updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3270. 社会保険の保険料が大幅に引き上げられましたが、納得できません。
 人材派遣会社の派遣社員として働いて、現在、長期契約で派遣会社の社会保険に加入しています(昨年秋くらいから)。
 昨日、保険料値上げの通知が派遣会社から届きました。時給は今年の4月に10円上がっただけなのに、保険料の大幅値上げです。大変不満を感じています。正社員だと毎年昇給するから、保険料値上げはそれほど関係ないのかも知れません。
 また、値上げの金額は「3ヶ月分の総支給額の平均」で割り出したと記載してあったのですが、派遣社員は時給制なので祝日が多い月には当然給料が減ります。
 また、残業の多い月だってあります。「3ヶ月分」というのはどの月をとって3ヶ月分というのでしょうか?
 事前に知っていれば、その3ヶ月間には残業しないとか欠勤するとかで、給料を操作する事が可能だということなのでしょうか。
 なんか納得がいきません。このまま社会保険に加入していると時給もあがっていないのに、どんどん毎月のお給料が減っていくのでしょうか。
 それとも,これは普通のことなのでしょうか。

   とり急ぎ「基本的」(教科書的)な内容ですが、お答えします。  〔以下、数字は1996年10月の回答時のものです〕
 (1)まず、社会保険というのは「健康保険」と「厚生年金保険」のことだと思います。この二つは、通常、「社会保険」としてセットで扱われています。
 (2)次に、労働者(被保険者)が負担する社会保険の保険料額の決定は、次の算式によっています。

  健康保険の保険料 = 標準報酬月額 × 82/1000 × 1/2  (A)
             (*1)    (*2)  (*3)

*1:計算事務の便宜を目的に、報酬を第1級から第40級までに区分して、保険料や保険給付の額の計算をし安くしたもの。

    標準報酬              報酬月額
  等級   月額    日額
 第12級 180,000円  6,000円 175,000円以上〜185,000円未満
 第13級 190,000円  6,330円 185,000円以上〜195,000円未満
 第14級 200,000円  6,670円 195,000円以上〜210,000円未満
 第15級 220,000円  7,330円 210,000円以上〜230,000円未満
 第16級 240,000円  8,000円 230,000円以上〜250,000円未満
 第17級 260,000円  8,670円 250,000円以上〜270,000円未満
 第18級 280,000円  9,330円 270,000円以上〜290,000円未満
*2:健康保険法第71条の4 政府管掌健康保険(中小企業の場合)。なお、大企業の場合は健康保険組合として独自の率を設定できる。
*3:健康保険法第72条   被保険者(労働者)が1/2負担
               事業主(派遣会社)が1/2負担

 標準報酬の表によれば、例えば報酬月額が22万5000円のときは、標準報酬第15級となり、標準報酬月額は、22万円となります。
 しかし、報酬月額が少し上がって、23万5000円のときは、標準報酬第16級と、標準報酬月額は、24万円となってしまいます。
つまり、報酬は、1万円上がったのに、標準報酬は2万円上がることもあるわけです。
 保険料額は、
 標準報酬第15級のとき、220,000×82/1000×1/2=9,020円
 標準報酬第16級のとき、240,000×82/1000×1/2=9,840円
となります。
 なお、標準報酬月額(日額)は、給付にも関係します。例えば、病気で休んだときの休業保障(傷病手当金)は、標準報酬日額の60%ですから、第15級より第16級のほうが多くもらえることになります。

 (3)標準報酬額の決定

 このように、保険給付や保険料の計算にとって重要な「標準報酬」は、通常、年に1回、改訂されることになっています(定時決定)。この標準報酬が、その年の10月から翌年の9月までの各月の標準報酬になります。
(例外的に、雇われ始めたときや、給与が大きく変動したときには、特別な時期に決定されることもあります)

 ある年の8月1日を基準に、使用されている事業所(派遣会社)で、その前の3ヶ月間(通常は、5月、6月、7月。ただし、報酬支払いの基礎となった日数が20日未満の月があれば、その月を除く)の報酬総額を月数(通常は、3)で割ることによって計算されます。

 この「報酬」とは、「労務の対償として受ける賃金、給料、俸給、手当または賞与やこれに準ずるもの」で、名称に関係なく計算されます。
 報酬に含まれないものは、臨時的なものや3ヶ月を超える期間ごとに受けるもの(例えば、半年ごとのボーナス)は除外されます。

 (4)厚生年金の保険料

  厚生年金の保険料 = 標準報酬月額 × 173.5/1000 × 1/2  (B)
             (*1)     (*2)   (*3)

(*1)健康保険の場合とまったく同様に計算
(*2)厚生年金保険法第81条第5項
(*3)厚生年金保険法第82条

  厚生年金の特別保険料 =賞与 × 10/1000 × 1/2  (C)
             (*1) (*2)  (*3)

(*1)通常の報酬に含まれない、3ヶ月を超える期間毎に支払われるもの
(*2)厚生年金保険法第89条の2第3項
(*3)厚生年金保険法第89条の2第5項、第82条

 社会保険の保険料としては、(A)、(B)、(C)の3種類があります。
 年金は、率が高いうえに、ボーナスからも保険料を徴収しますので、相当な額になりますね。しかも、この率は、段階的に引き上げるとなっていますので、この数字(173.5/1000や10/1000)は、古いかもしれません。
(1996年の労働法全書で調べましたが、最近、引き上げられたかもしれません。)

 (5)ご相談の具体的内容について

 「昨年秋」に、社会保険の被保険者になられた、その資格取得時に標準報酬が決定されたと思います。

 この最初の標準報酬月額は、まだ、実際には働いていませんので、
 (2)の「定時決定」のように決められません。そこで、
 1. 月給、週給制のときは、資格取得日の報酬額から、30日分を計算する。
 2. 日給、時間給のときは、その派遣会社で、同様の業務に従事し、かつ、同様の報酬を受ける者が受けた報酬の額を平均した額などの基準で、都道府県知事(実際には、社会保険事務所)が決定します。(健康保険法第3条第3項、厚生年金保険法第22条)
 このように決定された額は、次の年の9月までの各月の標準報酬月額になります。多分、昨年秋から、今年の9月までの標準報酬月額はかなり低く抑えられていたのではないでしょうか。だから、保険料が低かった?

>>昨日,保険料値上げの通知が派遣会社から届きました。

 この通知は、最初の資格取得時の標準報酬月額ではなく、定時改定の標準報酬月額に基づいた額だと思います。

 定時改定の場合は、(3)で述べたとおり、通常は、5月、6月、7月の「3ヶ月分の総支給額の平均」です。
 20日未満の月は除外されますので、欠勤で対抗するのには、限度がありますね。残業しないというのは、たしかに、対抗策になるかもしれませんね。
>>時給は今年の4月に10円上がっただけなのに、値上げ!!
>>大変不満を感じています。正社員だと,毎年昇給するから保険料値上げは
>>それほど関係ないのかも知れません。
 本当に、その通りだと思います。
 昇給額が少ない、派遣社員や契約社員にとっては、負担感が大きくなるのは当然だと思います。
 「定時改定」も、長期雇用の正社員を前提にして考えられたものです。
 ご指摘のように、派遣スタッフや契約社員は、長期雇用を前提にしておらず、賃金も毎年、正社員のように大幅な定期昇給がありません。
 こうした、定期昇給のない派遣労働者に、正社員と同様な「定時改定」をすることから、ご指摘のような「問題」が出て来るのだと思います。
 一番望ましいのは、「定時改定」をするのに見合うだけの、大幅な昇給をして少しくらい保険料が増えてもかまわないくらいに、賃金が引き上げられることだと思います。
 また、派遣労働者や契約社員に不利にならないような、社会保険の運用も必要だと思います。年金はもちろん健康保険も、長期に継続して勤務することを前提にしています(年をとったときのほうが、当然に、病気にもかかりやすくなります)。若くて、病気になりにくいときに、保険料を払わされて、病気になりやすい年齢になったときには健康保険に加入できないというのは、矛盾した話です。

 たしかに、最初は、資格取得時の標準報酬の額は、低く設定できても、いまの定時改定方式では、2年目の標準報酬額は、実績によって計算せざるを得ないことになりますね。

 結論としては、派遣会社が、計算ミスなどをしていれば別ですが、制度の矛盾の問題だと思います。ご相談の内容を、制度の改善に結び付けるように働きかけたいと思います。

 なお、登録型派遣労働者の場合には、社会保険への加入さえできないことが多く、病気の場合の休業保障(傷病手当金)ももらえないという問題もあります。

 保険料額が増えたことは、逆に、受ける額(病気のときの傷病手当金や年金)が増えることにもなりますので、まったくの「不利」や「損」ではない、とも考えられます。(制度の建前=厚生省の言い分は、そういうことだと思います。)
 以上、私なりに調べての回答ですが、数字は1年前に発行された労働法全書によっていますので、少し変わっている可能性もあります。詳しくは、最寄りの「社会保険事務所」で確認することができます。年金の関係も、派遣の場合は複雑になりますので、社会保険事務所で、自分の権利を確認しておくことは大切だと思います。(年金手帳ができることになっていますが)
 また、直接、派遣会社に、数字を含めて確認してみたらどうでしょうか。

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