スイスの音楽一家、アンドレーエ家 |
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フォルクマール・アンドレーエとマルク・アンドレーエという指揮者について知っている人は、余程の音楽好きでありましょう。ほとんどCDは出ておりませんし、出ていても海外盤が中心で、なかなか耳にする機会がないためでもあります。 フォルクマール・アンドレーエは一八七九年七月五日にベルンで生まれています。この頃、ブラームスがスイスのトゥーンやチューリッヒに滞在して、作曲をしていますし、創立間もないトーンハレ管の指揮台に登ったりしています。(決して当時のスイスが文化的に辺境であったわけではないのです。念のため…) フォルクマールはベルンやケルンで学んだとありますから、ドイツ音楽の伝統を身につけていったのでしょう。とは言え、誰にどういったことを学んだのかということは、どこにも書いてないので、全く不明ですが、作曲の勉強もしていたらしく、作品も残しているそうですが、私は聞いたことありません。 しかし、そのおかげでしょうか、後年、同時代のラヴェルやマーラー、リヒャルト・シュトラウスなども積極的に取り上げたりしているところを見ると、あまり保守的な音楽家ではなかったようです。 二十二才の時にチューリッヒに出て、いくつかの合唱団の指揮をした後、ヘーガーの後を継いで、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団の第二代首席指揮者に就任します。一九〇六年のことです。 それからおよそ四〇年以上にわたって、このオーケストラの指揮者として君臨したわけですから、アンセルメやザッヒャーと並ぶスイス音楽界の重鎮であったと言えましょう。 三十五才の時、一九一四年にはチューリッヒ音楽院の教授も引き受け、一九四一年の六十二才の時までその任にあったわけです。バイロイト音楽祭で活躍したスイス・ドイツ語圏の指揮者ヴァルヴィーゾなどが恐らくは門下となるのではないかと思われますが、あまりに資料が少なく、未確認であります。 さて演奏ですが、以前取り上げたチューリッヒ・トーンハレ(ホールの)創立百周年記念盤でもモーツァルトなどを聞かせていたフォルクマール・アンドレーエですが、実はウィーン・フィルなどに定期的に客演していて、その折りなのかどうかはわかりませんが、デビュー直後のウィーンの名ピアニストのフリードリッヒ・グルダのシューマンのピアノ協奏曲の共演をしたものが今も手に入ります。 もうひとつウェーバーのピアノ小協奏曲でもアンドレーエがウィーン・フィルを振って共演していますが、こちらはオケが活躍する場面もほとんどなく、どういう指揮者かよくわからりません。 しかし、シューマンのピアノ協奏曲では(オケがウィーン・フィルですから、どこまでが指揮者のおかげで、どこからがオケのおかげなのか、定かではありませんが)、冒頭から実に深い味わいを持った演奏が繰り広げられます。オケのコントロールがとても良いのと、表情がとても深く、またこれ見よがしのわざとらしさとは全く無縁の、実に自然体での演奏で、音楽が自らに語らせる趣の演奏となっています。 若いグルダの溌剌としたピアノも、後年の穏やかなそれでいて遊び心に満ちたピアニズムとは、また全然異なり、実に新鮮に響きます。 あとブルックナーの交響曲をウィーン交響楽団を振ったライブがあるはずですが、これは残念ながら未聴です。 例の記念盤では、トーンハレ管を振って、大ピアニストのギーゼキングと共演していますので、当時のヨーロッパでは、あまり録音には恵まれなかったものの、大変高く評価されていたのではないかと思っています。 戦後のウィーン・フィルやベルリン・フィルによく客演で呼ばれていたというところにも、また共演者を見てみてもそれは容易に推察できると思います。 マルク・アンドレーエはフォルクマールの孫にあたります。両親(フォルクマールの息子)がピアニストであったそうですから、アンドレーエ一族は大変な音楽一家だったんですね。 一九三九年に生まれ、チューリッヒ音楽院で学び、後イタリアの聖チェチーリア音楽院でフェラーラ(イタリアの指揮者で名教授、門下にエド・デ・ワールト、ロベルト・アバドなどがいる)に学び、パリに行ってブーランジェ教授(大御所、リパッティ、ピアソラの先生でもある)にもついて勉強し、スイスの名指揮者ベーター・マークのアシスタントとして指揮者の第一歩を踏み出したそうです。 こう経歴を書くと、もうエリート中のエリートとしての道を歩いたといっても過言ではありませんね。 一九六九年には、シェルヘンのベートーヴェン全集で有名となった、ルガーノのスイス・イタリア語放送管弦楽団の指揮者なり、時折FMでも流れているそうですが、FMを滅多に聞かない私は、全く聞いたことがありません。 彼のCDはおそらくはいくつか出ているのでしょうが、現在手に入るのは、ウト・ウーギというイタリアのヴァイオリニストと共演したベートーヴェンとチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のライブCDだけだろうと思われます。 これは、なかなかの演奏で、これを書こうと思ったのも、この演奏を聞いたためなのです。ウト・ウーギには昔サヴァリッシュと共演したベートーヴェンがあったはずですが、あの常識的な演奏(随所にウーギの明るい伸びやかな歌い込みも聞けたが)とは、雲泥の違いというか、伸びやかで歌に溢れ、明るい音でベートーヴェンを殊更に深刻ぶって聞かせることなく、また大げさな身振りをすることなく自然体で、音楽に対峙している演奏は、是非多くの人に聞いてほしいものであると思っています。 時折(バランス的に)管楽器が飛び出してしまうのはご愛敬で、ライブ特有の傷は仕方ないとしても、あのシェルヘンのベートーヴェンで聞いた生命力のあるスイス・イタリア語放送管弦楽団の音は健在であります。 レコード産業から無視されていても、実際の演奏活動で、このように素晴らしい音楽をやっているアンドレーエとスイス・イタリア語放送管弦楽団に、いつまでもいつまでも拍手を送りたい気持ちであります。 |
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