米国 非正規労働者保護の動き

 政府や経営側が労働・雇用分野で規制緩和の先頭を走っていると喧伝してきたアメリカで、派遣労働者を含む、「非正規雇用労働者 contingent worker」の保護と権利を拡充する立法や行政の注目すべき動きがあります。

 日本の政府(労働省)や経営者や関係する論者らは、この点を意図的に黙殺ないし軽視しています。そのため、アメリカでは労働分野で規制緩和が一面的に進められているという理解が広がったままです。

 これに対して、韓国の非正規労働センターは、アメリカの動きも敏感にとらえ、詳しく報道しています。日本の労働側は、この点で明らかに情報入手が遅れています。韓国のホームページに掲載されている情報を元に、アメリカの最新の動きを日本の労働者の皆さんにも是非知ってもらいたいと思います。

 まず、「パーマテンピングpermatemping」と呼ばれる雇用形態の問題と改善の動きです。これは、日本でも広く見られるものですが、「永遠の臨時労働」という直訳になります。「臨時労働」の名前で、実際には、長期に、しかも、差別的労働条件で労働者を利用しようとする雇用慣行です。この弊害が、アメリカ会計検査院の報告で詳しく明らかにされ、それに基づいて、民主党の著名議員であるE.ケネディ上院議員が中心になって非正規労働者保護法案が提出されています。

 規制緩和論者がモデルにしてきたアメリカが、非正規労働者保護の方向を強めていることについて、私たちも認識を新たにし、多いに注目する必要があります。

 日本では、派遣労働を本来の「一時的労働(temporary work)」ではなく、「派遣された労働(dispatched work)」とする、「欺瞞的な用語法」が労働省やその関係者によって使用され、一般化してしまっています。しかし、外国では派遣労働は、あくまで「一時的労働」です。つまり、「長期の派遣」は、本来の訳では、「長期の一時的労働(temporary work)」となり、根本的に矛盾します。そこで労働省や一部の研究者は、その矛盾をよく知っていて、意識的に「dispatched work」という用語を使って、日本では「長期の派遣(dispatched work)」が問題にならないという「すり替え」論理でゴマかそうとしてきた訳です。この論理は、国際的にはまったく通用しないものです。

 最近では、経営側から派遣労働の「1年ルール」への攻撃(派遣期間撤廃の主張など)や、一部の論者による、派遣期間の長期化の主張、有期雇用の拡大を多様な雇用形態と礼賛する動きが強まっています。「パーマテンピングpermatemping」を問題視するアメリカの新たな動きとは全く逆の後ろ向きの方向です。

 続報としては、アメリカの全国労働関係委員会(NLRB)が、2000年8月30日、派遣労働者の団体交渉権を広く認め、会社の同意なしに派遣先の労働組合に加入できることを認めた注目すべき裁定についての情報を掲載する予定です。(2000.10.4 脇田滋)


 * 仲野組子『アメリカの非正規雇用 リストラ先進国の労働実態』(青木書店、2000年3月)は、派遣労働を含む非正規雇用の問題を詳しく分析した良書です。下記のGAO報告書が発表される前に、アメリカの非正規雇用の状況を的確に分析した仲野さんの研究は、無批判的なアメリカ紹介と比較して際立って鋭い視点を示していました。仲野さんの視点と分析の正しさが、今回のGAO報告書によって裏付けられたと言えます。GAO報告書の意味や、労働組合や議会での、非正規雇用についての新しい動きを理解するためにも、同書は、アメリカの状況理解に時宜を得た最適の本と言えます。興味のある人は、是非、仲野組子さんの著書を読んで下さい。



 パーマテンピング(有期雇用の濫用的長期利用)に対抗する法案提出 LEGISLATION INTRODUCED TO CHALLENGE PERMATEMPING PRACTICES
 アメリカのWashTechのホームページ
 アメリカ議会に、長期利用目的での期間付雇用(permatemp) 根絶を目的とした法案が提出されたことを報道しています。E.ケネディ議員らが、会計検査院の報告を元に、非正規雇用労働者の医療・年金の給付改善を内容とした法案を提出したという注目すべきニュースです。

 GAO報告書 アメリカ会計検査院報告
 非正規雇用労働者 他の労働者層に比較して劣った所得と福利厚生

 CONTINGENT WORKERS Incomes and Benefits Lag Behind Thoes of Rest of Workforce
 Health, Education, and Human Service Division G.A.O(United States General Accounting Office)
 報告書の原文ファイル(PDF形式)
 (貼付ファイル総66ページのpdfファイル形式、約1.3Mの容量)

 アメリカ合衆国会計検査院(G.A.O)は、2000年6月30日、エドワード・ケネディ上院議員とロバート・トリチェリ上院議員に「非正規雇用労働者(Contingent Workers)」関連の注目すべき報告書を提出しました。両議員は、非正規雇用労働者の保護に関する法案を議会に提出していますが、このGAO報告書は労働者の深刻な実態を明らかにするもので、労働者保護の必要性を説得的に論証するものとなっています。
 報告書の主な内容は
  1. アメリカ国内の非正規雇用労働者の特性と規模
  2. 非正規雇用労働者への医療保険、年金などの適用
  3. 法の保護
  4. 福利厚生
 に関するものです。
 アメリカの非正規雇用労働者の全体的な規模は正確には推定できませんが、労働者全体のなかで約30%を占めています。非正規雇用労働者らは、低賃金である上に、費用負担ができず、実質的に医療保険、年金などから排除されている実情が明らかにされています。

 また、独立事業主形式や自己雇用(selfemployed)など、多様な雇用形態のために労働者の部類(カテゴリー)から除外される非正規雇用労働者が増えており、労働者保護法の適用からも排除されている実情が指摘されています。非正規雇用労働者を保護するために週労働時間と関係なく福利厚生(医療・年金)を受けることや、伝統的な使用者=労働者概念から離れて非正規労働者保護を目的とする法案を準備するべきであるなどの提案が示されています。

 GAO報告書に対するAFL-CIOスウィーニー委員長の声明書

 E.ケネディ上院議員の非正規雇用労働者保護法案提案についてのコメント

 平等雇用のための全国同盟(NAFFE)
   非正規雇用労働者の問題解決のために、全米19州40余の人権・労働団体らで構成された連合団体。AFL−CIOをはじめ、マイクロソフトを相手にした訴訟に勝利したワシントンテック労組(Wash Tech)などが参加し、各団体別に公益訴訟を繰り広げ、集会、デモなど活発な活動に取り組んでいます。
〔以上、韓国非正規労働センター(KCWC)のホームページから要約・抜粋。ただし、翻訳・文責は脇田にあります。〕

2000/12/13 派遣社員集団訴訟 米マイクロソフト社が108億円支払で和解


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