労働省発表平成9年2月3日
労働省労働基準局補償課職業病認定対策室

上肢作業に基づく疾病の認定基準の改正について

・対象業務等を明確化
・作業の質的要因を評価

 1 キーパンチャー等上肢作業者に発症した頚肩腕症候群等の疾病については、昭和50年2月5日付けの労働省労働基準局長通達「キーパンチャー等上肢作業にもとづく疾病の業務上外の認定基準について」に基づき業務上外の認定を行ってきたところである 。
 ところで、頚肩腕症候群を含む上肢の障害は、キーパンチャー以外の広範な職種においても発生している状況にあるため、医学等の専門家で構成される「頚肩腕症候群等に関する専門検討会」(座長 石田肇 日本医科大学名誉教授)を開催して検討を行ってきたところであるが、今般、その検討結果が取りまとめられ、発生職場の変化や発症した疾病の多様化等を踏まえ、より広範な上肢作業に伴う障害に対する認定基準の明確化を図る必要があるとする報告がなされたところである。
 労働省においては、この検討結果を踏まえ、上肢障害全般を対象とする認定基準の改正を行い、本日、通達を発出した。これにより、従来、個別に判断していた頚肩腕症候群等一部の障害以外の大多数の上肢障害の労災認定がより迅速に行われることが期待される。

 2 主な改正内容

 (1)認定基準の対象とする業務、疾病の範囲等を明確化したこと。
 (2)業務過重性の判断に当たっては、発症前の業務量のほか、作業の質的要因も併せて評価することとしたこと。
 (3)発症までの作業従事期間については、原則として6か月程度以上とするが、腱鞘炎等については、比較的短期間で発症することがあるとしたこと。

「上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準」の主な改正点


昭和50年2月5日基発第59号


 1.対象業務
 (1)指先でキーをたたく業務
 (2)上肢の動的筋労作
 (3)上肢の静的筋労作

 2.対象疾病
 キーパンチャー、金銭登録機を取り扱う作業者などに多くの発症をみた腱炎、腱鞘炎、書痙、書痙様症状、頚肩腕症候群。

 3.業務過重性の判断
 業務量が同種の他の労働者と比較して過重である場合又は業務量に大きな波がある場合。(業務の量的評価)

 4.発症までの作業従事期間
 作業内容によって異なり、必ずしも一様ではないが、一般的には6か月程度以上。


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平成9年2月3日基発第65号


 1.対象業務(次の作業を主とする業務)
 (1)上肢の反復動作の多い作業
 (2)上肢を上げた状態で行う作業
 (3)頚部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業
 (4)上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業

 2.対象疾病

 「上肢等に過度の負担のかかる作業者にみられる後頭部、頚部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指における運動器の障害」とし、頚肩腕症候群等にとどまらず、発症事例が多く報告されている上肢作業に伴う障害を対象とした。
 (対象となる疾病)
 (1)上腕骨外(内)上顆炎 (5)腱炎、腱鞘炎
 (2)肘部管症候群  (6)手根管症候群
 (3)回外(内)筋症候群  (7)書痙、書痙様症状
 (4)手関節炎  (8)頚肩腕症候群 など

 3.業務過重性の判断
 従来と同じ業務の量的評価のほか、次のような質的要因が認められる場合は、それらの要因も含めて総合的に判断する。
 (1)長時間作業、連続作業
 (2)他律的かつ過度な作業ペース
 (3)過大な重量負荷、力の発揮
 (4)過度の緊張
 (5)不適切な作業環境

 4.発症までの作業従事期間
 原則として6か月程度以上としたが、腱鞘炎等については、作業従事期間が6か月程度に満たない場合でも、短期間のうちに集中的に過度の負担がかかった場合には、発症することがある。

上肢作業に基づく疾病の業務上外の認定基準について
[平成9年2月3日付け基発第65号]

 第1 認定基準

 1 対象とする疾病
 本認定基準が対象とする疾病は、上肢等に過度の負担のかかる業務によって、後頭部、頚部、肩甲帯、上腕、前腕、手及び指に発生した運動器の障害(以下「上肢障害」という。)である。
 上肢障害の診断名は多様なものとなることが考えられるが、代表的なものを例示すれば、上腕骨外(内)上顆炎、肘部管症候群、回外(内)筋症候群、手関節炎、腱炎、腱鞘炎、手根管症候群、書痙、書痙様症状、頚肩腕症候群などがある。

 2 認定要件
 次のいずれの要件も満たし、医学上療養が必要であると認められる上肢障害は、労働基準法施行規則別表第1の2第3号4又は5に該当する疾病として取り扱うこと。
 (1)上肢等に負担のかかる作業を主とする業務に相当期間従事した後に発症したものであること。
 (2)発症前に過重な業務に就労したこと。
 (3)過重な業務への就労と発症までの経過が、医学上妥当なものと認められること。

 第2 認定要件の運用基準

 1 「上肢等に負担のかかる作業」とは、次のいずれかに該当する上肢等を過度に使用する必要のある作業をいう。
 (1)上肢の反復動作の多い作業
 (2)上肢を上げた状態で行う作業
 (3)頚部、肩の動きが少なく、姿勢が拘束される作業
 (4)上肢等の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業

 2 「相当期間」とは、1週間とか10日間という極めて短期的なものではなく、原則として6か月程度以上をいう。

 3 「過重な業務」とは、上肢等に負担のかかる作業を主とする業務において、医学経験則上、上肢障害の発症の有力な原因と認められる業務量を有するものであって、原則として次の(1)又は(2)に該当するものをいう。
 (1)同一事業場における同種の労働者と比較して、おおむね10%以上業務量が増加し、その状態が発症直前3か月程度にわたる場合
 (2)業務量が一定せず、例えば次のイ又はロに該当するような状態が発症直前3か月程度継続している場合
 イ 業務量が1か月の平均では通常の範囲内であっても、1日の業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1か月のうち10日程度認められるもの
 ロ 業務量が1日の平均では通常の範囲内であっても、1日の労働時間の3分の1程度にわたって業務量が通常の業務量のおおむね20%以上増加し、その状態が1か月のうち10日程度認められるもの

 第3 認定に当たっての留意事項

 1 認定に当たっての基本的な考え方について
 上肢作業に伴う上肢等の運動器の障害は、加齢や日常生活とも密接に関連しており、その発症には、業務以外の個体要因(例えば年齢、素因、体力等)や日常生活要因(例えば家事労働、育児、スポーツ等)が関与している。
 また、上肢等に負担のかかる作業と同様な動作は、日常生活の中にも多数存在している。
 したがって、これらの要因をも検討した上で、上肢作業者が、業務により上肢を過度に使用した結果発症したと考えられる場合には、業務に起因することが明らかな疾病として取り扱うものである。

 2 診断名について
 上肢障害の診断名は、多様なものとなることが考えられることから、記の第1の1に例示した以外の疾病についても、上肢障害に該当するものがあることに留意すること。

 なお、「頚肩腕症候群」は、出現する症状が様々で障害部位が特定できず、それに対応した診断名を下すことができない不定愁訴等を特徴とする疾病として狭義の意味で使用しているものである。
 また、頚部から肩、上肢にかけて何らかの症状を示す疾患群の総称としての「頚肩腕症候群」については、診断法の進歩により病像をより正確にとらえることができるようになったことから、できる限り症状と障害部位を特定し、それに対応した診断名となることが望ましいが、障害部位を特定できない「頚肩腕症候群」を否定するものではないこと。

 3 過重な業務の判断について
 (1)「過重な業務」の判断に当たっては、発症前の業務量に着目して記の第2の3の要件を示したが、業務量の面から過重な業務とは直ちに判断できない場合であっても、通常業務による負荷を超える一定の負荷が認められ、次のイからホに掲げた要因が顕著に認められる場合には、それらの要因も総合して評価すること。
イ 長時間作業、連続作業
ロ 他律的かつ過度な作業ペース
ハ 過大な重量負荷、力の発揮
ニ 過度の緊張
ホ 不適切な作業環境
 (2)記の第2の3の(1)の「同種の労働者」とは、同様の作業に従事する同性で年齢が同程度の労働者をいうものであること。

 4 上肢障害の発症までの作業従事期間について
 上肢障害の発症までの作業従事期間については、原則として6か月程度以上としたが、腱鞘炎等については、作業従事期間が6か月程度に満たない場合でも、短期間のうちに集中的に過度の負担がかかった場合には、発症することがあるので留意すること。

 5 類似疾病との鑑別について
 上肢障害には、加齢による骨・関節系の退行性変性や関節リウマチ等の類似疾病が関与することが多いことから、これが疑われる場合には、専門医からの意見聴取や鑑別診断等を実施すること。
 なお、上肢障害と類似の症状を呈する疾病としては、次のものを原因とする場合が考えられるが、これらは上肢障害には該当しない。しかしながら、これらに該当する疾病の中には、上肢障害以外の疾病として、別途業務起因性の判断を要するものもあることに留意すること。
 (1)頚・背部の脊椎、脊髄あるいは周辺軟部の腫瘍
 (2)内臓疾病に起因する諸関連痛
 (3)類似の症状を呈し得る精神医学的疾病
 (4)頭蓋内疾患

 6 その他
 一般に上肢障害は、業務から離れ、あるいは業務から離れないまでも適切な作業の指導・改善等を行い就業すれば、症状は軽快する。
 また、適切な療養を行うことによっておおむね3か月程度で症状が軽快すると考えられ、手術が施行された場合でも一般的におおむね6か月程度の療養が行われれば治ゆするものと考えられるので留意すること。


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