シャフハウゼンのオルガンとサン=サーンス

 シャフハウゼンは、ラインの滝を見物してムノートに登り、万聖教会博物館とミュンスター、それに全身に入れ墨したような騎士の家を見たら、普通大体終わりですよねぇ。

 ミュンスターの前の広場の反対側だったか、通りをもひとつ挟んでいたか、記憶がもうぼやーっとしていてわからなくなっていますが、聖ヨハネ教会があったのを憶えていらっしゃいますか?
 私は、最初行った時、このヨハネ教会が立派な様子なので、こちらがミュンスターかと思って勘違いしましたが…。(ガイドブックを持っていけば、そんなことも起こらないんですがね。)
 この教会にも立派なオルガンがありまして、一度聞いてみたいものだと思っていたのですが、最近CDで発売されたので、ここで取り上げることにしました。曲はサン=サーンスのオルガン作品全集で四枚組なのですが税込み四千円ちょいという安さはありがたいです。

 それに内の一枚はヴィンタートゥーアの駅から歩いて数分の教区教会のオルガンで弾かれていて、このオルガンは実際に一八九六年にサン=サーンスが弾いたことがあるそうです。(これはCDの解説の受け売り)特に代表作と言われる前奏曲とフーガの中の三曲がこのオルガンで弾かれていて、興味を誘います。

 サン=サーンスと言えばオルガン交響曲で名高い上に、聖マドレーヌ教会のオルガニストとしても活躍し、ピアノの巨人、フランツ・リストから「彼を越えることは不可能だ」と言わしめたほど、ヨーロッパ中から尊敬を集めていたオルガニストでもあったのです。
 したがって演奏活動も国際的で、様々な国に赴いて、自作を中心に演奏活動を繰り広げています。

 で、肝心のオルガンの響きですが、CDには歴史的オルガンと書かれているだけで、制作者、年代の記述がなくなんとも心許ないのですが、恐らくは十九世紀のロマンチック・オルガンだろうと思います。
 シャフハウゼンの聖ヨハネ教会の方は、とても響きが長く、エッジの効かない感じだったのが、そのまま出ていて、少々ダイナミック・レンジが狭く感じられる録音となっています。ただ残響は長く、教会の中での響きを想像しながら聞くと、一層味わい深いものがあります。
 一方、ヴィンタートゥーアの教区教会(CDの解説ではヴィンタートゥール市教会となっています)の方が残響を取り入れすぎず、エッジもしっかりしていて、恐らくは一般により聞きやすい音響となっているようです。
 あまり派手な効果を狙う演奏は少なく、恐らくは演奏家(スイスでライオネル・ロッグについて学んだという)ブライヒャーの解釈の特徴のようで、ストップの選び方も恐らくサン=サーンスの指示通りなのでしょうが、全体に地味な印象ですね。

 曲は、断片を除いて(全集として網羅的に集成した為、完成品以外に、未完の断片もCDに含まれている)恐らくこんなに日本で無視されなくても良かったのでは、と考えのほど、なかなか魅力的なメロディー、ハーモニーでどれも聞きやすい美しいメロディーに溢れているのが、サン=サーンスらしいと言えましょう。

 暑い夏、あのひんやりとして教会の空気を想像して、これらのCDでも聞いて日本の夏をやり過ごしましょうか?