WWN(Working Women's Network)のWWNニュースレター第11号(1998.4.1)に掲載した「会員による連続エッセイ」です。派遣110番で相談にあたっている私の個人的な状況を紹介したものです。


         インターネット派遣110番の1年半

                   脇田 滋(龍谷大学・労働法)

 本と資料に埋もれた中で、私の愛用パソコンは、一昨年夏以来、派遣労働者から電子メールで相談を受け、回答を発信する110番マシンになっています。

 「派遣先で物が無くなったら、管理のズサンさを問題にせず、派遣社員が真っ先に疑われて悔しい」
 「社会保険に加入したいと言ったら、時給を下げられた」  「正社員としていい就職口が見つかったのに、派遣の期間満了まで働かないと契約違反の責任を追及するぞと営業にすごまれ、辞めたいのにやめられない」
 「40歳や50歳まで続けたいが、派遣では無理でしょうか?」
 「テンプ・スタッフに登録した個人情報が盗まれてから、変な電話が増えたようで不安に思う」(*)
 (*)98年1月に発覚した、大手派遣会社テンプ・スタッフに登録していた派遣労働者9万人分の個人情報が盗まれ、インターネットを通じて5万円で販売されていた事件。

 民主法律協会派遣労働研究会で了解を得て、派遣110番のホームページを開設したところ、待ちかねていたように、日本全国から毎日のように相談が寄せられてきます。情報処理、OA機器操作、インストラクター、機械設計など、コンピューター関連の派遣労働者が中心ですが、1年半で相談者は約250人を超え、回答や礼状など往復で800通近くになっています。あちこちで取り上げられ、リンクしてもらえるようになって最近では、かなりの数の相談が来ます。
 相談者の7割から8割が女性です。男女雇用機会均等法ができたとき、総合職と一般職の複線コースが注目されました。しかし、私には、同時期に銀行・商社などの系列派遣子会社が設立されたことが気になっていました。10年経過して、民間企業は、女性正社員の採用をストップして、契約社員や派遣社員に切り替えることを公然と表明するようになっています。この2月に日興證券は、女性正社員を派遣子会社に転籍して、派遣社員として受け入れるというリストラ策を発表しました。このニュースを聞いて、証券業界ではないが自分の会社でも同様なことが近々おきる予感がするが、どうしたらいいのかといった内容の相談も届いています。
 いま京滋地区の私大教連の役員をしています。民主的(?)私大の教職員組合(専任のみを組織)までもが、大学生き残りのためには、女性は、主に3年で雇止め(解雇)の「契約職員」として採用する方針を容認しています。これは、派遣対象業務が自由化されれば、すぐに派遣社員に切り替えられる雇用形態だと思います。
 「女性だけに3年の雇用期限を定めるのは差別定年制の形を変えた復活ではないか」「女性正職員が100人なのに女性契約職員が200人の比率にまでなっている。組合として契約職員を組織すべきだ」などと労働組合の役割を熱心に説いています。理解しない単組役員を相手にした長時間の討議に疲れて、イライラした気分で家に帰ることが多くなっています。

 夜おそく相談メールをのぞいては、シコシコと回答を書いています。労働組合も力になってくれず、孤立した派遣労働者は見ず知らずの私にしか、悔しさや不安を訴えることができないのです。
 回答は、基本的な労働基準法の説明から戦術指導まで、ときには内容証明郵便の書き方までと多様なものです。例は多くありませんが、民法協派遣労働研究会を通じて松山や静岡の弁護士を紹介したり、地域労組にも力になってもらって、解決金として賃金2ヵ月分の退職金を獲得したこともあります。
 個人的には110番を続けていくのはなかなか大変ですが、電子メールの情報が蓄積しています。かなりたまってきた回答例を、「社会保険」「年次有給休暇」「セクハラ」「解雇」「問題の解決方法」などの項目に整理して、適当にコピーしながら、条文や判例を紹介して、長くて硬い、まるで「論文のような」回答しか書けません。

 「おかげで年次有給休暇を取得できました」
 「私に落ち度がないことが判りました。強い態度で交渉できます」
 「このページがあって、タンスの引き出しが増えたような気がします」

 こんな礼状が届くと、すっかり嬉しくなってしまいます。

 最近、大阪労連が、私の110番相談活動を一つの素材に、「派遣労働! 知って得する権利手帳」というミニパンフを3万部も作って配布することになりました。

 忙しいけれど、110番活動は「ますます」やめられないのです。

 アドレスは、下記の通りです。お近くに派遣労働者の方がおられたら、ホームページをのぞいて、よければメールを書くように勧めてみてください。

homepage http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT
E-mail MAH01517@nifty.ne.jp
                             以上