シェックの歌曲について

 スイスの作曲家、シェックの作品の最も重要なジャンルは歌曲であります。かつてフィッシャー=ディスカウのレコードでシェックの歌曲集があったのですが、買いそびれ今も悔しく思っています。再発されないかなぁー。

 ところで、スイスJecklinレーベルから、歌曲全集がでていますが、現在所持しているのはVol.1とVol.2で、比較的若い頃の作品が中心でありますが、Vol.1のクリスティーヌ・シェーファーというソプラノもまずまずですし、ピアノの音がやや硬質で、抑揚に欠ける気がしないではありませんが、レーガーの心をとらえた才気に満ちた、インスピレーションにあふれた若いシェックの作品が楽しめます。
 Vol.2はバス・バリトンのネーザン・ベルクというカナダの歌手が、イギリスのジュリアス・ドライクというピアニストと共演したり、スイスのオルガニスト、オスカー・ビルシュマイヤーと共演したりとなかなか聞くことの無い知られざる作品の数々をこのシリーズでしることができました。

 シューマン、ブラームス以後のドイツ語の歌曲の重要な作曲家として、第一にオトマール・シェックが挙がる理由がよくわかります。

 他にはデンオン・レーベルから「ノットゥルノ」と「山歩き」(DENON/COCQ-83015)が出ています。これは国内盤で、日本語の対訳から詳しい解説までついていて、シェック入門としてはいいCDであります。
 オアフ・ベーアが歌い、ヘルムート・ドイチェのピアノ、スイスの弦楽四重奏団として名高いカルミナ四重奏団もノットゥルノで共演しています。

 「ノットゥルノ」は弦楽四重奏曲にバリトンの独唱がついているという感じの曲で、ちょうどシェーンベルクやストラヴィンスキーらのモダニズムの華やかな時代の狭間で、どう自分の語法に折り合いをつけるかというところで悩んで作ったんだなぁ、と他人事とは思えない問題意識の存在を突きつけられるような作品です。

 ピアノ伴奏(日本でもお馴染みのドイチュ教授)の歌曲集「山歩き」は更に一般的な意味で、聞き易い作品です。
 エンゲルベルクからヨッホ・パス経由でマイリンゲンに至る山歩きをきっかけに誕生した作品で、「回想」「出発」「ひばり」「オークの森」「牛飼い」「孤独」「彼方」「雷雨」「眠り」「夕べ」という通作歌曲で、全曲がアタッカで(止まらずに)演奏される作品です。
 自然をテーマにそれとの人間の関わり、結構深い意味を込めている作品で、あまり牧歌的というものでもないのが、シェックらしいところであります。

 独唱も見事で、その意味でもこれは最近出たシェックのCDの中でも、最も注目して良い演奏であると思います。

 更に、レーナウとアイヒェンドルフの詩に付けたバリトンとオーケストラのための「エレジー」はいかがでしょうか?独CPOレーベルから出ていて、今のところ輸入盤しかありませんが、アンドレアス・シュミットのバリトンもいいですし、ウェルナー・アンドレアス・アルベルトの指揮するムジークコレギウム・ヴィンタートゥーアの演奏も、ほぼ満足できる出来です。
 この深い悲しみをたたえた音楽は、一九二一年から一九二二年にかけて作られたもので、私生活であまり恵まれなかった当時の作曲者の心情に合ったものだったのではないでしょうか。
 十四曲の連作歌曲でありますが、ランダムにレーナウとアイヒェンドルフの詩から選ばれた詩が、一つにまとまって強い説得力を持って語り始めます。
 どうして、あまり演奏されないのでしょう。素晴らしい作品ですよ。(独CPO/999 472-2)