サース・フェーの音楽祭

 今年(一九九九年)の夏、ヴァレー・アルプスの真っ直中のサース・フェーという所に一週間、休暇用住宅(という訳がいいのでしょうか)を借りて、のんびりしてきました。
 ドーム、レンツシュピッツェ、テーシュホルン、アルプフーベル、アラリンホルンといった華麗なミシャベル連山とそこから流れ出すフェー氷河などの壮大な眺め、目を転じると、フィーシュホルン、ラギンホルン、ヴァイスミースといったサースの谷を隔てた対岸の山々等、素晴らしい環境の中にサース・フェーの町はあります。
 最近は日本人の団体客も増え始め、今年はレストランに入って日本語のメニューが出てきたのには驚きました。随分サース・フェーも有名になってしまったなぁ、なんてちょっぴりうれしいような、寂しいような…。
 さて、今年は夏の音楽祭がやっていました。会場は町の中心にある教会です。朝の九時頃からオーケストラとピアニストのリハーサルがあり、毎日、ハイキングに行く前に教会に立ち寄って、音楽家達の仕事の様子を見て(聞いて)から行くのが日課となってしまいました。
 指揮者がいる時は大変効率の良いリハーサルでしたが、ロドリゲスさん(だったと思いますが)というピアニストが指揮をしてのリハーサル(彼女がこの音楽祭の今年の顔だったようで、ピアノはなかなか達者でしたよ)となると、ダラダラとして、細かな修正をしようとすればするほど、オケのメンバーが流れを捉えられなくなるといった風のリハーサルで、実際、プロの指揮者としては落第で、彼女は指揮まで引き受けるべきではなかったというのが正直な感想でした。
 指揮者をおいてのプロコフィエフのピアノ協奏曲第三番などはなかなか上手いものでしたから、指揮をしたいという誘惑を彼女は退けるべきでしたね。

 とは言え、高原のリゾートでの音楽祭は、こういったリハーサルを教会で行い、それを自由に見学できるオープンな催し物であることで、私たちにとっては大変楽しい滞在を与えてくれたと思います。
 小さな小さな音楽祭のレジデンツ・オケはロシアあたりの地方オケだったようですが、よく憶えておりません。音は良く鳴るけれども音程(ピッチ)があまり良くないのと、アンサンブルに欠点がいくつもあること(多分に指揮者の素人丸出しの指揮のためです。あれなら私の方が上手い!!私は決してやりませんがね。)から関心を抱かなかったからです。

 こういった音楽祭が、夏の観光客の為にあること、そしてこれを楽しむ為にはしばらく滞在しなくてはならないことなどを思うと、足早に過ぎ去っていく日本人観光客の目に触れたりすることはあまりないでしょうね。

 しかし、この音楽祭の顔であったロドリゲスさんは、協奏曲のプロを五つぐらいやって、更に指揮者として舞台に立ち、その上難曲を揃えたソロのリサイタルまでやっていたのですから、細い華奢な体つきでしたが、とんでもないバイタリティーの持ち主だと思いました。
 日本では、だーれも知りませんが、こんな人もいるんだなぁーと妙に感心してしまいました。

 宿泊していたアパートは教会の横を登ったところにあり、毎日出かける時には教会のそばを通るのですが、その時、今日は練習していないかなと、耳をすましてみるが今となっては楽しい思い出です。
 演奏がどうとか言う以前に、そんなところから楽しむのが、リゾートでの音楽祭なのではないでしょうか。

 食事に入ったレストランでオケのメンバーと一緒になったりもしましたし、町を歩いているとホルンなどの練習している音が聞こえてきたりして、本当にここが山の中なの?っていう感じでとても面白かったです。
 少し長く滞在することは、こんなことも見えてくるものなのですね。