作曲家フランソワ・パンティヨン

 一九二八年にラ・ショ=ド=フォンの音楽一家に生まれたフランソワ・パンティヨンは、まずヴァイオリンを始め、その後指揮法や作曲をベルギーのブリュッセル王立音楽院で学びました。彼の父も指揮者だったようで、父を始めカラヤンなどにも師事したと経歴にあります。
 指揮者としての最初のポジションはトゥーン交響楽団(トゥーン湖畔の素晴らしい町、あのブラームスの住んだ家も残る町!!)、カペラ・ベルネンシスでありました。近隣のヨーロッパ各国のオーケストラへの客演を続け、中でもロンドンのニュー・フィルハーモニア管弦楽団(現在はフィルハーモニア管弦楽団と改称)とロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団への客演で大きな成功をおさめといいます。
 パンティヨンはバッハやブラームス、ベルリオーズなどのオラトリオやレクイエム、受難曲といった宗教的声楽曲の解釈で特に高く評価されています。また、オネゲルやプーランクなども得意としており、その音楽活動に対して1979年にはベルン州から音楽賞を与えられています。
 一方、作曲家パンティヨンの活動としては、1986年に作られたオラトリオ「世界の叫び」が数多くの賞賛を受けた代表作であると言えます。この作品はスイス建国700年を記念したフェスティバルでジュネーヴ、ベルン、チューリッヒなどでオリバー・ドホナーニ指揮スロヴァキア国立フィルハーモニー管弦楽団とバーバラ・ヘンドリックス等の独唱者達によって演奏されました。
 他にはまだ未聴ですが、オルガン・弦楽合奏・打楽器のためのトリプティーク(三枚の祭壇画)や声楽とオーケストラのための大がかりな作品がたくさんあります。私の所持しているCDの解説によると1991年にはベルンの歌劇場で新作のオペラを発表とありますから、六〇才を越えても創作意欲はまったく衰えることなく作曲を続けているようです。

 先に触れたオラトリオ「世界の叫び」という作品のCDを私は所持していますが(瑞西claves/CD 50-9119)、これは作曲者自身の指揮、ビエンヌ市立管弦楽団(なかなか良い演奏をしています)ビエンヌ音楽院合唱団等々の合唱団とソプラノとバリトンとナレーターという大変な大規模編成の作品で、前衛的手法とは一線を画した、明確な調性音楽として書かれています。
 もっとも現代では、一時の前衛手法は陳腐な過去の遺物となりつつあるのですから、特にそれをとりあげる必要もないのですが、一九〇〇年頃の近代和声までの範疇で(もちろん児童合唱なども用いていますので、そう無茶な無調の音楽に走るわけにもいかなかったでしょうが)しっかり書かれた作品というのが、率直な印象です。
 合唱、独唱付きのオーケストラ作品としてはドイツのカール・オルフの作品(カルミナ・ブラーナなどの三部作)が有名ですが、あれよりも更に保守的ではありますが、充分に面白い作品であり、ビエンヌ(ビール)のオーケストラもその地域の五つの合唱団も、独唱者(どういう経歴の人かわかりませんでしたが)も好演を聞かせてくれます。
 ビエンヌ市立管弦楽団という団体がどういう活動を普段しているのか知りませんが(トゥーン交響楽団もそうですが)小さな街にもオーケストラがあり、大切に育てられていることを知ることは、とても嬉しいことです。