1997/08/13 11:20付のご相談者へ

 メールありがとうございました。
 派遣会社での面接をされての疑問ということですね。類似のご相談がよく
来ています。
 返信先の記入がありませんでしたので、ホームページで回答します。

 付け加える必要がある事情や質問などがありましたら再度メールを下さい。
 その後の経過とともに、返信先を明示していただけましたら、より具体的な
回答をメールでお返事することができます。

                        1997年8月14日

                   派遣110番担当   脇田 滋

                E-mail   MAH01517@niftyserve.or.jp
                E-mai(binary) RB1S-WKT@asahi-net.or.jp
           homepage http://www.asahi-net.or.jp/~RB1S-WKT


           
派遣110番からの回答


 ご相談の内容から、登録型での派遣で働こうとされているのだと判断できます。

 派遣労働には(1)登録型派遣と(2)常用型派遣の大きく2種類があります。
 (1)と(2)の区別は、おおむね次の通りです。

 (1)登録型派遣

  A.派遣元(派遣会社)に登録します。
  B.派遣先が見つかって、派遣就労することになったときに、派遣元とは期間を
    定めた労働契約(有期雇用契約)を締結し、派遣先に派遣されるものをいい
    ます。
  C.派遣先への派遣期間が、派遣元との労働契約の期間になります。派遣が終わ
    れば、派遣元との労働契約も終了し、登録状態に戻ることになります。

  A.派遣元への登録        ○−−−−−−−−−−−−−−−−>
  B.派遣元との労働契約(雇用契約)   ○−−−−○  ○−−○
  C.派遣先への就労           ○−−−−○  ○−−○

  A.の派遣元への登録は、賃金や雇用の保障をともないません。
    いくつかの派遣会社に同時に登録することも可能ですし、実際にはなかな
    か仕事の紹介がありませんので、複数登録することが多くなります。

    雇用期間=派遣期間が、短期に断続しますので、社会保険や年次有給休暇
    など、継続雇用を前提にした権利についてきわめて不利になります。

 (2)常用型派遣

  D.派遣元(派遣会社)と、期間を定めない労働契約(雇用契約)を結んで雇用
    されるもので、この点では、一般の労働者と同様です。
  E.派遣先が見つかれば、一定の派遣期間ごとにあちこちの派遣先に派遣されま
    すが、派遣期間が終了しても、派遣元との労働契約は続きます。

    賃金・雇用の保障も継続し、社会保険加入、年次有給休暇など継続雇用を前
    提にする権利も一般の労働者と同様に保障されます。

  D.派遣元との労働契約(雇用契約)○−−−−−−−−−−−−−−−−>
  E.派遣先への就労        ○−−−−○ ○−−○ ○−−○ 


  派遣会社も、
  この(1)と(2)の両方を対象にする「一般労働者派遣事業」と
  (2)だけを対象にする「特定労働者派遣事業」に分れます。

  (1)の登録型派遣は、労働者にとって不利なことが多いので、この導入には
  強い反対がありましたが、1985年に制定された労働者派遣法には、この登録
  型派遣も認められることになりました。

  しかし、予想された通り、多くのトラブルが生じており、労働者が無権利におか
  れるこの登録型派遣については、抜本的な改善の必要が指摘されつづけています。

  派遣110番でも登録型派遣をめぐる相談がほとんどです。

> 初めて派遣会社の面接を受けました。勤務条件なども丁寧に説明してもらい、
>「いい派遣会社かな?」と思っているのですが、派遣決定前に「導入研修」を義務
>づけられました。
> パソコンの基礎操作やビジネスマナーの習得のため、5日間研修室に通ってくだ
>さいとのことです。この期間にわたしの社会人適性なども判断することも含まれて
>いるそうです。費用は無料で、この間は当然賃金などは支給されませんが、労災保
>険の対象からもはずれるので、事故やケガに注意してくださいと言われました。
> 派遣スタッフとして本登録され、派遣されなければなんの保証もうけられないの
>でしょうか?派遣会社側は、「PCスクールにタダで通っているのと同じだからね。
>今日の面接だって労災保険の対象にならないのと同じだよ。」と言うのですが、働
>くために義務づけられた研修期間なのに、労災保険の対象にならないのでしょうか?

 一般常識や労働法の基本的な考え方からも、疑問に思われるのは当然です。

 労災保険の基本的考え方では、労働者が使用者の指揮命令のもとで拘束的な状態に
 あるときには、保護するというものです。
 派遣決定前の「導入研修」(5日間研修)も、一般の会社や常用型派遣であれば、
 この段階ですでに就労関係に入ったと考えられる場合もありますので、賃金や労災
 保険(通勤災害を含む)の適用もあり得ることになります。

 しかし、登録型ということで、派遣会社の面接は一般の会社での面接とは違い、
 「登録」のためということになり、労働者にとっては不利な扱いがされています。

 こうした研修だけではなく、派遣先での面接(本来は違法)に連れていかれて、
 1日を使ったのに、日当や交通費をもらえないという苦情の相談もよくあります。

 登録型の場合には、あちこちに複数登録したり、派遣先が短期間に変わる度に同じ
 ようなことが繰返され、そのときの費用負担のほとんどは派遣会社に都合よく労働
 者負担にされています。

 法理論的には、この「登録」についても、労働者を拘束する程度が強ければ、一定
 の労働者保護が必要であると考えられますが、残念ながら、労働者派遣法がこうし
 た登録型を制度として認めていることもあって、行政的な改善の指導も弱腰ですし、
 これまでに裁判で争う事例も出ていないようです。

 最近の相談では、派遣先を見つけやすくするためにという口実で、90時間のパソ
 コン講習を義務づけ、その講習代金を労働者から徴収するというものがありました。

 実際には、講習や登録だけをさせておいて、派遣先を見つけることをしてくれない
 ので、派遣する(仕事を与える)ことをエサに講習代金を取ることが本当の目的の
 詐偽ではないかという相談です。
 悪質な場合には、一般の消費者保護の考え方にも反し、仕事を求める労働者の弱味
 に付け込む「就職商法」の一種とも考えられます。相当な法的対抗措置(詐偽での
 刑事告発や損害賠償訴訟)の可能性もあると思っています。


> また、社会保険への加入は雇用期間が継続2ヶ月を越えたら強制適用されるので、
>年金手帳なども用意しておくように言われました。わたしは国保と国民年金の方が
>安いので、そちらのままでいたいのですが、選択できないのでしょうか?

 労働者であれば、健康保険や厚生年金保険に加入できます。国民健康保険や国民年
 金に比べて、保険料は違いませんが、使用者負担もありますし、給付では次の表の
 通り、健康保険や厚生年金保険のほうが圧倒的に有利になります。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
        派遣労働者    派遣労働者が   夫(健康保険加入)
        本人が      国民健康保険   の被扶養者
        健康保険     国民年金に加入
        厚生年金保険
        に加入
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 健保保険料  労使折半負担   本人が全額負担  夫が全額負担

 健保給付   本人9割給付   7割給付      家族給付7割給付
        (9月から8割)
        傷病手当金あり  傷病手当金なし   傷病手当金なし
        (休業保障)

 年金保険料  労使折半負担   本人が全額負担   夫が全額負担
                           (第3号被保険者)

 年金給付   基礎年金+    基礎年金のみ    基礎年金のみ
        厚生年金
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 しかし、登録型派遣の場合には継続雇用でないために、派遣期間だけ、健康保険や
厚生年金保険に加入することなります。(実際には、この法的な加入手続きをしてい
なかったのですが、会計検査院などからの厳しい指導があり、遡って加入することに
なっています)

 健康保険や厚生年金保険は強制加入ですので、国民健康保険や国民年金が有利だと
思っても(実際にはそういうことは少ないと思いますが)、勝手に選択することはで
きません。

 その結果、登録型派遣で働くときには、これまで国民健康保険や国民年金であった
のに、短期間の派遣期間、健康保険や厚生年金保険への加入者となり、派遣が終われ
ばまた、国民健康保険や国民年金に戻ることになり、これを派遣ごとに繰返すという
複雑なことになります。手続きが複雑になりミスやトラブルも起きやすくなります。

 派遣110番にも、関連したトラブルについての相談が相次いでいます。

> 面接の担当者は、そのほかの有給休暇のことや、契約更新・満了時の対応などに
>ついても、詳しく説明してくれましたが、派遣会社は労働者をダマす事が多いので
>しょうか?このホームページを見ていてさらに不安になってきました。ご回答お願
>いいたします。

 登録型派遣労働者は、いろいろな面で弱い立場に立ちます。
 派遣会社の営業担当者は、派遣労働者を守ってくれるとは限りませんし、場合によ
 っては、労働者の弱い立場につけこんで、脅かしてくる場合もあります。

 ある労働者の相談では、複数の派遣会社に登録していたところ、なかなか仕事がな
 いのに、タマタマ数日の間に、登録していた派遣会社A社から派遣先の紹介があり、
 OKを出したところ、B社から次の日に、賃金や地域的により有利な派遣先の紹介
 がありました。そこで、B社で就労しようと考えて、A社に断わりの連絡をしたと
 ころ、A社の営業担当者が、「派遣会社は、相互に連絡をしているんだ。そんなこ
 とを言うなら、今後、どの派遣会社にも登録できないようにしてやるからな。」と
 脅かされたということです。

 こうした悪質な派遣会社や営業担当者があれば、すぐに相談して下さい。
 公共職業安定所からの指導や、悪質業者としての企業名公表などの制裁も考えられ
 ます。

 派遣会社がすべて「労働者をダマす」悪質な存在とは言えないかもしれません。
 しかし、何かトラブルがあったときには、労働者にしわ寄せをする営業担当者がい
 るのも事実です。

 派遣で働くときの基本的な心得としては、

 正社員と比べて自由であるとか、オフィスがきれいであるとか、いろいろな仕事
を選べるというメリットが宣伝されていますので、110番としては、逆に、派遣
会社が決して宣伝しないマイナス面を知っておいていただきたいと思います。

 最後に、「派遣で働くときの注意事項」をまとめています。

 参考にしていただければ幸いです。

 
【派遣で働くときの注意事項】

 (1)派遣の雇用形態の3面関係という特徴をしっかりと認識しておく。

   直接に労働をする相手(派遣先)と労働者の間に中間者(派遣元)が入る
   「間接雇用」という形態です。通常は、仕事をする先の使用者が契約上も
   使用者ですが、派遣の場合は派遣元との間に雇用契約を結び、「使用者」
   が派遣元(雇用関係)と派遣先(使用関係)に分かれます。
   いわば使用者が2人あるということですが、労働者にとっては問題や要望
   があるときに責任をとったり、要望を受け止めてくれる相手が誰かはっき
   りしないという危険性が出てきます。
   派遣先は労働者を直接雇用すれば辞めさせようと思っても簡単には首を切る
   ことができません。派遣であれば、委託を打ち切るという形式で実際には
   労働者を解雇することができるのです。派遣先にとっては大きなメリットが
   ありますが、労働者にとっては何時でも雇用を失う危険性があることになり
   ます。

 (2)派遣元は頼りにならないことが多い。

   派遣元で聞かされた仕事と、派遣先で命じられた仕事の内容が違う。
   残業をしない(3月で仕事を辞める)約束だったのに、派遣先の都合で残
   業をさせられる(契約の延長をさせられる)ので困っている。
   などの苦情が110番にも数多く寄せられます。
   ところが、派遣元の営業マンに苦情をいったら、逆に「ぜいたくを言うな。
   残業(契約延長)をしなければ、次の仕事を紹介しないぞ」と凄まれた。
   という事例もあります。
   派遣元の仕事は、以前は職業安定法で禁止される「口入れ屋」というもので
   す。近代的な派遣会社という華やかな形で宣伝していますが、実態は、派遣
   労働者の労働に寄生して、直接雇用であれば労働者が全額受け取るべき賃金
   の一部(3割から4割程度)を中間的介在者ということで利得する存在です。
   派遣110番に相談が相次ぐのは、派遣元に苦情を持ち込んでも相手にされ
   ないので仕方がないからという方が少なくありません。派遣110番は、言
   い換えれば、無責任な派遣元の代わりに苦情を受け付けて尻拭いをしている
   のではないかという気持ちになることもあります。
   派遣労働者は派遣先がバラバラですので、お互いに労働条件などの情報交換
   も困難です。労働組合をつくって集団的に交渉することも難しい存在です。
   労働者がバラバラで力がないのを前提に使用者としての責任も果たさないで
   いるので、派遣会社は何時までも社会的に尊敬される企業になれないとも考
   えられます。
   何も問題がなければ調子がいいが、ことが起これば実に頼りない。
   派遣元がこのような実体であることを十分に知っておく必要があります。

 (3)派遣労働者と正社員の待遇に大きな違い

   派遣は、大企業のきれいなオフィスでパートタイマーよりも高い時給で働け
   るということが宣伝されています。
   しかし、日本では同一労働同一賃金の原則がほとんど守られていません。
   育児休業などの代替も派遣が認められましたが、同じ労働であるのに待遇は
   正社員とは大きく異なります。ひどい場合は2分の1や3分の1の場合もあ
   ります。
   確かに、パートタイマーについては非課税限度や社会保険の被扶養者基準の
   枠があり、103万円から130万円程度の年収です。これに対して、派遣
   労働者の場合は、時給1000円以上という点では高給かもしれません。
   独身であれば非課税限度を超えても気になりませんが、結婚すれば夫の被扶
   養者としてとどまるのかどうかが大きな問題になり、年収ではパートタイマ
   ーと同じ問題が生じます。
   とくに、大企業のOL(直用正社員)と比べたときには、派遣社員の待遇は
   次の点で大きな差があります。
   1.毎年の定期昇給がない
   2.手当がない(とくに通勤手当。交通費自己負担がほとんど)
   3.ボーナス(賞与)がない
   4.福利厚生が貧弱
   5.雇用保険、健康保険、厚生年金保険への加入がないことが多い
   6.年次有給休暇が不利(6ヵ月以上勤務で10日が労働基準法の最低基準
   であるが、契約期間が短く年休がないとか、長期雇用の場合の年休の増加が
   ない)

 (4)派遣労働者に対する派遣先の差別的な扱いの例がある

   派遣先によって違いがあると思いますが、110番でよく聞くのは、派遣先
   の正社員が派遣労働者を対等な人間扱いをしないで差別的に扱う例です。
   これは、『がんばってよかった』(かもがわ出版)にA子さんからの手紙が
   掲載されていますので、機会があれば是非読んでみてください。
   派遣元に書いた自分の履歴書が、派遣先でコピーやファックスされてあちこ
   ちに回されていて、住所や電話といったプライバシーへの配慮もまったくな
   いという例や、正規社員がいやがる、いやな仕事を派遣社員に押し付ける例
   などがあります。
   残念ながら、日本の大企業の職場には競争や能力主義の風潮が強いことや、
   企業主義の意識も強く、零細な派遣会社からきた外部労働者である派遣社員
   に対する意識は必ずしも暖かいものではありません。とくに、男性正社員に
   は、男女差別の意識も加わって派遣社員を軽く扱うなどの差別的な傾向があ
   ります。

 (5)派遣は、ドライな契約意識を前提にした雇用形態

   派遣は、アメリカから日本へ導入された雇用形態です。
   アメリカでは労使ともに契約意識が強く、契約書に書かれていないことを命
   じたりすることは考えられません。契約で細かなことまで約束することが慣
   習になっています。ところが、日本では、仕事の仕方などを契約書に詳しく
   書いておく習慣がなく、書かれていないことでも命じられたら断れないこと
   が少なくありません。
   派遣の建て前はアメリカ的ですが、実際の派遣労働は日本的な状況のなかで
   行われますので、多くの問題が生じます。しかも、アメリカのように契約違
   反の責任を裁判所で追及することは簡単ではありません。
   つまり、派遣で働くときには、かなり「ドライな」気持ちで働くという気持
   ちが必要ということになります。
   具体的には、派遣元も派遣先も信用できないと考えて、契約の内容について
   は文書(就業規則や雇いれ通知書)で細かく確認する、自分の就労の記録を
   きちんと残しておく、相手の不当な言い分についても正確なメモを残すなど
   の対策が必要です。

 (6)自分を守るために労働法や派遣労働についての勉強を

   派遣というのは、以上のようにきわめて不安定で孤立した雇用形態です。
   派遣で働くときには、目的をしっかりと持ち、職業能力や契約意識が十分で
   あることが通常の雇用よりも余計に必要だと思います。
   そうでなければ働いた後にいろいろと不満が残ることが多いかもしれません。
   とりわけ、自分を守るために労働法や派遣労働についての知識をもつことが
   必要ですし、日ごろから相談できるところ(この110番もその一つです)
   や弁護士などを考えておくことも必要です。

 (7)派遣労働者も労働組合への加入を(何かあったときの「保険」として)

   とくに、登録型派遣労働者も、労働組合に加入されるように勧めます。

   京阪神地域には登録型派遣労働者の加入を受入れ、なにか派遣をめぐるトラ
   ブルがあったときに、ベテランの組合役員が団体交渉などで、派遣労働者を
   守ってくれる例が出てきています。(東京地区にもあると思います)
   「保険」と思って、こうした労働組合への加入も考えておいて下さい。

                                以上


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