updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

6005. 正規従業員の派遣会社への出向は許されるのですか?  私は正社員ですが、関連会社である派遣会社に出向し、そこで派遣スタッフとして働くように言われました。在籍は出向元のままです。 給与その他も変わらないというのです。もし派遣にでることがない場合でも給与は保証されるのです。そのかわり「来た仕事は断れない」のです。
 しかも社員としての立場はまもられるんだからと言われても、就業時間内に通院したりしづらくなるでしょうし、今は思い浮かばないいろいろなトラブルが待っていると思います。こういう事はよくあることなのでしょうか? 私は、いったん出向を受け入れてしまったら遠くの派遣先へも行く義務が生じるのでしょうか?


 〔1〕派遣=人員整理目的の出向

 出向というのは、法律上の用語ではありません。会社やその事例ごとに意味が異なっています。

 出向には、転籍出向と在籍出向がありますが、身分が移籍してしまう転籍出向は単に「転籍」と呼ばれ、在籍出向とは区別されます。ご相談の場合も、「在籍出向」の意味だと理解できます。

 出向は、労働省の解釈では、出向元との間の労働契約と出向先との間の労働契約の二重の労働契約が成立するものと考えられます。通常、出向元と労働者の労働契約は残りますが、休職扱いとなり、復帰することが一応の前提になっていますが、その保障はとくに約束がない限りありません。

 出向の目的には、通常であれば、研修や応援などですが、ご相談の場合は、まったく異なり、リストラ=整理解雇の目的の出向であると言えます。

 最近は、子会社・関連会社への人員整理目的の出向が増えているのです。

 日興證券が、関連子会社の派遣会社に従業員を出向させ、そこから派遣社員として受入れる方針を発表し、その後、撤回するという事件がありました。
 〈参考〉子会社の人材派遣会社に移籍するようにというのですが

 かなり以前ですが、日立造船が、大幅な人員整理を行った一環として、クリエイティブという派遣子会社を創って、そこに正社員を3年期限で労働条件を保障するという条件で出向させました。3年経てば、労働条件は、その出向先で独自のものとなるのです。出向といいながら、実際には「転籍」で、元の会社に戻った例はほとんどありません。
 ご相談の場合にも、結論的には、私は、会社からの一方的な「整理解雇」という面を含んでいると考えます。この出向を「整理解雇」と考えて対抗することが考えられます。
 ところで、解雇には、大きく分けて2種類があります。
  1 個別的解雇(懲戒解雇を含む)→ 労働側に個人的な理由がある。
  2 集団的解雇(整理解雇)   → 会社側に経営上の理由がある。

 このうち、使用者の都合による解約である、整理解雇はもっとも厳しく制約されることになります。

 そして、整理解雇については、裁判例で次のような解雇制限の法理が確定しています。
 判例1:東洋酸素事件・最高裁判所昭55年4月3日判決

 整理解雇が有効とされるためには、(1)企業運営上の必要性、(2)配転による剰員吸収措置、(3)人選の客観性・合理性の要件を充足することが必要である。

 判例2:大阪造船事件・大阪地決平元年6月27日判決

 整理解雇が有効とされるためには、
 第一に企業が厳しい経営危機に陥っていて人員整理の必要性があること、
 第二に解雇を回避するために相当な措置を講ずる努力をしたこと、
 第三に右解雇回避措置を講じたにもかかわらず、なお、人員整理の必要上解雇する必要があること、
 第四に被解雇者の選定基準が客観的かつ合理的なものであって、その具体的な適用も公平であること、
 第五に解雇に至る経過において労働者または労働組合と十分な協議を尽くしたこと
の各要件を充足することを要する。

 この大阪造船の事件は、民主法律協会で取り組んだもので、整理解雇を制限するために、5つの厳しい要件を示した点で画期的なものです。
 上の5つの要件の一つでも満たしていなければ、解雇は有効ではありません。

 判例3:東京教育図書事件・東京地裁平成2年4月11日判決

 「営業収入は減少し営業損失を計上しているが倒産の危機にあるという切迫の程度に疎明がなく、夏季・冬季一時金を支給していること、解雇直後にアルバイト従業員等の採用を行った」ことなどを理由に整理解雇の必要性の存在を否定

 以上をまとめますと、次のように指摘できます。

 (1)出向は、労働者の同意なしに行うことはできません。

 労働契約の相手方は、契約のもっとも基本的な内容ですので、労働者の合意が必要です。最近は、入社のときの約束や就業規則などで、出向を「合意」することも増えているようですが、今回は、そんな約束はなかったのですから、労働者がいやだと拒否しているのに、出向を命ずることはできません。
 (民法625条1項は、労働者の同意なしに使用者が第三者に権利を譲渡してはならないと、労働契約の一身専属的性格を定めています)

 (2)人員整理目的の「出向」は、整理解雇と同様に一定の要件が必要です。

 少なくとも、メールで書かれた経緯や状況では、出向を拒否したら、契約更新の拒絶=解雇になると考えられます。解雇となれば、解雇制限法理の適用が問題になります。

 クビ切りだけの「解雇」とは違って、子会社での雇用の継続があるのだから、「よりましだ」とか、「解雇回避の努力の一つ」だという口実を会社は言うかもしれません。しかし、その場合には、

 「第一に企業が厳しい経営危機に陥っていて人員整理の必要性があること、」

という条件を満たしていることが必要です。

 判例4:日新工機事件・神戸地裁姫路支部判決(平成2年6月25日)

 「移籍先を会社が準備し、移籍条件に本人が適任と会社が判断し、移籍を勧めたにもかかわらず、移籍を拒否した者」との整理解雇基準に該当するとしてなされた整理解雇が、整理解雇の要件を欠くものとして無効とされた例
 機械製造販売会社が輸出不振等により多額の欠損が出たとして行つた整理解雇について、会社のとつた事前の解雇回避措置が徹底を欠き、また、整理解雇基準の選定及びその具体的適用が客観的合理性に欠けるとして、右解雇を無効とした事例

 つまり、出向ということで何でもできるのではなく、ご相談の場合には、労働者が拒否すれば、それを無視して出向を命ずることはできません。
 それでも労働者の意思を無視して、派遣会社に出向を命ずることは、解雇であると考えて、その出向命令=解雇無効で争えば、会社の主張に法的根拠はありません。


 〔2〕労働者派遣法違反=職業安定法違反の疑い

 むしろ、以上の出向や解雇の問題だけではなく、労働者派遣法違反の問題があります。
 1995年に、いつも法違反か、スレスレのやり方で問題を起こす常習の大手派遣会社パソナが始めて、労働省から中止を求められたものと、ご相談の事例はきわめて類似していると思います。

 新聞記事によれば、労働省は、次のように問題点を指摘したということです。

「続いて受け入れた在籍出向者を派遣事業の許可を持つ子会社を通じて派遣することを考えた。しかしこの案も労働省からクレームがつきとん挫。この種の問い合わせがこのところ多く寄せられる同省民間需給調整事業室では「明確な法的根拠はないが、雇用関係が複雑になり労働者保護に欠ける可能性があるので、行政指導でやめてもらっている」という。

 「自社と雇用関係にある社員を他社に送るのが、労働者派遣法に基づく人材派遣事業。労働省では「このケースだと出向元と出向先の双方に雇用関係がまたがり、通常の人材派遣とは異なる。雇用形態がうやむやになり、労働者保護の観点からも良くない」(民間需給調整事業室)という考え方だ。



          正社員
 出向元−−−−−−−−−−−−−労働者
  |               |
  |出向協定           |就労・指揮命令関係
  |               |
 出向先=派遣元−−−−−−−−−派遣先
 労働者派遣契約

 たしかに、労働省が指摘するように、この図のように、複雑な雇用関係が生まれることになりますので、労働者派遣法の三面関係での派遣労働関係からは、大きく離れてしまう問題点があります。

 このパソナの事例は、パソナという派遣会社が法違反の疑いを指摘された事例ですが、同様に、今年の日興證券の事例は、出向元が問題を指摘された事例です。

 私は、労働省は、明確な労働者派遣法違反ではないような曖昧な言い方をしていますが、次の点で、事情によっては違法と言えると考えています。

 (1)二重派遣の疑い

 労働者派遣法は、派遣元・派遣先・派遣労働者の三面関係で派遣労働関係を前提にしています。実際には、出向元との労働契約が中心であるのに、派遣労働者にするために派遣会社に出向させるのは、労働省が指摘するように、雇用関係が出向先と出向元にまたがり、労働者保護に欠けるのはもちろんです。

 それだけではなく、労働者派遣法違反、さらに、職業安定法違反として明確に禁止されている「二重派遣」の疑いがきわめて強いと考えます。

 このように、労働者供給事業についての規制では、とくに、二重派遣が明文で禁止されている訳ではありません。しかし、

 労働省の労働者派遣法の解説書では、次のように指摘しています。

 「いわゆる『二重派遣』とは、派遣先が派遣元事業主から労働者派遣を受けた労働者をさらに業として派遣することをいいますが、この場合、派遣先は当該派遣労働者を雇用している訳ではないため、労働者派遣を業として行うものとはいえず、形態としては労働者供給を業として行うものとして、職業安定法第四四条の規定により禁止されます。」
(労働省職業安定局編著『改訂新版 人材派遣法の実務解説』45頁)

 派遣労働関係では、使用者の責任が曖昧になるため、雇用主としての派遣元と実際に労働者を指揮命令する派遣先の二者しか認めないというのが、労働者派遣法の建前です。
 そして、職業安定法第44条は次のように「労働者供給事業」を禁止しています。
 職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)

 何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。

 さらに、罰則も定められています。
 職業安定法第64条罰則

 次の各号の一に該当する者は、これを一年以下の懲役又は二十万円以下の罰金に処する。
四 第四十四条の規定に違反した者

 (2)対象業務以外の派遣=違法

 労働者派遣法は、限定された業務以外では「派遣」することはできません。
 ご相談の場合、どのような業務か判りませんが、一般事務や営業であれば、明らかに対象業務以外ですので、こうした業務での派遣は違法です。

 かりに、OA機器の操作やファイリングといった対象業務となっている事務作業でも、派遣対象業務以外の業務を命ずることはできません。


 〔3〕派遣労働の不利 労働基準法や継続勤務を前提にする労働条件など

 派遣労働者が正社員と比べて不利な点は、数え切れないくらいです。

 (1)正社員に比較して低い待遇(基本給、年間収入等)
 (2)正社員にはあるが、派遣社員にはほとんどがない待遇
    (出張旅費、交通費、福利厚生、賞与、退職金等)
 (3)派遣社員にも適用があるが、実際に適用されていない例が多い待遇
    (社会保険加入、雇用保険、産前産後の休業、育児休業等)
 (4)継続勤務でないために行使することが難しいか、不利な権利
    (年次有給休暇、雇用保険、慢性疲労蓄積による職業病の認定)
 (5)派遣先での孤立によるトラブル
    (派遣先社員とのトラブルによる解雇、ミスの責任押しつけ、セクハラ、
     盗難の犯人扱いなど)
 (6)派遣先・派遣元の使用者責任分離による無責任
 (7)組合の不存在・加入の困難
 (8)労働者の孤立化

 とくに、登録型派遣労働者からの相談は飛び抜けて多く、登録型のもっている大きな弊害を痛感している毎日です。登録型には、(1)から(8)がすべてあてはまります。  しかし、常用型派遣労働者(派遣元との関係は常用的で、派遣がなくても給料が保障されている)でも、このうち多くがあてはまります。とくに、(5)から(8)は、常用型でも同様です。

 以上、一般的な問題点を指摘しました。
 以下、いただいたメールに、気になる点をコメントします。


>そしてそこで派遣スタッフとして働くように言われました。
>在籍は出向元のままです。給与その他も変わらないというのです。

 派遣会社への出向ですので、パソナの事例と類似しています。
 法的には、〔2〕の問題点があります。
 私は、労働省と同様に、労働者派遣法・職業安定法に違反していると思います。

 労働省の出先機関でもある「公共職業安定所」が取締りをしてくれます。
 会社の最寄りの公共職業安定所に、今回の出向は、労働者派遣法違反であると、申告することができます。

 少なくとも、1995〜1996年のパソナ事件や1998年日興証券事件と同様な問題点があることを会社の担当者に指摘されてはどうでしょうか。
 それでも、強行するようでしたら、公共職業安定所に申告して下さい。

 大手の企業のようですので、公共職業安定所にも手を回しているかもしれませんが、そのときには、社会問題化することを公共職業安定所に伝えれば、まともな対応をすると思います。

>もし派遣にでることがない場合でも給与は保証されるのです。そのかわり
>「来た仕事は断れない」のです。しかも社員としての立場はまもられるん
>だからと言われても、就業時間内に通院したりしづらくなるでしょうし、
>今は思い浮かばないいろいろなトラブルが待っていると思います。

 〔3〕で挙げましたようなトラブルが沢山あります。
 とにかく、派遣は、労働者にとっては長く働ける雇用形態ではありません。

 若くて元気なときには、派遣でバリバリ働いている方が多いと思います。
 年をとった正社員よりも、溌剌とした若い派遣労働者のほうが会社には、好ましいと映ると思います。しかし、長く働いて、報われるものが少ない、ことが判ってくれば、派遣であることの限界や問題点が痛いほど思い知らされるということです。「30代になって正社員に変りたい」という人が多いのです。

 また、継続して働けば働くほど、キャリアがアップする業務は少なく、むしろ正社員として働こうとしたら、「派遣の経歴が長すぎるので、不利になります」と言われたという相談もありました。

 私たちが一番大きな問題だと思うのは、労働組合や職場での労働者集団に加入することが難しく、いつも孤立してしまいがちだということです。

 職場の周囲の労働者(正社員)は、誰もが皆知っている話題でも、派遣労働者だけが知らされていない、知る機会がないので、精神的にまいってしまう、という相談も少なくありません。それが憤りになって、相談いただければいいのですが、内向きに泣き寝入りといった形になっていることが多いと推測しています。

>私は、いったん出向を受け入れてしまったら遠くの派遣先へも行く義務が生じ
>るのでしょうか?

 その通りです。
 ただし、労働者派遣法第32条は、この事前の合意を必要としています。

(派遣労働者であることの明示等)
 第三十二条 派遣元事業主は、労働者を派遣労働者として雇い入れようとするとき は、あらかじめ、当該労働者にその旨を明示しなければならない。 (2)派遣元事業主は、その雇用する労働者であつて、派遣労働者として雇い入れ た労働者以外のものを新たに労働者派遣の対象としようとするときは、あらか じめ、当該労働者にその旨を明示し、その同意を得なければならない。
 現時点では、この合意を求められていることになります。

 逆に、合意をしたら、合意の範囲では、派遣に応ずる義務があり、これに反したら、業務命令違反=就業規則違反=懲戒解雇=退職金剥奪といった、労働者にとっては「死刑」にあたるような過酷な処分がまっています。

 もちろん、この処分については、法的に十分争える余地がありますが、会社の就業規則には、業務命令違反に対する制裁として、懲戒解雇などの処分が予定されていると思いますので、再確認してみてください。

 個人でも、できるだけ頑張ることが必要だと思いますが、むしろ、日興證券で会社の対策をはね返したのは、女性社員が、集団で、子会社の派遣会社への移籍は「ノー」と声をあげたために、会社が社会問題化をいやがったという事情がありました。

 私からのアドバイスとしては、

 1 問題点を整理するために、〔1〕や〔2〕の視点から改めて事実関係を整理
   してみること
 2 同様な立場に置かれている同僚(労働者)同士で連絡して、ノーの声をあげ
   られるように、相談すること
 3 公共職業安定所などを通じて、社会問題化できるように周辺情報を調べるこ
   と

 労働組合があれば、組合費を払っている組合員として、雇用を守るように突き上
げることも考えられます。会社と癒着した企業内組合=御用組合で信用できない、
というのであれば、地域労働組合などに駆込みで相談を持ち込むことも考えられま
す。

 私たちのところに持ち込まれた大阪歯科大学事件では、臨時職員として長期に働
いてきた女性労働者らが、派遣社員になるように言われたのですが、大学の組合は
守ってくれなかったので、仕方なく、地域の個人加盟組織である全国一般に加入し
て団体交渉をして雇用継続させました。〈参考〉

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