updated Oct. 31 2002
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3272. 私が勤める職場に派遣されている労働者がある手術をし、医師から一年以上の休業が必要だと言われています。
 しかし彼は、国民保険で、傷病手当もなく、医療費も高額で、休業すれば収入がなく、休業しなければ重い障害が残りかねず、困っています。
 ところが彼は、派遣元会社に1年以上継続して雇用されています。
 たしか、2ケ月以上の継続雇用なら、健康保険強制加入だったはず。その手続きをしていなかったのは、派遣元会社の手落ちと思えます。彼は、派遣元会社に損害賠償(つまり、健康保険との本人負担分の差額や、傷病手当相当など)を、派遣元会社に請求できるでしょうか。


 社会保険というのは、狭い意味では、民間企業で働くときに加入する、健康保険と厚生年金保険、つまり民間の被用者保険(職域保険)を意味しています。自営業者などすべての人を加入対象の国民健康保険(市町村が保険者)や国民年金などの住民保険(地域保険)と区別されます。

 社会保険は、給付の内容からは、病気やけがなどの治療を中心とする医療保険(健康保険、国民健康保険)と、将来の老齢や障害によって働けなくなったときの生活保障としての年金保険(厚生年金保険、国民年金)に分かれます。

 派遣労働者も、要件を満たす限り、社会保険(健康保険・厚生年金保険)に強制加入するのが原則です。社会保険は、一部の業種を除き、常時5人以上を使用する民間事業所や法人に使用される者は、臨時的雇用などの例外を除いて、原則として、すべての者に適用されます。労働者派遣事業の派遣元は会社組織(法人)ですので、社会保険の適用事業所ということになります。
 社会保険は「法律に基づく強制加入」が原則です。事業主(派遣会社)や本人の希望で加入を選択したり、加入しなかったりできるものではありません。要件を満たす場合には、加入すること、加入させることが法的な義務になっています。

 しかし、かなりの数の派遣会社が、社会保険加入を当事者の意思で選択できるかのように労働者に説明してきました。そのため、1997年以降、派遣労働者で未加入の人が多いことが会計検査院などから厳しく指摘され、99年の派遣法改正をめぐって、この社会保険加入が労働者保護の課題とされました。その結果、社会保険不加入で処罰された者は5年を経過しないうちは許可を与えないことや、派遣労働者が社会保険加入していることを派遣元から派遣先に通知することなど、具体的な法規制が導入されました。

 派遣労働者の場合、原則として「適用事業所(派遣会社)に使用されることになった日」から社会保険加入し、「被保険者」の資格を取得することになります。
 例外的に、(1)加入期間が短いとき、または、(2)就労時間・日数が短いときには、適用除外になる場合があるだけです。加入期間については、(1)臨時に使用される者で、(イ)2ヵ月以内の期間を定めて使用される者、(ロ)日々雇い入れられる者、(2)4ヵ月以内の季節的業務に使用される者が適用除外の対象となります(健康保険法13条の2)。

 派遣労働者の場合、実際には、法律の規定を逆手にとって、形式的には2ヵ月までの「短期契約」にしておいて、実際には口約束で、2ヵ月を超える就労を求められることが多いようです。2ヵ月以下の短期の契約でも更新されて2ヵ月を超えたときには当然に加入要件を満たしますが、この場合、就労が2ヵ月を超えた時点ではなく、2ヵ月を超える長期の労働が前提になっていますので、一番最初に就労を開始した時点から、被保険者の資格を取得したことになると考えられます。

 フルタイムでの派遣労働であれば、社会保険加入の必要が生じます。パートタイマーなど就労日数や労働時間が短い場合でも、同種の仕事をしている通常の労働者(正社員など)の約4分の3以上(1日8時間労働のときは6時間、1月20日就労のときは15日以上)であれば、社会保険に加入することになります。

 この場合、社会保険の実務では、常用型派遣労働者については比較する対象となる正社員は、派遣元社員とされていますが、登録型派遣労働者については、派遣先社員の労働時間を基準にして1日の労働時間が4分の3を上回るときに社会保険加入が必要だと考えられています。

 この点については、読売新聞の解説記事東京都の労政事務所職員の方の解説がありますので、参考にして下さい。

 パートタイマー等を社会保険から排除することになっている、いわゆる「4分の3要件」は法的な根拠が明確ではありません。したがって、少なくとも、できるだけ常用的な働き方をしている人が社会保険加入することを認めるように緩く解釈をすべきだと考えられます。

 加入資格が生じた場合、派遣会社は、5日以内に被保険者資格取得届を社会保険事務所に届出をし、保険料を徴収して、事業主負担分と労働者負担分を事業主が責任をもって納付しなければなりません。もし、派遣元が、加入要件を満たしている派遣労働者について、資格取得の届出など、法律上決められた社会保険加入の手続をとらないことは法違反となり、違反事業主には、6ヵ月以下の懲役または20万円以下の罰金も定められています。

 いずれにしても、派遣労働者であるから、社会保険の適用を除外されるという法律の規定はどこにもありません。とくに、1996年の労働者派遣法改正などのときに、派遣会社には、労働省から、業者として守るべき「指針(ガイドライン)」が示されており、その中に、社会保険の加入をすることが明記されています。大手を含めて派遣会社のかなりが、登録型派遣労働者について社会保険加入を選択させるという誤った解釈をとってきた責任は重大です。

 違法に派遣社員の社会保険加入を怠ってきた派遣会社は、遡っての社会保険加入の義務がありますし、保険料については労働者分を含めて全額支払うべきものと考えられます。また、不加入によって派遣社員に生じた損害を賠償する義務があります。
 なお、ご相談の派遣会社を管轄する社会保険事務所等にも匿名で問い合わせをして確かめてみてください。

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