(updated August 30 1996)

派遣型労働者の『団交権』確立

 朝日放送・派遣労働者団体交渉事件 最高裁判決の解説

 最高裁は、1995年2月28日、朝日放送で働く派遣労働者が、派遣先の親会社である朝日放送に対して求めた団体交渉について、派遣先の団体交渉応諾義務を広く認める、注目すべき判決を下しました(この派遣労働者の労働組合=「民放労連近畿地区労組」の他の事件での活躍は、『がんばってよかった』に掲載されていますので、どうぞお読み下さい)。

 このページは、この最高裁判決についての解説です(民放労連第81回定期大会の資料『派遣的労働者の労働条件引き上げを〜最高裁朝日放送事件判決を生かそう〜』の一部として、依頼されまとめたもの)。注目すべき判決文も、そのまま掲載します。

 派遣労働者の権利を守るためには、困難な条件が少なくありませんが、派遣労働者自身の団結活動が重要であること、また、その権利を改めて確認する判決だと思います。

 新聞などではあまり注目されなかった判決ですが、その後、法律関係の雑誌ではおおいに注目され、かなり判例評釈が出ています。判明した限り掲載しました。


〔目次〕


派遣型労働者の『団交権』確立 最高裁判決の解説

                     脇田 滋

1.最高裁判決に至る経過

(1)最高裁判所(第3小法廷)は1995年2月28日に言い渡した朝日放送事件の判決で、放送番組制作現場で派遣的労働関係で働く労働者が所属する労働組合から、団体交渉を求められた派遣先の放送会社が、この交渉を拒否したことが、労働組合法第7条2号の禁止する不当労働行為であると明確に判示し、団交応諾を命じた中労委命令を支持した。

(2)朝日放送の番組制作には、早くから下請会社からの派遣による労働力利用が拡大していたが、1960年代の後半からこの派遣労働者の属する労働組合(民放労連近畿地区労組)が、派遣先の朝日放送に対して、団体交渉を求める等の労働組合活動を展開し始めた。朝日放送が、この団体交渉を拒否したために、1976年、労働委員会に救済申立てが行われ、大阪地労委も中労委も団体交渉に応諾するように救済命令を出したが、会社は、その取消を求めて東京地裁に行政訴訟を提起した。東京地裁は中労委命令を支持したが、東京高裁は逆に中労委命令を支持して、会社の団体交渉に応ずべき責任を否定したので、最高裁の判断が大いに注目されていた。ようやく最高裁の右の判決で、朝日放送が下請労働者の属する労働組合との団体交渉に応ずべき「使用者」であることが確認され、19年に及ぶ争訟に最終的な法的決着がついたのである。

2.最高裁判決の要点

 この判決は、派遣的な労働関係で派遣先が、「使用者」として団体交渉に応ずべきことを明確に認めた点で画期的な内容をもっている。

(1)労組法7条2号の「使用者」

 判決は、労働組合法7条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主であるが、不当労働行為制度の目的から、「雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は労働組合法7条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である」と判示している。

 具体的な朝日放送の事案では、請負3社は独立の事業主体であり、朝日放送は労働契約上の雇用主でないが、(1)派遣労働者が従事すべき業務の全般につき細部に至るまで自ら決定していたこと、(2)請負3社は、単に一定の従業員のだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎないこと、(3)派遣労働者は、朝日放送から支給ないし貸与される器材等を使用し、その作業秩序に組み込まれて正社員と共に番組制作業務に従事していたこと、(4)作業の進行はすべて朝日放送の従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたと認定した。これらの事実を総合すれば、朝日放送は実質的にみて、派遣労働者の基本的な労働条件等について、雇用主である請負3社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったから、その限りにおいて、労働組合法7条にいう「使用者」に当たる。

(2)団交の対象事項

 朝日放送は、自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ、地区労組との団体交渉を拒否することができない。ところが、朝日放送は、昭和49年9月24日以降、賃上げ、一時金の支給、下請会社の従業員の社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改善等の交渉事項について団体交渉を求める地区労組の要求について、使用者でないことを理由としてこれを拒否したのであり、右交渉事項のうち、朝日放送が自ら決定することのできる労働条件(中労委命令中の「番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に係る諸条件」はこれに含まれる。)の改善を求める部分については、朝日放送が正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否した行為は、労働組合法7条2号の不当労働行為を構成する。

3.最高裁判決の意義

 この最高裁判決の意義は、次の三つの点に要約することができる。

(1)団体交渉に応ずべき使用者

 まず第1に、判決は、これまでの最高裁判決の流れに沿って、団体交渉に応ずべき使用者を、労働契約の当事者に狭く限定することなく、労働条件について実質的に支配的な地位にある者と広く捉らえるべきであることを再確認した。

 派遣的な労働関係においても派遣先(受入れ)会社が、団体交渉に応ずる使用者としての責任を負うと判断した最高裁判決の先例として、油研工業事件(昭和51年5月6日)判決があった。この事件は、設計部門を形式的に独立の別会社として、事業場内で正規社員と同様に勤務していた下請労働者の団体交渉要求について、受入れ企業が労働条件を実質的に支配していたことから、団体交渉の使用者責任を負うことを認めていた。

 この事件と同じ日に出された中日放送事件判決では、放送会社が労働条件を実質的に支配していることを根拠に独立自営業形式の楽団員の労働者性を認め、中日放送が団体交渉に応ずべき使用者であることと判示し、その後の阪神観光事件・昭和62年2月26日判決も、中日放送事件とほぼ同じ立場を示していた。

 ところが、朝日放送事件の東京高裁判決は、使用者概念について特別な事情がない限り契約当事者の一方が団体交渉に応ずべき使用者であると、一般論として雇用契約という形式を重視することが「常識」であるとして、右の最高裁判決とは逆方向の考え方を選んだのである。そして、独自の事実認定に基づいて、番組制作現場の労働実態についても形式的な判断を採用して、派遣先の朝日放送が団体交渉に応ずべき使用者ではないと判示していた。

 上告審では、最高裁判所が東京高裁判決の論理を支持して労働契約の当事者に団体交渉に応ずべき使用者を限定するのか、それとも、従来の油研工業事件等の判決の論理に従って、団体交渉に応ずべき使用者の範囲を受入れ企業にまで広げるのか、法律論として大いに注目されることになった。

 結局、最高裁判所は東京高裁の独自の考え方を明確に否定し、労働委員会や裁判所が示し、学界でも広く支持されてきた「使用者」の概念を維持した。労働条件に影響を与える者が使用者として、労働組合法第7条2号が定める団体交渉に応ずる使用者の責任を負担することを明らかにした。この判決は、派遣的な労働関係一般に影響する内容をもっているが、使用者性の判断について形式にこだわらず実態を重視するという労働法的良識を示したと言えるのである。

(2)派遣的労働関係と団体交渉

 次に、今回の最高裁判決は、1985年に労働者派遣法が成立して以降初めて、派遣的労働関係における団体交渉に応ずべき使用者の範囲と団体交渉の対象事項について判断を下したものである。

 放送番組制作における下請労働の利用は、請負の実体がなく職業安定法による労働者供給事業の禁止(同法第44条)に違反する等の問題が提起されていた。職業安定法を厳格に運用するのではなく、実態に合せて法改正をしようとしたのが労働者派遣法制定であった。

 この労働者派遣法は、派遣的労働関係において労働基準法や労働安全衛生法の定める使用者の責任について、派遣先と派遣元に複雑に配分をしていた。しかし、集団的な労働関係については、この点が明確でなかったが、同法の制定過程で労働省の当局者は、派遣先が団体交渉に応ずべき責任を負担するか否かは、司法の判断に委ねるとして、明確に肯定も否定もしなかった。

 労働者派遣法制定のときには、明確でなかったこの団体交渉に応ずべき使用者の問題について、労働者派遣法が施行されて9年面にして初めて司法部の最高機関である最高裁判所によって、決着がつけられたのである。最高裁判決は、派遣的な労働関係で、派遣元だけでなく、派遣先にも団体交渉を求めることを認めた。最高裁判決は、朝日放送の事案だけでなく派遣的労働関係一般において、派遣先が派遣労働の労働組合が求める団体交渉に応ずべきことを確認したのである。労働者派遣法が施行され、現実には同法による「合法派遣」と請負形式を偽装した「違法派遣」、さらに実体のある請負形式等が混在している。最高裁判決は、こうした、派遣的労働関係であれば、合法・違法を問わず、また、請負の実体があるか否かにかかわらず、派遣労働者の労働組合が団体交渉を求めたとき、派遣先や受入れ企業は、団体交渉を拒否することができず、労働組合法7条2号の定める使用者としての責任を負担するということである。

(3)派遣先と派遣労働者の労働組合の団体交渉の役割

 最高裁判決の第3の意義は、派遣先と派遣労働者の属する労働組合の団体交渉・労働協約のもつ重要な役割と課題を改めて浮かびあがらせたことである。

 最高裁判決は、単に派遣的労働関係の拡大のなかで、派遣先会社の団体交渉における使用者性を再確認しただけでなく、派遣先が応ずべき団交の対象事項についてもかなり広くとらえる考え方を明らかにした。

 つまり、大阪地労委救済命令は、社員化要求や配転を対象事項から除外し、朝日放送事件の中労委救済命令は、労働者派遣法が放送業務に関連して施行される直前にあたる1986年9月に出されたが、同命令は、派遣先の団体交渉に応諾するべき事項を「就労に係る諸条件」にだけ限定した。この命令には、労働者派遣法が個別的労働関係において、使用者の責任を派遣元と派遣先に擬制的に配分したのを、集団的な関係においても追認する考え方が表れている。これに対して、最高裁判所は、このような限定を加えることなく、派遣先が自ら決定することのできる労働条件の改善を求める要求は、すべて団体交渉事項であると判示しており、労働委員会よりも広く団体交渉の対象事項を捉らえている。

 労働者派遣法が施行されて10年目を迎えるが、実態として重層下請や二重派遣が拡大している。こうした複雑で錯綜した労働関係が、労働者派遣法によって公認されたかのように思われているが、実際には違法派遣が少なくない。しかし、個別の労働契約論にこだわっていては、派遣先と派遣労働者の間に労働契約の存在を前提にした現実的な解決は、きわめて困難な事例が増加している。

 最高裁判決は、こうした場合でも、労働条件を実質的に支配する派遣先会社が、派遣労働者の労働組合と団体交渉に応ずる義務があることを明らかにしたのであって、問題の解決に向けて大きな方向を示すことになった。

 労働組合は憲法28条で労働3権を保障され、労働組合法によって不当労働行為からの保障などより具体的な権利が与えられた特別な団体である。このように特別な法的地位が認められるのは、労働組合が構成員の利益を守るだけでなく、未組織労働者を含めた一定の地域、産業、職業、事業場に所属する労働者全体を代表することを期待された組織だからである。

 複雑な労働関係の下で、派遣労働者や事業場内下請労働者と受入れ企業の正規従業員の格差は、賃金、雇用継続、福利厚生・社会保険に及び、もはや合理的差別と正当化できないものである。最高裁判決は、派遣的労働関係それ自体を否定するものではないが、派遣労働者の団結活動や派遣先会社との団体交渉の権利を確認している。要するに、最高裁は派遣的労働関係においては、同一労働同一賃金原則の実現や使用者責任の明確化、さらに格差是正や不公正の改善を、団体交渉を通じた集団的関係において進めるべきであると考えている。

 要するに、今回の最高裁判決は、派遣労働者や下請労働者を組織し、その要求について取り組む労働組合の活動を積極的に位置づけたという意味できわめて大きな意義をもっており、この分野での労働組合の団体交渉や労働協約の活発な展開が大いに期待されているのである。

【以上、1995年夏の民放労連パンフレット掲載の原稿から】


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★朝日放送団体交渉事件判決・関連資料

〔判決文〕

◎朝日放送事件・最高裁三小・平7・2・28判決

◎朝日放送事件・東京高裁平4・9・16判決

◎朝日放送事件・東京地裁平2・7・19判決

◎朝日放送事件・中労委昭61・9・7判決

◎朝日放送事件・大阪地委昭53・5・26判決

〔判例評釈・解説〕

◎朝日放送事件・東京地裁平2・7・19判決

◎朝日放送事件・東京高裁平4・9・16判決

◎朝日放送事件・最高裁平7・2・28判決


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最高裁第3小法廷平成7年(1995年)2月28日判決

上告人        中央労働委員会

右代表者会長        萩沢清彦

右指定代理人       猪瀬慎一郎

              小林 昇

              森本幹生

             長久保明子

右補助参加人

      民放労連近畿地区労働組合

右代表者執行委員長     野村雅美

右訴訟代理人弁護士     豊川義明

             津留崎直美

              斎藤 浩

              森 信雄

              飯高 輝

              宮里邦雄

              岡田和樹

              中野麻美

被上告人      朝日放送株式会社

右代表者取締役       藤井桑正

右訴訟代理人弁護士     高坂敬三

 右当事者間の東京高等裁判所平成二年(行コ)第一〇八号不当労働行為救済命令取消請求事件について、同裁判所が平成四年九月一六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあり、被上告人は上告棄却の判決を求めた。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

 主文

 原判決を破棄する。

 被上告人の本訴請求のうち、別紙(一)記載の部分につき、本件を東京高等裁判所に差し戻す。

 理由

 上告代理人鈴木重信、同中津俊雄、同高橋正智、同阿部浩志の上告理由及び上告補助参加代理人豊川義明、同津留崎直美、同斎藤浩、同森信雄、同飯高輝の上告理由について

 一 事実関係

 原審の適法に確定したところによれば、本件の事実関係の概要は、次のとおりである。

 1 大阪府地方労働委員会は、上告補助参加人を申立人、被上告人を被申立人とする大阪地労委昭和五一年(不)第四号不当労働行為救済申立事件について、昭和五三年五月二六日付けで、別紙(二)(略)のとおりの命令(以下「初審命令」という。)を発した。被上告人及び上告補助参加人の再審査申立て(中労委昭和五三年(不再)第二五号、第二六号事件)に対し、上告人は、昭和六一年九月一七日付けで、別紙(三)(略)のとおりの命令(以下「本件命令」という。)を発した。

 2 被上告人は、大阪市に本社を置いてテレビの放送事業等を営む会社であり、本件初審審問終結当時(昭和五二年五月一三日)の従業員は約八〇〇名であった。上告補助参加人は、近畿地方所在の民間放送会社等の下請事業を営む企業の従業員で組織された労働組合である。

 株式会社大阪東通は、被上告人など近畿地方所在の民間放送会社からテレビ番組制作のための映像撮影、照明、フィルム撮影、音響効果等の業務を請け負う等の事業を目的とする会社であり、本件初審審問終結当時の従業員は約一六〇名であった。右従業員のうち約五〇名は、後記請負契約に基づき、被上告人の番組制作の現場においてアシスタント・ディレクター、音響効果等の業務に従事し、このうち上告補助参加人の組合員は三名であった。株式会社大東は、大阪東通のほか、近畿地方所在の民間放送会社等からの照明業務の請負の事業を目的とする会社であり、本件初審審問終結当時の従業員は約三〇名であった。右従業員のうち約一〇名は、後記請負契約に基づき、被上告人の番組制作の現場において照明業務に従事し、このうち上告補助参加人の組合員は二名であった。関東電機株式会社(以下、大阪東通、大東と併せて「請負三社」という。)は、被上告人など近畿地方所在の民間放送会社、ホール、劇場等における照明業務の請負の事業を目的とする会社であり、本件初審審問終結当時の従業員は約七〇名であった。右従業員のうち約一〇名は、後記請負契約に基づき、被上告人の番組制作の現場において照明業務に従事し、このうち上告補助参加人の組合員は二名であった。

 3 被上告人は大阪東通及び関東電機との間で、それぞれ、テレビの番組制作の業務につき請負契約を締結して、継続的に業務の提供を受け、大東は大阪東通と請負契約を締結し、これにより、大阪東通が被上告人から請け負った業務のうち照明業務の下請をした。請負三社は、右請負契約に基づきその従業員を被上告人の下に派遣して番組制作の業務に従事させ、右各請負契約においては、作業内容及び派遣人員により一定額の割合をもって算出される請負料を支払う旨の定めがされていた。

 番組制作に当たって、被上告人は、毎月、一箇月間の番組制作の順序を示す編成日程表を作成して請負三社に交付し、右編成日程表には、日別に、制作番組名、作業時間(開始・終了時刻)、作業場所等が記載されていた。請負三社は、右編成日程表に基づいて、一週間から一〇日ごとに番組制作連絡書を作成し、これによりだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定することとしてたが、実際には、被上告人の番組制作業務に派遣される従業員はほぼ同一の者に固定されていた。請負三社の従業員は、その担当する番組制作業務につき、右編成日程表に従うほか、被上告人が作成交付する台本及び制作進行表による作業内容、作業手順等の指示に従い、被上告人から支給ないし貸与される器材等を使用し、被上告人の作業秩序に組み込まれて、被上告人の従業員と共に番組制作業務に従事していた。請負三社の従業員の業務の遂行に当たっては、実際の作業の進行はすべて被上告人の従業員であるディレクターの指揮監督の下に行われ、ディレクターは、作業時間帯を変更したり予定時間を超えて作業をしたりする必要がある場合には、その判断で請負三社の従業員に指示をし、どの段階でどの程度の休憩時間を取るかについても、作業の進展状況に応じその判断で右従業員に指示をするなどしていた。

 請負三社の従業員の被上告人における勤務の結果は当該従業員の申告により出勤簿に記載され、請負三社はこれに基づいて残業時間の計算をした上、毎月の賃金を支払っていた。

 4 請負三社は、それぞれ独自の就業規則を持ち、労働組合との間で賃上げ、夏季一時金、年末一時金等について団体交渉を行い、妥結した事項について労働協約を締結していた。

 5 上告補助参加人は、被上告人に対して、昭和四九年九月二四日以降、賃上げ、一時金の支給、下請会社の従業員社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改善等を議題として団体交渉を申し入れたが、被上告人は、使用者でないことを理由として、交渉事項のいかんにかかわらず、いずれもこれを拒否した。

 二 原審の判断

 右事実関係の下においては、原審は、上告補助参加人の組合員である請負三社の従業員との関係では、被上告人は労働組合法七条の「使用者」に当たらず、したがって、被上告人と上告補助参加人との間では同条二号の不当労働行為が成立する余地はなく、同条三号の支配介入による不当労働行為について判断を加えるまでもないとして、本件命令を取り消すものとした。

 三 当裁判所の判断

 1 労働組合法七条にいう「使用者」の意義について検討するに、一般に使用者と労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることにかんがみると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、右事業主は労働組合法七条の『使用者』に当たるものと解するのが相当である。

 これを本件についてみるに、請負三社は、被上告人とは別個独立の事業主体として、テレビの番組制作の業務につき、その雇用する従業員を被上告人の下に派遣してその業務に従事させていたものであり、もとより、被上告人は右従業員に対する関係で労働契約上の雇用主に当たるものではない。しかしながら、前記の事実関係によれば、被上告人は、請負三社から派遣される従業員が従事すべき業務の全般につき、編成日程表、台本及び制作進行表の作成を通じて、作業日時、作業時間、作業場所、作業内容等その細部に至るまで自ら決定していたこと、請負三社は、単に、ほぼ固定している一定の従業員のうちのだれをどの番組制作業務に従事させるかを決定していたにすぎないものであること、被上告人の下に派遣される請負三社の従業員は、このようにして決定されたことに従い、被上告人から支給ないし貸与される器材等を使用し、被上告人の作業秩序に組み込まれて被上告人の従業員と共に番組制作業務に従事していたこと、請負三社の従業員の作業の進行は作業時間帯の変更、作業時間の延長、休憩等の点についてもすべて被上告人の従業員であるディレクターの指揮監督下に置かれていたことが明らかである。これらの事実を総合すれば、被上告人は実質的にみて、請負三社から派遣される従業員の勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等を決定していたのであり、右従業員の基本的な労働条件等について、雇用主である請負三社と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったものといいうべきであるから、その限りにおいて、労働組合法七条にいう「使用者」に当たるものと解するのが相当である。

 そうすると、被上告人は、自ら決定することができる勤務時間の割り振り、労務提供の態様、作業環境等に関する限り、正当な理由がなければ請負三社の従業員が組織する上告補助参加人との団体交渉を拒否することができないものというべきである。ところが、被上告人は、昭和四九年九月二四日以降、賃上げ、一時金の支給、下請会社の従業員の社員化、休憩室の設置を含む労働条件の改善等の交渉事項について団体交渉を求める上告補助参加人の要求について、使用者でないことを理由としてこれを拒否したのであり、右交渉事項のうち、被上告人が自ら決定することのできる労働条件(本件命令中の「番組制作業務に関する勤務の割り付けなど就労に係る諸条件」はこれに含まれる。)の改善を求める部分については、被上告人が正当な理由がなく団体交渉を拒否することは許されず、これを拒否した被上告人の行為は、労働組合法七条二号の不当労働行為を構成するものというべきである。

 2 以上のとおりであるから、原判決には労働組合法七条の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。原判決中、本件命令の主文第一項に関する部分については、取消請求を棄却した第一審判決は正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきであるが、本件命令主文第二項の維持した初審命令主文第二項に関する部分(別紙(一)記載の部分)については、被上告人が同条の「使用者」に当たることを前提にした上で、同条三郷の不当労働行為の成否につき更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。

 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九八条、三八四条、四〇七条一項、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

 最高裁判所第三小法廷

    裁判長裁判官 園部逸夫

       裁判官 可部恒雄

       裁判官 大野正男

       裁判官 千種秀夫

       裁判官 尾崎行信


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【注】

労働組合法第7条

(不当労働行為)

第七条 使用者は、左の各号に掲げる行為をしてはならない。
一 労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを
結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもつ
て、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること又は
労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条
件とすること。但し、労働組合が特定の工場事業場に雇用される労働者の過
半数を代表する場合において、その労働者がその労働組合の組合員であるこ
とを雇用条件とする労働協約を締結することを妨げるものではない。
二 使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなく
て拒むこと。
三 労働者が労働組合を結成し、若しくは運営することを支配し、若しくはこれ
に介入すること、又は労働組合の運営のための経費の支払につき経理上の援
助を与えること。但し、労働者が労働時間中に時間又は賃金を失うことなく
使用者と協議し、又は交渉することを使用者が許すことを妨げるものではな
く、且つ、厚生資金又は経済上の不幸若しくは災厄を防止し、若しくは救済
するための支出に実際に用いられる福利その他の基金に対する使用者の寄附
及び最小限の広さの事務所の供与を除くものとする。
四 労働者が労働委員会に対し使用者がこの条の規定に違反した旨の申立をした
こと若しくは中央労働委員会に対し第二十七条第四項の規定による命令に対
する再審査の申立をしたこと又は労働委員会がこれらの申立に係る調査若し
くは審問をし、若しくは労働関係調整法(昭和二十一年法律第二十五号)に
よる労働争議の調整をする場合に労働者が証拠を提示し、若しくは発言をし
たことを理由として、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取
扱をすること。
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職業安定法第44条

(労働者供給事業の禁止)

第四四条 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又は
その労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働
させてはならない。
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憲法28条

 (勤労者の団結権・団体交渉権その他団体行動権)

第二十八条 勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、
これを保障する。

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