それぞれが自然や祖国への想いに彩られていて、この作曲家がまさしくロマン派の申し子であることを示しています。
今回とりあげる第七番は「In den Alpen」という標題を持っています。リヒャルト・シュトラウスのアルプス交響曲が生まれる四〇年も前に、スイス生まれの作曲家によって作られたものです。
ラフ自身が子供時代に聞いたスイスのメロディーをもとに、ドイツで作った曲だそうで、一八七五年十二月三十日にドイツのヴィスバーデンで初演されています。
しかし、この曲は当時のドイツでは不評だったようで、作曲家としての才能についてまで疑われるような評価までうけてしまいます。同じ頃お母さんを亡くしたラフには、とても不幸な時期だったようです。
曲は二管編成で、二本のトランペット、四本のホルンに三本のトロンボーン、ティンパニーにトライアングルという標準的な編成で書かれています。
第一楽章は、高い山を歩くという標題を持ち、壮麗な序奏からホルンの咆哮が聞こえ、広々とした自然の美しい風景を描写します。長大な序奏で、冒頭のメロディーが盛り上がって再現されると、テンポが上がりアレグロの主部に移ります。
第一テーマは弦の細かな刻みの上にファゴットとフルートの掛け合いで提示されます。次第に盛り上がり、序奏のメロディーの一部も出てきた後、テンポを一旦落として、ホルンに実に印象的な伸びやかなテーマが出てきます。これが、ラフの心の中にあったスイスのメロディーの一部であることは言うまでもありません。これがオーボエで繰り返された後、すぐにテンポをあげて第一テーマなどを発展させ、素材を展開してゆきます。
その際も、ホルンのスイスのメロディーの断片が織り込まれ、自然の雄大さとそれを愛でて歩く幸福感が、実によく対比されて曲が進み、フーガ風の展開を最後に、大いに盛り上がり楽章を終えます。
第二楽章は「In the Inn」という題名がついています。Innとは小さな宿屋のことですから、「山小屋にて」とでも訳すといいのでしょうか?
形式としては、拡大されたロンド形式で書かれた楽章で、薄暗い感じの弦とファゴットの単調な音型の繰り返しによるロンド・テーマの中から、チェロに幅広い音程が特徴の第一クープレが現れます。おそらくはスイスのヨーデルの雰囲気を彼なりに出そうとしたのではないかと思われます。
ロンド・テーマを繰り返した後、第二クープレは田舎風の踊りの音楽が流れてきます。レントラー風とでもいうのでしょうか、朴訥なリズムの繰り返しが、またロンド・テーマに溶け込んで行った後、更に第三クープレに移り、今度は静かで安らかな弦の響きの上に木管が絡みます。
小鳥達が飛び回るかのような部分が展開した後、ロンド・テーマが多少の変化を伴って戻ってきます。そしてクライマックスへと発展してゆくこの楽章は、山の小さな宿屋での楽しみとでもいうべき曲です。
第三楽章は「Am See(湖にて)」というタイトルがついているゆったりとした楽章であります。
静かな、鏡のような湖面と、そこに映る白銀の山々、さわやかな風に静かに波立つ湖面と青い空の反映、あたかも叙情詩とでもいいたくなるような、音による風景描写の傑作であり、作曲者がメンデルスゾーンの「フィンガルの洞窟」などの伝統の上にいることをことさらに印象付ける見事な出来映えの楽章であります。
終楽章は、祭りと出発がテーマでタイトルに「Beim Schwingfest;Abschied」とついています。これはスイスの競技(おそらくは相撲のようなもの)を行う祭りのことのようで、幸せな人々の楽しんでいる様子を描写した曲です。
全曲が祝祭的な雰囲気で満たされた、楽しい曲となっています。飛び跳ねる様なテーマが活気のある祭りの雰囲気を作ります。発展していって、ベースにしっかりした足取りの第二テーマが出てきます。競技者の登場でしょう。
この力強いテーマにスケルッツァンドな、飛び跳ねるような第一テーマが対位法的に絡んで、曲は展開部になだれ込み、競技に移ります。
短調で、多少の緊迫感を出していますが、競技者のテーマが対位法的にどんどん発展して行くのですが、ロマン派の作曲家にしては対位法的な処理が非常に多いという、ラフの作風の真骨頂のような所であります。
ゆったりと回想するかのようにテーマが戻って来て、曲が終わるのを(出発するのを)名残惜しむかのような再現となっています。
最後はそれを振り切るかのように駆け抜けて終わります。
スイスを離れて、祖国の山々を心に思い浮かべで作った名曲だと思います。十九世紀中頃の音楽ですので、私たちが知っている、チロル風のアルペン音楽とは全く違った音と響きですが(二楽章のヨーデルなど)彼なりの理解と誠実な作曲態度での作品だと思います。
曲を聞きながら、スイスを思い、山の空気と響きを心に思い描いていました。スイス好きには「なかなか…」の作品だと思いますが、みなさんいかがでしょうか。
CDは香港マルコポーロ・レーベルから出ています。当然輸入盤ですが(8.223506)、スイス、ザンクト・ガレン出身の指揮者ウルス・シュナイダーがスロヴァキア国立フィルハーモニー管弦楽団を振って、曲の単なる紹介に終わらない、気持ちの入ったなかなかの熱演で聞かせてくれます。もう少しオーケストラが良ければ、なんて贅沢は言わないでおきましょうかね。 |
|