2000年11月24日
金沢大学 椎野徳子 若山久子


女性虐待の分科会 報告のまとめ


一、報告内容(報告順)


(1)民間シェルターについて (報告者・大阪市立大学)


 大阪市立大では、事前に民間シェルター(生野学園)へ見学に行き、そこでの聞き取り調査を踏まえた上で、民間シェルターが抱える問題点や今後の課題を報告してくれました。詳しくはレジュメの通りです。

 国による一時避難施設の拡充が図れていない現状で、民間シェルターの役割は非常に大きいと言えます。しかし、そもそもその民間シェルターの数も全国で22ヶ所といまだ少なく、施設利用希望者のニーズに応えられるものではありません。また、各民間シェルターの経営困難な状況やスタッフの不足など、各民間シェルター内部にも問題点は多くあります。今後、国や地方自治体への働きかけが重要課題とされますし、更には国民一般への広報も重要であると思います。

 今回はアメリカやイギリス等のDV先進国での民間シェルターの在り方と比較というところまで議論が出来ませんでしたが、これらの国の研究は有意義なものですし、DV防止法制定との関連でも避けられない事だと思います。

 今後の課題としたいと思っています。

(2)婦人相談所について (報告者・金沢大学)

 石川県婦人相談所に聞き取り調査に行った金沢大学では、その聞き取りのテープをおこして、なるべくその相談員の声そのままのレジュメを用意しました。

 本来売春防止法を基礎とする婦人相談所は、その根拠立法と組織形態のために、DVに関する相談が増加しているという現状にもかかわらず対応しきれていない状況にあります。今後、法律の改正に伴う婦人相談所の位置付けの変化は注目すべきところで、各都道府県に1ヶ所ずつ設置されている婦人相談所が公立シェルターの役割を十全に果たせられるようになればいいのですが。

 詳細はレジュメを参照してください。

(3)DV防止法について (報告者・立命館大学)

 DV防止法については、その具体的内容に及ぶ議論までは出来ませんでしたが、DV防止法が必要とされる背景については各自意見を述べ合いました。
 まず、現行刑法が正当に適用されていないということです。『家』の外で、男性が女性を殴って怪我をさせた場合は当然に刑法の傷害罪にあたり当然にそこには警察の介入があるのに、『家』の中で夫が妻を殴って怪我をさせた場合には、警察は『民事不介入』という建前をもって介入してこない、つまりそこは刑法では裁く事の出来ない無法地帯となっているのです。刑法の各条項には、周知の通り『家庭内においてはこの限りにあらず』などという但書は無く、家庭内の事であろうと当然犯罪行為には刑法が適用されなくてはならないはずです。このような状況にある中で、DV防止法という特別法の必要性があるのではないかという話がありました。

 またこの議論においては、刑法で裁くべきものは刑法で、という意見もありました。つまり、『DVは犯罪である』という認識が大切なのであって、DVの加害者は当然刑法で裁かれ刑罰を受けるという事が必要であるということです。それ故、刑法の範疇にあるものについてはDV防止法の入る余地はないという意見もありました。

 そして、DVの特徴としての『密室性』(詳しくは後述)故に、誰にも相談する事が出来ず一人でDVに耐えている女性を保護するために、第一発見者となりやすい医師や看護婦そして保健婦に福祉事務所への通告義務を課すことを法定化する必要性があり、これもDV防止法の一内容となるという意見もありました。このことは児童虐待の児童虐待防止法と同様の問題点があると思います(大きな違いもありますが)。

 さらに上述と同様の理由から、女性が相談しやすい環境を整える根拠法としてDV防止法が必要であるという意見もありました。警察・病院・婦人相談所・裁判所・福祉事務所等の関連機関が、密接な連携をもってDVに迅速に対処するシステム作りが必要である事はいうまでもありません。そのシステム作りにはDV防止法が必要不可欠であるということです。

 また、ストーカー規制法によっては対応しきしれないとの理由から、DVに対する新しい法律の制定が必要であるとの意見もありました。

(4)ジェンダー論を中心に女性虐待の概要について (報告者・静岡大学)

 静岡大学ではジェンダーを中心として、女性の虐待について話が進められてきました。女性虐待の概要については、静岡大学のレジュメがとてもよくまとまっているので参照ください。

 ここにおいては、まずジェンダーを無くすにはどういたらいいのか、という事が話し合われました。男性優位を変えていくためには、国民の意識改革が必要であり、そのためには『教育』が必要であるという意見がありました。では、どのような教育が必要なのか、まず子供を教育する立場である親の意識改革が必要であるという事から、30代・40代さらに50代の人たちの意識を変えていくための教育が重要であるという議論になりました。ただし、これらの人たちの意識を変えていく事は非常に困難を伴うことであり、ただ教えられたからといってすぐに変わるものではないのは自明の事なので、まずはこれらの人たちを取り巻く環境を変化させる仕組み作りが必要であるという意見が出ました。たとえば、育児休暇制度を女性と男性が半々でとらなくてはいけないとする事や、労働時間の削減により職場以外での地域活動を男性が能動的に行っていくといった事などです。

 また、小学校・中学校での教育も必要であるという意見もありました。ここでも先ほどと同様、教える立場である教師の意識改革が先決である事は言うまでもありません。

 この『教育』の議論は最後の方まで続きましたが、どのような方法でどのような教育が必要なのか、という具体案は今後の課題となりました。

 次に、男性加害者に対するケアの必要性と、それに伴って自助プログラム作成の話が出ました。これについては賛否両論で、きちんとした結論は出ませんでした。ただ、離婚前の段階でDV被害に遭っている女性が復縁したいと思っている場合に、一旦引き離して男性側にカウンセリングを受けさせて様子を見るといったようなシステムがあれば良いのではないか、という意見のように各段階による男性加害者へのケアの仕方を検討していく方が良いという話に落ち着きました。この議論については、アメリカのおける自助プログラム等の検討を踏まえた上で今後考えていきたい課題の一つです。

二、まとめ

 以上の各大学の報告の後に、いくつかのテーマを取り上げて議論していきました。また、女性虐待の分科会では男性と女性がちょうど半々くらいだったので、女性も含めた全員が「普段の生活の中で女性差別の意識はあるのか、虐待をしたことがあるか、また女性虐待について勉強してみてその意識が如何に変わったか」という事について一人一人意見を述べました。

(1)『DVは事前に防ぐ事は出来るのか』

 それを探るためにまず、DVの原因は何なのかという事について話し合いました。まず、大きな要因として二つ挙げられます。一つは男性と女性の『支配と従属の関係』、そして『密室性』です。
 一つ目の『支配と従属の関係』については、金沢大学や静岡大学のレジュメにあるように、日本の「家」制度・結婚制度が大きく関わっています。これらの制度が性別役割分担意識を温存させ、その具体的な形態がDVとなって現れているのです。ただ今回は時間の都合もあって、これら制度の議論までは出来ませんでした。今回は、『支配と従属の関係』といった対等でない関係がDVの原因の一つであるという確認で終わりました。

 二つ目の『密室性』については、各大学の報告の中でも議論されてきており、あらゆる問題点に密接に結びついています。何よりもまずは、女性自身がその密室から抜け出して声を上げられる状況を作っていく事が大切であり、そのための施策を考えていかなくてはなりません。たとえば、警察の介入や医師、看護婦、保健婦の通告義務などが挙げられました。しかしここにおいては、介入の程度やどの程度からが虐待かの判断基準が不明確であるという新たな問題点も浮上してきました。

(2)DVの認識不足・意識改革・教育

 最後に、DVについての認識不足が指摘されました。この議論も、各大学の報告の中で問題点として挙げられてきていましたが、最後に改めて議論のテーマになりました。

 DVへの認識不足の解消は、男女の性別役割分担意識の撤廃と平行して、まずは警察官・福祉事務所の職員・その他公務員並びに病院関係者や弁護士・裁判官などの専門職に携わる者から率先してなされなくてはならないと思います。しかし、まだまだDVに直接関わるこれらの者に対する教育は不徹底であるのが現状です。

 そして、上記の専門職の者のみならず、一般の人々の認識不足の解消も当然必要不可欠です。これについては、先ほども述べたように学校教育の中で行っていくのが良いのではないか、という意見が多くありました。

 以上、簡単にまとめましたが、抜けている点や私の解釈違いの点も多くあると思います。女性虐待の分科会に参加されていた方々が、各大学で訂正・補充してください。よろしくお願いします。


2000年度 社会保障法合同ゼミ