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何ぃ? ショーペロだって!?


porta-nuova トラーパニからパレルモに戻ったのは、帰国予定日の2日前。高速道を突っ走るバスを利用した。
帰国を前にして、気になっていたのは”夏時間”がいつ始まるかだった。3月、ヨーロッパでは”冬時間”が”夏時間”に変わる。
ただ、いつもその切り替えの日がよくわからない。以前、時間が1時間早くなっていることを知らず、列車に乗り遅れたことがあった。怪しいのは帰国予定日の日曜日である。飛行機に乗り遅れたら大変。パレルモに着いたらホテルの人にでも聞いておこう思っていた。

そんなことをバスの中で考えていたら、前の座席の人が呼んでいた新聞が目に入った。時計の絵の入った記事がある。それこそ、”夏時間”の始まりを告げる記事だった。座席の隙間から覗いて情報確認。やはり帰国予定の日曜日からだった。
これで誰かに聞く手間が省けたと、ホッとして新聞から目を離そうとしたときだった。
"Scioperi""Aeroporti"の文字が目に飛び込んでくる。
えっ? 空港でストライキだとぉ!? そう思ったとき、前の座席のおじさんは新聞のページをめくってしまった。
悶々としながら、バスがパレルモに到着するのを待つ。バスに揺られて眠っているような余裕はなくなってしまった。

パレルモのホテルに着くと、さっそく部屋のテレビを点けてみる。
テレビには、ミラノのマルペンサ空港で右往左往する乗客の群、そして全ての飛行機が欠航となったことを示すボードが映し出されていた。帰国直前になって、大変なことになってしまったようだ。夜遅くまで、空港の混乱を伝えるニュースが流れていた。
テレビの早口のイタリア語は全く聞き取れない。翌日、ホテルのフロントで新聞をもらい、辞書を片手に読んでみる。
どうやら、空港管制官のストライキで、イタリア全土で空港の機能が麻痺しているらしい。200以上の便が欠航。さらに新聞を読んで行くと、国鉄が24時間のストライキを予定しているそうな。
そんな、あなた。一緒にやるこたぁないでしょうに。でも、こういうのを日本では”春闘”とか言うのか。
私は、日曜日にパレルモの空港からマルペンサに向かい、そこから成田への直行便に乗る予定だった。乗り継ぎの時間はわずかしかない。ある程度混乱が収まって、仮にマルペンサまで行けても、到着が遅れるようなことがあれば、日本に帰れないことも考えられる。そこで、鉄道でミラノに移動し、ミラノで待機しようとも考えていたのだが、国鉄のストライキでその作戦もとれなくなった。完全にお手上げ。
その夜には、ローマのテルミニ駅で足止めをくらっている観光客の姿がテレビに映し出されていた。イタリア中の交通が大混乱になっている。

情報収集のため、旅行会社のサポートセンターに電話をかけてみたが、”どういう状況か知りたいんですが”という質問に、”チケットを持ってないと何も交渉できないんですよ”というトンチンカンな返事。私は何か交渉事を依頼した覚えはないんだけれど…。まあ、わがままな観光客の得体の知れない要求が連日来ているであろう部署だから、そういう応対になっちゃったのも無理はないか。
で、”全部自分で何とかしますが、とにかく情報が欲しいんです”と言ったら、”こちらも新聞に出ている以外の情報はもってないんです”というつれない返事。
”とにかく、早めに空港に行って、様子を見るしかないということですかね”と言うと、”そうですね”で終わり。収穫なし。電話代を損した。

どうなることやら。
出発の朝、テレビを点けてみたけれど、新しい情報は何もなかった。
とにかく空港へ行くしかない。飛行機の発つ予定時間の3時間前に空港に乗り込んだ。
こういう状況では、まずは座れる場所を確保することが先決である。できれば、空港の掲示板が見える位置の特等席をとりたい。気合いを入れ直して空港のドアを開ける。
そんな私を待ち受けていたのは、何と、ちゃんと動いている空港だった。出発便を示すボードには何の異常もなし。全便定刻通りの表示。何だかあっさりとチェックインができる様子だった。
普通にチェックインカウンターの列に並ぶ。チェックインのとき、”ストライキは終わりました?”と聞いたら、”ええ”と一言、何事もなかったような返事が返ってくる。昨夜遅くまでの大混乱の痕跡はどこにもない。

パレルモを発って、定刻通りにマルペンサに着く。
さすがにこっちは凄いことになっているだろうと思ってたら、いたって普通の風景。マルペンサから成田への便も定刻通り。
まあ、予定が一日ずれていたら巻き込まれていたんだろうけれど。運が良かったのか、悪かったのか…。