民主法律協会は、1998年2月14日から15日まで、神戸市須磨の寿楼で権利討論集会を開催しました。第3分科会は、「あなたが正社員でなくなる日」というテーマで派遣やパートタイマーの問題についての交流をしました。全体会で、いくつかの決議を採択しました。そのなかに、派遣労働の「自由化」に反対する決議も含まれていました。



派遣労働の無限定な拡大による雇用の破壊に反対する決議

一 一九九六年三月二九日に改定が閣議決定された「規制緩和推進計画」と同年一二月一七日に閣議決定された「経済構造の変革と創造のためのプログラム」等に基づき設置された中央職業安定審議会(会長西川俊作慶應義塾大学教授)の民間労働力需給制度小委員会(座長諏訪康雄法政大学教授)は、二三回にわたる審議を経て、昨年一二月二四日、中央職業安定審議会に対し「労働者派遣事業制度の見直しの基本的方向について」とする報告を提出した。


二 右報告は基本的方向として、第一に「ILO第一八一号条約(改定後のILO第九六号条約)により国際基準が示されたことを踏まえ、また、経済社会情勢の変化への対応、労働者の多様な選択肢の確保、雇用の安定の確保等の観点から、臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策として労働者派遣事業制度を位置付けるべきである。」と方向性を表明している。
 ILO条約が職種限定を行わない派遣や民間職業紹介を認めていることをてことして「労働者の多様な選択肢」の名の下に、これまで原則として禁じられている派遣労働を変容させ、原則として職種の限定なく自由化する方向性を打ちだしたものである。


三 右報告は一方で「臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策として労働者派遣事業制度を位置付けるべきである」としたうえ「@労働者保護の観点から、派遣元事業主に一定の能力を担保する必要性、A悪質なブローカー等への対応の必要性」の指摘もしている。
 しかし、現実に存在する大手、中小を問わない派遣会社での労働者の無権利な状態を把握し対策をたてるというものではない。大手と言われる派遣会社においてさえ労働者の保護が図られていない。先日報道されたテンプ・スタッフの「ランクつき名簿」の流出事件からも明らかとなったように労働者のプライバシーさえ保護されていない。


四 また、この報告の打ち出している「労働者保護の観点」が今後立法過程で貫かれるかは極めて疑問である。報告には、雇用主側代表委員の意見も併記されており、そこでは「労働者派遣事業制度を特別なものととらえず、労働力の需給調整機能の一つの柱として積極的に位置付け」る『労働者派遣事業制度を「臨時的・一時的な」労働力の需給調整に関する対策と位置付けるのは、当面の取扱いであり、今後必要に応じて見直されるものと理解する。』等とされている。無限定な派遣労働職種の拡大によって、常用労働に変えて派遣労働者を採用し、景気の変動に応じた雇用の調整弁として派遣労働者を位置づけたい使用者の意図が露骨の表明されている。
 「必要な時に必要な労働力を確保したい」という使用者側の願望は強い。「人材のカンバン方式」「コンビニエンス労働力」は、使用者側の悲願であり、悲願実現の絶好の手段が派遣労働であることは疑いない。


五 この間、民法協派遣労働研究会に寄せられた相談事例には、一般事務として一五年以上も雇用されてきた直用常用の労働者が経営危機を理由に一年更新の派遣労働者に切り換えられようとした。正社員として採用しておきながら使用者が「派遣労働者」であると強弁して、わずか三ヶ月で解雇された等、労働者の雇用をないがしろにした事件が後を絶たない。
 現行派遣法は派遣労働の可能な職種を専門業務に限定し、また現行派遣法制定過程においては国会決議において、国会が常用労働の代替としての派遣の禁止を明確に確認している。しかし、現実には、常用の直用労働者を派遣労働者に代え、常用直用の労働者には実行できそうにない濫用的解雇、労働基準法を遵守しない、社会保険に加入しない、直用労働者より賃金が低い等、派遣労働者が差別されている実態が存在している。
 なによりも労働の指揮命令を行う使用者が直接労働契約に責任を持たない関係を作り出す派遣労働が無限定に拡大されれば、これまで労働契約関係における裁判等を通じて労働者側がかちとってきた使用者に対する権利は、ことごとく崩壊する危険がある。労働者保護法の改悪がねらわれている上、このまま派遣労働が無限定に許されれば、不安定で無権利な労働者が拡大されるだけである。労働者の雇用の安定と労働保護を図るため、無限定な派遣労働の職種の拡大に強く反対する。
 現在、必要なことは現行法の下でも守られていない常用労働の派遣化をいかに防ぐかにある。諸外国の法制のように派遣が許されている一方で、「一定期間の派遣が続けば直用化を義務づける」「直用労働者と同じ賃金が確保される」等の法制度が整備され、派遣労働者が一時的、臨時的なものであることが制度的にも確保されることである。
 現行法の下でも無限定な派遣化に反対すると共に、派遣が例外的労働であることを担保する法制度の整備を求めると共に、労働運動においても、派遣労働者を仲間に迎え、使用者との直接の雇用関係を守る運動を押し進めていく。
 右、決議する。

一九九八年二月一五日

                 民主法律協会一九九八年権利討論集会



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