演奏に聞こえるかも知れませんが、よく耳を澄まして聞けばそこには音楽の泉が滾々と湧いている、そんな演奏であります。
 また、余白の同じリムスキー・コルサコフの「ロシアの復活祭」はスペイン奇想曲のように有名ではありませんが、ロシア臭さがぷんぷんしたさすが五人組と思わせられる傑作であると思うのですが、どうしてあまり演奏されないのでしょうね。
 ジョルダンの演奏は、過不足の無い、実に安定した聞きやすいもので、なかなかの名演だと思います。ロストロさんの身振りの大きな演奏が記憶のどこかにあるのですが、ジョルダンはタイトな演奏で、あまりロシア的でないのが特徴です。ゴロヴァノフのようにとんでもない演奏は、あまり好みではないものですから・・・。
 ジョルダンとスイス・ロマンド管、なかなか良いものです。またコンビを組んでほしいものです。