同志社大学嘱託講師契約書をめぐる個人的見解

　同志社大学から嘱託講師契約書を送付を受けた何人かの方から、同様な相談が相次いでおります。既に、口頭で意見を述べた方もありますが、法的な問題点を要約して個人的見解を整理することにしました。

　まず、以下の文書が送られて来たとのことです。一般的な法的説明の後に、これら文書についてコメントをしたいと思います。
　　　Ａ　同志社大学嘱託講師契約書について(お願い)
　　　Ｂ　同志社大学嘱託講師に関する規程
　　　Ｃ　同志社大学嘱託講師契約書

　今回の嘱託講師規定・同契約書は、大学側の勝手な都合で定められたものですが、その手続きと内容の不備を突くことで、非常勤講師（嘱託講師）の地位の改善をはかる機会にもできると思います。

　ただ、今回の契約書送付についての詳しい経過や大学側の意図については私には、いまのところ詳しくは分かりません。当局や関係者からの聞き取りが必要であると思います。その点を留保したうえでの現時点の個人的見解です。

〔１〕考えられる一般的な問題点

（１）問題の本質　従来の「建て前」を改め、「本音」を契約文書化、同意を強制

　今回の問題の真の原因は、専門的知識をもつ講師に「お願いして来ていただく」という「建て前」での「非法的な雇用慣行」を改め、講師を大学の都合で「雇ってやる」という「本音」に基づいて、文書で使用者（大学）にのみ都合のよいかたちで労働条件を文書化（労働条件の法化）し、それへの同意を講師に強制していることにあると思います。

　たしかに、労働条件についての明確な文書もないまま講師が働くという、「非法的」な雇用慣行に比べて、文書で「労働条件の明示」するという点で、労働関係を「法化」することは、ある意味では労働法の要請するところと言えます。その限りでは、労働条件を明示した契約を文書で結ぶこと、それ自体は拒否しにくいと思います。

　しかし、問題は、労働者に一方的に不利な、逆に、大学側に一方的に有利な条件で、労働関係が「法化」されること、つまり、不当な内容の契約を、不当な手続きで強制されることです。とくに、不安定な雇用形態、低い労働条件、一方的な解約権など、使用者側に一方的に有利な内容の「嘱託講師契約」を文書で確認させられることに、多大な危惧を感じるのは、当然のことだと思います。

　今回の問題の本質は、まさに、現実の嘱託講師（非常勤講師）の低劣かつ不当な処遇を追認させ、異議申立てを許さないで、突然一方的に送りつけて同意を強制するという、使用者（大学）側の、（１）横暴と感じれられる一方的な手続き・対応と、（２）契約内容の不当性、にあると思います。

（２）使用者による労働条件明示義務

　一般的に、労働者が使用者に雇われて働くときには、就労の前に労働条件を文書で明示させることが、労働法の基本的な要請です。つまり、労働条件が文書で明示されていないときには、実際にトラブルがあったときに、強い契約当事者である使用者（会社など）が、自分勝手な内容で、契約を解釈したり、労働者に一方的に不利な条件を押しつけかねないからです。

　むしろ、労働条件の文書による明示は、働く側を拘束しますが、同時に働かせる側をも拘束する点で、労働者にとっては「有利な」ことだというのが一般的な理解です。

　労働基準法は、最低基準を定める法律ですが、そのなかでも、労働条件の明示をできるだけ文書で行うことが強く求められています。とくに、文書で明示するべき事項が、同法、同法施行規則のなかで次のように定められています。

《労働基準法　第１５条》《改正》平10法112

第１５条　使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の命令で定める事項については、命令で定める方法により明示しなければならない。

　２　　前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。

　３　前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

　ここで言う、「命令」とは労働基準法施行規則のことです。

《労働基準法施行規則》

　第５条〔労働条件〕
　使用者が法第１５条第１項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする。
　ただし、第４号の２から第１１号までに掲げる事項については、使用者がこれらに関する定めをしない場合においては、この限りでない。
　１　労働契約の期間に関する事項
　１の２　就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
　２　始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を２組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項　３　賃金（退職手当及び第５号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。）の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
　４　退職に関する事項
　４の２　退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
　５　臨時に支払われる賃金（退職手当を除く。）、賞与及び第８条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
　６　労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
　７　安全及び衛生に関する事項
　８　職業訓練に関する事項
　９　災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
　１０　表彰及び制裁に関する事項
　１１　休職に関する事項

　２　法第１５条第１項後段の厚生労働省令で定める事項は、前項第１号から第４号までに掲げる事項（昇給に関する事項を除く。）とする。
　３　法第１５条第１項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。

　命令（労働基準法施行規則）は、上記の通り、第５条で明示するべき労働条件を挙げていますが、そのうち、下記の事項を文書で示すことが必要です（同施行規則第５条第２項、第３項）。

　　　1　　労働契約の期間に関する事項
　　　1の2　就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
　　　2　　始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を２組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
　　　3　　賃金（退職手当及び第５号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。）の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期
　　　4　　退職に関する事項

　非常勤講師（同志社でいう、嘱託講師）も労働基準法が適用される「労働者」と考えられますので、最低基準として、上記の労働基準法第１５条所定の「賃金及び労働時間に関する事項その他の命令で定める事項」については、命令で定める方法、つまり、書面（文書）を交付することが必要ということになります。

　今回の嘱託講師契約書は、法的には、この労働基準法、同施行規則に基づいて労働条件を文書で明示するもの、というのが大学側の言い分だと推測します。

　それならそれで、労働者側としては、労働基準法、労働基準法施行規則に徹底してこだわり、明示されていない事項についても明示をするように求めることが考えられます。その他の労働関連法規（社会保険・労働保険関連も含む）についても、都合よく不適用にしている点については完全適用を求めることができると考えられます。

（３）パート労働法・同指針の活用

　１９９３年、通称「パート労働法（「短時間労働者の雇用管理の改善などに関する法律」→【参考資料　４】）が制定されました。パートタイマー（短時間労働者）の労働条件や処遇について不備なことが多いことから制定され、労働行政の指針（→【参考資料　１】）によって具体的な改善措置が示されています。ただ同法は、労務管理の担当者にも、また、労働組合役員にも、まだ十分に内容が知られていません。

　この法律そのものは批判されるべき不十分点があります。しかし、同法は、ＩＬＯのパート条約を受けたものであり、指針も含めて、「建て前」では、「比例的同等待遇」をパートタイム労働者に保障しています。「同一労働差別待遇」の現実を批判し、改善をさせていくためには、これらの法律や指針を最大限に活用していくことも必要だと思います。

　今回の問題でも、同法や同指針の内容から、契約書の送付やその内容を批判することができると思います。非常勤講師（嘱託講師）に対して、パート労働法を適用しない、とは言えないと思います。そうした点からも、不当な対応をはねかえしたり、一定の改善を求めることができると思います。

　《パート労働法》

　第２条（定義）
　この法律において「短時間労働者」とは、一週間の所定労働時間が同一の事業所に雇用される通常の労働者（当該事業所に雇用される通常の労働者と同種の業務に従事する当該事業所に雇用される労働者にあっては、厚生労働省令で定める場合を除き、当該労働者と同種の業務に従事する当該通常の労働者）の一週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。

　嘱託講師（非常勤講師）も同法第２条の定義からは、同法の適用対象になると考えられます。

〔２〕一方的な手続きをめぐる問題点

　今回の契約書送付は、労働契約締結のあり方として、一方的に過ぎます。少なくとも、労働条件の労使対等決定の原則に反すると考えられます。

　とくに、嘱託講師にも、労働組合に加入して労働条件の向上をはかるという団結権、団体交渉権が保障されています。自らの代表者を通して労働条件を決定する権利を否定している点で、今回の大学側のやり方は、明らかに労働組合無視です。この点こそ最も非難されるべき点です。

　労働組合を無視して、個々の労働者に契約書を送りつけることは、団結承認義務に反しており、支配介入の色彩も濃いものです。とにかく、「不当労働行為」的な対応であることは間違いがありません。

　嘱託講師規程の決定についても同様です。団結を重視した労使対等決定原則に反するとともに、労働者代表の意見を聴取することを求める労働基準法の最低基準にも反した不当かつ違法な対応だと考えられます。

（１）「同志社大学嘱託講師契約書について(お願い)」学長名

　今回の学長名の「お願い」は、経過説明を含めて、手続き的に大きな問題を含むものです。

「さて、２００１年度から同志社大学嘱託講師に関する規程の制定に伴い別紙「同志社大学嘱託講師契約書」により貴台との間で契約を取り交わすこととなりました。」

　これだけでは、大学の事情だけを述べた勝手な言い分と言えます。
　むしろ、従来、労働基準法が求める、文書での事前の労働条件明示義務を果たしていなかったことになります。その点で、大学の従来の嘱託講師に対する対応は、労働基準法の最低基準にも反していたとも言えます。その点についての反省やお詫びがどこにも記載されていません。その点を指摘しないまま、一方的に規程ができたからと文書化を通告するのは、対等な契約締結の態度とは言えません。契約相手を尊重しない点で「非礼」と言えます。

誠にお手数ですが、契約書二通にご署名、ご捺印をいただき、そのうちの一通を同封の返信用封筒で人事課宛ご返送のほどお願いいたします。

　ここにも十分な説明がありません。２００１年度は、すでに始まっています。既に、労働契約は成立していると言えます。文書での明示がなかっただけですので、文書がなくても（講師が署名を提出しなくても）契約自体は成立しています。法的には、契約は文書でなくても成立しています。契約書を提出しなくても契約の効力について法的に問題はありません。

　まして、返送の期日が示されていません。契約書を提出しないときの「制裁」も示されていません。しかも、既に２００１年度は始まっています。契約書不提出によって、契約解約や実際的な不利益はないと考えます。つまり、労働契約は、既に口頭で結ばれていて、単にその内容を明示するものに過ぎず、契約の効力にはとくに影響を与えないと考えられます。

　とくに、今回の嘱託講師契約書は、上記の通り、大学側が従来あいまいにしてきた労働条件明示の義務をようやく果たそうとするものに過ぎないと考えられます。

　なお、４月３０日の学習会に出席されていた弁護士の方が指摘されたように、今回の嘱託講師契約書に署名・返送しても、とくに問題はないと思います。つまり、この契約書によって大学側に不当に広い裁量が認められ、講師の側がそれに拘束されることはありません。契約書のなかで曖昧な点や法令に反する点は、一つずつ、個別に争えると考えられるからです。

（１－２）採用内定と契約書

　従来の労働法の判例・学説では、就労前の「採用内定」の段階で「労働契約」が成立したと考えています。

　最高裁判所も、採用内定を「解雇権留保付労働契約の成立」と解し、

「内定取消事由は内定当時知ることができず、また知ることが期待できない事実であって、客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができるものに限られる」（大日本印刷事件・最判昭54・7・20民集33-5-582　模範六法の判旨要約）

「採用内定者は、現実には就労していないものの、当該労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれているから、企業が経営の悪化を理由に留保解約権の行使（採用内定取消し）をするには、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する四つの基準に照らして判断すべきであるとして、ヘッドハンティングによって就職が内定していた労働者の内定取消しを無効」（インフォミックス事件・東京地決平９・１０・３１判時1629-145　模範六法の判旨要約）

　この判例法理にしたがえば、同志社大学の担当者が、前年度中に講義の担当を依頼し、承諾した段階で労働契約は成立しています。さらに、教授会などでの選考手続きによって、契約成立が正式に内部的に確認されたと考えられます。契約文書がなくても、労働契約の成立は問題はありません。

　おそらく、今回の契約文書は嘱託講師契約の成立を、学校法人内部で統一的に確認し、処理するための「手続きの明確化」という意味があると理解します。
　言い換えれば、講師と大学との関係では、文書がなくても契約は成立します。通常は、担当の正規教員から口頭での打診があり、それに応諾した段階で契約が成立したと考えることもできます。長年にわたって契約更新を繰り返している場合には、教授会での審査も形だけの場合が多いので、この段階で既に契約成立と考えてよいでしょう。

　初めての場合でも、教授会での履歴・業績審査に基づいての委嘱決定とその通知で契約成立と考えられます。したがって、授業開始前でも、講師にはシラバス原稿などの義務が生ずることになりますし、その反面、大学側から、授業開始直前になって契約を一方的に解約する（内定取り消し）には、相当で合理的な理由が必要となります。
　既に契約は成立していますので、授業開始直前になって（まして４月に入ってから）、一方的に契約書を送付して、それへの返事がない（契約書への署名がない）ことで、契約そのものを解約することは相当で合理的な理由とは言えないことになるのです。

（２）労働条件の労使対等決定の原則

　一般的には、民法は契約当事者に信義誠実の態度を求めています。

《民法　第１条第２項》

　権利ノ行使及ヒ義務ノ履行ハ信義ニ従ヒ誠実ニ之ヲ為スコトヲ要ス

　これは契約の履行（りこう）過程だけでなく、締結過程でも同様です。一方の当事者が、経済的社会的な力関係の差を前提に他方の当事者に不利益な事項への同意を事後的に強制することは、信義誠実な態度ではありません。

　とくに労働基準法第２条は「労働条件労使対等決定の原則」を定めています。

《労働基準法　第２条》

第２条　労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
　２　　労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。

　嘱託講師契約も、講師（労働者）と大学（使用者）とが対等の立場において、契約内容を決定すべきです。少なくとも、大学側は講師に対して、事前に労働条件を明示して、必要な説明を含めて対等な立場で合意することを目指すべきです。

（３）団体交渉事項

　最大の問題点は、労働組合との話し合いを無視している点です。とくに、京滋地区には非常勤講師組合が存在し、同志社大学を含めて既に団体交渉を重ねています。この非常勤講師組合を通じて、労働条件を決めることが、使用者（大学）に求められる対応です。

　非常勤講師にのみかかわる規程を作成・変更は、事前に大学と非常勤講師組合の間で団体交渉すべき事項です。

　労働組合法は、第７条二号で、団体交渉に応諾することを使用者が拒否する行為を、不当労働行為として禁止しています。

《労働組合法　第７条》

　第７条（不当労働行為）
　使用者は、左の各号に掲げる行為をしてはならない。
　二　使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと。

　労働条件にかかわる規程（就業規則の一部）の改廃は、当然に団体交渉事項になります。使用者としては、労働組合を無視して一方的な決定をしてはなりません。

　また、「団体交渉事項となるべき問題について、労働組合と交渉しないで個々の労働者と交渉することは、労働組合の団交権を侵害するものとして、原則として不当労働行為を構成する」とされています（萬井隆令・西谷敏編『労働法１』法律文化社、７９頁）。

　これは、労働法の初歩の初歩です。私には、これまで非常勤講師組合を認めて話し合いに応じてきた大学側が、なぜ、この初歩的なことを無視して、「嘱託講師規程」を組合と事前に話し合いをせずに一方的に作成したのか、理解できません。

　団結の存在を無視して一方的な対応をされたことを、非常勤講師組合から、大学に抗議を申し入れたり、団体交渉を求めることができます。もし、大学側が誠実な団体交渉を拒否したときには、明らかに不当労働行為になります。

　その場合には、法的には、誠実交渉義務に反したことを理由に、地方労働委員会への救済申立などの対抗手段が考えられます。

（４）就業規則の作成・変更

　「同志社大学嘱託講師に関する規程」は、労働基準法第８９条以下が定める就業規則の一部であると考えられます。同法第９０条によれば、大学（使用者）は、過半数代表者（労働組合があればその代表）の意見を聴取する義務があります。

《労働基準法　第９０条》

　第90条（作成の手続）
　　使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
　２　使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。

　とくに、嘱託講師（非常勤講師）は「パートタイマー」（法的には、短時間労働者）と考えれますので、いわゆる「パート法（短時間労働者のの雇用管理の改善等に関する法律）」に基づいて、過半数代表の意見を聴く努力義務があると考えられます。

《短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律》

　第７条（就業規則の作成の手続
　事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとする。

　このパート労働法第７条に基づき、同志社大学で働く非常勤講師（嘱託講師）の「過半数を代表すると認められるもの」の意見を、大学はどのように聴いたのか、その事実や選出方法を確認することが必要だと思います。

　労働省が示しているパート労働指針【参考資料　１】によれば、過半数代表の選出方法は、次のようにすることが求められています。

　指針の文言通りにするなら、嘱託講師規程（就業規則の一部）を定める場合には、嘱託講師全員を対象にして、投票、挙手等で過半数の代表を選出することが必要となります。今回の嘱託講師規程の作成にあたって、大学が、この「指針」が求める「手続き」を踏んだと言えるのでしょうか？
　しっかりと確認するべきです。

〔３〕嘱託講師規程、同契約書の内容的問題点

　以上の手続き的な問題点と合わせて、内容的には、次に示す点に問題が含まれていると考えます。

　また、この機会に労働基準法、パート労働法、労働安全衛生法、労働・社会保険関連の法律に基づいた徹底した点検も必要だと考えます。

（１）登録者がなく「休講」となったときの措置

　規程第３条第４項は、次のように定めています。契約書の第４項も同様な記載事項を定めています。

　この問題は、以前に問い合わせがあった論点ですので、詳しい説明は繰り返しません。結論だけを言えば、嘱託講師契約は、「期間を定めた契約」ですので、契約期間いっぱいは、労働者も拘束され、同時に使用者も期間に拘束されます。

　登録者が少なくて、「休講」となったときであっても、使用者は、法的には残り期間いっぱいについての雇用責任を逃れることはできません。
　原則としては、残り期間いっぱいの雇用（代わりの同等以上の仕事）の保障をするか、契約違反の責任として、損害賠償（残り期間いっぱいの賃金相当額＋α）を支払う責任があると考えられます。

　少なくとも、「使用者の責による休業」ですので、労働基準法第２６条に基づいて、使用者（大学）は、平均賃金の６０％以上の「休業手当」の支払を義務づけられることになります。

《労働基準法　第２６条》

第26条　使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。

　同志社大学の規程によれば、「休講」の場合、わずか２か月しか、保障をしないということです。半年契約であれば、残り期間（６か月）の雇用や賃金相当額の賠償をするのが筋です。

　労働基準法の最低基準の「休業手当」の場合は、平均賃金の６０％以上ですので、２か月分（６分の２）よりは多いことになります。

　また、２か月の保障を定めることには、一見合理性があるようにも考えられます。しかし、本来であれば、６ヶ月分を賠償しなければならないのに、それを２か月に減らして「保障額を予定」することは、本来の契約責任をあいまいにするものです。使用者にのみ有利な条項であって、現実の力関係の差を利用して、不利な内容を弱い契約当事者に押しつける点で、公序良俗に反して無効だと考えることもできます。＊

《民法第９０条》〔公序良俗違反〕

　公ノ秩序又ハ善良ノ風俗ニ反スル事項ヲ目的トスル法律行為ハ無効トス

　少なくとも、労働基準法の平均賃金の６０％以上という最低基準の趣旨からは、６か月契約であれば、６×６／１０＝３．６か月分以上を支払うのが筋だと思います。（なお、各種手当がある専任教職員と違って、非常勤講師の場合、手当がないので、平均賃金の計算はかなり不利になりますので、単純に６０％とはなりません。普通は、５０％程度になります。）

　見解が分かれる点だと思いますが、労働者（講師）の側としては、あくまでも「期間を定めた労働契約」ですので、残り期間の仕事を見つけることの困難、生活保障の欠如を問題にして、予定された賃金全額分の保障を求めることが可能ですし、また、必要だと思います。

（１－２）期間を定めた労働契約の中途解約

　非常勤講師の場合、契約期間が１年や６か月と定められています。これは「期間を定めた契約」といい、通常の「期間を定めない契約」と区別されます。

　この「契約期間」は、契約当事者双方を拘束します。とくに、使用者の側は、その期間中は「やむを得ない事由」がなければ、解約することはできません。
　詳しい法的説明は、【参考資料　２】、【参考資料　３】、【参考資料　５】を読んで下さい。

　なお、昨年（２０００年）末に、労働省（現、厚生労働省)は、有期契約の締結及び更新・雇止めについての「指針」をまとめています。（【参考資料　７】）非常勤講師（嘱託講師）の場合にも当てはまる内容です。雇止めの理由の制限や手続きについて、使用者に一定の配慮を求めています。本来なら、法律で明確に規定すべきですが、少なくとも、今回のように、嘱託講師規程を作成するとき、また、契約や協約で規定するときには、その指針の内容を盛り込むことが望ましいと言えます。

（２）嘱託契約の解約

　次に内容的に問題だと考えられるのは、契約の解約の手続きと事由です。

　まず、講師（労働者）の側からの解約について、病気など「やむを得ない事情」があれば、即時の解約を認めているのは、当然のことですが、妥当な条項だと思います。

　民法第６２８条は、原則として契約期間内の解約を認めず、「やむことを得ざる事由があるとき」に限ってしか解約を認めていません。

《民法第６２８条》

　民法第６２８条〔やむことをえない事由による解除〕
　　　当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル
　　　事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得
　　　但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手
　　　方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス

　第６条第１項では、病気等以外でも「１か月前」の「書面での申し出」があれば、解約を認める趣旨と解釈できます。
　この文言の限りでは、この第１項の規定は、とくに問題とは言えません。

　より大きな問題点を含むのは、次の第２項だと考えます。

　たしかに「期間を定めて契約」であっても、「やむを得ない事由」があれば解約することができます。通常の期間を定めない契約の場合と同様以上に、「解雇」として、その事由は制限されることになります。ただし、解雇であれば、労働基準法第２０条（解雇予告）が適用されることになりますが、解雇予告についての規定がないことを疑問に思います。

　とくに、問題だと思われるのは、大学側が一方的に解約事由を判断できるという規定になっていることです。それぞれの事由に該当していることを、どのような手続きで、誰が判定するのか、本人からの事情聴取や反論の機会などが保障されているのか、という手続き的な点での疑問です。

　なかでも、懲戒事由とも重なる以下の事由については、刑事手続きに類似した適正手続きの保障が重要だと言えます。

　なかでも、「（３）刑事訴追を受けた場合」というのは、本来であれば、まだ、「無罪推定」を受ける段階であるのに、それだけで「解約」という不利益を受ける点に問題が含まれています。同志社の専任教職員の場合との比較が必要ですが、通常は、公務員にならって「起訴休職」の制度を設けていることが多いと思います。＊

　もし、専任教職員が刑事訴追を受けたときに「起訴休職」になるとすれば、嘱託講師の場合には、なぜ「起訴休職」ではなく「起訴解約」になるのか、合理的な理由を示すべきだと思います。合理的な理由がなければ、この処遇の格差は差別的であると考えられます。

　確かに、国家公務員法では、第７９条で、本人の意に反する休職として、「心身の故障のため、長期の休養を要する場合」と「刑事事件に関し起訴された場合」が挙げられています。しかし、刑事事件で起訴されたときでも、「刑事事件によつて起訴された場合、事情によつては直ちに休職させなくてもよい（二四・五・一九法審回発四九八）」というのが国家公務員法についての行政解釈です。

　上記規程第６条第２項は、「解約することができるものとする」と、解約の可能性を定めており、必ず解約するとはなっていませんが、かえって恣意的、濫用的な運用が危惧されます。

　たとえば、破廉恥罪などによる「刑事訴追」であれば、（４）、（５）にも該当することになりますが、交通法規違反など単なる取締り法規違反での起訴（略式起訴など）も「刑事訴追」に含まれるのか、など疑問があります。「刑事訴追」の範囲が不当に拡大しかねない、曖昧な規定になっているからです。

（３）災害補償

　次に、規程第５条の災害補償の定めは、法律上の最低の規制で、当然の内容です。しかし、従来、周知されていなかった事項を明示的に確認した点では、適当なものだと思います。

　ただ、この第５条は、法律が定める当然のことを規定しているに過ぎません。この規定がなくても、労働者（嘱託講師）に災害補償の権利があります。もし契約書に記載するのであれば、大学独自の「上積み補償」などの法律の最低基準を上回る、より積極的な内容を記載させるべきだと思います。

　その場合、専任教職員の在職死亡などで大学がかえって「焼け太り」となる団体生命保険など遺族・労働者を無視した制度が問題になっています。こうした遺族や労働者本人を無視したアクドイ制度を利用していないか、チェックする必要があります。

　本来なら、嘱託講師（非常勤講師）にも、健康診断など労働安全衛生法の適用が必要ですし、安全衛生管理体制（安全管理者、衛生管理者、安全衛生委員会など）を含めて責任体制を、嘱託講師（非常勤講師）にも知らせることが必要です。

（４）「嘱託契約」「嘱託講師」という表現

　「嘱託契約」「嘱託講師」についての詳しい「定義」がないので推測になりますが、「嘱託」という表現が、「労働者性」を否定しているのではないか、気になります。

　一方では、労働基準法、労災保険法の「災害補償」の規定の適用を認めていますので、「嘱託講師」が労働法上の「労働者」であることを認めていると言えます。しかし、その一方で、「嘱託講師」と「労働者」でないことを意識的に強調する用語を使っていることには、注意を払っておく必要があります。【参考資料　６】

〔４〕嘱託講師規程・同契約書に触れられていない事項

　労働基準法、労働安全衛生法、雇用保険・社会保険（健康保険、厚生年金保険）などの加入についても、本来は、契約のなかで確認するべきことです。

　今回は、大学側のイニシャチブでの契約書が問題になっていますが、本来は、労働者、とくに労働組合が「労働協約」として交渉し、同意させるべき事項が少なくありません。

　当面、「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針」にしたがって、労働条件や社会・労働保険加入について、法律に基づいた点検と、それらの労働協約化が必要だと思います。

　また、非常勤講師についても事業場で就労させているときには、大学（使用者）には、各種労働法令の適用によって、使用者（事業者、事業主）として多くの責任が生じます。大学に対して、責任の所在、責任者名を具体的に明示するように求めることができます。

　　（例）
　　安全管理者（労働安全衛生法第１０条）
　　衛生管理者（労働安全衛生法第１１条）
　　短時間雇用管理者の選任（短時間労働者雇用管理改善法第９条）
　　職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の配慮）
　　（男女雇用機会均等法第２１条）

　いずれにしても、今回の大学の対応は、手続き、内容ともに一方的です。
　労働者、労働組合との話し合い、団体交渉を尊重することを大学が認めるまで徹底して粘ることが必要だと思います。話し合い拒否の態度は、不誠実交渉の不当労働行為にあたると考えられます。

〔５〕非常勤講師と社会保険・労働保険適用

　非常勤講師であっても法定の要件を満たせば、社会保険、労働保険の適用があります。今回の同志社大学の嘱託講師規程でも、労災保険の適用は明確になっています。

　問題は、社会保険と雇用保険です。多くの大学は、パートを適用除外する「４分の３要件」から、最初から非常勤講師には社会保険の適用を除外しているようです。しかし、詰めて考えれば、「４分の３要件」そのものが曖昧ですし、実態から適用するべきだと言える可能性が残ります。とくに、私学共済加入の大学では、「専任でない者」を除外するという同共済の規定から単純に適用除外と考えているようです。

　しかし、私学共済に加入できない者でも健康保険や厚生年金保険の適用の可能性は残ります。まして、雇用保険については、専任教員も除外されているようですが、私学教員だからと言って適用除外する明確な理由・根拠はありません。詳しくは述べませんが、大きな問題が残ることを指摘しておきたいと思います。

【参考資料　１】短時間労働者雇用管理改善指針

事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置に関する指針
　　　　平成　五・一二・　一労告一一八号
　　改正平成一一・　二・　八〃　　　六号
　　〃　平成一二・　四・　三〃　　四四号

　第一　趣旨
　この指針は、短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第三条第一項の事業主が講ずべき適正な労働条件の確保及び教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善（以下「雇用管理の改善等」という。）のための措置に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要な事項を定めたものである。
　第二　事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等のための措置
　事業主は、短時間労働者について、労働基準法（昭和二十二年法律第四十九号）、最低賃金法（昭和三十四年法律第百三十七号）、労働安全衛生法（昭和四十七年法律第五十七号）、労働者災害補償保険法（昭和二十二年法律第五十号）等の労働者保護法令を遵守するとともに、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して労働条件を定めるべきであるが、特に、次の点について適切な措置を講ずるべきである。

　一　短時間労働者の適正な労働条件の確保
（一）　労働条件の明示
　イ　事業主は、短時間労働者に係る労働契約の締結に際し、当該短時間労働者に対して、労働基準法の定めるところにより、次に掲げる労働条件に関する事項を明らかにした文書を交付するものとする。
　（イ）　労働契約の期間
　（ロ）　就業の場所及び従事すべき業務
　（ハ）　始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換
　（ニ）　賃金（ロの＿に定めるものを除く。以下この＿において同じ。）の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期
　（ホ）　退職
　ロ　事業主は、短時間労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該短時間労働者に対して、次に掲げる労働条件に関する事項その他の労働条件に関する事項を明らかにした文書（雇入通知書）を交付するように努めるものとする。ただし、当該労働条件が、イにより交付する文書において、又は就業規則を交付することにより明らかにされている場合は、この限りでない。
　（イ）　昇給
　（ロ）　退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与、一箇月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、一箇月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当及び一箇月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
　（ハ）　所定労働日以外の日の労働の有無
　（ニ）　所定労働時間を超えて、又は所定労働日以外の日に労働させる程度
　（ホ）　安全及び衛生
　（ヘ）　教育訓練
　（ト）　休職

（二）　就業規則の整備
　イ　短時間労働者を含め常時十人以上の労働者を使用する事業主は、労働基準法の定めるところにより、短時間労働者に適用される就業規則を作成するものとする。
　ロ　事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所に、短時間労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、短時間労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては短時間労働者の過半数を代表する者（ハ及びニにおいて「過半数代表者」という。）の意見を聴くように努めるものとする。
　ハ　過半数代表者は、次のいずれにも該当する者とする。
　（イ）　労働基準法第四十一条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
　（ロ）　就業規則の作成又は変更に係る意見を事業主から聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であること。
　ニ　事業主は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにするものとする。

（三）　労働時間
　イ　事業主は、短時間労働者の労働時間及び労働日を定め、又は変更するに当たっては、当該短時間労働者の事情を十分考慮するように努めるものとする。
　ロ　事業主は、短時間労働者について、できるだけ所定労働時間を超えて、又は所定労働日以外の日に労働させないように努めるものとする。

（四）　年次有給休暇　事業主は、短時間労働者に対して、労働基準法の定めるところにより、別表に定める日数の年次有給休暇を与えるものとする。

（五）　期間の定めのある労働契約
　イ　事業主は、期間の定めのある労働契約の更新により一年を超えて引き続き使用するに至った短時間労働者について、労働契約の期間を定める場合には、当該期間をできるだけ長くするように努めるものとする。ただし、当該期間は一年（満六十歳以上の短時間労働者との契約については三年）を超えないものとする。
　ロ　事業主は、期間の定めのある労働契約の更新により一年を超えて引き続き短時間労働者を使用するに至った場合であって当該労働契約を更新しないときは、少なくとも三十日前に更新しない旨を予告するように努めるものとする。

（六）　解雇の予告
　イ　事業主は、短時間労働者を解雇しようとする場合においては、労働基準法の定めるところにより、少なくとも三十日前にその予告をするものとする。三十日前に予告をしない事業主は、三十日分以上の平均賃金を支払うものとする。
　ロ　イの予告の日数は、一日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができるものとする。

（七）　退職時の証明
　事業主は、短時間労働者が、退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由（退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。）について証明書を請求した場合においては、労働基準法の定めるところにより、遅滞なくこれを交付するものとする。

（八）　賃金、賞与及び退職金
　事業主は、短時間労働者の賃金、賞与及び退職金については、その就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して定めるように努めるものとする。

（九）　健康診断
　事業主は、短時間労働者に対し、労働安全衛生法の定めるところにより、次に掲げる健康診断を実施するものとする。
　イ　常時使用する短時間労働者に対し、雇入れの際に行う健康診断及び一年以内ごとに一回、定期に行う健康診断
　ロ　深夜業を含む業務等に常時従事する短時間労働者に対し、当該業務への配置替えの際に行う健康診断及び六月以内ごとに一回、定期に行う健康診断
　ハ　一定の有害な業務に常時従事する短時間労働者に対し、雇入れ又は当該業務に配置替えの際及びその後定期に行う特別の項目についての健康診断
　ニ　その他必要な健康診断

（十）　妊娠中及び出産後における措置
　事業主は、妊娠中及び出産後一年以内の短時間労働者に対し、労働基準法及び雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律（昭和四十七年法律第百十三号）の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずるものとする。
　イ　産前及び産後の休業の措置
　ロ　健康診査等を受けるために必要な時間の確保及び健康診査等に基づく医師等の指導事項を守ることができるようにするために必要な措置
　ハ　その他必要な措置
　二　短時間労働者の教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善

（一）　教育訓練の実施
　事業主は、短時間労働者の職業能力の開発及び向上等を図るための教育訓練については、その就業の実態に応じて実施するように努めるものとする。

（二）　福利厚生施設
　事業主は、給食、医療、教養、文化、体育、レクリエーション等の施設の利用について、短時間労働者に対して通常の労働者と同様の取扱いをするように努めるものとする。

（三）　育児休業及び介護休業に関する制度等　事業主は、短時間労働者について、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律（平成三年法律第七十六号）の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずるものとする。
　イ　育児休業又は介護休業に関する制度（日々雇用される者及び期間を定めて雇用される者に対するものを除く。）
　ロ　小学校就学の始期に達するまでの子を養育する者又は要介護状態にある家族を介護する者に対する深夜業の制限の措置（日々雇用される者に対するものを除く。）
　ハ　一歳に満たない子を養育する者又は要介護状態にある家族を介護する者に対する勤務時間の短縮等の措置（日々雇用される者に対するものを除く。）

（四）　雇用保険の適用
　事業主は、雇用保険の被保険者に該当する短時間労働者について、雇用保険法（昭和四十九年法律第百十六号）の定めるところにより、必要な適用手続をとるものとする。

（五）　高年齢者の短時間労働の促進
　事業主は、短時間労働を希望する高年齢者に適当な雇用の場を提供するように努めるものとする。

（六）　通常の労働者への応募機会の付与等
　事業主は、通常の労働者を募集しようとするときは、現に雇用する同種の業務に従事する短時間労働者に対し、あらかじめ当該募集を行う旨及び当該募集の内容を周知させるとともに、当該短時間労働者であって通常の労働者として雇用されることを希望するものに対し、これに応募する機会を優先的に与えるよう努めるものとする。

　三　所定労働時間が通常の労働者とほとんど同じ労働者の取扱い

　事業主は、所定労働時間が通常の労働者とほとんど同じ短時間労働者のうち通常の労働者と同様の就業の実態にあるにもかかわらず、処遇又は労働条件等について通常の労働者と区別して取り扱われているものについては、通常の労働者としてふさわしい処遇をするように努めるものとする。

（一）　短時間雇用管理者の選任
　事業主は、常時十人以上の短時間労働者を雇用する事業所ごとに、短時間雇用管理者を選任し、次に掲げる業務を担当させるよう努めるものとする。
　イ　本指針に定める事項その他の短時間労働者の雇用管理の改善等に関する事項について、事業主の指示に基づき必要な措置を検討し、実施すること。
　ロ　短時間労働者の労働条件等に関し、短時間労働者の相談に応ずること。

（二）　短時間雇用管理者の氏名の周知
　事業主は、短時間雇用管理者を選任したときは、当該短時間雇用管理者の氏名を事業所の見やすい場所に掲示する等により、その雇用する短時間労働者に周知させるよう努めるものとする。

【参考資料　２】期間を定めた労働契約の期間満了前の解除

　Ｑ２７　１年契約なのに半年で辞めてほしいと言われましたが。

金子雅臣・小川浩一共著
『パート・アルバイトのトラブル対処術　プロブレムＱ＆Ａ』
緑風出版、１９９７年４月、１９０－１９５頁

　Ｑ２７　一年契約なのに半年で辞めてほしいと言われましたが。

　パートで半年ほどして「この店は売上げが伸びず閉鎖するので、申し訳ないが退職届を書いて辞めてほしい」と言われました。仕方ないのでしょうか。

　期間の定めのある契約の場合、契約の解除は「やむを得ない事由」のない限りできません。
　「売上げが伸びないので店を閉鎖する」という理由は一応「やむを得ない事由」に該当すると思われますので、そのことが本当であれば使用者は契約の即時解除をすることができます。しかし、労働者は、閉店による解雇は仕方がないとしても、損害賠償として契約の残りの期間の賃金、設問の場合では６カ月分の賃金を請求することができます。（以下、略）

【参考資料　３】1999/09/08 朝: 有期契約２　「辞めて」と言われ

働く女性の悩みにお答えします連載「王様の耳」
有期契約２　「辞めて」と言われ

＜相談＞１年契約でデータ入力業務をしています。８カ月働いたところ、予定していた仕事がなくなったので今週で終わり、と言われました。突然のことで次の仕事を探さねばならず、困っています。残りの期間の給料は払ってもらえないのでしょうか。（契約社員／２８歳）

　期間の定めのある有期契約で働いている場合、会社が契約を途中で打ち切るには「やむを得ない事由」がなければなりません。あなたの場合は本当に仕事がなくなったのか、それともほかの理由があるのか、きちんと確かめる必要があります。「やむを得ない事由」というのは、例えば天変地異などで事業が継続できなくなった場合です。経営の見通しの甘さによる事業縮小などを責任転嫁して乱用してはなりません。
　会社の一方的な都合で契約を打ち切られるわけですから、残りの期間分の給料を損害賠償として請求することができます。

　「仕事がなくなったから申し訳ないが辞めてほしい」と、解雇なのか退職を勧められているのか分からないあいまいな言い方をされることがあります。「わかりました」とうっかり返事をしてはいけません。解雇か退職かでは、その後の保障にも違いがあります。

　解雇の場合、会社は解雇予告手当を払わなければなりません。雇用保険の退職理由も「会社都合」になります。退職の場合は雇用保険が「自己都合」になって待機期間が長くなったり、残りの契約期間の賃金も支払われなかったりするおそれもあります。注意しましょう。どうしたらいいか不安な時は、「家族などと相談します」といって即答を避け、労働組合や弁護士に相談しましょう。

　一般に、契約期間が定められていないといつ契約を切られるか分からず、契約期間がある方が安心、という誤解があるようです。

　確かに契約期間の間は雇用が守られますが、労働者も契約期間内は拘束されるので、勝手に退職することはできないのが原則です。契約期間中にもっと条件のいい仕事がみつかったから辞めます、というわけにはいきません。契約違反で逆に損害賠償を請求される場合もあります。
　それでも有期契約の方が安心できるという人もいるかも知れません。しかし、日本の法律では５年とか１０年とか長期の雇用契約を結ぶことは認められていません。原則として１年以下の契約しかできないのです。

　雇用契約においては、やはり期間の定めのない方が有利なのです。有期契約といっても反復して契約を更新している場合は、期間の定めのない契約とみなされます。

（９月８日付朝日新聞家庭面掲載）
http://ntt.asahi.com/532/199909/ousama018.html

【参考資料　４】短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律（概要）

　１９９３年（平成5年）法律76号。短時間労働者（パートタイム労働者）の雇用管理の改善、職業能力の開発・向上等に関する措置等を講ずることによって、その能力の有効発揮促進と福祉増進を図ることを目的とする法律。パート労働法というのが略称となっている。「短時間労働者」とは、同一事業所の通常の労働者より、1週間の所定労働時間が短い労働者。
　事業主の責務として、短時間労働者について、通常の労働者との均衡等を考慮した適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他必要な措置を講ずる責務
　労働条件に関する文書交付、就業規則の作成手続、短時間雇用管理者、短時間労働援助センター、労働大臣が定める「短時間労働者対策基本方針」、事業主による雇用管理の改善等の措置に関する「指針」などが規定されており、事業主団体、国、地方公共団体に関連した責務が課されている。

【参考資料　５】突然の仕事の取り消し（派遣１１０番相談例から）

相談・回答例（一方的に内定取り消し）
《Ｑ》
　ある派遣会社に登録していたところ、電話があり仕事を依頼されて承諾しました。その１週間後に別の人を派遣するとのことで断りの電話が入りました。
　その約５日後に「派遣する筈の人が入院する事になったから、もう一度頼む」と言われ、仕事を引き受けました。なのに、就業一日前の夜に電話が掛かってきて、「最初の人が入院しなくても良くなったので、その人に仕事させる」と言って来ました。
　結局３週間近くも派遣会社の嘘に振りまわされました。泣き寝入りするしかないのでしょうか？
《Ａ》
　ご相談の場合が、いわゆる「登録型派遣」であっても、、契約締結の過程が進んでいるときには、一般の労働関係や常用型派遣と基本的な違いはなく、ある段階で契約が成立したことになります。

　これまで労働契約の締結過程をめぐっては、学生が初めて就職するときの内定とその取り消しをめぐる争いを中心に裁判などで争われてきました。最高裁判所は、ある段階で内定にいたったときには、就労前でも労働契約の成立があったと認めています。
　法的に、内定があれば、使用者と労働者の間には「解約権を留保した就労始期付の労働契約」が成立していますので、内定取消は「解約権の行使」となり、
「解雇」と類似した合理的理由が必要となりまです。

　派遣労働者（登録型）の場合にも、この採用内定の法理が適用され、特別な違いはありません。

　労働者派遣法の建て前では、派遣元との雇用関係にある派遣労働者を派遣先に派遣することになっていますので、論理的には、次の順序になると考えられます。

　　(1)派遣元と派遣労働者の間の労働契約（雇用契約）成立
　　(2)派遣元・派遣先の間の労働者派遣契約成立
　　(3)派遣元から派遣労働者へ就業条件明示＋派遣先での派遣就労の合意
　　(4)派遣元から派遣先へ派遣労働者の氏名などを通知
　　(5)派遣先での派遣労働者の就労開始

　登録型派遣の「登録」が法的にどのような意味を有するかについては、労働者派遣法や関連政令・省令にも明確な規定がありません。職業安定法など、関連した法令を参考にして、当事者の意思＝契約の解釈によることになると考えられます。

　登録だけで労働契約が成立するのではなく、登録した後、派遣元から紹介があり、登録者がそれに応じて初めて「採用内定」＝労働契約の成立となります（図）。

　　　　　　　　○－－○－－○－－○－－◆－－－－■－－－－－｜
　　使用者　　登録募集　　登録　紹介　内定
　（派遣元）
　　労働者　　　　登録応募　　　　　承諾　　　　就労（派遣）期間満了
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　○－－－－－｜

　登録だけでは、「採用内定」とは言えないのですが、ご相談のように、派遣先が特定し派遣元との間で労働契約の締結過程が進んでいるときには、「採用内定」類似の関係が成立します。内定から就労（派遣）までの間が、学生の場合のように数ヶ月ということはありませんが、それが数日であっても、考え方としては、派遣元から、派遣先の紹介があり、登録者がそれに応じて承諾した時点で、数日後に就労（派遣）する始期を定めた労働契約が成立したことになります。

　派遣元は、就労（派遣）までの期間は「解約権」を留保しているだけです。この場合、「合理的な理由」なく解約することはできません。

　労働者派遣法の建て前では、労働者派遣契約、労働契約・就業条件通知書などについて、一定の「要式」による文書の交付が求められています。しかし、民事的には、そうした「要式」による文書をともなわない口頭の契約であっても、契約としては成立していることになり、法的な効力が生じることになります。

　ご相談の事例では、派遣会社から仕事を依頼されて承諾した段階で内定があったことになります。いったん内定が取消され、もう一度頼まれたということですので、労働契約の成立は確実です。就業一日前の取消は、成立した労働契約の解約になります。「入院する筈の人が入院しなくても良くなったので、そちらの人を仕事させる」と言うので合理的な理由になりませんし、前日の取消は解約権の濫用にあたります。

　泣き寝入りする必要はありません。会社の契約違反の責任を追及できます。
　具体的には、①三週間振り回されたことについて損害賠償を請求することができますし、②約束と同等の仕事を紹介するように契約の履行を求めることができます。③実際に仕事が見つかるまで契約通りの賃金を休業保障として請求することも可能です。
　電話の記録など事実経過を整理し、会社の契約違反の責任を話し合いで請求してください。もし拒否されたら、できれば労働組合や弁護士の援助を得て、公共職業安定所の行政指導も活用しながら、責任追及をすることが可能です。

これまでの解決例から
　〔６ヵ月のいい話が来たのでＯＫし、別の話を断わったところ、最初の話がなくなってしまったのです。最初、このご相談者は、個人で闘うことを考えておられたのですが、できれば、地域労組や労働弁護士に助力を得たほうが納得のいく解決が得られるとアドバイスさせていただきました。最初の約束の６ヵ月分の全額の賃金の請求を勧めました。礼状にもありますように、こんなに早く希望に近い額で解決する事例は少ないかもしれませんが、こちらが争うという姿勢を示せば、相手は、違法なことをしていますので、案外、解決は早いと思います。不要な圧力や面倒なことを避けるためにも、専門家の助力が必要だと思います。〕

　前回いただいたメールを読んで、わたしなりにいろいろ考えた結果、ご紹介いただいたＸ県労連に相談しました。

　Ｘ県労連の労働相談担当は事務局長さんで、大変親身に相談に乗って下さり、協力していただけることになりました。派遣のトラブルが持ち込まれたのは初めてとのことで、あまり詳しいことはわからないと仰っていましたが、派遣１１０番のメールを見せて現状を理解していただくことができました。

　わたしの希望として、全契約期間の100%の賃金を要求したいと伝えたところ、最初は「休業手当てで60%か、解雇予告手当ての30日分しか無理じゃないか」と仰っていて、事務局長さんが労働基準局に意見を聞いて下さったところ、基準局の方でも同じように言っていたとのことでした。

　しかし、わたしは派遣１１０番の「６０％ではなく、１００％の請求が可能だと思いますので、まず、これを追求してください。」というお言葉の通りにしたかったので、「100%で請求して、受け入れられなければ訴訟します。」と言いました。事務局長さんは、「まぁ、あなたが納得できなければ意味がないから」と仰って、弁護士さんにも意見を聞いてみると言って下さいました。
　（派遣１１０番が教えて下さったＹ法律事務所が、偶然にもＸ県労連の顧問弁護士さんの所属事務所でした。）

　事務局長さんから派遣会社に連絡して下さって、交渉の場を持つことになり、派遣会社の営業担当者、支社長と、事務局長さん、わたしとで話し合いをしました。その場で、わたしから以下の要望を文書で渡しました。

　派遣会社側は、契約不履行があったことは認めて謝罪してくれましたが、補償内容については本社に連絡して指示を仰ぎ、後ほど回答すると答えました。

　その後、派遣会社側は、かなり誠実な対応をしてくれました。

　東京本社の営業本部長と、最近設置された（というのをその日初めて聞いたのですが）派遣スタッフ相談室の室長という方がＸに来て、謝罪や、わたしの意見を聞いてくれたり、今回の件では営業担当者の対応に不手際があったということで、補償についても「誠意をもってできる限りのことをする」と約束してくれました。

　当初の対応に不手際があったにせよ、組合のバックアップなしにわたし個人で交渉したのでは、ここまでスムーズには話しが進まなかったと思います。

　最終的に、昨日、「和解金」として小切手を受け取り、和解の「合意書」を取り交わしました。
　「和解金」の内容は、先方から渡された明細書によると以下のとおりです。

∥　　1.契約期間相当分の賃金
∥　　　時給○○○○円×7.5時間×120日分＝○○○○円
∥　　2.有給休暇の権利に関する損害の補償分
∥　　　残日数12日分×7.5時間×○○○○円＝ ○○○○円
∥　　3.ご迷惑料として 100,000円

　こうして、満足の行く形でスピード解決することができました。

【参考資料　６】個人事業主形式労働（indipendent contractor）の不利益

【参考資料　７】有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針

（７－１）「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」の策定

発　　表：平成１２年１２月２８日（木）
担　　当：労働省労働基準局監督課
　　　　　　　　　　　　電　話　03-(3593)-1211（内線5561）
　　　　　　　　　　　　　　　　03-(3502)-5308（夜間直通）

　有期労働契約については、締結及び更新・雇止めの際の説明やその手続などの実態を見ると、更新・雇止めに関して労働者の保護に欠けるものと考えられる問題点も見られる。また、雇止めに関する裁判例を見ると、結果として雇止めが認められなかった事案も少なくなく、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関しては、当該有期労働契約に係る労働者の適正な労働条件を確保するための対策が求められている。

　このため、労働省では、今般、更新・雇止めをめぐるトラブルを未然に防止する観点から、学識経験者による「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」の報告（平成12年９月11日）及び同報告を受けた中央労働基準審議会の議論を踏まえ「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」（別添）を策定し、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たり、手続及び契約期間に関して使用者が考慮すべき事項を示すこととした。労働省としては、今後、本指針の周知啓発に努めることとしている。

　●「有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針」のポイント ●

　　　当該労働契約に係る労働者の事業場における呼称を問わず、期間を定めて締
　　結されている労働契約

　２　有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たり、手続及び契約期間に関して
　　使用者が考慮すべき事項

　　　有期労働契約の手続及び契約期間に関し、使用者は、
　　<1>　労働基準法等の労働関係法令を遵守するとともに、
　　<2>　有期労働契約であっても雇止めが認められなかった裁判例も少なくないこ
　　　とに留意しながら、
　　次の点について適切な措置を講ずるべきである。

　　(1) 契約の締結に際し、更新の有無及びその考え方、更新・雇止めを行う場合
　　　の判断基準を説明するよう努めること。
　　　[更新の有無及びその考え方の具体例]
　　　・　特別の事情がない限り自動的に更新する
　　　・　契約期間満了の都度更新の可否を判断する
　　　・　特別の事情がない限り契約の更新はしない
　　　[更新・雇止めを行う場合の判断基準の具体例]
　　　・　契約期間満了時の業務量により判断する
　　　・　労働者の勤務成績、態度により判断する
　　　・　労働者の能力により判断する
　　　・　会社の経営状況により判断する
　　　・　従事している業務の進捗状況により判断する

　　(2) 更新に際し、契約期間を不必要に短くすることなく、契約の実態や労働者
　　　の希望に応じ、できるだけ長くするよう努めること。

　　(3) 雇止めをする場合は、少なくとも30日前に予告するよう努めること。

　　(4) 雇止めをする場合は、労働者が望んだ場合には「契約期間の満了」とは別
　　　に更新をしない理由を告知するよう努めること。
　　　[更新をしない理由の具体例]
　　　・　前回の契約更新時に、本契約を更新しないことが合意されていたため
　　　・　契約締結当初から更新回数の上限を設けており、本契約は当該上限に係
　　　　るものであるため
　　　・　担当していた業務が終了・中止したため
　　　・　事業縮小のため
　　　・　業務を遂行する能力が十分ではないと認められるため
　　　・　職務命令に対する違反行為を行ったこと、無断欠勤をしたこと等勤務不
　　　　良のため

　　(注)　(2)～(4)は、労働者を更新により１年を超えて継続雇用している場合に
　　　　適用。
------------------------------------------------------------------------
（別添）
　　　　　　　有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関する指針

　有期労働契約については、締結（更新の場合を除く。以下同じ。）及び更新・雇止めの際の説明やその手続などの実態を見ると、更新・雇止めに関して労働者の保護に欠けるものと考えられる問題点も見られるところである。また、雇止めに関する裁判例を見ると、結果として雇止めが認められなかった事案も少なくなく、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに関しては、当該有期労働契約に係る労働者の適正な労働条件を確保するための対策が求められている。
　この指針は、有期労働契約の更新・雇止めをめぐるトラブルを未然に防止し、有期労働契約の適正な運用を確保するため、有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たり、手続及び契約期間に関して使用者が考慮すべき事項を定めたものである。

　この指針にいう有期労働契約とは、パートタイマー、契約社員、嘱託、臨時社員、アルバイト等当該労働契約に係る労働者の事業場における呼称を問わず、期間を定めて締結されている労働契約をいう。

３　有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たり、手続及び契約期間に関して使用者が考慮すべき事項

　<1>　労働契約の期間の定めの有無にかかわらず適用される労働基準法等の労働関
　　係法令を遵守するとともに、
　<2>　雇止めに関する裁判例を見ると、契約の形式が有期労働契約であっても、
　　・　反復更新の実態や契約締結時の経緯等により、実質的には期間の定めのな
　　　い契約と認められた事案
　　・　実質的に期間の定めのない契約とは認められないものの契約更新について
　　　の労働者の期待が合理的なものと認められた事案
　　・　格別の意思表示や特段の支障がない限り当然更新されることを前提として
　　　契約が締結されていると認められ、実質上雇用継続の特約が存在すると言い
　　　得る事案

　　があり、こうした事案では後述する解雇に関する法理の類推適用等により雇止
　　めが認められなかった事案も少なくないことに留意しながら、
　有期労働契約の締結及び更新・雇止めに当たり、手続及び契約期間に関しては、
　特に次の点について適切な措置を講ずるべきである。

　(1) 更新・雇止めに関する説明
　　　使用者は、有期労働契約の締結に際しては、当該有期労働契約の更新の有無
　　及びその考え方並びに更新及び雇止めを行う場合の判断基準を、当該労働契約
　　に係る労働者に対し説明するよう努めるものとする。
　　　また、使用者は、有期労働契約の締結に際して説明した内容について変更を
　　行った場合には、速やかに当該労働者に説明するよう努めるものとする。

　(2) 契約期間
　　　使用者は、有期労働契約の更新により１年を超えて引き続き使用するに至っ
　　た労働者について、労働契約の期間を定める場合には、当該期間を不必要に短
　　くすることなく、労働基準法の規定の範囲内で、当該労働契約の実態や当該労
　　働契約に係る労働者の希望に応じ、できるだけ長くするよう努めるものとする。

　(3) 雇止めの予告
　　　使用者は、有期労働契約の更新により１年を超えて引き続き労働者を使用す
　　るに至った場合であって当該労働契約を更新しないときは、少なくとも30日前
　　に更新しない旨を予告するよう努めるものとする。

　(4) 雇止めの理由の告知
　　　使用者は、有期労働契約の更新により１年を超えて引き続き労働者を使用す
　　るに至った場合であって当該労働契約を更新しないときは、労働基準法第22条
　　の退職時の証明における解雇の理由の証明に準じて、「契約期間の満了」とい
　　う理由とは別に、当該労働契約に係る労働者が望んだ場合には更新をしない理
　　由を告知するよう努めるものとする。

　　なお、期間の定めのない労働契約に係る労働者の解雇については、使用者の解
　雇権の行使が客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することが
　できない場合には、権利の濫用として無効となる（「解雇に関する法理」）との
　裁判例があることに留意する必要がある。