updated Sept. 4 1998
派遣110番によく寄せられる質問と回答例(FAQ)


質 問 と 回 答 例 (F A Q)

3030. 派遣期間について正確な情報を伝えずに、契約を結ばせたときの派遣会社に責任はありませんか?
 昨年9月末までが派遣会社との労働契約でした。その更新として、3月末までの契約期間でOKを出しました。そして、10月半ばに、その旨の契約書が、派遣会社から送られてきました。
 しかし、そのすぐ後に、派遣会社の担当コーディネーターから電話があり、派遣先が、まだOKを出していないので、契約書はなかったものにしてもらえますか、ということでした。
 その後、1週間くらいして、「派遣先会社の方針は、前回のような半年ではなく、3ヶ月更新にしてほしい」とのこと。しかも、「まだ交渉中なので、これが最終回答ではありません」という連絡がありました。
 「派遣先にも詳しい事情を聞いてくれるように」、担当者に念を押し、連絡を待っていたのに、ずっと連絡がなく、交渉中です、というばかりでした。
 11月末になって、ようやく連絡があり、今まで私が担当していた業務を、他の支店社員にふりわけることになったそうです。私には、12月末でやめてもらったほうがいいと思います、ということでした。
 そして、ようやく派遣終了の前日に、派遣先会社に営業担当者が来てくれたので、聞いてみると、最初の契約更新の話をしていた9月後半にはすでに12月末での派遣終了の話があったことが判りました。
 その営業担当者は、「コーディネーターには、ちゃんと伝えてありました」と言うのですが、私が聞いたのは11月の終わりになってからでした。
 コーディネーターも「そういう話は聞いていません」と言いました。
 私は、年末年始の時期は、希望するオペレーターの仕事は少ないので、この時期に終了するようなことは避けたかったのです。9月の時点で事情を聞いていたら、契約更新もしなかったと思います。
 派遣先は、忙しいから12月末までは、私にいてほしい、と言ったそうです。
派遣会社としては、それ以前に私を放したくなかったのではないか、だから、故意に、事情を私に隠し、12月末以前に私が派遣先を辞めることができなくなる、ぎりぎりの11月末に、ようやく話すことにしたのではないか、と思います。
 私にやめられる恐れもなく、自分たちが負うべき責任がもない、あの時期を見計らって、私に伝えることにしたのではないでしょうか?



 ご相談の内容を私なりに整理すると、次の図のようになりますが、このような理解で良いのでしょうか?


 (1)期間を定めた雇用契約(労働契約)の期間前の終了

 法的には、期間を定めた雇用契約(労働契約)の期間前の終了について、その効力と法的な責任が問題になります。

 まず、9月末で更新された雇用契約は、3月末までの6ヵ月契約であったことは明らかです。10月なかばに送られてきた契約書でも、3月末までの契約であることは明確ですので、一番大切なポイントである「雇用期間」は、3月末までの6ヵ月間であったということです。

 雇用期間の定めは、きわめて重要な契約の内容です。それに違反することになれば、契約違反となり、相手方は損害賠償の請求が可能です。

 労働関係では、労働者と使用者は、つぎのような権利をもち、義務を負います。

      A 労働者      労働提供義務  賃金請求権
      B 使用者(派遣元) 労働請求権   賃金支払義務

 (2)危険負担の法理に基づく賃金請求権

 民法第536条第2項は、債務者が債務の履行をすることができない場合でも、それが債権者の責任による事由によるものであるときは、債務者は反対給付を受ける権利を失わない、としています。

 少し難しいと思いますが、今回の事例では、次のようになります。

 債務者(A 労働者=相談者)が、債務の履行(労働の提供)をすることができない場合でも、それが債権者(B 派遣元)の責任による事由によるものであるときには、債務者(A 労働者=相談者)は、反対給付(賃金)を受ける権利を失わない、ということです。

 つまり、民法第536条第2項によれば、あなたは賃金の全額(100%)を受け取ることができます。しかし、民法第536条第2項の「債権者の責に帰すべき事由」は、債権者の故意、過失又は信義則上これと同視すべきものと解されています。【労働省労働基準局監督課編著『新訂版 派遣労働者の労務管理』労働基準調査会、81頁】


 (3)契約違反を理由にした損害賠償の請求

 また、Bは、約束した雇用期間について賃金支払義務を負いますが、それを果さないのですから、契約違反になります。契約違反については、Aは、雇用契約を解除することができますし、さらに、Bに対して損害賠償を請求することができます。その損害賠償の額は、失った賃金額に相当する額と考えられます。

 ご相談の場合、B(派遣元)は、Aに対して、3月末までの雇用期間を定めて、その間の雇用を保障する義務を負ったのですから、その期間前に契約を終了することになれば、契約違反になります。3月末までの賃金相当額を損害賠償として請求することができます。

 (4)労働基準法第26条の休業手当の請求

 つぎに、(2)の場合は、賃金100%の請求ができますが、ご相談の場合には、これに当ると思います。ただし、労働基準法は、もっと一般的に使用者にとって、広範な責任を認めて、平均賃金の60%の休業手当を支払う義務を定めています。

 労働基準法第26条(休業手当)

 使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。


 この労働基準法第26条では、(2)の場合と異なって、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の範囲は広くなります。余程の天災事変以外には、ほとんどの休業が含まれます。

 今回の場合、3月末までの雇用期間があるとすれば、派遣先が一方的に打ち切ったとしても、派遣元は、(2)、(3)、(4)のいずれかで、労働者に対して、3月末までの雇用を保障する義務か、賃金額相当分を支払う義務を負うことになります。12月末で契約終了があったとしても、残り3ヵ月分の賃金を請求して下さい。時効は2年間ですし、支払が遅れたときには、遅延利息の支払を請求することができます。

>それに、一ヵ月前に予告したら、急な終了でも、派遣会社としては、罪はないと
>いうことですよね?

 雇用期間を定めているときには、期間満了前の終了は、原則としてできません。一ヵ月前に予告しても、契約違反ということについては変わりがありません。労使ともに期間の定めのある雇用契約(労働契約)については、契約終了までは一方的に契約を解除(解約)することはできません。
 例外として、民法第628条は「やむをえない事由」があるときに限って、期間満了前の即時解除を認めています。使用者(派遣元)が破産したときでも予告が必要ですので、「やむをえない事由」というのは余程の場合です。

 重要なことは、6ヵ月間の契約を3ヵ月で打ち切ったことは、「解雇」にあたりますので、労働者から退職願いを書くなど、うかつな対応をしないことです。

 なお、労働者の側も同意して12月末での契約終了に合意(納得)したということであれば、上の(1)から(4)に書きましたような、賃金などの請求が困難になるか放棄をしたとされて不可能になることもあります。
 「解雇よりも退職のほうが履歴に傷がつかない」といったウソを言って、使用者としての責任を負わないために、労働者の合意した「合意退職」の形式をとろうとしますので、くれぐれも注意して下さい。


 派遣先による労働者派遣契約の途中解除

 ご相談の内容では、よく判りませんが、もし、派遣先と派遣元の間の労働者派遣契約が、派遣先の責任によって途中解除されたことになる可能性もあります。

 1996年の労働者派遣法改正のときにこの点についても改正がありました。

 つまり、派遣元(派遣会社)と派遣先は、労働者派遣契約を締結するときに、この労働者派遣契約を解除するときには、派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置についても契約事項として規定しなければならないこととなりました。(労働者派遣法第26条第1項の改正)

 派遣労働者には、次のようにこの労働者派遣契約の内容を「就業条件明示書
で示す必要があります。

 1.派遣労働者が従事する業務の内容
 2.就労する派遣先の事業所の名称、所在地、就労の場所
 3.派遣先で、就労を指揮する者の氏名
 4.労働者派遣の期間及び派遣就業する日
 5.派遣就業の開始・終了の時刻および休憩時間
 6.安全衛生に関する事項
 7.苦情の処理に関する事項
 8.派遣契約解除の場合の措置(以上、労働者派遣法第26条1項)
 9.派遣元責任者に関する事項(労働者派遣法施行規則第22条)
10.派遣就業日以外の就業や時間外の派遣就業ができるとした場合の当該の日
   又は延長できる時間数(労働者派遣法施行規則第22条)

 さらに、労働省令=労働者派遣法施行規則は次のように規定しています。

  第二節 派遣元事業主の講ずべき措置等
第25条 法第34条の規定による明示は、同条の規定により明示すべき事項を記載した書面を当該派遣労働者に交付することにより行わなければならない。ただし、労働者派遣の実施について緊急の必要があるためあらかじめ当該書面を交付することができない場合において、当該明示すべき事項をあらかじめ書面以外の方法により明示したときはこの限りではない。
 2 前項ただし書の場合であって、次の各号のいずれかに該当するときは、当該労働者派遣の開始の後遅滞なく、当該事項を記載した書面を交付しなければならない。
 一 当該派遣労働者から請求があったとき
 二 前号以外の場合であって、当該労働者派遣の期間が一週間を超えるとき


 もし、派遣元がいまだに、この10項目の就業条件明示書をあなたに交付していないのであればそれだけでも労働者派遣法・労働者派遣法施行規則違反ということになります。派遣元は、10万円以下の罰金を受けることもあります。
 派遣110番のHPにも掲載していますが、労働省からはモデル就業条件明示書が発表されています。そこでは、この途中解除についても記載するように求められています。
モデル就業条件明示書記載要領

  10「派遣契約解除の場合の措置」欄には、派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るための措置について、労働者派遣契約に定めた中途解除の事前の申入れ、就業機会の確保等の事項を具体的に記載すること。


 派遣就業の際に、この「就業条件明示書」(多くの場合は、雇入れ通知書といったいになっています)を渡されていると思います。この明示書の中身を確認してください。ここが一つのポイントです。この事項に書かれた「措置」は、契約上の義務として、労働者から、派遣先・派遣元に対してその履行(りこう)を請求できます。

 途中解除についての労働省の指針

 さらに、労働省は、次のように「労働者派遣契約の途中解除」についての指針を 示しています。

 【派遣元事業主及び派遣先が講ずべき措置に関する指針(平成8年労働省告示第102号)】
第2 派遣元事業主が講ずべき措置

 2 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
 派遣元事業主は、労働者派遣契約の契約期間が満了する前に派遣労働者の量に帰すべき事由以外の事由によって労働者派遣契約の解除が行われた場合には、当該労働者派遣契約に係る派遣先と連携して、当該派遣先からその関連会社での就業のあっせんを受ける等により、当該労働者派遣契約に係る派遣労働者の新たな就業機会の確保を図ること。

 6 派遣労働者に対する就業条件の明示
 派遣元事業主は、モデル就業条件明示書の活用等により、派遣労働者に対し就業条件を明示すること。
第3 派遣先が講ずべき措置

 3 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置

 @労働者派遣契約の解除の申入れ

 派遣先は、専ら派遣先に起因する事由により、労働者派遣契約の契約期間が満了する前の解除を行おうとする場合には、派遣元事業主の合意を得ることはもとより、あらかじめ相当の猶予期間をもって派遣元事業主に解除の申入れを行うこと。

 B損害賠償等に係る適切な措置

 派遣先は、派遣先の量に帰すべき事由により労働者派遣契約の契約期間が満了する前に労働者派遣契約の解除を行おうとする場合には、当該労働者派遣契約の残期間及び派遣料金等を勘案しつつ、派遣元事業主と十分に協議した上で適切な善後処理方策を講ずること。また、派遣元事業主及び派遣先の双方の責に帰すべき事由がある場合には、派遣元事業主及び派遣先のそれぞれの責に帰すべき部分の割合についても十分に考慮すること。


 したがって、この指針によれば、派遣元・派遣先に対して、派遣先関連会社などでの次の就業の機会の確保を求めることができます。

 損害賠償の請求

 さらに、指針には派遣元から派遣先に対する「損害賠償」請求を予定しています。これは、最終的な被害者である派遣労働者が賃金を受け取ることができることを前提にしているから、こうした損害賠償請求を派遣元(派遣会社)に認めているのです。

 したがって、派遣労働者としては、当然ながら、派遣元に対して一定の金額を請求することができます。

 具体的には、次のように対抗できると思います。

 派遣元が派遣先から打切られてあなたが就業を継続できないとなれば、それは相手方(派遣元)の責任ですので、指針に基づいて、派遣先の関連会社などへの派遣就労をあっせんする努力義務を派遣先は負担しなければなりません。もし、それができないときには、派遣労働者からの損害賠償請求や賃金請求に応えるために、派遣元が派遣先に損害賠償を請求できることになっています。

 ご相談の事例では、3月末までの派遣先での就労を12月末までに短くしたのが、派遣先の責任であれば、派遣先からの労働者派遣契約の途中解除ということになります。あなたからは、派遣元・派遣先に、労働省の指針に基づく措置をとるように求めたらどうでしょうか。もし、動いてくれないようでしたら、労働省の出先機関である公共職業安定所を通じて、派遣元・派遣先に行政指導を求めることができます。


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