パブリックコメント募集に応じて、
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令の一部を改正する政令案、職業安定法施行令の一部を改正する政令案等についての意見」を下記に表明し、メールでお送りします。
1999年10月24日
(氏名) 脇田 滋
(メールアドレス)
「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律施行令の一部を改正する政令案、職業安定法施行令の一部を改正する政令案等についての意見」(脇田 滋)
〔目次〕 はじめに
私は、労働法・社会保障法を専攻し、労働者派遣法について強い関心をもってた。また、これまで約1500名以上の派遣労働者から直接の法律相談を受けて回答してきた。今回の法改正については、衆院労働委員会で参考人として反対の意見を述べた。法律改正についての基本的な評価は変わっていないが、施行をめぐって、改めて意見を述べたい。 1 禁止業務の範囲を合理的な根拠に基づき大幅に拡大するべきである。 (1)政令案要綱案の禁止義務は限定され過ぎている。 「政令要綱案」では、「医師若しくは歯科医師の行う医行為に係る業務又は看護婦等の行う診療の補助等の業務」だけが挙げられているが、その理由が明確ではないし、範囲が限定され過ぎている。 (2)禁止の理由・根拠を一般的に基準化するべきである。 禁止業務の範囲を限定するについては、その禁止の理由・根拠から、業務を限定する基準を一般的に明確化するべきである。 従来から、政令での派遣対象業務の選定については、何が基準となるのか、明確でない。業界の思わくなど不透明な理由で業務が列挙されてきたと思われる。何故に禁止業務とするのか、その合理的な根拠を一般化して、禁止業務の基準とし、労働者派遣導入によって弊害が多い業務を明確にするべきである。 (3)禁止業務を選定する基準の提言 業界の綱引きなど不透明な基準で、禁止業務が決められることがないようにするために、禁止業務を選定する基準としては、次のような基準が考えられる。
〔1〕他人の生命・健康・安全に直接・間接にかかわる業務 (4)他人の生命・健康・安全に直接・間接にかかわる業務 「医師、歯科医師、看護婦の業務」を禁止業務とする理由が示されていないが、「生命・健康・安全に直接にかかわる業務」ということで除外されたと推測することができる。 最近では、原子力関連工場での事故が、労働者や地域住民に不測の多大な事故を生み出している。間接雇用の派遣労働が、導入されたときには、安全管理の欠如は直用の場合よりも一層不完全になることが容易に予想できる。こうした周囲の住民にも大きな影響を与える危険業務については、派遣禁止業務にするのが当然と考える。
少なくとも、交通・運輸の関連業務(陸上運送、航空運送)、児童福祉・障害者福祉・高齢者福祉関連業務、介護業務、学校教育など「生命・健康・安全に直接にかかわる業務」が禁止業務に含まれるべきだと考える。 (5)政令要綱案についての二つの「注」 インターネットでは、政令案要綱の二つの「注」(林業関係、といわゆる労務屋派遣制限)が示されていない。政令のなかで明確に規定するべきである。 2 派遣先による違法業務指示の禁止 (1)派遣先による違法な業務指示に対する規制の必要性
これまでの派遣労働者からの相談例でも、派遣先での危険・違法業務に従事させられる例が少なくない。 前述の原子力関連工場等の例で、かりに派遣導入があったとしたとき、派遣先の裏マニュアルや裏マニュアルさえ無視した違法な指示に対して、雇用の保障されていない派遣労働者が、それを指摘し、拒否することはきわめて困難である。
指針だけでなく、「法律違反にかかる業務」を禁止業務として政令のなかに挙げべきである。 (2)違法業務を指示した派遣先・派遣元の責任を明確にする規制 違法な業務を指示されたとき、労働者としてもそれを拒否しなければならない。しかし、派遣労働者の場合、派遣元も派遣先といったいとなっていたり、派遣元が援助してくれないことも少なくないなかで、労働者が個人で派遣先・派遣元の違法な指示を拒否することはきわめて困難である。 違法な業務指示をした派遣先・派遣元を実効的に規制し、また、労働者に不利益が及ばないようにするための指針を示すべきである。 3 「専ら派遣」を区別する基準の明確化
省令案では、「専ら特定の者に対して行われる労働者派遣の制限の適用の例外の場合」が示されている。 4 権利行使者への不利益扱い・ブラックリストの規制 今回の法改正では、労働大臣(公共職業安定所)への申告が法律上、明確にされた(法49条の3)。この規定に基づき、権利行使者への不利益扱いの事例を示して、法違反がないことを徹底する必要がある。 派遣労働者からの相談では、労働基準法の年次有給休暇の請求など権利主張をしたときに、次の紹介がないという不利益を受ける例が少なくない。 また、同時に登録している他の派遣会社からの紹介もなくなるなど、派遣会社の間に、派遣労働者のなかで、権利主張の強い者について、「ブラックリストがあるのではないか」という訴えが続いている。
派遣元に対する指針、派遣先に対する指針や一般労働者派遣事業許可基準で 5 労働者派遣契約途中解除について労働者保護の徹底を (1)労働者派遣契約途中解除については96年指針よりも後退
派遣労働者からは、労働者派遣契約途中解除による解雇の相談事例が少なくない。しかし、今回の指針案は、労働者からは大きな後退であると考える。
これでは、3ヵ月の労働者派遣契約を1ヵ月経過したときに途中解除した派遣先は、96年指針では、残り2ヵ月の派遣料金等を損害賠償額として示されていたのに、今回の指針案では、即時解除のときに30日分の賃金相当額を支払えば責任を免れると理解されかねない。 (2)法律的常識に反し、民事責任追及に不当な障害を行政が生むことになる
また、有期契約を「やむことをえない事由」がないのに途中解除した契約当事者の民事責任(契約違反や危険負担)についての法律的常識に反することを労働省が指針として示すことになる。 (3)付帯決議の趣旨を歪めてはならない
この点については、衆院、参院での付帯決議にも類似の表現があり、強い疑問を感じていたところである。付帯決議の文言はたしかに曖昧であるが、その趣旨は、労働者保護にあることは明確である。 6 同一業務の判断基準を明確に (1)係や班を単位に同一業務を判定することは不適当である
派遣先に対する指針の14について、 (2)経営(事業所)単位の判定が必要である 指針が、実態を重視するというのは当然であるが、ドイツのように「事業所」単位に判定して、紛れや脱法が生じないように明確な基準を設けるしかない。 7 年齢差別や障害者差別をしないための効果的措置 (1)年齢・障害による差別禁止 労働者派遣事業や有料職業紹介業者が、高年齢者や障害者の派遣紹介や職業紹介に消極的であるという弊害が少なくない。しかし、今回の労働者派遣法改正や職業安定法改正では、この点での弊害拡大について効果的な措置が予定されていない。指針案などでも、この点についての措置が見られない。 派遣登録者や求職者について、年齢差別や障害者差別がないように、明確な指針を定めるべきである。 (2)年齢の記載・申告の禁止
これまでの派遣労働者からの相談では、「35歳の壁」が問題になることが多い。35歳を超えると派遣紹介がないとか、35歳を超えたら、本来であれば労働能力が向上しているのに、時給を下げないと紹介がないという例がある。 (3)障害者差別・障害者雇用促進法脱法の規制
また、障害者雇用については、労働省は、労働者派遣事業者が、障害者雇用促進法を遵守しているか調査結果を公表していない。新聞報道では、 8 紹介予定派遣は導入するべきではない
期間1年の新たな派遣自由化業務では、1年後に直用の可能性が生まれたのであり、これと平行して「紹介予定派遣」を導入することは、大きな混乱を生むものである。 9 実効的な労働行政体制の確立 (1)新しい法令を遵守する労働行政の誠実な態度を強く要請する
派遣労働者から、驚くような内容の相談が殺到している現実を直視するべきである。 労働行政が、法律を無視し、違法な慣行を野放しにするのであれば、無法そのものである。労働者派遣法については、1985年の施行以降、法規制を無視した慣行が野放しになっていると思わざるを得ない。 政令・省令、指針などで具体的な措置が定められても、現実にそれを守る姿勢や組織的・人員的な体制が用意されていなければ、現実には違法がまかり通ってしまう。 労働行政として、労働者派遣法の違反を摘発する事例は僅少すぎる。外国人労働者の違法リクルーターなどの摘発では、警察や入国管理当局が、労働省以上に労働者派遣法や職業安定法違反を摘発している。 労働者保護の視点から、労働行政が、積極的に法違反を許さないという姿勢をとるべきであり、行政指導だけでなく、必要な場合には刑事告発を行うべきである。そのために、労働行政として法律を遵守する体制を確立するべきである。 (2)違法な偽装請負を取り締まるべきである 労働行政が、違法な慣行を取り締まらないままでは、今回の労働者派遣法改正で導入された新たな規制を逃れる目的で、偽装請負の形式で違法派遣が拡大する危険性がある。
さらに、個人請負の脱法形式も広がっている。この労働者の個人請負化による脱法を許さないための具体的な基準を示すべきである。 違法な偽装請負や偽装事業主化を許さないために、公共職業安定所のなかで、違法派遣・偽装請負を取り締まる担当者を大幅に増加するべきである。 (3)労働者派遣事業や有料職業紹介事業を対象とした労働基準の特別監督をするべきである 労働者派遣事業や有料職業紹介事業の規制緩和が、労働基準法違反の拡大を野放しにするものであってはならないと考える。 労働者派遣法施行13年間で、派遣労働者を特別の対象とした労働基準監督が行なわれたという報告を知らない。毎年、労働者派遣事業を特別の対象とした労働基準監督を行い、それを毎年報告することが必要である。 例えば、労働者派遣事業について、労働者の年次有給休暇等の取得率を事業者ごとに調査すれば、取得率が異常に低い業者の取り締まりなどが対策として浮かんでくるはずである。 労働者派遣事業を監督すれば、あまりにも違反が多くて通常の監督業務ができないということも推測できる。もし、そうであれば本末転倒であり、違反を取り締まるための監督官の大幅増員などの措置をとるべきである。 また、有料職業紹介業者が、紹介した紹介先の労働条件が労働基準法等に違反していないかの定期的な監督とその報告が必要である。 10 パブリックコメントの募集方法についての苦情 (1)議論を公開してパブリックコメントの募集をするべきである。
今回、労働者派遣法・職業安定法関連政省令・指針などについて、いわゆる (2)インターネットに示された政省令・指針案に重要な内容が欠けている
「別添」とされているのは、政令案要綱、省令案要綱、指針、基準など合計12である。しかし、公開するべき重要な情報が公開されていない。 (3)コメントするための期間を延長するべきである。
「10月4日から10月24日」までに意見を寄せるようにという要項がインターネットに掲載されたのは、10月4日の直前である。 |