updated Aug. 24 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3220. 派遣会社が、口座振込みの手数料を労働者から取るが?  現在、派遣会社からお給料を手渡しでもらっています。派遣元と派遣先が近いので、派遣元の社員がお給料を毎月会社まで持って来てくれます。
 しかし、来月から派遣元から離れた派遣先会社に行くことになりました。派遣元の営業担当者から、お給料を派遣元まで取りにくるか、口座振込みにするか聞かれたので、「口座振込みを希望する」と言ったところ、「その場合は振込み手数料は自己負担となる」と言われました。私としてはこれは変だと思いますが?

   賃金の口座振込みをめぐる問題については、労働基準法第24条と労働基準法施行 規則第7条の2と、それについての施行通達が労働省から出ています。
 労働基準法第24条(賃金の支払)

  1 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は命令で定める賃金について確実な支払の方法で命令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。

 2 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので命令で定める賃金(第八十九条第一項において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。

 ここでは、賃金は、「通貨」で「直接」支払うことが原則になっていますので、口座振込みは例外となります。例外が認められるか、が問題になります。
 労働基準法施行規則第7条の2

  1 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができる。

 この施行規則は、例外を認める条件として、「労働者の同意を得た場合」に限って労働者の指定する口座への振込みを認めています。

 通達では、さらに、「労働者の同意」以外に、振込まれた賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出しできるようにすることが必要とされています。

 振込み手数料については、特別な規制や通達はありませんが、たしかに、派遣元の言い分はおかしいですね。どこがおかしいか、まとめてみました。

 (1)賃金の支払は、法的には、通貨で直接に支払うのが原則です。
 したがって、本来、労働者が遠くで働いているときには、使用者は、賃金を労働者に直接に渡すように届ける義務があります。直接に届けるための費用の負担は、賃金支払義務を負う使用者の側にあります。
 労働者が使用者のところに「お給料を取りにくる」のではなく、使用者が労働者のところに「給料を渡しにいく」ことが法律上の義務なのです。

 (2)派遣労働者の場合には、派遣先が各地に散らばっていますが、本来は、賃金支払の日に使用者(その営業担当者など)が各派遣先で就労している派遣労働者のところに訪ねて、いちいち直接に手渡す必要があります。
 もちろん、そのための営業担当者の交通費は、使用者の負担になります。

 (3)(1)の例外として、上記の労働基準法施行規則第7条の2で、口座振込みが認められています。
 この口座振込みは、賃金支払についての経費と事務量を節約するために使用者の利益になるように、特別に認められた例外です。口座振込みは、決して労働者のためではありません。あくまでも、使用者の便宜のために認められた例外ですので、それに伴う特別な負担はすべて使用者が支払う義務があります。

 (4)もし、労働者にとって不都合なこと、とくに、口座振込みの手数料を負担するようなことがあってはなりません。その場合には、労働者は「同意」をしなければよい訳です(もし、同意をしてしまったら、それを文書で、後からでも、明確に取り消せばよい)。
 労働者の同意がなければ、派遣元は、遠くまで、賃金支払日に、毎月かならず一人一人の派遣労働者に賃金を支払って回る必要があります。

 (5)口座振込み手数料は、(1)から(4)にあるように、使用者の便宜のため(本来は、使用者が負担すべき経費を節減するため)に必要な費用ですので、それを労働者の負担に転嫁することは、労働基準法第24条の、もうひとつの原則である賃金「全額払い」に反した違法な控除ということになります。

 結論は、明確です。あなたは、振込み手数料を負担させられるなら、口座振込みを拒否すればよいと思います。

 そして、労働基準法第24条の原則にしたがって、毎月、賃金支払日に絶対に遅れることのないように、派遣元営業担当者が賃金をもって、遠方の派遣先までに支払に来るように要求すればよいわけです。営業担当者の交通費などは、当然、派遣元の負担になり、それをあなたの賃金から控除することは許されません。

 派遣元の言い分は、こうした賃金口座振込みの原則的な考え方から逸脱したもので一般の常識にも反します。派遣労働者の弱い立場につけこんだ不当な言い分です。
あまりにひどい対応があれば、労働基準監督署に指導してもらうことも可能だと思います。

 なお、以上のような原則に従えば、派遣業者はいちいち各地に散らばった派遣労働者に賃金を支払って回わらねければなりません。労働省は、それを気の毒に思ってか、派遣業者から泣きつかれたためか、業者のためにひとつの便宜を認めています。それは、派遣先の使用者に派遣元が頼んで、その賃金支払の事務を補助してもらうということです。つまり、派遣労働者は、本来は派遣元から賃金を受け取るのですが、そうした便宜を利用するときには、派遣先から毎月の賃金を受け取ることになります(派遣先は派遣元の事務補助者となります)。

 派遣元が派遣労働者に賃金を渡して回る義務があるのが原則であることは、労働省がこうした便宜を認めたことから、逆に明らかになるわけです。

 こうした便宜については、私は、労働基準法第24条の趣旨に反しているし、派遣元は、派遣労働者に賃金も支払わないことになり、まったく不要な存在になってしまう。そんな派遣元は、派遣労働者を保護する責任を取らないことになると批判しています。
 派遣元営業担当者は、定期的に派遣先で就労する派遣労働者の苦情を聞きに派遣先を巡回する必要がありますので、賃金をもって来るのも当然です。たしかに、賃金支払日には、すべての派遣労働者を回るので、大変かもしれませんが、それが労働基準法の原則ですから仕方がありません。その日には、会社は特別に多くの人を雇ってでも、賃金を支払って回る体制をとる必要が出てくるわけです。

 派遣元営業担当者との話合い、なかなか大変かもしれませんが、以上の考え方をもとにして、口座振込みは派遣元にとっての利益であること、したがって手数料は派遣元負担が当然であり、それが法的責任でもある、という考え方で対応していただければと思います。


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