「改正」労働者派遣法に関する中央職業安定審議会審議にあたっての意見

                                               1999年7月30日
                                             日本労働弁護団会長 山本博

 労働者派遣法改正法案は、5月21日、衆議院で一部修正の上可決された後、6月30日、参議院ではさらなる修正がなされることなく可決され成立した。
 日本労働弁護団はこれまて、派遣労働者の保護の強化を求めるとともに、この法案が雇用を破壊する危険性を有していることを指摘し、「臨時的一時的な派遣に限っての派遣業務の原則自由化」という中央労働職業安定審議会建議の観点に立っての抜本的修正を求め、これが実現されない場合には原則自由化を見送るべきことを求めてきた。
 これに対して、結局、衆議院の修正、衆参両院の附帯決議によっても基本的な修正はなされなかったことは遺憾である。
 当弁護団としては、今後は中央職業安定審議会において十分な審議が行われ、改正・修正・附帯決議の趣旨が実効性を持つように、次の内容の政令・省令・指針の策定がなされるよう求めるものてある。

 一、労働者派遣の除外業務について(改正法4条1項3号関係)

 改正法では、「業務の実施の適正を確保するため」に「適当ではないと認められる業務」であって「政令で定める」ものについては、労働者派遣の適用対象から除外される。法は、この政令を定めるのに先立って、中央職業安定審議会の意見を聴くことを必要と定めている。
 政令で指定する適用除外業務に関して、病院における介護が予定されている。これを除外するのは当然である。
 これのみならず、国民の健康・安全・衛生に直接関わる業務(病院以外の在宅看護や交通運輸等)について派遣労働の対象とした場合、派遣労働者の側でも不安定な雇用関係の解消を恐れて法令違背や不適切な指示等を拒絶しにくいことから、「業務の実施の適正」を確保することが困難な場面の生じることも想定される。よって、これらの業務についても、派遣労働の対象とすることは適当ではなく、除外されるべきである。

 二、インハウス派遣の規制について(改正法7条第1項1号関係)

 改正法では、一般労働者派遣事業の許可の要件に関して、原則として「専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われるものではないこと」との要件に適合しなければならないとした上で、例外的に、この要件に該当しても「雇用の機会の確保が特に困難であると認められる労働者の雇用継続等を図るために必要であると認められる場合として労働省令で定める場合」には、許可を与えることとしている。
 この労働省令による「例外的」な場合は、法の要件に照らして厳密に定められるべきである。
 既に、銀行や商社等におけるインハウス派遣の横行は目に余るものがある。時給870〜930円程度の労働者が、銀行系列の人材派遣会社に雇用され、銀行の支店で従事する者の2割以上が人材派遣会社からの派遣労働者であるという例も、決して珍しくない。これらのインハウス派遣については、今回の法改正の趣旨に即して、許可基準の段階で規制を強化すべきである。
 なお、法にある「専ら」という言葉の意味について、脱法行為を許さないように、指針が定められるべきである。すなわち、派遣労働者のうち概ね2分の1以上の者を特定の者(系列子会社を含む)に派遣する等して、経営基盤が「専ら」「特定の者」への役務提供によって成立している場合においては、「専ら労働者派遣の役務を特定の者に提供することを目的として行われる」の要件に該当するものとして扱われるべきてある。

 三、個人情報の保護について(改正法7条3号、36条4号、職安法改正24条の3、参議院附帯決議5関係)

 改正法においては、派遣労働者の個人情報の保護に向けた対策として一般労働者派遣業の許可基準及び派達元の業務に「個人情報の適正管理」が追加された。また、派遣元が収集すべき保管、使用する個人情報の範囲を「業務の目的の達成に必要な範囲内」と制限した。
 これまで、個人情報の管理が実際ずさんになされていた事例があることも踏まえ、個人情報の取扱いに関する諸外国の立法も踏まえた綿密な指針が策定されるべきである。
 また、収集・管理される内容によって差別的な派遣が行われてきた実態を踏まえ、また、均等待遇の実現に向けて(ILO181号条約第5条)、「業務の目的の達成に必要な範囲」とは労働者の資格・職業経験に関連する情報に限定し、指針においてはその内容を制限列挙すべきである。
 さらに、プライバシー保護・「適正管理」の一環として、個人情報開示・訂正請求権の存在及びその手続を明確に指針に定めた上、そのことを労働者に周知徹底する方法もあわせて定めるべきてある。

 四、派遣先によるスタッフの選別の禁止(改正法26条7号関係)

 改正法により、派遣が原則自由化されたが、派遣という類型が例外的なものであることには変わりない。労働者の選定を行うのはあくまで派遣元であるという基本の厳守は徹底されなければならない。
 事前面接・試験・試用によってスタッフを選別した場合の派遣先の雇用主としての責任を明確に定めるべきである。

 五、社会保険に関する派遣先の確認義務について(改正法35条2号、衆議院附帯決議4、参議院同9関係)

 本「改正」によって不安定雇用が大量に生み出されることが予測される事態の中で、社会保険等のセイフティーネットの整備は急務である。
 両院の附帯決議に則して確実に実現されるべきである。
 そして加入させないままに労働者派遣を行った派遣元に対し加入の指導を徹底し、指導に従わない場合には許可を取り消すべきである。

 六、派遣期間の一年の制限に係る「同一の業務」及び「継続」の判断基準等について (改正法40条の2第l項、40条の3、49条の2第2項、参議院附帯決議4関係)

 (1)「同一の業務」の基準については、他の条項における同種の用語の解釈に拘泥することなく、常用労働者の代替を防ぎ、臨時的一時的な派遣に限るという法改正の趣旨を尊重して定めるべきである。したがって「当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの」「同一の業務」の内、まず「就業場所」については、「係・課」等をこえたより広い組織範囲を含むように定義を定めるべきである。また、「同一の業務」についても単に労働省が定めた職業分類又はその組み合わせが異なればよいというのではなく、主要な業務が一部でも重なれば「同一の業務」とするとの基準を設けるべきである。
 さらに、「係・課」が同一の場合には、「同一の業務」とみなすのが当然である。
 (2)「継続」については、数日空白期間を設けて「継続」性がないとするような脱法的な運用がなされ得ないように厳格な基準を定めるべきである。
 (3)派遣を1年以上受け入れた企業に対する労働大臣の雇い入れ勧告及び企業名公表の制度を実効的にするため、迅速な審理手続を定めるべきことは当然であるが、さらに結論が出るまでの当該労働者の身分を一定の要件のもとで保全するための指導や勧告についても定めるべきである。さらに、その手続について派遣労働者へ周知徹底する方法を明記するべきである。
 (4)また、派遣労働者が自ら期限を超えた違法派遣をチェックすることができるようにするため、一年間を超えることになる日を派遣労働者自身にも事前に通告するか、事後的に開示すべき旨を定めるべきである。

 七、派遣労働の期間について1年間の期間制限を受けない専門的な業務の範囲について (改正法40条の2第1項1号関係)

 改正法では、専門的な知識、技術又は経験を必要とする業務であって法所定の要件を満たし政令で定める業務については、派遣労働の期間について1年間の期間制限をしないこととされている。この政令の制定等に関しては、予め中央職業安定審議会の意見を聴くことが必要である。
 従前の26業務以外にこれを拡大すべきではない。
 なお、現行の26業務のうち、受付、ファイリング等の一般事務との境界が曖昧なものについては、政令から除外することを検討すべきである。なぜなら、これらの業務については、従前から一般事務との境界が曖昧なことに起因して様々な問題が発生していたことは公知の事実である。このため、今後、1年間の期間制限を受けない受付業務やファイリング業務なのか、それとも、l年間の期間制限を受ける一般事務なのかの区分を巡る紛争が頻発することが予想されるのである。もし、これを除外しないのであれば、受付やファイリング等についての定義を厳密に行い、一般事務との区分を巡る紛争の発生を未然に防ぐ必要がある。

 八、正当な理由なく派遣先が中途解約した場合の責任 (衆議院附帯決議3、参議院同7関係)

 衆参両院の附帯決議は、派遣先の責に帰すべき中途解約の場合に派遣先は派遣元に対して少なくとも30日前の予告又は30日分以上の賃金相当額の損害賠償を行わなければならない旨を指針に明記することとした。
 横行する中途解約の問題の解決につなげるべく、指針においては「派遣先の責に帰すべき中途解約」の例(「性格が気に入らないから解雇する。」「社風にあわないから解雇する。」等)を詳細に示して派遣先への指針とするとともにこのような中途解約を職に禁止する姿勢を明確にすべきである。
 あわせて上記の予告義務について定めるとともに、たとえこの義務を果たしたとしても中途解約による損害賠償の義務は逃れ得ないことを明らかにすべきである。
 さらに国会答弁のとおり、一方的な中途解約を牽制するため、派遣先は派遣元から請求があった場合、契約解除の理由を明示すべぎ義務があることを定めるべきである。

 九、なお、国会答弁では、上記各事項に加え、常用労働者の代替が一方的に進められるのを防止するため、派遣労働者になることを同意しなかった労働者に対し制裁を行わせない旨指針を策定することとされている。
 派遣労働をめぐる実態として、本「改正」に先行してすでに企業は、正規社員に対して派遣労働者への切り替えを迫っている例が多発している。そのような強引な労働権の侵害を未然に防ぐためにも指針によって明確に不利益取扱いが許されないことを明示するべきである。


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