シルバー人材センターの高齢者にも労災補償を


 シルバー人材センターの高齢者に労災が多発しています。労働保険審査会が、労働省のこれまでの扱い(シルバー人材センターの会員は労働法上の労働者ではない)と対立する判断を示しました。

 1996年10月5日の「社会保障法学会」でも、ホームヘルパーの多くが労災保険や雇用保険の適用を受けないという扱いをされていることを指摘しました。労働省は、学生アルバイトをはじめ、実態に即して、労働者としての保護をするべきだと考えます。

 
 毎日新聞が、次のように、このニュースを特報しています。
 私のコメントも引用されています。(^ ^)


1996/10/04 <特報・労災>派遣先で事故死の高齢者事業団会員に初の認定
毎日新聞ニュース速報

 高齢者に生きがいとして仕事を提供する埼玉県の岩槻市高齢者事業団(現・岩槻市シルバー人材センター)の派遣先で1987年、男性会員(当時70歳)が事故死したの対し、国の労働保険審査会が「会社の指揮・監督下、時間給で賃金を得ていた」と判断し、春日部労働基準監督署の労災保険不支給の処分を取り消し、労災を認める裁決を行っていたことが3日、明らかになった。事実上のシルバー会員への労災認定の裁決は初めて。労働省は、同種会員を労働者とみなさず、労災保険の適用外と行政指導してきた。しかし、高齢社会を迎え、企業が景気後退の中で安価な労働力を求め出し、「安全」で「補助的」とされるシルバーの仕事と実際の就労がそぐわなくなっている。裁決は実態に即したものといえ、今後、労働省の高齢者就業対策のあり方が論議を呼びそうだ。

 岩槻市高齢者事業団は83年10月、任意団体で設立。90年10月、シルバー人材センターに名称変更した。会員は85年4月に事業団に登録。87年6月25日、岩槻市内の運送会社で台車部品の荷降ろし作業中、部品が倒れて下敷きになり、同日夜、死亡した。

 春日部労基署長は同年12月、会員の仕事は団体と会社の請負契約に基づくもので、会員と会社に雇用関係はないと判断し、遺族補償給付などの不支給を決定。埼玉労災保険審査官も89年10月、遺族の審査請求を棄却した。このため、遺族が同審査会に再審査請求。事業団の会員が、事業主と雇用関係にある労働基準法上の労働者かどうかが争点だった。

 裁決書で同審査会は、1)会員は85年7月から同会社で継続的に作業に従事2)作業は会社による指揮、監督がなされていた3)出来高ではなく、作業時間数に応じて報酬が支払われている−−などと認定し、会員を労働者と判断して、労基署長らの決定を一昨年10月に取り消した。

 労災認定で、遺族特別支給金300万円と葬祭料が支給されたほか、会員の妻(76)が亡くなるまで遺族補償年金が給付される。 事業団やシルバーは、主に請負契約で臨時的、短期的な仕事を受注し、登録会員に紹介。注文の仕事を完成させて報酬を得る。このため、会員は事業主の指揮下で働く労働者とは異なるとされてきた。事故の場合、労災保険などの適用はなく、団体加入の傷害保険での支給のみ。【伴丈伸治】

 ◆今回のケースは例外
 労働省高齢者雇用対策課の話 今回のケースは、例外と考えている。作業や契約の内容にシルバーの仕事になじまない点があり、最初から請け負うべきでなかった。シルバーが雇用でない部分を受け持つというスタンスに変わりはない。シルバーに対し今後とも指導徹底に努めたい。

 労災認定の道開く
 脇田滋・龍谷大法学部教授(労働法)の話 高齢者事業団やシルバーの会員はこれまで無権利状態に置かれてきた。裁決が実態判断し、雇用関係を認めたのは会員に労災認定の道を開く画期的なものといえる。労働省はむしろ就労の実態に即して、会員を労働者として保護していくことが求められていると自覚すべきだ。


1996/12/13 「雇用関係が生じる仕事の紹介ダメ」 労災認定封じ 「シルバー」で労働省が通達
毎日新聞 大阪夕刊


 シルバー人材センター会員への労災認定をめぐり、労働省が今月に入って、各都道府県あてに、労災対象の雇用関係が生じる仕事の紹介をやめさせるようシルバーの徹底指導を求める通達を出していたことが13日、分かった。毎日新聞社の調査で、全都道府県の47シルバーの半数以上が雇用に当たる仕事を紹介している実態が判明したためで、通達に背くシルバーに対し、高齢者雇用安定法に基づく補助金のカットも辞さない構え。しかし、シルバーの現場では「仕事を求めて来る会員を切らざるを得ず、割り切れない」との戸惑いが多い。【伴丈伸治】
 通達は高齢者雇用対策課長名で、まず「(生きがいを狙いとした)シルバーの趣旨に反した就業形態が存在するとの報道があった」と記述。こうした現状はシルバー事業への認識が現場の職員や会員に不足しているのが背景にあると指摘。そのうえで「報道内容が事実であれば、(シルバーが有料職業紹介事業に抵触し)職業安定法の違反を問われることも想定されるとともに、シルバー人材センター事業の根幹を侵す」と結論付け、事業主と会員の関係は請負契約という基本理念に則した運営を指導するよう求めている。同課によると、雇用となる仕事の紹介取りやめを求める通達を出したのは1981年9月以来、2度目という。
 しかし、不況で高齢者が雇用形態の仕事を紹介する職業安定所で仕事を得るのは極めて難しい。求職のため、就労形態にこだわらず、シルバーに入会する高齢者もおり、会員を労働基準法上の労働者として認めないのは現状にそぐわないとの指摘がある。  同課は「シルバーが雇用にあたる仕事を紹介することは、定年延長や再雇用という高齢者雇用の中心政策と競合するので認められない。事業目的に合っていないシルバーには、補助金カットも考えている」と話している。

◆就労の道閉ざす通達

 脇田滋・龍谷大法学部教授(労働法)の話 シルバーに経済的理由で仕事を求める高齢者がいる現状では、通達はかえって就労の道を閉ざすことになる。実態に沿って、会員をどう保護すべきかが求められているのに、通達は建前を押しつけているにすぎない。


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