エンゲルベルク修道院の音楽

 エンゲルベルク修道院の音楽というCDを買って来ました。DHM(deutsche harmonia mundi)というレーベルから出ているもので十二世紀あたりの古い音楽です。
 この時期のスイスの音楽を聞く機会が滅多にないことを思えば、貴重なCDであります。

 単旋律の男声による斉唱で歌われる音楽から、二声のポリフォニーや、ホモフォニックな分厚いハーモニーが聞ける合唱作品まで含まれているこのCDは、十二世紀から十五世紀あたりまでの音楽の様式を網羅するもので、なかなか興味深い面もあります。
 そういう意味では、スイスの音楽というより、当時のヨーロッパ各地のベネディクト派の修道士たちの祈りの音楽を集めていたものなのでしょうね。

 演奏も美しい仕上がりで、ソロのメリスマ(コブシのような古楽特有の装飾的な唱法)もなかなか美しいなぁと思っていますが、この分野の専門家でもないので、単に音楽好きの独り言の域を出ません。

 エンゲルベルク修道院の創建は一一二〇年です。一七九八年のナポレオンのスイス侵攻までは、ここの修道院がエンゲルベルク谷一帯を統治したとミシュラン・グリーンガイドに書いてありますが、教区教会でもある修道院教会は十八世紀に建て直されたもので、内部の装飾もオルガンも当然バロック様式で出来ています。
 パイプ・オルガンはスイスで一番大きなものだそうです。

 エンゲルベルクは天使の丘とでもいう意味なのでしょうね。この修道院があったから付いたのか、それとも前からの名前なのか知りませんが、ルツェルンからの日帰り旅行でも充分大丈夫な、ところということもあって、ツァーの人たちが多いように思います。
 修道院ではなく、三〇二〇メートルのティトゥリスの展望台に登る目的がほとんどのようでした。ロープウェイの前の駐車場は大型バスが何台も停まっていて、なかなか壮観でした。あまり日本人はいませんでした。アジア、特に韓国の方などが多いようでしたが、今もそうなんでしょうか?

 展望台には簡単にあがれます。雪の上に出て、夏の雪景色も楽しめますが、ユングフラウやクライン・マッターホルンとそう違わないようで、景色の中に4000メートル級の山が見えないことに、少し不満であったことを憶えています。だったらピラトゥスやリギはどうなんだと言われそうですが、「好みの問題」と言って逃げることにしょうと思います。

 そうそう、途中のトリュプ・ゼーはなかなか趣のある湖ではないでしょうか。一周はちょうど良い散歩になります。ロープウェイの駅からトリュプ・ゼーに出て、湖の反対側あたりにはリフトがあって、そこからハスリベルクの方までハイキングコースがのびています。
 途中にはいくつかホテルもあって、一度一泊かけてのハイキングなどもいいだろうなぁと思っています。

 アルプスにいだかれた、修道院と音楽。800年近くの長きにわたって、この地に流れていたのだと思いながら、聞いていると、トリュプ・ゼーに氷河から流れ落ちる滝の音がかすかに聞こえてきそうなそんなCDであります。秋の夜長にぴったりの音楽のようですね。