生保裁判連事務局の了解を得て、生保裁判連ニュース第3号の記事をほぼそのまま、掲載します。なお、『法と民主主義』にも関連した記事が掲載されていますので、そちらもご覧下さい。(わきた)


生保裁判連ニュース 第三号  一九九六・九
発行 生保裁判連事務局 竹下法律事務所(〇七五-二四一-二二四四)

「こげんこつは許されん! 福岡で必ず裁判に勝ちまっしょ!」

日時‥ 平成八年一一月一〇日(日)午前一〇時〜午後四時
場所‥ 福岡県教育会館 参加費五〇〇円・資料代一、〇〇〇円
内容‥ 記念講演 「どうなっている生活保護の現場」 中川健太朗
     特別報告 「福岡の貧困問題と生活保護」(予定)
     第一分科会 「自動車・学資保険など、生活保護『資産保有』問題の到達点について増永・中嶋訴訟を踏まえ検討する」
     第二分科会 「現場から弁護士にどうつなぐか。How To 裁判闘争」
申込先‥ 竹下法律事務所又は福岡県生活と健康を守る会( 八一二 福岡市博多区博多駅南一丁目五−一七  〇九二−四五一―八八二〇)

 現地からの歓迎の声

 一一月一〇日、二回目の全国の生活保護裁判交流と連絡会総会が福岡市で開かれます。みなさまの方のご参加を、地元は心からお待ちしています。いま、全国で憲法や生活保護法から脱線した、でたらめな行政処分の取消を求める審査請求・裁判が多発しています。福岡県においても「学資保険の中嶋訴訟」「自動車の増永訴訟」の二つの裁判が山場を迎えています
 厚生省は「審査請求や裁判は生存権の保障法としての生活保護のなかですから、当然起こり得る問題でもあり、また、それがよりよく機能しているという側面もあるかと思う」とひとごとのように言っております。
 みなさま方のご支援でぜひ厚生省の不当・不法な処分をうち負かしたいと思います。
 一一月は大相撲の九州場所があります。相撲取りが博多は魚がうまいと言います。屋台での一杯も風情があります。ぜひ、博多の味覚にも接してください。みなさまの盛大なご参加を重ねてお願いします。 (福岡生健会・小林会長)

 福岡中嶋学資保険訴訟は今…

 中嶋学資保険訴訟は、七月二九日に控訴審第五回口頭弁論が行われ、花園大学の中川健太朗教授の意見書を提出するとともに、中川先生の証人尋問を申請し、採用されました。中川意見書は、長年にわたり自治体職員として生活保護行政に携わった経験を踏まえ、生活保護の運用上、実務上の立場から生活保護受給中の学資保険を含む預貯金が容認されてきた実態とその法的根拠を明らかにするとともに、一二三号通知以降の厚生省の預貯金等への対応の変遷を立証しています。一審判決が高校進学のための学資保険の必要性を認めながら、本件請求を棄却している点から、生活保護行政上の実態論からその違法性、不当性を明らかにするものとして中川意見書は、控訴審での勝利判決を勝ち取るためにも大変重要な意見書になっています。 
 原告弁護団は、中川先生の証人尋問採用を裁判所が認めるかどうかに確信はありませんでしたが、あっさりと採用を決定し驚いています。
 中川先生の証人尋問は、一〇月二一日に行われます。中嶋学資保険訴訟控訴審もいよいよ大詰めを迎え、支援する会としても裁判傍聴に大きな力を注いでいます。  (生健会・梅崎 勝)  


 大牟田・増永「自動車裁判」は今…

 大牟田「自動車裁判」は、車を借用して運転したことが指導指示に違反したとして、生活保護を廃止されたことから、大牟田市福祉事務所長を相手取って「生活保護廃止処分の取り消しを求める」訴訟を、一九九四年十月十七日福岡地裁に提訴して戦っているものです。原告の増永さんは、当時失業中で、高校三年生と中学三年生の子どもをかかえた母子世帯であり「仕事が見つかるまで二、三ケ月まって下さい」と頼んだにもかかわらず、問答無用として情け容赦もなく生活保護を廃止されました。裁判は、現在まで九回行われ、被告側の証人として三人の元ケースワーカーが出廷、その中の二人について反対尋問が終わったところです。
 これまでの公判で明らかになったことは、「自動車の保有・借用・運転を禁止する」という指導指示について、被告側が法的根拠を明確に示しきれずにいます。  (生健会・江川憲徳) 


 神戸・ゴドウィン訴訟は、今…
 大阪高裁でも門前払い、最高裁へ

 スリランカ人就学生、ゴドウィンさんの生活保護適用を求める裁判は、一九九二年二月に神戸で始まった。原告は五名の神戸市民で被告は日本政府(厚生省)である
 神戸地方裁判所(九五年六月)および大阪高等裁判所(九六年七月)の判決はいずれも原告の訴えを門前払いとする判決であった。すでに上告の手続きがとられて舞台は最高裁に移されている。
 裁判の主要な争点は、くも膜下出血で緊急入院したゴドウィンさんに生活保護を適用するか否かである。
 生存権は憲法二五条に定められた権利であり、生活保護はそれを実現するためのものである。生活保護法に「日本国民」の文言があるが、よく知られているように戦前から日本に在留する在日朝鮮人中国人には日本国民と区別することなく適用されている。外国人への生活保護に関する唯一の通達である一九五四年(昭和二九年)の「生活に困窮する外国人にたいする生活保護の措置について」ではそのような朝鮮人、中国人については一般的な大使館への連絡の事務手続きの必要はないとされている。同通達にはそれ以外の外国人登録証を提示しない外国人に対してどのような措置をとるのかという設問も用意して以下のように答えている。
 『申請者若しくは保護を必要とする者が急迫な状況にあって放置することができない場合でない限り、申請却下の措置をとるべきである。』
 この文章を素直に読めば、緊急医療を必要とするようなケースでは、外国人登録をしていない場合にでも適用するということになる我々が裁判で争っているゴドウィンは、日本語の勉強のために来日中の就学生であり、この通達によれば適用に関してなんら問題もないケースである。裁判の過程でいくつかの地方自治体のマニュアルを収集したが、その中には先に紹介したように京都市あるいは横浜市のように観光客であっても生活保護を適用するように書かれたものもあったのである。しかしながら厚生省は、一九九〇年一〇月二五日に「口頭通知」の形で、永住者・定住者以外の外国人には生活保護を適用しないと言い出しのである。
 また裁判の過程で我々は、国際人権規約および諸外国での事例も参照しながら、適用の正当性を充分に論証した。法政大学の高藤昭先生は「外国人に対する生活保護の適用について―医療扶助、とくに緊急医療扶助を中心に―」、元大阪府立大学の庄谷玲子先生は「生活保護の任務と八〇年代以降の保護運用上の問題点−外国人排除の意味−」と題する説得力ある鑑定書を書いてくださっている(全文は実現する会発行の資料集第四集参照)。また、弁護団の作成した一二六頁にわたる最終準備書面ではすべての争点について論じてる(同資料集第三集参照)。
 しかし神戸地方裁判所の判決では、以上の争点について全く判断を下さなかった。地方自治法による住民訴訟では国庫負担金請求ができないという理由で、門前払いの判決が下されたのである。また追加的に主張した同法による不当利得返還請求権および不法行為による損害賠償請求権は出訴期間が過ぎているとして切り捨てているこのような門前払い判決では生活保護を受けられない永住者・定住者以外の外国人が緊急医療を必要としたときに何等の救済策がないことを追認することである。それはまさに「死」を意味するものだそれに対して裁判官の心が痛んだのか、判決の最後の部分で次のように述べているのである。「憲法並びに経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約、市民的及び政治的権利に関する国際規約等の趣旨に鑑み、さらに、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利が人の生存に直接関係することを併せ考えると、法律をもって、外国人の生存権に関する何らかの 置を講ずることが望ましい。特に重大な傷病への緊急医療は、生命そのものに対する救済措置であるから、国籍や在留資格にかかわらず、このことが強く妥当する。
 この一審判決は踏み込んだ判決と評価することもできるが、ここまで書いておきながら門前払いとしたことに現在の裁判の限界を感じる。第二審(大阪高裁)の判決も「控訴棄却」の判決で外国人の生存権に関わる内容についての判断は、残念ながらなされなかった
 外国人の緊急医療のための特別法という議論もあるが、生活保護の趣旨からして緊急医療を必要とする外国人が生活保護によって救われることが重要なことであると考えている。最高裁に上告されたゴドウィン裁判への更なるご支援をお願いしたい。
(外国人の生存権を実現する会 飛田雄一)


 名古屋・林訴訟は… いよいよ10月に判決!

 九四年五月に名古屋市を訴えた林訴訟は、今年四月十日の原告林さんの証人尋問で証拠調べは終わり、七月一日の最終準備書面の提訴で結審となり、十月にはいよいよ判決となった。今までの審理からわれわれは勝訴を確信しているが、最後の詰めとして裁判所に向けた署名運動を取り組んでいる。
 十月三十日午後三時に名古屋地裁大法廷前に集合し、判決公判を傍聴後、隣の弁護士会館大会議室で集会を行なう。ぜひお越し下さい。

 林訴訟の争点

 (1)能力の活用について

(原告)
 早朝から寄せ場笹島で仕事を探し、知り合いの業者などにも頼んだが断られ、やっと見つけた仕事も足がつって解雇となった。利用しうる能力を活用しても最低生活ができなかった。被告は「稼働能力があれば保護の要件がない」とし、雇用状況や原告の能力活用を調べておらず、旧生活保護法より厳しい運用をしており違法は明らかである。また生活保護をはじめて申請した者に対しては、法第四条第一項の「能力活用」を適用して保護を開始ないということはあり得ない。
(被告)
 原告については、稼働能力が活用されていない、または不十分であり、急迫した事由でもないので、法第四条に規定する保護の要件を満たしていない。職員は一般的な雇用状況として「仕事は探せばある」と把握していたのであり、日雇労働者は必ずしも毎日雇用されるものではなく、ある特定の日時において就労できなかったからといって、現に就労する場がなかったとは言えない。生活保護の決定に当り求職の可否を職安に問い合せたり、求人状況や雇用状況を調査する必要はない。

 (2)「住所不定者」に、差別的な保護行政をしているのか。

(原告)
 「住所不定者」に対しては、失業して生活に困窮していても、「稼働能力があれば、保護の要因がない」と画一的に排除し受診希望がない場合は、相談にものらない。受診した場合にも医師が稼働能力有りと判断すると、医療扶助のみ適用という法的根拠のない「応急手当」を画一的に行い原告などを生活保護から実質的に排除し、明らかに差別的な対応をしている。
(被告)
「住所不定者」に対して特別のやり方をしていない検診命令によって稼働能力の有無について医師の意見を求め保護の要件の判断材料とすべきところ、そうすれば原告の足の痛みを放置することになるので、人道上やむを得ない措置として、診察・治療を受けさせ同時に稼働能力の有無の判断材料を得ることとしたのである。

 (3)その他の争点

 内容的な二大争点は以上であるが、訴訟上は他にいくつか争点がある。「応急手当」という医療扶助単給による保護を開始し、翌月「稼働能力有り」という理由で保護廃止するやり方が適法か。保護開始通知書を二週間以内に交付しなかったことをどう判断するか。処分取消訴訟は、期日内に提起された適法なものか、などである。

林さんの近況

 林さんは私たちの援助で九四年十一月からアパ−トを借りていたが、今年五月に体調を崩して働けなくなり、生活保護申請をした。結局入院することになり、「傷病により就労できず生活できないため」という理由で、保護開始となった。林さんは、その後退院したがまだ本調子ではない。
 けっさくなのは、被告はこの保護開始申請書と保護開始決定通知書を証拠として出し、「原告からの生活保護申請に対し、法の定めるところに従い、保護の要件を満たすか否か個別具体的に判断し、適切に対処している」と主張している。こんな当たり前のことをわざわざ「適切に対処している」と主張せざるを得ない名古屋市の現状なのである。
    (林訴訟を支える会 藤井克彦)




さる七月二六日、神戸市中央区で「ひょうご福祉ネットワ−ク」の結成総会が開かれた。
 ひょうご福祉メットワ−クは阪神・淡路大震災で生活に打撃を受けた被災者をはじめとした、社会保障を必要とする人々に、相談活動を行い、年金や生活保護を受けるための援助などの活動をする。
 呼び掛け人は、西原道雄神戸大学名誉教授ほか。
 ひょうご福祉ネットワークの結成にしたメンバーは、すでに今年の始めから月一回の仮設住宅での相談会を開いてきた。相談にあたるのは、MSW、福祉ワーカー、社会保険事務関係者、生活と健 を守る会、年金者組合、弁護士等
 社会保障・社会福祉の分野は広く、専門知識が必要なため、相談員のための学習会も行う。
 七月二七日には、五本の仮設電話を引いて、社会保障電話相談をした。相談件数は一二件、うち八件が生活保護関係。
 八月にも神戸市北区鹿子台仮設住宅で相談会を開く。
     (弁護士 藤原 精吾)

 


 金沢から二つの訴訟の報告 奥村弁護士

 1、「高」訴訟

 生活保護における収入認定を問題とする事件である。
 原告は、身体障害者手帳一級の交付を受けている、常時介護を要する者であるが、既に一人暮らし二〇年、自立する障害者を実践するファイトマンである。
 収入認定されたのは、石川県心身障害者扶養共済制度条例に基づく年金(月額二万円)である。
 当初収入認定されたのは一九八八年一月であるが、一九九四年四月からの変更処分に対し、その内容をなす右記収入認定を問題をしている。
 審査請求および再審査請求は、本人自身が行なった。当職らも事実上把握していたが、高さん本人が当職らに面倒をかけたくないという配慮から自分で行なった。その後、計三名の代理人が付いて、一九九五年七月一八日に金沢地裁へ提訴した。以来、この九月二七日で、第五回の公判の予定である
 これまでのところ、主張整理等が続いている。
 処分の特定とその処分を取り消した場合の効果等につき、主に裁判所とのやりとりが続いている。処分が、収入認定された当初の処分ではなく、冬季から夏季への変更時期になされたものを具体的には対象としているためである。
 ともかく、次々回くらいには、まず本人尋問を行い、要介護の身体障害者、生活保護を受けている者の生活実態等をまず明らかにしていきたいと考えている。
 訴訟としては、生活保護制度そのもの、特にそれのもっとも尖鋭な場面(?)である収入認定が問題となり、秋田の加藤訴訟を範としたい。また、大阪でのヘルパー派遣を求める訴訟も本件と基礎を同じくするものがある。
 訴訟は現在四名の弁護士が学者および学生の協力を得て進めているが、現在の大きな課題は支援する体制をどう作っていくかであると思われる。
 金沢では、年金問題研究会というものを、学者、学生、ソーシャルワーカーを中心とする医療関係者および弁護士で組織し、現在、本件「高」訴訟および次に紹介する「宮岸」訴訟(東京地裁)を抱え、その他の相談や行政不服審査レベルのものを、常時、数件抱えるという状況である。
 正直に言って、かなり苦しい、時間的にも経費的にもである。
 どうすれば、このような形の訴訟等を、事件本人はもちろん、担当する者、支援する者等が十分な形で取り組むことができるか?
 今、この文を書きながら考えている次第である。


 2、「宮岸」訴訟

 前記「高」訴訟以前から取り組んでいる訴訟である。
 本件については、既にいくつかの雑誌等にも紹介され、ご存じの方もおられるかも知れない。
 原告は、一定期間、渉外と老齢の両方の年金を受給していた。それも行政の窓口に促されての申請によって、両年金を受給していた(ただし、併せて九万六千円余にしかすぎない)。ところが住所変更手続の過程で併給が「発見」され、支給停止とともに過去に溯っての返還まで要求されたのが、本件である。
 本件は、直接的には、右記の年金の併給調整の問題であるが、「生活保護でなく自分の年金で暮らしたい」という、ひとつコピーが本件で訴えられているように、生活保護の内容や制度および運用等の生活保護全般を厳しく問う訴訟でもある。
 訴訟は憲法二五条、同一四条、同三一条(行政の禁反言)そして一九八五年以降の年金制度のあり方および生活保護制度等を幅広く問題とするものであり、社会保障裁判として歴史に残るひとつの事件でもあるとの意気込みで、皆、取り組んでいるものである。
 訴訟は、既に、本人尋問、証人(妻・ソーシャルワーカー及び井上英夫金沢大学教授等)の尋問を終了し、主張整理の段階である。
 なお、本件訴訟で、忘れてならない一つは、管轄の問題である。
 当初、本件は金沢地裁に提訴されたが、行政事件訴訟法一二条により東京地裁への移送を国側が申立て、結局、現在は、東京地裁で審理されている。原告側は、この移送問題に対して、最高裁まで徹底して争った。期間的にも、ほぼ一年間を要した。社会保障裁判における管轄問題は通常の訴訟以上に原告の裁判をする権利そのものを剥奪するに等しいものがあり、訴訟本体と同様に、譲り難い戦いであった。結果的には、実を結ばなかったが、社会保障裁判等におけるすべての原告や代理人等による腰を据えた戦いの継続が望まれるものである。
 現実にも東京地裁での訴訟遂行は、前記「高」訴訟で提起した運動面、代理人等の時間面、経費面等にも大きな影響を与えている(もっとも金沢の代理人は、皆「田舎者」のため、はるばる東京さへのぼることができる!等とかなり喜んでいるとの指摘もありますが・・・)。
 以上、金沢は、あいも変わらずのんびり、気楽に、だけどシツコク、裁判等やっています。


変臭香気

 いよいよ本格的な秋。それぞれの訴訟が重要段階を迎えます。そして、突然の総選挙・・
 第二回生活裁判連の総会もスケジュールに入れておいて下さい。
 中洲の夜、“勝利の美酒”を交わしましょう。 (やなぎ)